推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十五話 帰投③

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 セーレは嫌そうな顔を見せながら、着ているコートやシャツを脱ぎ、胸元をはだけさせた。その顔に恥じらいなどなく、まるで自分と主人の関係性をフォルティアに改めさせようと胸に刻まれている紋様を見せつけている。

「これを見なさい里長。」
「これは…!」

 セーレに刻まれた紋様を見てフォルティアは衝撃が走った。そこには本来悪魔族に刻まれているはずの魔王の紋様ではなく、別の…しかも…!

「人間奴隷の紋…!」

 人間を主とした奴隷の契りを悪魔が結んだ、奴隷の契約自体難しいことはないが、絶対服従の魔王の支配から契りを移し変えることなど不可能に近い。
 自分の意思など関係なく、契りを移し変えた瞬間に裏切り者として始末されてしまう。だがそれが起こらず今もこうして生き続けている、それが大きな疑問だった。

「驚きよね、私も最初見た時に正直驚いた。彼女は自分の人生を賭ける契約決闘《エンゲージバトル》に負けて、ヘラの支配権を剥奪されたのよ。あの勝負で人が勝つところなんてありえないから、冗談を吐かしてると思ってた。」

 敗北したことを勝手に晒されるとセーレは鋭い目つきでアマツを睨む。

「その話いる?戦いに負けたとかいう話じゃなくて、これ見せれば済む話じゃない?」
「ちょっと黙っててもらえる、焼くわよ。」
 
 一言でさっと片付けられたセーレは不快に、「はいはい」とつまらなさそう返事をした。そんな彼女はさておきと、アマツは話し続ける。

「彼女が味方だと主張できるのはこれだけ。でも、人を襲わない根拠としてはこれ以上の確かな証拠はない。あんたならわかるでしょ。」

 たしかに奴隷契約を結んだ者はその主人の命令には逆らえない、どこにも行くなと命令すれば里で悪事を働くことはまずないだろう。
 現実的にそう考えるフォルティアだが、根本的に理解に苦しむものがある。

「巫女よ…私はわからない。悪魔族を…被害を受けて変異させられた者でなく…魔王の兵から奪ったというのか…なぜそのようなことを?」

 そう問いかけるが、アマツは面倒くさそうに顔をしかめて言う。

「話すときりがないのよね、知りたいのならこんな馬鹿げたことを考えたクロム本人から聞きなさい。」
「勇者クロム…彼の案だというのか。」

 クロム…その名前を聞いてより彼に興味が湧いた。勇者という肩書きでありながらも、これまでの型破りな考え方には恐れいる。彼には普通という概念はないのか?なぜそのような考えに辿り着くのか?その真意を問いたい自分がここにいた。

「勇者だというのになぜって顔ね、そんなの意外とシンプルな答えだと思うわ。」
「それは?」

 アマツは似たような質問を自分で問いたことを思い出し、クロムが答えた内容を簡潔に述べた。

「勝つためでしょ。自分よりも格上の敵を討つために念入りに準備整える、それも…やり過ぎだと思うくらいに。」

 やり過ぎ…たしかにそうだとレズリィや他のみんなもアマツの言う言葉に頷く。
 帝国幹部から情報をいただくために契約決闘《エンゲージバトル》を申し出たり、厄災魔獣の復活を可能性に入れて、自分の体の一部を使った対抗薬を用意したりと、自分の身を壊す勢いで戦っている。
 クロムの状態が心配になる半面、その意外な一手によって助けられているのもまた事実。それがクロムのいき過ぎた考え方に強く怒れない理由でもあった。

「私や先代勇者のような力で物事を解決するんじゃなく、あの勇者は自分に足りないものを補うように力を蓄えて解決しようとしている。たとえそれが私達からしてみればありえないと考えることでも、必ずそれが役に立つ。私はそれをこの戦いを通して理解した…」

 自信のある激情の目をフォルティアに向けて、アマツははっきり言う。

「クロムが彼女を仲間に加えたことに、間違いなんてことはない。」
「っ!」

 彼女がそう答えることにフォルティアは内心驚く、悪魔に対して非情な冷徹を貫いているアマツが、悪魔を隣にしてその心を否定した。
 それはもう、答えを述べているようなものだった。アマツとクロムの考えを信じて従えと、私のやり方を否定するように。

「って…一刻を争うっていうのに話し過ぎたわ。説得する身にもなりなさいよ、たくっ…あの馬鹿勇者!」

 と、はっとしたようにアマツは今の置かれている状況に気づき、クロムに向けられた態度をガラリと変えてそう言葉を溢す。
 そして、今までの話を理解したと見た彼女は、この場の主導権を握るようにフォルティアに指示を伝える。

「というわけだから、里長はクロムを探しに行って、私の予想だとあの谷に取り残されてる可能性が高いわ。こっちはこっちで、里の混乱を静めるのと同時に二人を手当てできる人を探すから。」
「何!?里の混乱に対して一番に立ち会わなくてはいけない私を外すなど…!」
「あのね!言ったでしょ、今は一刻を争う状況だって。こんな状況で転移魔法を使える人を探してこいって言いたいわけ?」

 アマツは昂然とした歩調でフォルティアの前に歩み寄る、その圧はフォルティアの意見を跳ね飛ばす勢いで、思わず彼は後ろに身じろぎしてしまう。

「それとも…まだあの悪魔のことが信用できないのかしら?神官も自分の命を賭けるって宣言した、だからもし悪さを引き起こしたのなら二人の首は私が落とす。他に心配事はあるかしら?」

 下顎をくいっと上げてアマツは後ろにいるレズリィとセーレに向けて指した。
 その表情に迷いはない、先ほどの彼女達を守護するという気持ちが入った仲間意識は消えて、今は神巫の巫女としての役割に切り替えている。彼女がそうやると言い出したのなら必ずやるだろう。

「わかった…君がそう言うなら信じよう。この里の件、一時的に君に預ける。」

 言うなり、フォルティアは杖の柄先を地面に叩いて魔法陣を展開させた。
 魔法陣から転移魔法特有の青白く輝く光がフォルティアを包み込むところを見ると、彼が飛ぶ前にアマツは言う。

「里長、老体に鞭打つようで悪いけど、クロムを頼んだわ。馬鹿げた思想を持ってるヤバい彼だけど、彼の力はここで失うにはもったいないものなのをわかって。」
「なんとかしてみせよう…。」

 フォルティアは頷きながらそう言葉を溢すと、転移魔法の詠唱を始める。

「目標、死霊の谷・転移《トラベル》!」

 パァァ!とさらに強い光がフォルティアを包み込み、光が消えたと同時に彼の姿も消えた。
 フォルティアが死霊の谷へ転移したことを確認すると王室に残った彼女達も動き始める。

「それじゃあんたはここでこいつを見張ってて。獣人と二人で他の事をやっておくから。」
「はい、わかりました。」

 アマツはセーレに指をさして、ここで彼女を見張るようレズリィに指示をする。
 その時、問題を起こさないかちらりとセーレの方を半眼で睨むと、それに気づいたセーレは反応する。

「なによその目は、ここまで暴れないですって宣言をしておいて暴れる馬鹿だと思われてるわけ?」

 セーレは呆れた表情でそうアマツに返すと、「わかってるならいいわ。」と言い残し二人の前を横切った。
 そして次に、厄災魔獣の毒を受けて苦しそうにしているアルノアとニーナ、それを頑張って支えながら立つコハクに向かった。

「獣人…」
「わかっています、今すぐに向かいましょう…!」

 コハクは焦りが混じるような鬼気迫る表情をしながら、王室の外に向かおうと歩き始める。
 彼女の両脇には項垂れながらもふらつく二人を支えながら歩いている、状況がわかっているとはいえ、毒を受けた二人を治療できる場所まで歩かせるのは野暮だと感じ、アマツは手を伸ばす。

「無理するんじゃないわよ、私が片方支えるわ。」

 だが、アマツの行為にコハクは首を横に振る。

「大丈夫です…医療所の場所はこの里を周った時に記憶しています。アマツさんは混乱している里の住人達を落ち着かせるのに尽力してください、そちらの方が優先です。」
「そうじゃなくて、私が言ってるのは…」
「私は獣人です、力仕事なら任せてください。」

 支える二人を持ち直し、コハクは足早に歩き出す。その後ろ姿を見て、気遣わしげな声でアマツは言う。

「まったく…せっかちなのか、気を遣わせているのか…。」

 そう言うとコハクよりも先に前を歩き出し、アマツはそれに応える。

「じゃあ二人を頼んだわ、獣人。」
「コハクです、自己紹介…やる機会ありませんでしたね、覚えてください。」

 獣人という名前呼びに慣れていないのか、注意を促すようにコハクが答えると「わかった」という軽い返事をし、王室から出るための扉を召喚する。

「どうか…皆さんと無事に再会できますように…」

 アマツとコハクが王室の外に消え、物静かになった頃、レズリィは祈るようにして心配そうに言った。

 ◆◆◆

 あれから何分経っただろうか、ひたすら祈り続けるレズリィ以外何も変わり映えしない光景に、セーレが体感する時間の感覚が狂う。
 外へ行かないでくださいと、レズリィからの命令によって本能的に王室から出られないようになっているが、出るつもりもないこの空間で何もせずにただ待っているだけだとさすがに飽きてくる。
 暇さえあれば目を閉じて休息を取るつもりだったのだが、長い時間祈り続けるレズリィを隣で見てると、そちらにばかり気になってしまう。

「レズリィ様…私にはわかりません。自分が何かするわけでもないのに、どうしてそこまで祈り続けられるのですか?」

 やはりと言えばいいか、問いかけてみても隣にいる自分の主人は何も言わない。きっと祈ることに集中している、無視しているなんてことはない、彼女の優しさからそういう性格ではないと考える。
 ーーと、冷静な自分はそう言うが、内心…何か失礼なことを言ったのではないかと彼女の地雷を踏んでいないか心配になる。

(あぁ…もう「はい」とか「いいえ」とか受け答えるくらいしてくださいよ!いつもならすぐ答えてくれるのにどうして何も言わないんですか!)

 そう心に叫び、頭を抱える。レズリィの気持ちがまるでわからない、どうしてそこまで集中できる?そこまでして祈ることに何の意味がある?手を合わせて願うだけの行動など、無意味だとわかっているのにどうしても気になってしまう。

(はぁ…やらないとその気持ちはわからないってことですか…。)

 聞いても答えてくれないと感じたセーレは、レズリィの隣で膝を地面につけて、彼女と同じ行動を取るようにした。

「……ん?」

 隣に誰かの気配を感じたレズリィは祈りを中断し、目を開く。そこに映った、自身と同じように手を合わせて祈るセーレの姿を見て、物珍しそうに問う。

「セーレ…さん?」
「やっぱり…これに何の意味があるんですかね。」

 ぎこちなく、真剣さも感じられない祈祷をしながらセーレはレズリィに聞く。

「祈って何でも自分の思いが届くのなら私だってやりますよ、神様だろうが天使だろうが、悪魔とは真逆の立ち位置であったとしても、プライド放り捨てて手を合わせてやります。」 
「……。」
「でも…現実はそんな簡単なものじゃない、思いどおりに進むために力を行使する、不可能を可能にするために魔法が作られる。虚空に願いを思っても何も変わらない、変えたいのなら…」
「自分の力で変えなきゃいけない…そうですよね?」

 痛いくらいに伝わる現実的根拠に、たまらずレズリィは声を出す。

「ごめんなさい…セーレさんの声はずっと前から聞こえていました。決して無視してるわけではなくて…セーレさんの問いに何て答えたらいいかわからなくてですね。」

 何の意味もない、それは自分でも分かりきっていることだ。だからこそ、それに気づきたくなくてずっと無心になっていた。
 ーー自分の祈りが届かず、最悪な結末がこの先に見えてしまうのではないかと。

「そうです…今ここで祈るのでしたら、クロムさんを探すために、毒にかかった二人を治すために動くべきでした。」

 レズリィは手を合わせる自分の手を見つめる。

「でもそれすらできない時、自分の役割がただ待っていることしか許されない時、なぜこの時に私がいなかったのかと悔やみながら、自分にはできないこと成す皆さんを応援したくなるんです。」
「………」

 隣で、セーレは沈黙したまま、視線をレズリィ以外の他の景色に目を移す。
 申し訳がなかった、何故だかそんな気持ちがレズリィの言葉が一つ一つ発せられる度に湧き上がる。
 何の意味もない…それは行動的に意味がないだけで精神的に意味はあったのだ。祈りを止めたレズリィの顔がどんどん暗くなっていくところをセーレは見たくはなかった。

「セーレさん…」

 レズリィの声に反応し、セーレは驚いて肩が跳ね上がる。
 怖い。たまらなく…怖い。何を言われるのかと緊張し体が強張る。自分はとんでもないことを口にした、それもいい加減な態度で、その制裁を告げられるのは当たり前のことだが…
 それによって…今までの関係が崩れてしまうのは考えたくもない…そう思考する中ーーレズリィが言う。

「あなたの言っている事はごもっともです。ですが人は…心に不安を持ってしまったら生きていけない生き物なんです。力のある人なら自分でその不安を取り除くことができますが、力のない人は…こうして心に不安な気持ちを抑え込むように祈らないと…怖くて仕方ないんです。」

 レズリィの声を聞こうと視線を彼女の方に向けたことで見えてしまった。今にも泣き出しそうな辛く陰を落とした表情と、合わせていた手がいつのまにか両手で握りしめている様子を、よく見ればその両手は小さく震えていた。
 レズリィの気持ちを聞いて自分の心がズキンと痛み出す。なんてことを言ってしまったのだろうか…自分の言葉でご主人を落ち込ませてしまった…叱られるのを待って怖くなっている自分を殴ってやりたい。

「あ……」

 すぐ彼女に謝ろうと口にするが、からからに渇いてしまった喉では小さいひと言しかでない。

「私…セーレさんと違って心を強く持つことができないんです。皆さんと違って、私は恐怖と対面することを避けている人ですか……」

 レズリィは目を閉じて再び祈り始める、だがその祈りは先ほどと違って不安や辛さが向上された見るに耐えない祈祷だった。
 自分の言葉ではレズリィの心を救えない、彼女の祈りを見てそう感じたセーレは、無意識に…咄嗟に…レズリィの体を全身を使って抱きしめた。
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