神様の忘れ物

mizuno sei

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43 ダンジョン型住居の完成

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 ロマーナ村にも、ちらほらと雪が舞い降り始めた。
 ソニア・バローズは、空を見上げながら、首に巻いていたマフラーを頭からかぶって首のところで結び直した。そして、籐(とう)で編んだ手籠を持って屋敷の裏の菜園に向かった。

 菜園は、一面雪に覆われているように見えたが、それは三角屋根に積もった雪のように、透明な屋根の部分だけだった。ソニアの孫娘が作った結界のハウスは、木製の入り口を開けて入ると、中はまるで春のように暖かだった。
 そして、畑には今までこの季節には実るはずもなかったトマトや、ナスなどが見事に実をつけ、青々としたレタス、ハーブなどが元気に葉を広げていた。

 そんな嬉しい収穫物を籠の中に入れながらも、なぜかソニアの顔は悲し気で、何度も小さなため息が漏れていた。
 彼女は、もうずいぶん長いこと孫娘の顔を見ていないように感じた。だが、実は、ちょくちょく孫娘は顔を見せに来ていたのだが、忙しくてすぐにバルナ村に帰ってしまうのだ。ソニアは寂しくて仕方がなかった。


♢♢♢

《リーリエ視点》

「ねえ、調理台はこのくらいの広さでいいかな?」 
 私の問いに、壁に改良型漆喰(しっくい)を塗り広げていたお母さんが振り向いた。
「ええ、十分よ。高さもちょうどいいわね」

 私たち家族は、昨日から、全員で新住居の総仕上げに取り掛かっていた。今、私以外の皆は、居住スペースの壁や天井に、私が改良した漆喰を塗っていた。
 この世界でも、古くから漆喰は使われていたらしい。焼いた石灰岩の粉に水と砂を混ぜた簡単なものだが、やはり石灰岩の採掘が大変なので、値段は高価だ。

 私は、その漆喰に干し草を細かく刻んで入れ、さらに小麦をどろどろになるまで煮詰めて、糊状になったものを混ぜ込んだ。言わば、日本風の漆喰だ。おかげで、漆喰の量も節約できて、軽く、接着力も強くなったので家族も使いやすいと喜んでいる。

 私の主な仕事は、排水経路の整備と確認、そして、家族の要望に従ったカスタマイズだ。最初の計画では、漠然と二階建ての家をイメージして造り始めたのだが、丘の上に生えている木の根が、意外と地中深くまで伸びていたので、上に掘り進める考えは断念して、平屋に地下室という形にした。丘の上の林は枯らしたくないからね。

 そして、この計画変更が思いがけない幸運をもたらしてくれたのだ。
 なんと、地下に倉庫用のスペースを作っていたら、地下水が勢いよく湧き出してきたのだ。そこで急遽、石の水路を作って炊事場とトイレ、風呂場へ水が流れていくようにした。三か所に分散したので、一か所から流れ出す水は、前世の水道の蛇口を開いたくらいになった。
 それでも、魔道具を買って水を補おうと予定していたので、大幅な出費節約になった。まあ、その分、排水の仕組みには頭を使うことになったけどね。

「うん、これで一応、ポーデット家の新住居、完成で~すっ!」
 丘の上の非常口に、石の扉を設置した私は、大きな声で叫んだ。丘の下からは、家族の歓声や拍手が聞こえてきた。

「ご苦労様、リーリエちゃん、魔力は大丈夫?」
 丘を駆け下りてきた私を抱きしめて、お母さんが尋ねた。

「うん、大丈夫、計画的に使ったから」

「あとは、家具を買いそろえるだけだな。ありがとう、リーリエ、こんな素晴らしい家ができるなんて……正直言うと、最初は少し心配だったんだ」
 お父さんも私を抱きしめて、優しく髪を撫でてくれた。

「ねえ、姉さま、リオンとケビンを、この家に招待していいかな?」

 ロナンは自分の部屋が気に入っていて(窓から見える景色が最高らしい)、初めてできた同じ年頃の友人たちに、どうしても自慢したいらしい。

「ああ、それはお父さんたちに聞いて。私としては、来年の夏くらいがいいと思うけどね」

「そうだな…まず住んでみて、いろいろ改良するところも出てくるだろうし、生活が落ち着いてからの方がいいだろうな」

 お父さんの言葉に、ロナンも頷いて納得した。本当に素直でいい子だ。

「じゃあ、さっそくイルクスの街に家具を見に行こうか」
 お父さんの声に、私たちは歓声で答える。


♢♢♢

 丘の北側、草原とその先に広がる森に、細い一本の道が続いている。私とお父さん、プラムで、これまでこつこつと切り開いてきた道だ。

 イルクスのすぐ近くまで続くその森には、実に様々な魔物が生息していた。スライム、ホーンラビット、ランドウルフ、ゴブリン、オークといった、おなじみの魔物の他に、木の魔物トレント、猪の魔物ボアやシカの魔物ディアは数種類いたし、植物の魔物マンイーターやポイズンマッシュルームもいたるところに生息していた。
 まあ、熊とか昆虫系の魔物、それにオーガとか強力な魔物がいなかったのは幸いだった。もしかすると、出会っていないだけで、いるのかもしれないが……。

 私たちは、少しずつ北へ道を切り開きながら、周辺の魔物を討伐していった。おかげで、素材の収益で思いがけないほどの金額が手に入ったし、冒険者ランクも二階級上がった。今、私たちはCランクの冒険者なのだ。しかも、Bランクも手の届くところにある。
 おかげで、私たちの装備(ロナンも含めて)もかなり良いものになっている。


「そういえば、このお馬さんも、ずいぶん頑張ってくれたよね。そろそろ、新しい仲間を入れてあげて、交代で働いてもらったらどうかな?」

「そうね。もう五年以上頑張ってくれているものね。後でお父さんとも相談してみましょう」

 私たちが荷台でそんな話をしていると、三十分足らずで、もうイルクスの城門の前に着いていた。門番の兵士さんたちとも、すっかり顔なじみだ。

 いつものように、馬車を広場の〈貸し馬屋〉に預け、皆で街に繰り出した。ちなみに、〈貸し馬屋〉は、馬や馬車を一時的に預かったり、逆に貸し出したり、馬の売買もしたりする商売で、大きな街にはたいてい存在する。領主の直営であることも多い。まあ、サービス兼用の税金徴収所のようなものだ。


 私たちは、繁華街の行きつけの家具屋や古道具屋を回って、それぞれが欲しい家具や雑貨品を買った。
 この世界では、貴族や金持ちの商人以外は、大きな家具や道具は一度バラバラにして馬車で運び、自分の家で組み立て直すというのが普通だ。だから……

「馬車は裏かね? 運ばせるよ」

「ああ、いや、自分たちで運ぶから大丈夫だよ」

 ……そう言って、皆でバラバラの家具を抱えて店の裏に回り、周囲に誰も見ていないことを確かめて、それぞれのマジックバッグにしまい込む、この一連の作業が実に面倒だった。
 プラムとお母さんは、そのたびにおかしそうに笑い出すのが常だったけどね。

 この世界にも、運送屋(この世界では運び屋という)はあることはあるんだけど、やたら高い料金を取られるし、雑に運ぶから、途中で傷ついたり、壊れたりすることもあるらしい。確かに、魔物や盗賊のリスクもあるから、高額なのは仕方がないかな。

 さて、それぞれが欲しいものはだいたい買えたところで、私は家族にお願いして、繁華街から少し路地を入った場所にある店に向かった。

「おじさん、こんにちは」
 私が、店の入り口で大きな声で叫ぶと、奥の方でガラガラ、ガシャンッと金属製品が崩れる音が響いた。
 私も家族も顔を見合わせて、大丈夫だろうかと心配していると、ドスドスと大きな足音が聞こえ、髭もじゃの大男が汗だくの姿で飛び出してきた。

「おお、来たか…ガハハハ……なんだ、今日は一家総出か?」
 この武器屋の主、ゲンクがいかにも嬉し気にそう言って笑いながら、私のもとに近づいてきた。
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