伯爵令息アルロの魔法学園生活

第二十四話 地下水路

　今日の授業が全部終わった後、ルーカスはどこかへ行ってしまった。寮には帰っていない。僕は寮部屋で一人立ち尽くしていた。

「ルーカス」

　名前を呼んでみるけれど、もちろん返事はない。寂しくて仕方がない。いや、別にルーカスがどこへ行こうと勝手な話だ。もしかしたらルーカスはケネスとまた会いに行ったのかもしれない。でも、別に僕が何か言う権利もない。

「魔力探知を使って、ルーカスの居場所を探ってみようかな。でも、特定の一人の魔力を見分けるのって難しいんだよな。あと、僕がストーカーみたいになる気がする。駄目だよな。僕は束縛系彼氏かよ、しかも付き合ってもないのにヤバすぎ。絶対ドン引きされる」

　自己嫌悪の独り言が止まらない。もっとかっこよく生きたいよな。

　でも、やっぱり不安だ。ケネスとルーカスの関わりも、人間ではない敵も、地下水路の件も、全部気になる。ナゾだらけで先に進めない。

「よし。とりあえず地下水路を調べよう」

　迷って動けないくらいなら行動しよう。それしかない。

「僕の魔力は地下までギリギリ届く。でも、地下の魔力探知は難しそうだ。魔法人形サムを地下で操るくらいならいけるかな」

　そう言って、サムを取り出してみた。僕が集中さえすれば、僕はサムと視界を共有して、遠くまで偵察することが出来る。

「よし。僕がサムに憑依して、地下水路まで行ってみるか」

　覚悟を決めて、僕の意識をサムへと移す。操作魔法系に当たるので、自分はあんまり得意ではない。慣れていないから、今にも魔力酔いしそうだ。

　サムの身体を借りて、魔法学園の中庭へと向かってみる。中庭中央の池の中に、地下水路へつながる道があると言われている。

「サムは水に濡れても大丈夫かな」

　魔法人形の体には防水加工しているから、一応大丈夫だと信じたい。不安だけど、まあやってみよう。

　サムの身体を池に沈める。水中の視界は悪かったけれど、大きな横穴を発見することが出来た。そちらへ泳いでいってみると、サムの身体は水の流れに吸い込まれていき、横穴を通り抜けて行った。

　気がつけば、サムは真っ暗な場所へと放り出されていた。ここが地下水路だろうか。灯りがないから何も見えない。サムの身体では炎魔法を使うことは難しいから、光源を確保出来ない。

「ルーカス君まで地下水路へ来る必要はなかったんだよ。僕一人で問題ない。早く帰ったらどうだい」

　あれ。どこからかケネスの声が聞こえてくる。もしかして、地下水路にケネスとルーカスがいるのか。なんで。

「僕が地下水路へ来たいから来ただけだ。それに、アルロを暗殺しようとするエルフ第一主義団体のエルフ達が、地下水路に潜んでいるのかもしれないのだろう。とても興味がある」

　ルーカスの声も聞こえる。

「ルーカス君とアルロ君っていい関係を築けているよね。あーあ。僕もジュードと仲良くなりたいなあ。ねえ、ルーカス君と僕で付き合ってみないかい。僕はジュードを嫉妬させたいんだ」

　ケネスの言ってる意味が分からない。何がどうしてそうなる。というか、ケネスはジュードのことが好きなのか。先輩達の恋愛事情を知って若干気まずいんだけど。

「断る。そんなことをして僕に利益はない。それに、ケネス先輩がジュード先輩のことを好きなら、一途に求愛すべきだと思うが」

　ルーカスの言っていることは多分マトモなんだろうけれど、なんでこんな地下水路で恋バナしているんだ。意味不明すぎる。

「だよね。安心して、冗談だよ。ところで、ここで雑談していたら、エルフ第一主義団体を誘き寄せられると思うかい」

　ケネスが最後に話の方向性を変える。無駄に立ち話をしているわけじゃなかったのか。

「問題ない。複数の足音が近づいてきている。恐らくエルフ達で間違いないだろう」

　ルーカスがそう言った瞬間、地下水路に雷魔法がほとばしった。魔法人形サムの身体にも雷がぶつかり、サムはバラバラに砕け散った。

「う゛っ」

　サムに憑依していた自分の意識が、自分自身の身体へと戻ってくる。今までずっと一緒だった魔法人形サムが壊れて悲しい。でも、それどころではなかった。

　このままだとエルフ第一主義団体とかいうエルフ達が、ケネスとルーカスを殺してしまうかもしれない。そんなことは嫌だった。