伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき

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第二十二話 先輩

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 とりあえず魔法決闘の準備を進めていった。ルーカスと僕の二人分を十秒以上守ることが出来るよう、シールド魔法を強化した。幻覚魔法をどう活用するかも、ルーカスと相談して決めていった。

 そんなとある日のお昼休み、ルーカスが他生徒から急に呼び出された。そのままルーカスが教室から廊下へ出て行く。

 しばらく経った後に騒ぎが起きた。

「うわあ。ケネス先輩やることえぐいなあ。すっげー」

 盛り上がっている野次馬の声が聞こえるけれど、一体何が起こっているんだ。あとなんでケネスの名前が出てくるんだ。

 僕は教室から出て、そこで見た光景のせいで頭の中が真っ白になった。

 ケネスがルーカスに対して壁ドンしている。ケネスは笑いながら、ルーカスの耳元で何かをささやいていた。ルーカスは無表情だ。それにしても二人の距離が近い。

 正直、なんだかイラっととした。なんでだろう。これが嫉妬というやつなのか。ケネスのことは怖いけれど、怒りの方が勝ってしまった。

「ルーカス」

 名前を呼びつつ、僕はルーカスへと近づいていった。すると、ケネスがこちらへ視線を向けた。いつも通り冷たい紫色の瞳だった。

「アルロ君こんにちは。僕はルーカス君とエルフ第一主義団体について話していたんだ。アルロ君も知っているかな」

 ケネスが話しかけてくる。甘い声だ。すごくわざとらしい言い方でイライラする。

 いや、なんで僕はこんなにいらだつんだろう。落ち着かないと。多分これはケネスの罠だ。何の意図があるのか分からないけれど。

「エルフ第一主義団体のことは存じ上げません。申し訳ありません。僕はエルフ王国についてくわしくないんです」

 冷静に言ってみる。実際、僕はエルフ側のことをほとんど知らない。僕は人間王国で育てられたし、両親が離婚してからは知識を得られる機会もほぼなかった。

「そっか。じゃあ、ルーカスは借りていくね」

 ケネスが興味なさげに言って、ルーカスの腕を引っ張る。極めて不愉快だ。今すぐケネスはルーカスから離れてほしい。でも、全然抵抗しないルーカスにも腹が立つ。どうして行っちゃうんだろう。僕だけのルーカスでいてほしい。

 いや、そんなワガママな独占欲を吐き出す訳にはいかない。だって、ルーカスは僕と付き合っているわけでもない。ルーカス自身が決めた行動なら、僕は止めることなんて出来ない。

 でもさ。魔法決闘まであと一週間くらいなんだよ。なのに、戦うはずの相手と仲良くするとかよく分からない。不安になってしまう。怖い。何がどうしてこうなったんだ。

「ケネス先輩もルーカス君も優等生なはずなのになー。なんか立ち回りが笑えるんだよね。まあ面白いから別にいっかー」

 ロドニーが変なヤジを飛ばしている。ケネスとルーカスに対してケンカを売っているようにしか聞こえない発言だが、それでいいのか。

「ロドニー。何か知っているのか」

 聞いてみると、ロドニーはイタズラっぽく微笑んだ。

「ボクはそこまでくわしくないよー。そこにいる図書委員長のジュード先輩とかの方がよっぽど知っているんじゃないのかなー」

 ロドニーの言う図書委員長ジュードってどんな人だっけ。確か水色の髪と瞳の三年生だったはず。ルーカスと雰囲気が少し似ているけれど、ルーカスより厳しそうな感じの人だった。

 廊下を見渡してみると、ジュードの姿を発見することが出来た。恐らく、ジュードもケネスの話を聞いていたのだろう。そう言えば、ジュードはケネスと知り合いらしいというウワサを聞いたことがあるな。

 つまり、僕みたいなハーフエルフがジュードに話しかけたら、すごく嫌な思いをさせてしまうんじゃないだろうか。そもそも、僕はジュードと会話したことがほとんどない。せいぜい図書室の本の貸し借りで一言二言交わしたくらいだ。

「すみません。ジュード先輩。先程のケネス先輩の意図について何かご存知でしたら、教えていただいてもよろしいでしょうか」

 そう話しかけたら、ジュードは少し困ったような表情を見せた。意外だ。もっと怒った顔をするかと思った。

「僕に答えられることは特にない。だが、アルロは周囲にもう少し気をつけた方がいいだろう。敵は人間だけではない」

 ジュードは穏やかに言った後、すぐさま立ち去って行った。敵は人間だけではないってどういうことだ。ナゾが深まっただけなんだけど。

 ちなみに、ロドニーは爆笑していた。

「アハハッ。ジュード先輩があんなんだから、ケネス先輩は不安になるんだよー。ああでも、ケネス先輩もケネス先輩でひどいよね、一人で勝手に判断して立ち回りすぎーっ。笑えすぎてお腹が痛いねっ」

 ロドニーの言うことも理解出来ない。裏で一体何が起こっているんだ。
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