悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ

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第3章:幼少期・敬愛編

第44話:【愛するひとの為に出来ること】

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「教会へ向かうつもりだ!タンジーを捕まえてくれ!」


 側にいた近衛に王であるコレオプシスは声を張り上げて命令する。タンジーの従者たちは主人の突然の行動に驚いて動けずにいた。

 近衛たちはタンジーを物凄いスピードで追いかけ始める。タンジーも捕まるまいと負けじと、その足を速めた。

 しかし、相手は王族を守る任を与えられている近衛だ。能力が高い者たちが集められている為、段々と距離は詰められていく。


 (このままでは捕まってしまう…!)


 タンジーは何度も右へ左へと曲がり城の中を移動する。
 捕まってしまったら自分はきっと自室での謹慎を言い渡されるだろう。そんなことになってしまえば、ダリアの未来を変えられない。……このまま、本当に幽閉刑に処されてしまう。

 それだけは絶対に阻止しなければならない。

 ブバルディア王国の王族として、やってはいけない行いだろう。だとしても、俺は出来ることをしなくてはいけない。


 ───愛する弟を、なんとしても守る為に。


 (……ダメだ、息が苦しい。何処かに隠れる場所はないか)


 十三歳と動き盛りではあるが、まだ成長途中の体は既に悲鳴を上げていた。

 第一王子が王城内を全力疾走している姿は、とても目立ってしまっており、使用人たちが驚いた様子で道を開けていく。

 荒い呼吸を繰り返しながら、側にあったドアノブを掴んで外に飛び出した時だった。


「殿下、こちらです」


 艶やかな黒髪に丸眼鏡をかけた柔和な顔をした男が、タンジーに向けて手招きをしていた。


「あなたは───…」

「早くしないと、追いつかれますよ?」


 目の前の男は薄く微笑んで飄々とした調子で言う。

 ハッとして後ろを振り返ると扉の向こうから足音が聞こえた。もう近くまで近衛たちが来ているのだろう。

 考えている時間はないと俺は男の後に続いた。


「…さあ、こちらからお出になれば厩舎に辿り着きます。何卒、道中はお気をつけて」


 司祭服の裾を翻して振り向いた男は、とても美しい顔をしていた。
 長いまつ毛に縁取られた感情の読み取れない限りなく白に近いシルバーの瞳が、こちらを真っ直ぐと見据える。

 俺も男の瞳を見つめ返し、口を開いた。


「恩に着るよ。この埋め合わせは必ず何処かで。ブバルディア王国教会の司祭───クロッカス・スターヴィング殿」


 ブバルディア王国の王城内にある最も神に近しい場所とされているブバルディア王国教会で司祭を務める男、クロッカスは俺の言葉に笑みを深めた。


「いえいえ、そのようなつもりは。…でも、今度お会いする時を楽しみにしておりますね」


 ───その会話を最後にクロッカスと別れ、厩舎で自分の愛馬に跨るとヤグルマギク教会へ向けて走り出した。




▼▼▼



「はあ…」


 無意識なのだろうが小さく溢れたルピナス様のため息が室内に響いた。

 アタシとラランはお互いに自然と目を合わせる。

 先程、ユーフォリア様が急用があると言って転移魔法で立ち去られてから、ルピナス様はずっとこの調子だった。

 せっかくピクニックに行こうという話をしていたのに突然それが無くなってしまったのだ。見るからに楽しみにされていらっしゃった分、どうしても気落ちしてしまうのは仕方のないことだろう。

 お優しいルピナス様がユーフォリア様へ気にしないでほしいと笑顔で仰られている姿は、あまりにも健気で尊すぎて…ラランと二人で、密かに涙を溢してしまったのは無理もない話なのである。


「…ララン。プランGでいきましょう」

「らじゃー」


 アタシたちは心よりお慕いするルピナス様に日々、喜んでもらうべく様々な場合に備えたプランを常日頃から考えていた。

 ざっと二十六通りある中の一つであるプランGを今回、決行することにした。


「ルピナス様、よろしければ一緒に庭園に赴きませんか?」

「……え、庭園に?」


 ポカンとした様子で顔を上げたルピナス様のあどけない表情に悶えつつ、アタシたちは深く頷いた。


「はい。庭園でのお手伝いもされていらっしゃるのでご覧になられたこともあると思いますが現在、庭園には様々な春の花が咲き誇っております。一部は市民の方々へ卸したりもしているのですが、大方は飾ったりポプリや料理を作る時に使ったりとヤグルマギク教会内で消費をしています」

「ある程度はシスタースイレンから許可が得られれば自由に採取して良いことになっているのです。…なので、ルピナス様がよろしければユーフォリア様へ向けた花束をプレゼントとして一緒に作りませんか?」

「花束を…?」


 ラランとアタシで言葉を重ねて庭園の花の使い道や採取について説明し花束作りを提案すると、首を傾げつつもワクワクした様子でこちらを見上げていた。


「ユーフォリア様にプレゼントをなされたいと仰っていたので、ユーフォリア様がお近くにいない絶好の機会にいかがかと思いまして」

「それはすごく良いアイディアだね」

「はい!きっとルピナス様からのプレゼントにユーフォリア様、飛び跳ねてお喜びになられますよ」

「……そうかな」


 少し頬を染めて、喜ばれているところを想像したのか照れたように笑うルピナス様に胸を鷲掴みにされてしまう。

 もともと主人であるルピナス様をお慕いしてはいたのだが庭園での誓い以降、以前にも増してルピナス様への愛が止まらなくなっている。


「…分かった。時間もあることだし、今日の午前中は花束作りをしようか」


 目的を見つけて元気を取り戻された御姿にラランと二人でホッと胸を撫で下ろす。

 愛するルピナス様の為にアタシたちに出来ることは、お側で精神的にも身体的にも支えて差し上げ、誰よりもルピナス様の味方でいることだ。

 庭園へと向かう為の準備を進めながら、ラランと二人、ルピナス様への忠誠心を高めるのだった。



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