推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十五話 帰投②

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 ◆◆◆

 ーー霊長の里

 その光景を、外に出ていた者達は目撃した。
 遠い彼方から一筋の紅い閃光が地上から天に昇って行った。その直後…

 ドゴォォォォ…!
 強烈な突風と雷が落ちたかのような爆音が辺り一面に広がった。
 まるで世界の終わりだと知らしめるような不気味な体験に誰もが困惑し、そして、一拍置いて気付く。
 天に昇る光が消え失せ、強い風が少しづつ止んでいく。その後、時が経っても広がるのはごく普通の自然の光景であり、何も心配することは起きていないと。
 むしろ人々は先ほどの光景にパニックするよりも、何だったのかと真相を知りたがるように疑問に溢れていっぱいだった。

 ーー霊長の里・王室

 御神木のうろの中、ヒカリゴケによる淡い光が樹木でできた空間に神秘的な光景を照らしだす、王室の間。
 その中央で、土埃で汚れた修道服を着た水色髪の少女、レズリィが手を合わせて祈っていた。

「……はぁ。」

 その隣で、気まずそうに落ち着きのない様子でレズリィを見守る悪魔、セーレがいた。

「レズリィ様、そうやって祈っていても状況は変わりませんよ?ずっと張り詰めていたらあなたが倒れてしまいます。」
「……。」

 レズリィはセーレの言葉に耳を傾けず、膝を地面につき、フォルティアがクロムを迎えに行った後からずっと無心で祈り続けている。
 セーレはというと自身のご主人の護衛…というのが建前で、周りの人々に混乱を与えぬようこの王室の中で身を潜めている。

 ◆◆◆

 経緯を追って話すと、転移魔法によって霊長の里に帰って来た勇者パーティーに待っていたのは、セーレとアルノアの姿を見た里の住人達が怯えて混乱している光景と、何故か転移魔法から弾き出されてこの場にいないクロムだった。
 同時に、厄災魔獣の毒を受けて倒れたアルノアとニーナの状態もあってか、クロムを探す暇も無く、この混乱の中で治療してもらうこともできない。
 それを解消すべく、この状況をまとめることができる里長に事情を説明した。

ーーーー
ーーー
ーー

「……ふむ…。」
「…なので、フォルティアさんの言葉で里を落ち着かせて欲しいんです。皆さんの混乱が治ればアルノアさん達の治療とクロムさんの捜索に専念できます。」
「……うーむ…。」

 説明を受ける里長は最初の挨拶以外、受け答えに答えるだけで何も話さない。その時のフォルティアの顔は、大変だと心配そうにレズリィ達に見つめる一方で、時折冷たい殺意をセーレに睨みつけていた。

(状況は理解した…だが、この悪魔を信じていいものか…)

 そう、フォルティアはセーレを見ただけで理解していた。アルノアと違って自分の存在に嫌悪している姿を見せない、それは悪という心に慣れ過ぎている証拠。本物の悪魔族だということを。
 そのような悪魔が勇者パーティーの中にいる、そしてそれを里の皆が見てしまった。疑惑、困惑、混乱、そんな不安な心を和らぐために何と告げたらいい?結論…

「すまないが…その悪魔を庇うことはできない、私の力にも限度がある。」

 それが里長にできる答えだった。その答えにレズリィは残念そうに聞く。

「何故?セーレさんは…」
「その悪魔が敵ではないと君達が信じているように、私は里の皆を信じなければならない。襲われてしまうと不安な心に囚われてしまったのなら、討伐したと皆に告げなければ治ることはないだろう。…だからこそ…」

 フォルティアはレズリィの会話から思い出す…ベアルという悪魔が引き起こした隊員達を騙して互いに同士討ちさせた、あの痛ましい事件を。
 敵味方判別できないセーレの存在、たとえそれが信頼できる勇者パーティーから大丈夫だと言われても、過去の惨劇が里長の心にブレーキをかける。

「私は…信じない。過去に悪魔に騙され、里の壊滅をこの目で見た私が言っている。処さなければ私は動けない、君のような怪しい悪魔を野放しにするわけにはいかない。」

 里のために尽力してくれた勇者パーティーの皆に向かって、心を鬼にして答えるフォルティア。
 すると、処すという単語を聞いたセーレは眉を寄せて威嚇の声を出す。

「はぁ?過去に襲った奴と、私を一緒にするんじゃ…!」
「抑えてくださいセーレさん!あなたの気持ちは私が代弁します!」
「レズリィ様…でも…!」

 今にも手が上がりそうになるセーレをレズリィは片腕を伸ばして塞いだ。
 確かにセーレの言うとおり、過去に起こした事件とセーレはまったく関係がない。そんな自身の存在が悪と認識されるだけで殺されるなんてたまったものじゃない、怒りを表すのは当然だ。
 だが、正直言って状況は最悪。悪魔の存在が里の住人に広がったうえに、フォルティアも立場上、里の混乱を治るためにはセーレの討伐報告しか有効打はない。
 毒に侵された二人の治療先の提供と、勇者の捜索、どれも手放すことができない一大事だが…里長として、もう二度とあんな事件を繰り返さぬよう、信頼性のない悪魔をここで野放しにしておくわけにはいかなかった。
 それが、この混乱とパーティーが抱えている問題を手っ取り早く済ませる唯一の手段だった。時間のない彼女達にとって、それは苦渋の選択になってしまうだろう。
 セーレを殺すのか…殺さないのか…?

 だが、その選択に待ったを呼びかけたレズリィが動き出す。

「フォルティアさん、里の皆さんに伝える報告内容を書き換えてくれませんか?」
「何と?」
「悪魔は倒したと、その報告通りに私達がセーレさんの存在を里の皆さんにバレないように隠します。それなら…」
「私に…里の皆に嘘をつき、悪魔の存在を隠すのを手伝えと?」

 納得がいかないのはフォルティアも同じく、セーレに向けられた冷たい殺意を含ませた眼光をレズリィに向けながらレズリィの話に異を唱える。

「セーレさんは皆さんを襲いません、彼女は私を守ってくれる善人です。」

 フォルティアの威圧に負けんと、レズリィはセーレの前に立ち、彼女を庇うようにフォルティアと対面する。
 だが彼はこの里を統治している長、彼の年季のある言葉に少女は気圧される。

「善人とは?その悪魔には人を思いやる気持ちがあるというのか?私から見れば、アルノア君の時のような自分の存在が他に影響を与えるという申し訳なさが見られない。それを知って君は彼女を抑えたのだろう、少しでも良い印象を与えるために。」
「それは違っ…!」

 口にしようとする言葉をレズリィは飲み込んだ、違う…彼が欲しいのはセーレが善人である理由などではない。彼女の存在する意味、悪事を起こさないという確証が欲しいのだ。

(なんて…答えれば…)

 瞬間、クロムの姿が思い浮かぶ。アマツに説得した彼がどれほど凄いことを成したのか身に染みて実感した。
 私にはクロムさんのように上手く説明できる自信がない、どこから?何を?どういう順で話させばいい?
 ……善人…証拠…なにか…フォルティアさんが納得できる理由を……
 考えても考えても導き出せない答えに焦る気持ちが湧き上がる、もしクロムがいてくれたらと無意識に彼に助けを求めてしまう。
 もし……もし……

「も…もし…」

 ふと、悩んでいた言葉が口に出る。彼女の脳内ではクロムならどうすると考えるだけでいっぱいだった。
 彼ならどうしていた?どうやって説得していた?その時のクロムの行動を思い出していくと、決まって彼は自分の身を削る覚悟を示して証明していたことに気づく。
 であるならば、セーレの存在について言い争うことは必要ない。彼女が味方であることに絶対的な自信を持っていると答えないで説得なんてできるはずない。
 レズリィは強く自分の胸を掴み、息を整えて声を上げる。

「ッ!それでも構いませんよ!信じてもらわなくても構いません!もし、セーレさんがこの里で悪事を引き起こしたのら、私の首を落として見せしめに吊るしてもらっても構わない!それくらいの覚悟で言っているんです!」
「ッ!?」

 レズリィの絶叫に、フォルティアはおろか隣にいるコハクやアマツも目を見開くような驚きの表情を浮かべた。
 何を驚くか、気優しい人が大声を発することもあるが、意外にもレズリィが発したグロテスクな台詞に皆が引いた。

「ちょっ!レズリィさん…そこまでは…」
「あんた…もしかして優しい外見を繕って闇とか抱えたりしていない?」

 後ろにいるコハクとアマツは心配そうな顔でレズリィにそう問う。
 神官という神聖な職でありながら、自分がどんな台詞を吐いたのか理解し、周りから見られる羞恥にレズリィの顔が赤くなった。

「とっ、とにかく!信じてください、この通りです!」

 自分の今の顔を隠すようにフォルティアに向かって頭を下げる。それでも先程発した台詞が聞いたのか、反対意識を強めていたフォルティアはたじたじになっていた。

(悪魔のため、自分の命を張る覚悟があると…それほどまでこの者を信用しているというのか?)

 頭を下げる神官の隣では、唖然として固まっている悪魔がいる。彼女の誠意を聞いて自分の置かれている立場を理解できたのか、もし敵であるならその呆気に取られる表情は作れない、彼女達の味方である可能性が高いだろう。
 だが、それでも答えは変わらない。フォルティアの背後には里に住む住人達がいる、悪魔のために彼らに嘘をつくわけにはいかないのだ。

「すまないが神官君…信じてほしいという言葉だけでは…」

 とレズリィの誠意に否定的な言葉を告げようとするフォルティアに、アマツの苛立ちを含ませたため息が被さる。

「はぁ…もう!黙って二人の話聞いてればずっと平行線じゃない。あんた達、ろくに対話もできないわけ?」

 突然、二人の間に入って叱責するアマツに全員が彼女の方を向いた。

「里長、今のあんたはこの悪魔が里の中にいるせいで正常な判断ができなくなってる。里内部に悪魔がいないか証明するため、敵味方も判別できない悪魔を野放しにしないためとか言ってるけど、まずはこいつが人を襲わないか証拠を聞き出すのが先でしょ。」
「むっ…だが悪魔相手に証拠など意味が…」
「ないなんてことはない、聞かなければ伝わらない。これはあのクロムから教えられた教訓よ。」
「っ…。」

 フォルティアもさすがに、神巫の巫女相手にそれ以上口を開くことが出来なかった。まるで立場を入れ替えたような状況だ。そしてそれは平等にこちら側にも告げられる。

「あんたもあんたで、信じるとか襲わないとか予想だけで話を通してんじゃないわよ。」
「はっ、はい…!」

 レズリィに向かって指をさしながら、これまでの彼女の話を指摘するアマツ。叱られていることに理解し、レズリィは反射的に背筋が伸びる。

「私とあいつとの対話にいたでしょ、なんでこの悪魔とあんたの関係を話さないわけ?」
「それは…私もよくわからなくて、一度聞いた話でフォルティアさんに上手く伝えられるか…」

 自信のない顔を見せるレズリィに、アマツは呆れてため息を吐く。

「はぁ…それはあいつも一緒だったはずよ。こいつが仲間だと伝えるために、あいつは一人で頑張ろうとしていたかしら?」

 あっ…とレズリィは気づいたように声を上げて思い出す。クロムは自分の話が妄言とならないように、話しづらい立場であったセーレをなんとか協力させようと奮闘していたことを。

「あいつならどうするべきかとか考えていたんでしょ、あの勢いと自分の身を捨てるような発言はあいつに似ていたし。」
「うっ…」

 図星をつかれ恥ずかしそうに目を逸らすレズリィを見て、仕方なくアマツは話し続ける。

「だったら、立場なんて関係なくどうするべきか聞くんだったわね。あいつなら恥ずかしさなんて関係なくこき使おうとしてくるわよ。」
「ああ…わかる気がする。」

 何かを察したようにぽろっとセーレは言葉を溢した。
 3分も経たぬうちに対立しかけた関係を中立に戻し、そのままの勢いでアマツは説明不足だった部分を穴埋めるようフォルティアと対面する。

「とりあえず、ここは私が話すわ。あんたも協力しなさい、それとも…あいつの言葉じゃないと動けないのかしら?」

 嫌味を含めて呼ばれていることにセーレは苛立つが、状況が状況のために溢れる怒りを抑えつつ、仕方なく彼女の言葉に従った。

「チッ、お前も同類なのね。」

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