22 / 29
第二十二話 先輩
しおりを挟む
とりあえず魔法決闘の準備を進めていった。ルーカスと僕の二人分を十秒以上守ることが出来るよう、シールド魔法を強化した。幻覚魔法をどう活用するかも、ルーカスと相談して決めていった。
そんなとある日のお昼休み、ルーカスが他生徒から急に呼び出された。そのままルーカスが教室から廊下へ出て行く。
しばらく経った後に騒ぎが起きた。
「うわあ。ケネス先輩やることえぐいなあ。すっげー」
盛り上がっている野次馬の声が聞こえるけれど、一体何が起こっているんだ。あとなんでケネスの名前が出てくるんだ。
僕は教室から出て、そこで見た光景のせいで頭の中が真っ白になった。
ケネスがルーカスに対して壁ドンしている。ケネスは笑いながら、ルーカスの耳元で何かをささやいていた。ルーカスは無表情だ。それにしても二人の距離が近い。
正直、なんだかイラっととした。なんでだろう。これが嫉妬というやつなのか。ケネスのことは怖いけれど、怒りの方が勝ってしまった。
「ルーカス」
名前を呼びつつ、僕はルーカスへと近づいていった。すると、ケネスがこちらへ視線を向けた。いつも通り冷たい紫色の瞳だった。
「アルロ君こんにちは。僕はルーカス君とエルフ第一主義団体について話していたんだ。アルロ君も知っているかな」
ケネスが話しかけてくる。甘い声だ。すごくわざとらしい言い方でイライラする。
いや、なんで僕はこんなにいらだつんだろう。落ち着かないと。多分これはケネスの罠だ。何の意図があるのか分からないけれど。
「エルフ第一主義団体のことは存じ上げません。申し訳ありません。僕はエルフ王国についてくわしくないんです」
冷静に言ってみる。実際、僕はエルフ側のことをほとんど知らない。僕は人間王国で育てられたし、両親が離婚してからは知識を得られる機会もほぼなかった。
「そっか。じゃあ、ルーカスは借りていくね」
ケネスが興味なさげに言って、ルーカスの腕を引っ張る。極めて不愉快だ。今すぐケネスはルーカスから離れてほしい。でも、全然抵抗しないルーカスにも腹が立つ。どうして行っちゃうんだろう。僕だけのルーカスでいてほしい。
いや、そんなワガママな独占欲を吐き出す訳にはいかない。だって、ルーカスは僕と付き合っているわけでもない。ルーカス自身が決めた行動なら、僕は止めることなんて出来ない。
でもさ。魔法決闘まであと一週間くらいなんだよ。なのに、戦うはずの相手と仲良くするとかよく分からない。不安になってしまう。怖い。何がどうしてこうなったんだ。
「ケネス先輩もルーカス君も優等生なはずなのになー。なんか立ち回りが笑えるんだよね。まあ面白いから別にいっかー」
ロドニーが変なヤジを飛ばしている。ケネスとルーカスに対してケンカを売っているようにしか聞こえない発言だが、それでいいのか。
「ロドニー。何か知っているのか」
聞いてみると、ロドニーはイタズラっぽく微笑んだ。
「ボクはそこまでくわしくないよー。そこにいる図書委員長のジュード先輩とかの方がよっぽど知っているんじゃないのかなー」
ロドニーの言う図書委員長ジュードってどんな人だっけ。確か水色の髪と瞳の三年生だったはず。ルーカスと雰囲気が少し似ているけれど、ルーカスより厳しそうな感じの人だった。
廊下を見渡してみると、ジュードの姿を発見することが出来た。恐らく、ジュードもケネスの話を聞いていたのだろう。そう言えば、ジュードはケネスと知り合いらしいというウワサを聞いたことがあるな。
つまり、僕みたいなハーフエルフがジュードに話しかけたら、すごく嫌な思いをさせてしまうんじゃないだろうか。そもそも、僕はジュードと会話したことがほとんどない。せいぜい図書室の本の貸し借りで一言二言交わしたくらいだ。
「すみません。ジュード先輩。先程のケネス先輩の意図について何かご存知でしたら、教えていただいてもよろしいでしょうか」
そう話しかけたら、ジュードは少し困ったような表情を見せた。意外だ。もっと怒った顔をするかと思った。
「僕に答えられることは特にない。だが、アルロは周囲にもう少し気をつけた方がいいだろう。敵は人間だけではない」
ジュードは穏やかに言った後、すぐさま立ち去って行った。敵は人間だけではないってどういうことだ。ナゾが深まっただけなんだけど。
ちなみに、ロドニーは爆笑していた。
「アハハッ。ジュード先輩があんなんだから、ケネス先輩は不安になるんだよー。ああでも、ケネス先輩もケネス先輩でひどいよね、一人で勝手に判断して立ち回りすぎーっ。笑えすぎてお腹が痛いねっ」
ロドニーの言うことも理解出来ない。裏で一体何が起こっているんだ。
そんなとある日のお昼休み、ルーカスが他生徒から急に呼び出された。そのままルーカスが教室から廊下へ出て行く。
しばらく経った後に騒ぎが起きた。
「うわあ。ケネス先輩やることえぐいなあ。すっげー」
盛り上がっている野次馬の声が聞こえるけれど、一体何が起こっているんだ。あとなんでケネスの名前が出てくるんだ。
僕は教室から出て、そこで見た光景のせいで頭の中が真っ白になった。
ケネスがルーカスに対して壁ドンしている。ケネスは笑いながら、ルーカスの耳元で何かをささやいていた。ルーカスは無表情だ。それにしても二人の距離が近い。
正直、なんだかイラっととした。なんでだろう。これが嫉妬というやつなのか。ケネスのことは怖いけれど、怒りの方が勝ってしまった。
「ルーカス」
名前を呼びつつ、僕はルーカスへと近づいていった。すると、ケネスがこちらへ視線を向けた。いつも通り冷たい紫色の瞳だった。
「アルロ君こんにちは。僕はルーカス君とエルフ第一主義団体について話していたんだ。アルロ君も知っているかな」
ケネスが話しかけてくる。甘い声だ。すごくわざとらしい言い方でイライラする。
いや、なんで僕はこんなにいらだつんだろう。落ち着かないと。多分これはケネスの罠だ。何の意図があるのか分からないけれど。
「エルフ第一主義団体のことは存じ上げません。申し訳ありません。僕はエルフ王国についてくわしくないんです」
冷静に言ってみる。実際、僕はエルフ側のことをほとんど知らない。僕は人間王国で育てられたし、両親が離婚してからは知識を得られる機会もほぼなかった。
「そっか。じゃあ、ルーカスは借りていくね」
ケネスが興味なさげに言って、ルーカスの腕を引っ張る。極めて不愉快だ。今すぐケネスはルーカスから離れてほしい。でも、全然抵抗しないルーカスにも腹が立つ。どうして行っちゃうんだろう。僕だけのルーカスでいてほしい。
いや、そんなワガママな独占欲を吐き出す訳にはいかない。だって、ルーカスは僕と付き合っているわけでもない。ルーカス自身が決めた行動なら、僕は止めることなんて出来ない。
でもさ。魔法決闘まであと一週間くらいなんだよ。なのに、戦うはずの相手と仲良くするとかよく分からない。不安になってしまう。怖い。何がどうしてこうなったんだ。
「ケネス先輩もルーカス君も優等生なはずなのになー。なんか立ち回りが笑えるんだよね。まあ面白いから別にいっかー」
ロドニーが変なヤジを飛ばしている。ケネスとルーカスに対してケンカを売っているようにしか聞こえない発言だが、それでいいのか。
「ロドニー。何か知っているのか」
聞いてみると、ロドニーはイタズラっぽく微笑んだ。
「ボクはそこまでくわしくないよー。そこにいる図書委員長のジュード先輩とかの方がよっぽど知っているんじゃないのかなー」
ロドニーの言う図書委員長ジュードってどんな人だっけ。確か水色の髪と瞳の三年生だったはず。ルーカスと雰囲気が少し似ているけれど、ルーカスより厳しそうな感じの人だった。
廊下を見渡してみると、ジュードの姿を発見することが出来た。恐らく、ジュードもケネスの話を聞いていたのだろう。そう言えば、ジュードはケネスと知り合いらしいというウワサを聞いたことがあるな。
つまり、僕みたいなハーフエルフがジュードに話しかけたら、すごく嫌な思いをさせてしまうんじゃないだろうか。そもそも、僕はジュードと会話したことがほとんどない。せいぜい図書室の本の貸し借りで一言二言交わしたくらいだ。
「すみません。ジュード先輩。先程のケネス先輩の意図について何かご存知でしたら、教えていただいてもよろしいでしょうか」
そう話しかけたら、ジュードは少し困ったような表情を見せた。意外だ。もっと怒った顔をするかと思った。
「僕に答えられることは特にない。だが、アルロは周囲にもう少し気をつけた方がいいだろう。敵は人間だけではない」
ジュードは穏やかに言った後、すぐさま立ち去って行った。敵は人間だけではないってどういうことだ。ナゾが深まっただけなんだけど。
ちなみに、ロドニーは爆笑していた。
「アハハッ。ジュード先輩があんなんだから、ケネス先輩は不安になるんだよー。ああでも、ケネス先輩もケネス先輩でひどいよね、一人で勝手に判断して立ち回りすぎーっ。笑えすぎてお腹が痛いねっ」
ロドニーの言うことも理解出来ない。裏で一体何が起こっているんだ。
10
あなたにおすすめの小説
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜
キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。
そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。
近づきたいのに近づけない。
すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。
秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。
プロローグ+全8話+エピローグ
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる