推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十四話 脱・過去の自分③

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 名を呼ばれたその呪文はそれに応えるよう、血文字で描かれた魔法陣をより鮮やかに紅く光りだす。そしてその血の輝きは流れ出る血を辿って、地面からヒズミの体の上を伝い、血が噴き出している心臓部へと入っていく。

 ーー槍を抜いてくれ勇者。

 シトリーの指示を聞き、クロムは槍をヒズミの心臓から引き抜く。そこから見る光景はあまりにも神秘的でクロムは呆然と倒れたヒズミを眺めていた。
 紅く鮮やかに発光した血は体内の血液と混ざり合い、冷え切ったヒズミの体を隅々まで行き届かせる。まるでカラカラだった土壌に水を与えて潤うように、ヒズミの生気を失いボロボロだった体が胸から体の端にかけて健康な体つきへと元に戻っていく。

「突き刺した傷が…それにいろいろなところに出来てた傷も再生していく。」

 蘇生、というよりかはまるで体の状態を巻き戻しているみたいに見える。そんな不思議な光景をまじまじと見ているが、胸に突き刺した傷が綺麗に修復されると同時に終わってしまった。
 鮮やかに紅く光っていた血が徐々に光を失い、最後には乾いた血で描かれた魔法陣が風に乗って塵となり消えていく。
 そして…

「かはっ!」

 ビクンと胸が飛び起き、ヒズミは大きく空気を吸い込んだ。

「息を吹き返した!おい大丈夫か!?」
「あ……あ………っ……。」

 今にも目を閉じそうなヒズミに俺は問いかけるも、彼は意識が朦朧としているのか、うまく言葉を発せないでいた。
 結局、ヒズミは問いかけに答えることなく再び意識を手放した。

「あっ!おい!寝るな!」

 俺はヒズミを揺さぶり起こす、瀕死の状態なのかと心配になるとすぐにシトリーが言う。

 ーー心配はいらない、気絶しただけだ。停滞していた細胞が一気に活性化したんだ、その反動に慣れるのには時間はかかるだろう。

「気絶している…だけか…。」

 気絶していると聞かされると、俺は心から安堵したのか深くため息を吐き、力が抜けたように座り込んだ。

「じゃあ…これで終わりか。」

 終わり…そう、これでシトリー率いる帝国軍との戦いが終わったのだ。
 数百の悪魔達を壊滅させ、毒を撒き散らす厄災魔獣パンデモニウムを討伐した。その幼体である触手と巨竜の謎はまだ残っているが、一番危険性のある前者の二つを解決した。それだけでも懸念していた問題はクリアしている。
 そして、敵幹部の部下であるヒズミをこちらに確保した。帝国の情報を手に入れられるとしたら大きな戦果とも言える。想像以上の勝ちを俺達は手に入れたのだ。
 だが、今ここでは安易に喜べなかった。

「スゥ……ハァァ……。」

 本当ならこの戦いの勝利に叫んで喜びたい、そんな感情を押し殺して俺は天に向けて深呼吸をした。

 ーーどうした?何を浮かない顔をしている。

 神妙な面持ちの俺にシトリーが問うと、言いにくそうに俺は口を開く。

「終わった気持ちに喜べないのさ、お前の前で勝ったって喜べると思うか?俺もそこまでキチガイじゃない。」

 そう、俺はこの戦いに勝った。シトリーの計画を阻止し、東の国に病気が蔓延することを防いだのだ。
 だがシトリーからしてみれば、それは完全敗北と言ってもいいほどの結末。ヒズミを救出するためと彼女と協力をしたことで、こちらに情が移ってしまった。

 ーーなんだ…そういう事か。

 シトリーは俺の話に合わせるように、苦労混じりな声色で語る。

 ーーそれは私も同じ事だ、負けて、仲間を失い、こんな姿に成れ果てている。もし前の私なら血眼になってでもお前を殺そうと考えていただろう。

 その言葉を聞き、クロムは心臓が跳ねるような緊張感を感じた。まるでこちらを睨んでいるかのような彼女の意思がヒリヒリと伝わって来る。
 当たり前だ、彼女のお願いで一時的に共闘していただけであって、そこから信頼関係を築こうにも互いは殺し合いをしていた敵同士、行ってきた殺戮は消えないのだ。
 そう考えるクロムだったが、シトリーは鼻で笑いながら話し続ける。

 ーーフッ、だが安心しろ、帝国幹部のシトリーはいない、今はただのシトリーだ。敗北も、仲間の死も、今の私に堪えるものはない。

 人間としてのシトリーがそう語る、その落ち着き様から今回起きた仲間の死に対して未練はないのだろう、とどこか確信する。

 ーーお前はヘラの権能に縛られる私に手を伸ばした、敵であった私の頼みを聞いてくれた、そして…こうしてヒズミを助けてくれた。私の最後が…未練と後悔で埋め尽くすような形でなくて感謝してるんだ。

 最後…そのどこか諦めつくような吹っ切れた単語を話すシトリーに対し、俺は待ったをかけずにはいられなかった。

「シトリー…最後なんて言うな、お前は生きるべきだ。お前にはまだやるべきことがあるだろ。」

 俺は感情が昂り、目の前で気絶しているヒズミを見て話す。

「きっとヒズミはこの場で起きたことを知らないままでいる、目覚めた時に自分一人だけなんて知ったら孤独に絶望するだろ。」

 敵なんて関係ない、ただこんな形で終わらせたくなかった。大事な人が自分の知らない所で消えていたなんて、考えるだけでも心が締め付けられる。

「なんて言えばいい、未だ敵として印象づかれているこいつに。なんて言えばいい、お前の最後を俺が見届けたなんて。お前が全部言うんだ、それが駄目ならちゃんとこいつに別れの話をつけるべきだ。今生の別れなら尚更だろ。」

 言いたいことをシトリーに伝えると、彼女は軽くため息を吐き、ひ弱そうに答える。

 ーーそのために私が必要だと…それくらい私でも考えてる。

 そして、言葉にするのを躊躇うかのような沈黙を振り切り話し続ける。

 ーーだが…それは叶わない。私の死は決して逆らえないんだ。

「…どういう事だ?」

 ーー侵食《スポイル》、悪魔族が使う完全憑依魔法。自身の身が危機的状態に陥った時、肉体の修復のために自身の魂を人間に憑依し、その体を乗っ取って生き続ける。自分の体が憑依された人間の肉体に馴染むその時まで…。

「……完全憑依魔法…。」

 シトリーが話す魔法、俺はその魔法を見たこと、聞いたことがある。つい最近ではアルノアの過去の話とフォルティアが語った里の惨劇にそれが出ていた。
 アルノアはベアトリスという人物のうまい話に乗せられ、忌み嫌われる悪魔の姿に体を作り変えられた。
 大昔に霊長の里も、近衛隊員に化けた悪魔が巧みな話術で使って味方の同士討ちを引き起こした。
 その二つを引き起こした主犯格、帝国幹部ベアル…彼女の使うその《完全憑依魔法》は相手を騙す手段として他人の姿に成りすます。
 ゲーム内でも彼女のその奇行は何度も見てきて、そういう能力に関しては理解していた。だが初耳だったのは、それはベアルの能力ではなく魔法だったということと、その魔法をシトリーが使えたことだった。

「…お前も使えたのか、その魔法を。」

 ーーお前も?まるでこれを使っている奴に会ったような口ぶりだな。

 と、俺の言葉に疑問を持ったシトリーは、今までと違って苛立ちを匂わすような声で問いかけてきた。
 何となくそれは、誰かに向けられたようなものであり、自身に不快な思いをさせるような感情を抱いていた。俺はその人物が誰なのかわかるような気がし、その問いかけに答えた。

「会ったことはないが、俺の仲間がその魔法を使った奴に騙されて酷い目にあったと聞いた。あいつの固有の能力かと思ったがそうじゃないみたいだったな。」

 それを聞き、チッ…と聞こえないほどに小さく舌打ちをするシトリー。そして一言…

 ーーあいつと一緒にするな…私達はあんなイカれた事を何度もできない。

 苛立った様子の声で口にした「あいつ」という言葉、俺の知る限りベアルしかいない。イカれた悪魔は誰かと聞かれれば彼女をまず挙げるからだ。

 ーーいや…話が逸れた。

 そんな彼女の話で進むと思いきや、彼女の存在を消し去ったかのように、自身の死に何故その魔法が関わってくるのか素の声のトーンに切り替わり話す。

 ーー条件さえ合えば悪魔族はみんな使える。自身が死ぬかもしれない状況になった時、身近に生きた人間がいる時、そしてこの魔法をその人間に触れて唱えた時。この三つが揃った時にこの魔法は確立する。だがそんな条件、そう起こる話じゃない。

「今際の際で出来る内容じゃないってことか、倒される身としてはたしかに高難度だな。」

 《完全憑依魔法》…仕組みは理解しててもその条件までは知らなかった。やろうとしても簡単に出来るわけじゃない、そう知ると次にシトリーはその魔法の欠陥を口にする。

 ーーそれともう一つ、この魔法は決して人間以外では使ってはならない。魂の定着が自身の肉体に悪影響を及ぼす。

「それって…。」

 今この状態のことを言うのだろう、まるで後出しで真実を告げられているみたいにどうしようもできないという感情が表に出た。

 ーー物に魂を移すという意味がわかるか?物は生身の体と違って自分では動かせない、話せない、生きる目的としない。徐々に私は、ただの無機物の物体となるように、最初からそうであるかのように作り変えられる。

 シトリーは自身の手を見る、自分がどのような状態なのか、ヒズミの救出を第一に考えていたから気づこうともしなかった。
 手のひらが透けて見えた…赤い槍の世界が自分の手を通して広がっている。

 ーーこうしてる間にも、私の体が消えかかっている。お前からじゃ見えないが、私の体がこの槍に馴染もうとしている。

 自分が消えかかっているという非情な現実が目の前にあるのに対し、シトリーの声は素のままで何も変わらない。まるで死が怖くないように聞こえる。
 いや…もうどうしようもないと諦めついて投げ出すような印象に俺は聞こえた。

「なんだよそれ…何とかならないのかよ!せっかくヒズミを助け出したっていうのに、自分はこのまま消えることに納得してんじゃねえよ!」

 槍の先端を覗き込み、中にいるであろうシトリーに向かって喚き叫んだ。
 だが、外からでは中が透き通って宝石のような綺麗さを映しているだけ…シトリーがどんな様子なのかも確認できずに、俺は脳裏に響く彼女の声を聞くことしか許されなかった。

 ーーなんだその顔は、まるで私がいなくなって悲しいみたいじゃないか?お前が最初に言っていた条件と何の変わりもない、私を置いてヒズミを助けてやればいい。

 まるで俺の心が見透かされているように、シトリーはほのかな苦笑の色を浮かばせそう言う。
 何故あの時…あんな条件を突き出してしまったのかと後悔して心臓が締め付けられた。
 俺は…確かに言ったのだ、ヒズミを助ける条件としてこう…

 ーーお前は助けない…と。

「…ッ!それはお前を敵として見ていた時で今は違う!それにその条件はヒズミを助ける間に決めた共闘の条件だろ?だったらそんな話、もう過ぎたことになる。」

 ーーまるで私を引き止めようと必死だな。自分の言葉には責任を持った方がいいぞ勇者、後付けのように口が回るだけでは苦し紛れにしか聞こえない。

 届かない…俺の声はシトリーの心に届かない。
 やるだけやった、やり残したことをすべて叶えた。そんなやり切った心に再び挑戦の意思を燃やすのは困難だ、それが自分の死気が近づいているときたら尚更そう…
 だが…俺の心が折れるなとそう叫ぶ。
 こんな終わり方であっていいわけがない、仲間を大勢失うショックを受け、ヘラの支配から抜け出そうと耐えがたい苦痛を経験し、最後は自分の体が武器として作り変えられその人生に幕を下ろす。相棒であるヒズミを前にちゃんした別れを告げることなく。
 吊り合うわけがない、ヒズミを助けただけで積もりに積もった苦い経験が報われるはずない。
 だから俺は…何を言われようとも俺は…生きることを諦めた彼女のその心の扉を何度も叩き続ける。

「苦し紛れ…?お前を引き止めるのに必死で何が悪い!」

 さっきまでの焦りはどこかに消え、俺は力強く槍を握りしめると同時に感情的に叫ぶ。涙で潤ったその目を紅い槍に睨みつけながら。

「俺は…お前に報われてほしいんだよ。今までの苦労や苦い記憶を全部払拭できるような、そんな余生を過ごしてほしいんだよ…!」

 ーー……勇者…。

 魂に響く叫びに、少し俯くような顔をしていたシトリーが徐々に顔を上げて、ぽつりとその名を呟く。
 見上げたその目に広がるのは、槍の内部に広がる世界から見える勇者。その表情はもはや、敵同士でも、ましてや他人の前で言う顔ではない。
 上も下も関係なく自分と接してくれる…友人の顔だ。

「わかってるさ、今更そんな人生は送れないことを。死ぬかもしれないってわかって覚悟するのはわかるけど…諦めるなよ…。」

 少し悲しそうに俯きながらそう言うと、続けて話すために呼吸を整え口を開く。

「相棒に何も伝えられずに終わるのがお前の最後でいいのか!?大事な伝言を俺の言葉で相棒に伝えるのがお前の最後でいいのか!?くたばるなら一人じゃなく、自分の相棒の中でくたばりやがれ!」

 声を荒げたことで息切れを起こして呼吸だけを繰り返すクロム。その彼の言葉に惹かれたシトリーは、頭の中で問いかけるーーまだ時間ならある、助けて満足するだけでいいのか、と。
 だが、同時に自分の理性が揃ってこう答えるーー伝えることもできずに終わって、後悔したまま死にたいのか。だったら助けて満足したままで死んだほうが楽なんじゃないか、と。

 ーー私は…

 自分の気持ちに正直になろうと、シトリーはクロムに向かって躊躇いながら口を開こうとする。

 ………ボゴ…。

 もし、時間があったらこの勇者といくらでも口論できたかもしれない。

 ……ボゴ……ゴ……。

 だが、現実は非情にもそんな悠長な時間を与えてくれない。それは自分の死期が近づくものでなく、この場にいる者達の死を暗示する宣告のようなものだった。

「……ん?……おい…何の音だ…?」

 小さくもその音は、崖から何かが滑り落ちるような…そんな環境音が耳に入った。
 考えたくもないと呆れながら俺は顔をしかめる。ここで戦ってからというもの、何かの気のせいなのだろうと考えることはなかった。
 何故ならこういう音が聞こえたその時、気のせいと考えるよりも先にソレが現れるからだ。

 ドガァァァァァ!!

「なっ!何だ!?」

 後方100メートルほど離れた先にそびえる高い土壁が地鳴りと共に崩壊していく。その時に生じた砂煙が宙を舞うが、そんな砂煙でも隠せない巨影がゆっくりと起き上がる。
 遠くからでもわかるほどの巨体と周りに溶け込まない紅い外見、それを目にした時本気で奴を嫌悪した。

「ーーッ!くそがっ!いい加減しつこいぞこの野郎!」

 タイラントカオスドレイクーー鑑定スキルで死亡と断定された巨竜が明らかに意思を持って俺達を追いかけてきた。
 その大口から何体のも触手を吐き出しながら、ゆっくりと巨大な腕で地面を掻いてこちらに向かってくる。

「チッ!何でここがばれた?どうやって俺達を探し当てた?まるでここにいることがわかって出てきたみたいじゃないか!」

 脳内で浮かび上がる疑問を後回しにして、目の前で倒れているヒズミをどう連れ出してここから逃げるか、それだけに考えを集中した。
 結局逃げるためには転移魔法しかない、無茶な戦いをしたせいで足を駄目にした状態ではまともに戦うことも走って逃げることもできないからだ。
 だが属性魔法と違い、簡単にポンと出せるようなものじゃない。転移先のイメージ構想、魔法陣の生成と詠唱には時間と集中力が必要になる。
 そんな条件を強いられる中、背後から襲いにくる魔物を考えずに集中するなど無理に等しい。

 ーーこっちに来る!二体!

 そう考えてる側から相手側の襲撃が始まった。接近してくる触手を見つけたシトリーは俺に注意を促し、その声に反応するのと同時に俺は体を後方に捻らす。

「このぉ!フライングランス!」

 振り向いたその瞬間、見えた触手に向かって槍を投げ出す。投げたその槍は空中で分裂を繰り返し、触手の胴体に数多く傷を入れた。
 攻撃を受けた触手はたまらず後方に下がるが、それと入れ替わりで別個体がこちらに向かってくる。これ以上やっても無意味だと理解するほどの物量に俺の顔はみるみる険しくなる。

「くそっ!どうすればいいんだ!いくらシトリーの技を使おうにも、このまま戦い続けていたらこっちが保たない!」

 ーーたとえ逃げれたとしても、奴らはおそらく大きな魔力を探してこちらに向かってくるでしょうね。お前達が撤退する時に使用した転移魔法、そしてヒズミを助けるために使用した蘇生魔法、どれも魔力消費が大きい魔法を詠唱した後に現れてる。

「逃げられたらな、こっちは空も飛べず立つこともできない子鹿みたいな状態だ!」

 淡々と触手の特性を語るシトリーに対し、ヤケクソ気味に叫びながらクロムは槍を触手に向かって投げ続ける。
 間合いに入られたら迎え討つことはできない、だが万全じゃない状態の投擲、向かってくる触手は徐々に多くなり、じわじわとこちらに巨竜が迫ってくる。

「くそっ!くそっ!こんなところで死んでたまるかよ!」

 無理だ…そんな言葉が脳内を巡る、だがそんな言葉を
 たとえ倒せなくとも、わずかな隙さえできれば転移魔法が準備できる。そんな隙さえなくとも1分1秒でも長く時間を稼げれば誰かが助けに来てくれるはず。
 先に撤退した里の隊員達が、ジアロが、シリアスが、転移に失敗して俺だけがここに取り残されたと知った仲間達が、アルノア…コハク…レズリィ…セーレ…ニーナ…アマツ…。

「誰でもいい…誰か俺達を見つけてくれ…!」

 ザクっと近くで土を削る音がした、遠くに投げたはずの槍が手前に突き刺さっている。
 考え過ぎた、手を離すタイミングを間違えた。

「しまっ…!」

 ーーちょっと勇者!冗談でしょこんな時に!

 シトリーから叱られるのも無理ない、たった一回のミスで目視で決めていた防衛ラインが突破された。
 すぐさま俺は槍を手元に戻し構える。目の前には巨大な触手が何本も固まって襲いかかって来ている、まるで土石流のようにすべてを飲み込む勢いだ。

「何やってんだ俺は…!助けが欲しいなら、希望が欲しいなら、死ぬ気でもぎ取りやがれ!」

 挽回させてみせると、今まで以上の気合いで槍に力を込める。その思いが槍に響いたのか、紅い炎が槍全体を覆うほどのエネルギーが湧き…

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 憤怒の叫びを洩らしながら、力の限り槍を目の前へ放つ。その姿はまるで光の尾を帯びた彗星の如く、飛び散る閃光が空間を灼いた。

 ーーこれは…

 シトリーは、目の前の触手が紅い閃光によって焼かれる姿を見て驚愕した。
 それは目の前に群がる触手達を消し飛ばしただけじゃない、その次、その次と槍の勢いを落とすことなく群がる触手が塵と化していき、最奥でこちらに近づく巨竜の頭に突き刺さった。
 その威力は他の槍スキルとは別格、攻撃というより破壊に近いその技は…私が放つほどではないがとても類似している。

 ーーデーモンロードスティンガー…!?何故あいつが?この技の使用法は記憶に共有されていないはず…。いや、共有されてでも使えるわけがない、膨大なエネルギーの塊を投げ出す力は魔物のような常人離れした力じゃないと腕が壊れるぞ…!

 シトリーは振り返り、投げ出したクロムを様子見る。槍を手放したことで自身の精神がクロムとリンクできなくなったからだ。

 ーー 一番の障害は消えた、今なら転移魔法を詠唱できる。

 頭に槍が刺された巨竜はその箇所から血が噴き出るも、攻撃されたことに動じるこもなく、痛みで呻くこともなく、効いていないと知らしめているように再び歩み出す。
 巨竜がクロムの所に来るまでに、触手が再び襲いかかる前に、早く転移魔法で逃げろと催促したい。

 ーー私のことなんていい…ヒズミを連れて逃げてくれ!ここまで来てすべてを無駄にするつもりか!

 シトリーは叫ぶ、もし肉体があったら彼を蹴り飛ばしてやりたい。それくらいになるまで焦りの感情を抑えられなかった。

 ーー力が出ないとか言わせないぞ!立て!勇者!!

 目の前には見えないガラスが張られている、いくら叩こうにも抜け出そうにもそのガラスが行手を立ち塞がらせる。それでもシトリーはそのガラスを叩きながら必死に声を荒げる。

 ーー頼む…!立ってくれ…!

 だが、リンクされてない状態ではどんなに声を上げてもクロムには届かない。
 利き手を押さえ、苦痛に悶えるように倒れるクロムには届かない。
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