【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん

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目標へ到達

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 蒲田駅前ダンジョン、9層。

 そこは、これまでの階層とは一変し、静謐で重苦しい、まるで地下監獄のような空気が支配していた。

 壁面に灯る魔力の火が揺れるたび、湿り気を帯びた冷気がひよりの肌を撫でる。

 目標のレベル40まで、残り「1」。

 その僅かな、けれど高い壁を越えるため、ひよりは今、22名のフルメンバーを展開し、9層の主(フロアボス)――『オーガ・インクイジター(審問官)』と対峙していた。

 巨大な法衣を纏い、鉄の錫杖を構えるオーガは、幾重もの魔法障壁をその身に纏っている。

 それは物理攻撃を弾き、魔法を霧散させる鉄壁の守り。
 
 並の探索者では、その刃を障壁に届かせることすら叶わず、審問という名の処刑を受けることになるだろう。

 だが、ひよりは恐れることなく、静かに腰の刀――『鬼灯』を引き抜いた。

「理(ことわり)なんて、どうでもいいよ。……ただ、みんなのために道を開けてほしいだけなんだ」

 ひよりが指を鳴らす。

 その合図と共に、20名のチンピラ、そして魔素の奔流を纏ったフウとライが飛び出した。

「「「オラァッ!! ボスの御前だッ!!」」」

 22名による怒涛の猛攻。

 拳が、棍棒が、刃がオーガの障壁を叩く。

 しかし、数重にも重なった魔法の壁は揺るがない。

 魔物は、その醜悪な顔を歪め、矮小な人間たちの無駄な足掻きを嘲笑うかのように錫杖を振るった。

「……そうだね。障壁は、壊さなくてもいいんだ」

 ひよりが地を蹴った。

 その瞬間、22名の配下たちが、あえて隙を作るように一斉に左右へと散る。

 モーセが海を割るように開かれた道。

 その中心、無防備に見えるオーガの懐へと、ひよりが矢のような速さで滑り込んだ。

「新スキル……試させてもらうね」

【散華ノ太刀(さんげのたち)】

 ひよりの抜刀は、驚くほど静かだった。

 オーガは自身の障壁を過信し、微塵も動かない。

 しかし、ひよりの刃は、魔力の奔流の「継ぎ目」を、空気の「淀み」を、そしてオーガが瞬きをするその刹那の隙間を、水が流れるように通り抜けた。

 オーガが異変に気づいた時には、すでにひよりは背後に立ち、ゆっくりと刀を鞘に収めていた。カチン、と鍔が鳴る。次の瞬間――。

「ガ……ッ!? ア、アガガガッ……!!」

 オーガの全身の「節々」から、鮮やかな朱色が噴き出した。

 それは、空中に真紅の花弁が舞い散るかのような、残酷なまでに美しい光景だった。

「動けば動くほど、花はたくさん咲くよ」

 ひよりの冷徹な言葉通り、オーガが苦悶に身悶えするたびに、空中に滞留していた血の花弁が意思を持つかのように肉体を追撃する。

 戦場は瞬く間に「血の庭」へと変貌した。

 防御も、加護も、審問官としての誇りも意味をなさない。ただ「刃が届いた」という絶対的な事実だけが、魔物の命を確実に削り取っていく。

 やがて、審問官と呼ばれた魔物は、自らの血の花に埋もれるようにして、その巨大な膝をついた。

【対象の完全屈服を確認。魔素を吸収します】
【レベルが40に到達しました】
【職業が進化します:構成員 → 幹部構成員】

 その瞬間、ひよりの全身を、これまでとは比較にならないほど濃密で、深淵のような黒のオーラが包み込んだ。

 進化の余波は、周囲に膝をつく配下たちにも劇的な変化をもたらす。

 フウはより強靭な、鋼のバネのような身体へと引き締まり、ライはさらに一回り大きく逞しく変貌した。

 ライが手にする盾は、もはや防具というよりは巨大な城壁の一部のようだ。

 ひよりは、レベルアップによって最大値が跳ね上がったMP185のうち、160という膨大な魔素を消費し、最古参の4名を指差した。

「……昇格(クラスアップ)。君たちは今日から、僕の『構成員』だ」

 眩い光が場を支配する。

 4名のチンピラたちの服装が、柄物の派手なジャケットから、高級感漂う仕立ての良い黒のセットアップ(ブラックスーツ)へと変わっていく。

 その瞳からは、飢えた狂犬のような濁りが消え、理知的で冷徹な「プロ」の鋭さが宿っていた。

「……ボス。この御恩、生涯忘れません。今後の組織運営および管理は、我々にお任せください」

 洗練された、無駄のない礼。

 ひよりはその姿を見て、「よかった、これで通報されない格好になった……」と、心の底から安堵の息を漏らした。


………
 

 攻略を終え、地上に戻ってスマホを見る。

 通知の一番上にあったのは、凛からの熱烈なメッセージだ。

『ひよりさん! 掲示板はひよりさんの帰還を待ち侘びる声で溢れています! 遠征お疲れ様です! 世田谷の8層も、今のあなたなら瞬く間に攻略できるはずです!』

「……みんな、待っててくれてるんだね。よし、世田谷に帰ろう」

 ひよりは、影に潜む20名と指輪の中の2体に優しく語りかけた。

 大田区での遠征を終え、若き「幹部」は、さらなる高み、そして自分を待つ場所へと向かって歩き出す。

 夕暮れの蒲田駅、その雑踏に消えていく少年の背中には、もう「チンピラ」の面影はどこにもなかった。
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