少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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14 交易ルートを考えよう 1

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 次の日の朝、宿屋で朝食を食べていた俺のもとへ、村長の家から使いのベルさんが来た。家に来てほしいというのだ。
 朝食を食べ終えた俺は、さっそくオルグ村長の家へ向かった。

(えっ、どういうこと?)
 居間に案内されて入ってみると、そこには村長の他にもう一人の人物がいた。
「やあ、トーマ、知らぬこととはいえ、昨日は嫌な思いをさせてすまなかったな」
「ラーシルさん、どうしてここに?」
 その人物とは、人足屋のラーシルだった。俺の疑問にラーシルが答える前に、村長が笑いながら説明した。

「驚かせてしまったね。まあ、座ってくれ……実は、ラーシルはわしの息子なんだよ。隣の家に住んでいる」

(いや、そりゃあ驚きますよ。オルグさんとラーシルさんとは、どう考えても結びつかない。似ても似つかないとはまさにこのことだ)

「あはは……わしたちはどう見ても親子に見えない、そんな顔をしているね?だが、間違いなく実の親子だ。息子は妻似なのだよ……」
いや、そんなレベルの問題じゃない、とも思ったが、獣人のことはまだよく分からない。
 村長の言葉に、俺は黙って頷くしかなかった。

 メイドのベルさんがお茶を持ってきてくれたので、俺たちはお茶を飲みながら語り合った。

「親父から話は聞いたよ。まさかお前が人族だったとはな。道理で魔法が使えたわけだ」

「僕が魔法を使ったのが分かったのですか?」

「ああ、俺は少しだけ魔法が使えるんだ。まあ、身体強化に短時間だけなんだがな。だが、魔力は感じ取ることができる。なんか、こうビリビリと毛が逆立つような感じかな。お前が昨日、人形のどてっぱらに穴を開けた時も、体が痺れるような感じだったぜ」

 獣人のほとんどが魔法を使えないのは、ナビに言わせると、遺伝子の問題らしい。魔法の適正、属性、魔力の強さは、すべて遺伝子で決められているというのだ。そうすると、ラーシルさんは、獣人族の中では、突然変異に近いのかもしれない。

「それで、今後、向こうの大陸にいるセモールノ(〈毛をもつ者〉:獣人たちが自分たちを呼ぶときの名称。ちなみに、人族をベルタテルモ〈鉄を使う者〉と呼ぶ)たちと、交易の仕事をするんだって?」

「はい。まだ、計画の段階ですが……」

「おお、そうじゃ、大事なことを忘れておった」
 オルグ村長が、膝をポンと叩いて言った。
「トーマ君、君をあっちの大陸まで乗せていってくれる船が見つかってな、二日後に出発するそうじゃ。それで、その船のオーナーのバンダルさんが、もうすぐここに来るはずじゃ」

「ありがとうございます。何から何までお世話になって申し訳ありません」
 俺は立ち上がって頭を下げた。

「なあに、わしは知り合いの商人の何人かに声をかけただけじゃ。お礼を言われるほどのことしとらんよ。それより、息子から聞いたお前さんの腕前、船のオーナーたちに売り込めば、高く雇ってもらえるのではないかのう?どうじゃ、ラーシル?」

 父親の問いに、ラーシルさんは真剣な顔で俺を見つめながら答えた。
「交易船くらいじゃもったいないな。ワイバーンとさしで戦える奴なんて、俺の知る限りでは、世界格闘技大会現チャンピオンのウルゴフ第一王子と前チャンピオンのロブソンくらいだ。どうだ、次の大会に出てみないか?優勝すれば、一生遊んで暮らせる大金が手に入るぞ」

(うわあ、出たい、出たいです。何それ、夢の格闘技大会じゃん、男のロマンじゃん……)
 俺が興奮した心を抑えつつ、出たい旨を告げようとしたとき、オルグさんが息子をたしなめるように言った。

「何を馬鹿なことを言うておる。いくら強いといっても、トーマはまだ年端もゆかぬ子供じゃぞ。あんな荒くれ者ばかりの中に放り出せるものか。それに、トーマは人族じゃ。出場は認められぬだろう」

「いや、現国王様はそんな心の狭いお方じゃないぞ。ううむ、だが、確かにその年で出場するのは、だめだと言われる可能性は高いな。お前がもう少し年上ならな……」
 ラーシルさんも結局、俺が大会に参加するのを諦めてしまった。

(あ、いや、出たいんですけど、あの……)
『まあまあ、今は諦めが肝心です、マスター。大会はこれからも続くでしょうから、十五歳になったら考えましょう』
(はあ、仕方ないか。確かに大会に出たら出たで問題が起きそうだしな。こんな小さな人族の少年が、筋肉もりもりの獣人たちを、こう、バッタバッタとなぎ倒して、きゃー、きゃーという黄色い歓声を受けて……ふふふ……)
『やれやれ、妄想がはかどりますね』

♢♢♢

 それからしばらくして、一人の人物が村長宅を訪ねてきた。今に入ってきた人物を見て、俺は思わず心の中で叫んでいた。
(おい、ナビ、見ろよ、豚の獣人はいるじゃないか)

 その人物は、まさに球体だった。丸い顔に丸々とした体にぱつぱつの縦じまのスーツ、青い蝶ネクタイ、ズボンがずれ落ちないようにサスペンダーを着けている。頭には黒のシルクハットをちょこんと乗せていた。

『いやいや、体型だけで判断するのは失礼ですよ。この人は犬族の何か獣人ですね。耳を見れば分かります』

 まあ、確かにぴんと立った耳は、茶色と白の斑模様の毛が生えている。豚の耳じゃないな。

「やあ、やあ、どうもオルグ村長、それにラーシルさんも、ご機嫌いかがですかな?」

「これはどうも、よく来てくださったバンダルさん。さあ、こちらへどうぞ」

「これはどうも……おお、君が例の人族の少年、確か、名前は……」

「トーマです。この度は、どうもお世話になります」

「そうそう、トーマ君だったね。いやいや、私としても、新しい交易相手ができる可能性があると聞いて、楽しみにしているんだ」

 テーブルに四人が座り、新しい話題に話が盛り上がっていった。
 バンダル氏は、小さな商会の経営者で、西回りの船で南北の交易の一端を担っている。ただ、中型の船を二艘しか所有していなかったので、大きな取引は他の大きな商会に取られてしまい、何とか新しい活路を見つけたいと考えていたという。

「……まあ、できれば、人族の商人と取引ができれば、何か活路が開ける気はするんですがね」

「そいつは難しいな。積み荷の検査があるし、何よりお互いの貨幣が使えないからな。何を基準に取引するか……」
 ラーシルさんの言葉に、皆唸り声をあげて考え込んだ。

(ううん……貨幣がない時代は物々交換だったよな?それじゃダメなのか?)
『貨幣の役目は、お互いの交易品の価値の基準を決める、ということが一つ。もう一つは、物々交換だと、お互いの交換品が希望に合わない場合があるので、その場合に、品物の代わりに貨幣で支払うわけです』
(そうか、なるほどな。じゃあ、こうすればいいんじゃ……)

「あの、ちょっといいですか?」
 考え込む人たちに向かって、俺はおずおずと声をかける。彼らが一斉に俺に目を向けた。

「貨幣が使えないなら、貨幣を溶かして延べ板にしたらどうですか?例えば、金や銀ならお互い必要なものだし、価値の基準としても使えるんじゃないかと……」

 俺の言葉に、ラーシルとバンダルがあっと声を上げた。

「なるほど、お互いの貨幣では支払えないが、金銀という形なら支払えるな。だが、品物一つ一つと金銀との交換率を話し合って決めておく必要がある。かなり準備が面倒だな」

「いや、そうでもありませんよ。品物の金銀との交換率は、お互いに自分たちで決めておけばいい。不満があれば、その時、その場で話し合えばいいんです」

「うむ、確かに、それで折り合いはつくじゃろう。一つの問題は解決じゃな。だが、もう一つの問題はどうする?交易品の検査はごまかせんぞ」

 村長の言葉に、俺たちは再び考え込む。


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