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50 生真面目代官と工作部隊 1
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ギルドを出た俺は、食材を買い足すために市場へ向かった。
(相変わらず、人が多いな……そして、スリ野郎も)
あ、いいこと考えた。
俺はふと思いついて、気配察知を発動したまま、人込みの中を歩き出した。そして、スリと思われる人物を素早く避けながら進んでいった。これは、気配察知の精度を高めるのになかなか良い修行である。しかし、これだけたくさんいたんじゃ、収穫も少ないだろうに、なんだろうな。
市場は活気があり、さらに人の数が多かった。他の街ではあまり見られない海産物を売る店々が並んでいる。
おお、美味そうだな。これは買わない選択はないな。
「おっちゃん、このでかい魚、美味いのか?」
「お、らっしゃい。こいつか? ああ、最高にうめえぜ。こいつはバルホースっていう魚でな、漁師からは網を破る暴れん坊として嫌われているが、それだけ身がしまってて油も乗ってるんだ」
うん、ブリだな。見た目ブリだ。
「おお、じゃあ、それ一匹丸ごと売ってくれ」
「ま、丸ごと一匹? 大丈夫か、重いぞ?」
「うん、大丈夫だよ。力仕事は慣れてるから。いくらだい?」
「おう、その心意気が気に入った。二千ベルで売る所だが、千八百に負けとくぜ」
「よし買った」
俺はリュックを背中から下ろして、中に手を突っ込み、例によってルームを発動して銀貨二枚を取り出し、おっちゃんに渡した。おっちゃんは前世で見たブリより少し大きめのバルホースを抱えてリュックの中に入れてくれた。尻尾の先が少しはみ出るくらいの大きさだった。そして、ちゃんと二百ベルのお釣りをくれた。
「ありがとよ。また来てくれ」
「うん、ありがとう」
俺は手を振って店を離れると、しばらく歩いてから狭い路地に入っていった。先ずリュックの中のバルホースを、ルームの中に素早く収納した。そして、ナビに話しかけた。
(びっくりしたな。いきなりスリたちの気配がサッと波が引くように、向こうの街外れの方へ去って行ったぞ)
『はい。恐らく、原因は市場の先から近づいてくる数人の人間だと思います。彼らを警戒するように怪しい連中が去って行きました』
俺はナビの言葉を確かめるように、路地から出て、市場の通りの先の方を〈索敵〉のスキルで探った。
(あ、こいつらか……確かに、反応が強いのが四、五人こっちに来てるな)
〈索敵〉に掛かるのは、生物の魂が発する魔力だ。こちらに害意のある相手や強い魔力を放つ相手だ。〈魔力感知〉との違いだが、〈魔力感知〉は、魔力を持つすべてのものを感知することができ、魔力の大きさや動きを知ることができる。つまり、ランクが上がれば、自分に向けられた魔法を素早く察知することができるのだ。ポピィやアリョーシャが持っているスキルがこれだ。
それに対して、〈索敵〉は、魔力というより、それを発する魂に反応する。害意や悪意をもった魂が放つ魔力、強者が持つ魂の輝きのような魔力の放出を感知する。だから、こちらに放たれた魔法などは正確には感知できないので、不意打ちの魔法には注意しなければならない。
さて、いったい何者なのか。スリたちが逃げたということは、悪人じゃないのか? それとも、スリたち以上の大物か?
俺は、屋台の品々を眺めるふりをしながら、近づいてくる気配に人物たちを見守った。
ほうほう、冒険者風の男たちが五人、メイド服の若い女に執事風の男、そして貴族らしき三十前後の男か……う~ん、どういう集団なのかさっぱりだな。
『周囲の住民たちの反応を見るに、彼らを恐れているようには思えません。むしろ、歓迎している住人もいますね』
(なるほど。だとすると、彼らはこの街の治安を守っている存在、となる。ということは、あの貴族らしき男は、この街の領主、いや領主はボイド侯爵だったな。領主の代わりに街を治めている代官ということかな)
『マスターの推測で間違いないと思います。あ、マスター、右側の屋根の上に……』
(ああ、察知した。これは、スリ集団の仲間だな)
俺は、その屋根の上の人物が見える所へ素早く移動した。
そいつは、屋根の上からショートボウで、明らかに誰かを狙っていた。面倒なことになるのは嫌だったが、俺の体は無意識のうちに動いていた。
ガキ~ン!
結界ボードに矢が当たった音が響く。おお、良かった、ひびは入ったが、貫通はされなかったようだな。
「っ!! アレス様っ!」
「私は大丈夫だ、この少年のお陰で。君は、いったい……」
「通りすがりの冒険者です。あいつを追います」
俺はそう言い残すと、〈跳躍〉と〈隠密〉を同時に発動して、近くの建物に飛び移り、屋根へよじ登っていった。
暗殺に失敗した奴は、まさか屋根の上を追跡してくる人間がいるとは、思いもしなかったのだろう。路地の方ばかり注意しながら、屋根から屋根へ飛び移っていった。
よしよし、いいぞ。そのまま、お前たちのアジトへ案内してくれ。
♢♢♢
そいつは、街はずれのとある建物の前に降り立つと、辺りを見回してから、建物の中に入っていった。
(ふ~ん、けっこうな数の反応があるな。しかし、ただのスリの集団が、暗殺なんかするか、普通?)
『はい、明らかにおかしいです。確かに建物の周囲にたむろしているのは、ただのごろつきだと思われますが、中にいる何人かは軍事の専門家のようです』
(……お前、それ、どうやって調べてるんだよ?)
『マスターの〈索敵〉の情報を分析しているだけですよ』
(?? 俺にはそんな詳しいことは分からないぞ?)
『当然です。そのくらいできなければ、私の存在価値がないではありませんか』
うん……まあ、お前のすごさは改めてよく分かったよ。
さて、暗殺未遂だけど、やっぱりここの情報は、さっきのお偉いさんに伝えておいた方が良いのかな? 直接話すのは面倒だから、メモ用紙に場所の簡単な地図を描いて、屋敷の中に投げ込めばいいか。よし、そうしよう。
(相変わらず、人が多いな……そして、スリ野郎も)
あ、いいこと考えた。
俺はふと思いついて、気配察知を発動したまま、人込みの中を歩き出した。そして、スリと思われる人物を素早く避けながら進んでいった。これは、気配察知の精度を高めるのになかなか良い修行である。しかし、これだけたくさんいたんじゃ、収穫も少ないだろうに、なんだろうな。
市場は活気があり、さらに人の数が多かった。他の街ではあまり見られない海産物を売る店々が並んでいる。
おお、美味そうだな。これは買わない選択はないな。
「おっちゃん、このでかい魚、美味いのか?」
「お、らっしゃい。こいつか? ああ、最高にうめえぜ。こいつはバルホースっていう魚でな、漁師からは網を破る暴れん坊として嫌われているが、それだけ身がしまってて油も乗ってるんだ」
うん、ブリだな。見た目ブリだ。
「おお、じゃあ、それ一匹丸ごと売ってくれ」
「ま、丸ごと一匹? 大丈夫か、重いぞ?」
「うん、大丈夫だよ。力仕事は慣れてるから。いくらだい?」
「おう、その心意気が気に入った。二千ベルで売る所だが、千八百に負けとくぜ」
「よし買った」
俺はリュックを背中から下ろして、中に手を突っ込み、例によってルームを発動して銀貨二枚を取り出し、おっちゃんに渡した。おっちゃんは前世で見たブリより少し大きめのバルホースを抱えてリュックの中に入れてくれた。尻尾の先が少しはみ出るくらいの大きさだった。そして、ちゃんと二百ベルのお釣りをくれた。
「ありがとよ。また来てくれ」
「うん、ありがとう」
俺は手を振って店を離れると、しばらく歩いてから狭い路地に入っていった。先ずリュックの中のバルホースを、ルームの中に素早く収納した。そして、ナビに話しかけた。
(びっくりしたな。いきなりスリたちの気配がサッと波が引くように、向こうの街外れの方へ去って行ったぞ)
『はい。恐らく、原因は市場の先から近づいてくる数人の人間だと思います。彼らを警戒するように怪しい連中が去って行きました』
俺はナビの言葉を確かめるように、路地から出て、市場の通りの先の方を〈索敵〉のスキルで探った。
(あ、こいつらか……確かに、反応が強いのが四、五人こっちに来てるな)
〈索敵〉に掛かるのは、生物の魂が発する魔力だ。こちらに害意のある相手や強い魔力を放つ相手だ。〈魔力感知〉との違いだが、〈魔力感知〉は、魔力を持つすべてのものを感知することができ、魔力の大きさや動きを知ることができる。つまり、ランクが上がれば、自分に向けられた魔法を素早く察知することができるのだ。ポピィやアリョーシャが持っているスキルがこれだ。
それに対して、〈索敵〉は、魔力というより、それを発する魂に反応する。害意や悪意をもった魂が放つ魔力、強者が持つ魂の輝きのような魔力の放出を感知する。だから、こちらに放たれた魔法などは正確には感知できないので、不意打ちの魔法には注意しなければならない。
さて、いったい何者なのか。スリたちが逃げたということは、悪人じゃないのか? それとも、スリたち以上の大物か?
俺は、屋台の品々を眺めるふりをしながら、近づいてくる気配に人物たちを見守った。
ほうほう、冒険者風の男たちが五人、メイド服の若い女に執事風の男、そして貴族らしき三十前後の男か……う~ん、どういう集団なのかさっぱりだな。
『周囲の住民たちの反応を見るに、彼らを恐れているようには思えません。むしろ、歓迎している住人もいますね』
(なるほど。だとすると、彼らはこの街の治安を守っている存在、となる。ということは、あの貴族らしき男は、この街の領主、いや領主はボイド侯爵だったな。領主の代わりに街を治めている代官ということかな)
『マスターの推測で間違いないと思います。あ、マスター、右側の屋根の上に……』
(ああ、察知した。これは、スリ集団の仲間だな)
俺は、その屋根の上の人物が見える所へ素早く移動した。
そいつは、屋根の上からショートボウで、明らかに誰かを狙っていた。面倒なことになるのは嫌だったが、俺の体は無意識のうちに動いていた。
ガキ~ン!
結界ボードに矢が当たった音が響く。おお、良かった、ひびは入ったが、貫通はされなかったようだな。
「っ!! アレス様っ!」
「私は大丈夫だ、この少年のお陰で。君は、いったい……」
「通りすがりの冒険者です。あいつを追います」
俺はそう言い残すと、〈跳躍〉と〈隠密〉を同時に発動して、近くの建物に飛び移り、屋根へよじ登っていった。
暗殺に失敗した奴は、まさか屋根の上を追跡してくる人間がいるとは、思いもしなかったのだろう。路地の方ばかり注意しながら、屋根から屋根へ飛び移っていった。
よしよし、いいぞ。そのまま、お前たちのアジトへ案内してくれ。
♢♢♢
そいつは、街はずれのとある建物の前に降り立つと、辺りを見回してから、建物の中に入っていった。
(ふ~ん、けっこうな数の反応があるな。しかし、ただのスリの集団が、暗殺なんかするか、普通?)
『はい、明らかにおかしいです。確かに建物の周囲にたむろしているのは、ただのごろつきだと思われますが、中にいる何人かは軍事の専門家のようです』
(……お前、それ、どうやって調べてるんだよ?)
『マスターの〈索敵〉の情報を分析しているだけですよ』
(?? 俺にはそんな詳しいことは分からないぞ?)
『当然です。そのくらいできなければ、私の存在価値がないではありませんか』
うん……まあ、お前のすごさは改めてよく分かったよ。
さて、暗殺未遂だけど、やっぱりここの情報は、さっきのお偉いさんに伝えておいた方が良いのかな? 直接話すのは面倒だから、メモ用紙に場所の簡単な地図を描いて、屋敷の中に投げ込めばいいか。よし、そうしよう。
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