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復活の厄災編
第五十六話 大団円が始まる前に③
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クロムという理解に苦しい考えを持つ彼の話には期待しないが、懸念する自身の立場を彼が変えられると発したため迷わず問う。
「それは?」
「たとえば、吸い込めと指示すると物や人を中に吸い込んでしまうひょうたんみたいな、そういうのがあれば周りの目を気にせず行動できる。」
「………?」
クロムの目から見て全員の頭に「?」の文字が浮かび上がっているのが見えた。
(あれ…伝わらなかったか?ゲーム内では確か竜人族がそういうのを持っていたのを見たことがあるんだが…)
《竜人族ーー竜族を原初とし、知恵を身につけ、人に近い動きへと進化を遂げた魔物だ。獣人族の竜バージョンと言ってもいい。》
全員の微妙な表情を見て察した、まさかの全員が知らないパターンだ!しかもこの状況、何か策があると思わせてとおきながらで発したのがマズイ、普通に滑ってる!これは説明しなければ色々と面倒だ。
「あれだよ、竜人族が持ってるひょうたん。あれって吸い込んだものを溶かして酒にするっていう魔道具なんだけど…聞いたこと…ない…?」
全員が首を横に振った。
気づいていた、話している間ずっと微妙な表情だったもの、話してるの辛すぎて変に質問しちゃったじゃないか!恥ずかしい…!
そう、苦笑しながら顔が固まるクロムを見てセーレは、こいつに期待したのが間違いだったと感じて、理解できない彼の話を指摘する。
「あのね、色々理解できないんだけど、なんで竜人族がそんな危険な物を持ってるわけ?そんなのがあれば真っ先に帝国が狙ってくるわよ。」
帝国の事情を挟みつつ、吸い込んだ物を溶かして酒にするというありえない道具の話に呆れた目で見返す。
「怪我のショックで頭でもイカれたのかしら、そんなありえない魔道具があるわけないでしょう。あったら世界中全員竜人族の酒の素材になってるわ。」
「あ…ああ…そう、だよな…?」
まずい、これは非常にまずい状況だ。
冗談であるなら後で笑い話になるだろう、だが今の妄言のような発言で俺は信頼性という立場を失いかけてしまっている。このままいけばどんな発言も根拠のない話だと捉えられてしまうだろう。
だが、これ以上何を言うべきか?信じてほしいなどと口にすれば余計に怪しまれる。何故だがわからんが人狼ゲームをやらされてる気分で、変に脳を使っている。
そんな立場の危うさを何とかしようとするクロムに、助け舟が入る。
「もしかして…クロムさんの予知で、そのような道具があるのを見たんですか?」
レズリィが、俺の耳元で小さくそう問いかけた。
瞬間、俺はパーティーの三人に、ゲーム内の知識を予知魔法と偽って説明していたことを思い出した。すぐさまレズリィの問いに合わせて首を縦に振り、小声で伝える。
「ああ。でも解釈違いがあるかもしれない、物をそうやって収納できるっていう話に逸らせたい。できるか…?」
レズリィがそれに無言であいずちを入れると、俺の話を思い返しながらそんな道具があることをそれっぽく伝えた。
「多分おそらくですけど、クロムさんが言いたいのは《そういう道具があれば》っていうことじゃないですか?竜人族のひょうたんも、たとえばと言ってましたし。」
いかにも誠実さが表れる声に、妄言で興味を損ねていた話が現実味に湧き上がる。それに応じてコハクが疑問を言う。
「うーん…そういう道具があればと言いますが、まさか竜人族に会ってそのひょうたんがあるか聞きに行ってくるってわけじゃ…」
「あってたまるものか、私を酒の材料にする気?」
「すっ、すみません!そういった意味じゃ…!」
ジロリとセーレはコハクを睨むと、彼女はびくりと肩が震え両手を振りながら違うと全力で伝える。
そのやりとりの間に異を唱えるように、クロムが応じる。
「それについてだけどな、そこに行かなくてもその道具についてはアテがある。たとえや想像なんかを実現させてくれる人物が俺達のバックにいるじゃないか。」
相変わらず理解できない妄言を、と頭に浮かんだ瞬間、アマツが気づいた試しに言う。
「…まさか、マリアナに依頼するっていうの?」
「「はっ…!」」
マリアナという人物がその口から出てきた瞬間、全員がアマツと同じく気づいたように声をあげる。
ルカラン王国きっての大魔法使い兼、数々の魔法研究に精通している大賢者。彼女の広く深い見識なら、人の体を道具の中に吸い込ませてしまう魔道具を作れるかもしれない。
みんながそう期待しながら考える反面、はたしてそれが叶うのかという不安が横切る。
「ルカラン王国の大賢者様に…ですか!?」
「たしかに大賢者様ならそういう道具を作れるかもしれない…ですが…」
コハクは驚き、本当なのかと俺に問いかけ、レズリィはその依頼が叶うものなのかとセーレを見据えて考える。
そして、一番にその依頼は実現しないと考え、疑わしい目で俺を睨むセーレ。
「ルカラン王国の大賢者様にそういう魔道具を作ってもらおうっていうの?信用ならないわねぇ…もし騙されて私を封印する魔法が組み込まれていたらどうするつもりよ。」
そう、結局依頼するとなれば事情を話さなければならなくなる。いくら自国の者とえいど、悪魔を連れていきたいから身を隠すことができる魔道具をくれ、などと言ったら何をされるかわかったものじゃない。
セーレが言うように彼女が屠られる魔道具を渡される可能性もある、もはや全員の脳にはスムーズにいくという可能性はなかった。
それでも今回ばかりは彼女の力を借りなければ先には進めない、悪魔絡みの面倒事がこれで最後となるならやっておいて損はないか…
「そうならないように説得するつもりだ、仲間を失わせることは…俺が絶対させない。」
真面目な顔でそう伝えると、ツッコミを入れるような速度でセーレが今の心境を答える。
「無駄にかっこいい事言ってるけど、さっきのやりとりでお前の信頼感ゼロだから。」
「お前のためにやってんだから感謝くらいしてくれない?」
「ガンバ。」
その発言を皮切りに俺とセーレは再び取っ組み合いになった。まぁ結論、怪我の身で体力が著しく減っている俺ではセーレに適うわけなく秒殺された。
「ほんと喧嘩が絶えないわね、あんた達…」
「他にもいますけどね…まぁ賑やかでいいんですけど。」
レズリィがそう言う先には、取っ組み合いに勝利し愉悦に笑うセーレとぐったりと仰向けになるクロムの光景があった。
◆◆◆
ーー霊長の里・大通り
賑やかな町並みの中、通り過ぎる人達の視線がチラチラとこちらを見ている感じがした。
「いやはや、ちょっと恥ずかしいなこれ…女の子に背負ってもらってる男って…なんか惨めに思えてくる。」
「なんで惨めになるんですか?どうしても行かなきゃいけない所があるってクロムさんが言うから、こうして運ぶしかなかったんですよ。」
「それはそうなんだけどさ…。」
俺は今、町中でコハクに体を預けて、背負うような形で運ばれている。
何故このような状況になっているのか?アマツ達との話し合いを終えた後、俺はモルガンに対抗薬の対価を渡さなければならないことを思い出し、緑土の館に向かうとするところでレズリィとコハクに捕まったのだ。
俺の体には制限死毒《カウントダウンデス》という毒が植えつけられており、丸四日その毒状態でいると死んでしまうという恐ろしい爆弾を抱えている。
ゼルビアの町でモルガンと出会った日を逆算すると、今日の夜がそのタイムリミットだ。そうなる前に解毒させてもらわないといけないのだが…
ーーどこに行くんですか?
レズリィの冷ややかな怒りを表した声に言い訳は無理だと判断し、事の事情を伝えた。
絶対安静というのがレズリィの顔に出てる中、何とかお願いすると背負って運ぶという話になった。
そして今現在に至る…
「何度も言いますがクロムさんは重傷の身なんです、そんな状態で出歩いたら怪我を悪化させるんですよ。それくらい我慢してください。」
「はい…すみません。」
隣でレズリィが口酸っぱく俺の状態を語る、言っていなかったが俺の体に植えつけられている猛毒が余命宣告レベルだと知ったらどうなるだろうか…泡吹いて倒れるんじゃないか?
と、そんな意地悪に感じることを考えていなければ俺自身が恥ずかし過ぎて倒れそうになる。頼むからお前ら見るな!見ないでくれ!と思いながらコハクの頭上で俯く。
そんな羞恥心を抱かせられているクロムをよそに、コハクとレズリィが語る。
「そういえば疑問だったんですけど、レズリィさんの治癒魔法でクロムさんをこれ以上回復できないんですか?」
「これでもかなり強めにかけたんです、筋肉の断裂はもう起きませんが、修復と断裂を繰り返した筋肉はかなり疲労しているでしょう。そこは本人の再生能力に頼るしかありません。」
その話に乗じて再びクロムに注意を向けるレズリィ。
「だからクロムさん…!あなたが言ってたあんな危険な技、絶対に使わないでくださいね!雷魔法で筋肉を動かすなんて…なんて危ないことを。」
巨竜にダメージを与えたという話でさらっと口にした行動を再び指摘する。あの時はシトリーとの共闘にみんながざわついていたので後に流したが、ここでくるとは…
「いや多分、出力ミスっただけだと思うんだ。もっと電撃を抑えればこんな重傷は…」
「クロムさん…?」
レズリィがジロリと俺を半眼で睨みながらこちらに問いかける。
「わかったから、絶対やらないから、そう睨まないでくれ…。」
そう言うと、ぷいっ顔をそむけてしまう。
そんなやりとりを続けていくうちに、三人は大通りを離れ薄暗い通りに入っていく。
里の東側の端、人通りが少なく建っている住居も大通りに建つものと比べて質素な雰囲気が建ち並ぶ。
コハクはその暗い雰囲気に当てられ不安そうに俺に聞く。
「それで、私達どこに向かっているんですか?なんだかここ…暗い雰囲気が出てるんですが…。」
「もうすぐ着く、あそこを右に曲がれば見えてくる。」
俺の言葉を信じて二人の足は前へと歩き続ける。そして指示された道を歩き続けていくと、二人は直感的に目的地がどこなのか察しついた。
「あの…まさかあれですか?」
レズリィが指をさす方向にある、外壁全てが緑の苔に覆われた怪しさ漂う建物に俺は頷く。
「ああ、あそこだ。モルガンの研究所。」
「研究所というより…年月が経った廃屋にしか見えませんが。」
レズリィの言葉に俺は妙に納得する。
「だよな、俺も最初見た時、絶対入りたくないって思ったし。でも中は普通の家と変わらないから、安心していいぞ。」
「来たことあるんですか?」
「ああ、対抗薬に関しての打ち合わせみたいな形で招かれた。」
ーー表じゃあんな目立つ非行できないからここに連れて来られたのが正解だけどな…
本音をひた隠しつつ、二人には打ち合わせとそういう定で話を進めた。
「それでしたら別な日でも良かったのでは?それにお返しなら私達が代わりに行けましたのに。」
「俺じゃないといけない理由があるんだ、今回はな。」
「それってどういう…」
クロムの意味深な言葉についてレズリィは問いかけようとした時、コハクが頭を咄嗟に体に擦り付け、まるで不快感を示すような素振りを見せた。
「うえぇ…鼻が曲がりそうな臭いです、私だけですか?こんなに臭いが強烈に感じるのは。」
建物の敷地内に入る前にコハクは苔についた薬品の臭いを嗅ぎ分けた。人よりも感覚器官が鋭い獣人だからこそだろう、レズリィや俺はまだその臭いを感じない。
臭いという言葉に疑問を持ったレズリィが建物に近づいていくと、ツンと鼻に抜ける刺激臭が急に現れ咄嗟に手で顔を覆った。
「ううっ!何ですかこの臭い。」
嫌な臭いにやられ、その場に立ち止まる二人。そんな二人を前に俺はふざけ模様を隠しつつ淡々と言った。
「苔を倍に増やす薬を周りにかけてるみたいだからな。あんまり吸わない方がいいぞ、毒だから。」
「「早く言ってください!!」」
二人に大声で怒られるものの、どこか悪戯が成功した時のような快感を得ながら「ワリ」と右手を上げて謝罪する。
そのやりとりを聞いたからか、古めかしい木の音を出しながら玄関の扉が開かれる。
「ははっ、そのやりとり、私を真似かい?無知な者をからかうのは楽しいだろう。」
モルガンが笑いながら中から出てくる、彼女の言う言葉に俺にからかわれたのかと感じたのか二人はこっちを見つめてくる。
俺はそれを苦笑いを浮かべて無視しつつ、モルガンに要件を伝える。
「モルガン、約束の物を渡しにきた。そっちの約束も守ってもらうぞ。」
「ああ、楽しみにしてたよ。さぁ中に上がりな。」
その笑みに込められたものが期待か、それとも策略か、その意味を問いかけられる中、俺を乗せたコハクが館に足を踏み入れる。
「それは?」
「たとえば、吸い込めと指示すると物や人を中に吸い込んでしまうひょうたんみたいな、そういうのがあれば周りの目を気にせず行動できる。」
「………?」
クロムの目から見て全員の頭に「?」の文字が浮かび上がっているのが見えた。
(あれ…伝わらなかったか?ゲーム内では確か竜人族がそういうのを持っていたのを見たことがあるんだが…)
《竜人族ーー竜族を原初とし、知恵を身につけ、人に近い動きへと進化を遂げた魔物だ。獣人族の竜バージョンと言ってもいい。》
全員の微妙な表情を見て察した、まさかの全員が知らないパターンだ!しかもこの状況、何か策があると思わせてとおきながらで発したのがマズイ、普通に滑ってる!これは説明しなければ色々と面倒だ。
「あれだよ、竜人族が持ってるひょうたん。あれって吸い込んだものを溶かして酒にするっていう魔道具なんだけど…聞いたこと…ない…?」
全員が首を横に振った。
気づいていた、話している間ずっと微妙な表情だったもの、話してるの辛すぎて変に質問しちゃったじゃないか!恥ずかしい…!
そう、苦笑しながら顔が固まるクロムを見てセーレは、こいつに期待したのが間違いだったと感じて、理解できない彼の話を指摘する。
「あのね、色々理解できないんだけど、なんで竜人族がそんな危険な物を持ってるわけ?そんなのがあれば真っ先に帝国が狙ってくるわよ。」
帝国の事情を挟みつつ、吸い込んだ物を溶かして酒にするというありえない道具の話に呆れた目で見返す。
「怪我のショックで頭でもイカれたのかしら、そんなありえない魔道具があるわけないでしょう。あったら世界中全員竜人族の酒の素材になってるわ。」
「あ…ああ…そう、だよな…?」
まずい、これは非常にまずい状況だ。
冗談であるなら後で笑い話になるだろう、だが今の妄言のような発言で俺は信頼性という立場を失いかけてしまっている。このままいけばどんな発言も根拠のない話だと捉えられてしまうだろう。
だが、これ以上何を言うべきか?信じてほしいなどと口にすれば余計に怪しまれる。何故だがわからんが人狼ゲームをやらされてる気分で、変に脳を使っている。
そんな立場の危うさを何とかしようとするクロムに、助け舟が入る。
「もしかして…クロムさんの予知で、そのような道具があるのを見たんですか?」
レズリィが、俺の耳元で小さくそう問いかけた。
瞬間、俺はパーティーの三人に、ゲーム内の知識を予知魔法と偽って説明していたことを思い出した。すぐさまレズリィの問いに合わせて首を縦に振り、小声で伝える。
「ああ。でも解釈違いがあるかもしれない、物をそうやって収納できるっていう話に逸らせたい。できるか…?」
レズリィがそれに無言であいずちを入れると、俺の話を思い返しながらそんな道具があることをそれっぽく伝えた。
「多分おそらくですけど、クロムさんが言いたいのは《そういう道具があれば》っていうことじゃないですか?竜人族のひょうたんも、たとえばと言ってましたし。」
いかにも誠実さが表れる声に、妄言で興味を損ねていた話が現実味に湧き上がる。それに応じてコハクが疑問を言う。
「うーん…そういう道具があればと言いますが、まさか竜人族に会ってそのひょうたんがあるか聞きに行ってくるってわけじゃ…」
「あってたまるものか、私を酒の材料にする気?」
「すっ、すみません!そういった意味じゃ…!」
ジロリとセーレはコハクを睨むと、彼女はびくりと肩が震え両手を振りながら違うと全力で伝える。
そのやりとりの間に異を唱えるように、クロムが応じる。
「それについてだけどな、そこに行かなくてもその道具についてはアテがある。たとえや想像なんかを実現させてくれる人物が俺達のバックにいるじゃないか。」
相変わらず理解できない妄言を、と頭に浮かんだ瞬間、アマツが気づいた試しに言う。
「…まさか、マリアナに依頼するっていうの?」
「「はっ…!」」
マリアナという人物がその口から出てきた瞬間、全員がアマツと同じく気づいたように声をあげる。
ルカラン王国きっての大魔法使い兼、数々の魔法研究に精通している大賢者。彼女の広く深い見識なら、人の体を道具の中に吸い込ませてしまう魔道具を作れるかもしれない。
みんながそう期待しながら考える反面、はたしてそれが叶うのかという不安が横切る。
「ルカラン王国の大賢者様に…ですか!?」
「たしかに大賢者様ならそういう道具を作れるかもしれない…ですが…」
コハクは驚き、本当なのかと俺に問いかけ、レズリィはその依頼が叶うものなのかとセーレを見据えて考える。
そして、一番にその依頼は実現しないと考え、疑わしい目で俺を睨むセーレ。
「ルカラン王国の大賢者様にそういう魔道具を作ってもらおうっていうの?信用ならないわねぇ…もし騙されて私を封印する魔法が組み込まれていたらどうするつもりよ。」
そう、結局依頼するとなれば事情を話さなければならなくなる。いくら自国の者とえいど、悪魔を連れていきたいから身を隠すことができる魔道具をくれ、などと言ったら何をされるかわかったものじゃない。
セーレが言うように彼女が屠られる魔道具を渡される可能性もある、もはや全員の脳にはスムーズにいくという可能性はなかった。
それでも今回ばかりは彼女の力を借りなければ先には進めない、悪魔絡みの面倒事がこれで最後となるならやっておいて損はないか…
「そうならないように説得するつもりだ、仲間を失わせることは…俺が絶対させない。」
真面目な顔でそう伝えると、ツッコミを入れるような速度でセーレが今の心境を答える。
「無駄にかっこいい事言ってるけど、さっきのやりとりでお前の信頼感ゼロだから。」
「お前のためにやってんだから感謝くらいしてくれない?」
「ガンバ。」
その発言を皮切りに俺とセーレは再び取っ組み合いになった。まぁ結論、怪我の身で体力が著しく減っている俺ではセーレに適うわけなく秒殺された。
「ほんと喧嘩が絶えないわね、あんた達…」
「他にもいますけどね…まぁ賑やかでいいんですけど。」
レズリィがそう言う先には、取っ組み合いに勝利し愉悦に笑うセーレとぐったりと仰向けになるクロムの光景があった。
◆◆◆
ーー霊長の里・大通り
賑やかな町並みの中、通り過ぎる人達の視線がチラチラとこちらを見ている感じがした。
「いやはや、ちょっと恥ずかしいなこれ…女の子に背負ってもらってる男って…なんか惨めに思えてくる。」
「なんで惨めになるんですか?どうしても行かなきゃいけない所があるってクロムさんが言うから、こうして運ぶしかなかったんですよ。」
「それはそうなんだけどさ…。」
俺は今、町中でコハクに体を預けて、背負うような形で運ばれている。
何故このような状況になっているのか?アマツ達との話し合いを終えた後、俺はモルガンに対抗薬の対価を渡さなければならないことを思い出し、緑土の館に向かうとするところでレズリィとコハクに捕まったのだ。
俺の体には制限死毒《カウントダウンデス》という毒が植えつけられており、丸四日その毒状態でいると死んでしまうという恐ろしい爆弾を抱えている。
ゼルビアの町でモルガンと出会った日を逆算すると、今日の夜がそのタイムリミットだ。そうなる前に解毒させてもらわないといけないのだが…
ーーどこに行くんですか?
レズリィの冷ややかな怒りを表した声に言い訳は無理だと判断し、事の事情を伝えた。
絶対安静というのがレズリィの顔に出てる中、何とかお願いすると背負って運ぶという話になった。
そして今現在に至る…
「何度も言いますがクロムさんは重傷の身なんです、そんな状態で出歩いたら怪我を悪化させるんですよ。それくらい我慢してください。」
「はい…すみません。」
隣でレズリィが口酸っぱく俺の状態を語る、言っていなかったが俺の体に植えつけられている猛毒が余命宣告レベルだと知ったらどうなるだろうか…泡吹いて倒れるんじゃないか?
と、そんな意地悪に感じることを考えていなければ俺自身が恥ずかし過ぎて倒れそうになる。頼むからお前ら見るな!見ないでくれ!と思いながらコハクの頭上で俯く。
そんな羞恥心を抱かせられているクロムをよそに、コハクとレズリィが語る。
「そういえば疑問だったんですけど、レズリィさんの治癒魔法でクロムさんをこれ以上回復できないんですか?」
「これでもかなり強めにかけたんです、筋肉の断裂はもう起きませんが、修復と断裂を繰り返した筋肉はかなり疲労しているでしょう。そこは本人の再生能力に頼るしかありません。」
その話に乗じて再びクロムに注意を向けるレズリィ。
「だからクロムさん…!あなたが言ってたあんな危険な技、絶対に使わないでくださいね!雷魔法で筋肉を動かすなんて…なんて危ないことを。」
巨竜にダメージを与えたという話でさらっと口にした行動を再び指摘する。あの時はシトリーとの共闘にみんながざわついていたので後に流したが、ここでくるとは…
「いや多分、出力ミスっただけだと思うんだ。もっと電撃を抑えればこんな重傷は…」
「クロムさん…?」
レズリィがジロリと俺を半眼で睨みながらこちらに問いかける。
「わかったから、絶対やらないから、そう睨まないでくれ…。」
そう言うと、ぷいっ顔をそむけてしまう。
そんなやりとりを続けていくうちに、三人は大通りを離れ薄暗い通りに入っていく。
里の東側の端、人通りが少なく建っている住居も大通りに建つものと比べて質素な雰囲気が建ち並ぶ。
コハクはその暗い雰囲気に当てられ不安そうに俺に聞く。
「それで、私達どこに向かっているんですか?なんだかここ…暗い雰囲気が出てるんですが…。」
「もうすぐ着く、あそこを右に曲がれば見えてくる。」
俺の言葉を信じて二人の足は前へと歩き続ける。そして指示された道を歩き続けていくと、二人は直感的に目的地がどこなのか察しついた。
「あの…まさかあれですか?」
レズリィが指をさす方向にある、外壁全てが緑の苔に覆われた怪しさ漂う建物に俺は頷く。
「ああ、あそこだ。モルガンの研究所。」
「研究所というより…年月が経った廃屋にしか見えませんが。」
レズリィの言葉に俺は妙に納得する。
「だよな、俺も最初見た時、絶対入りたくないって思ったし。でも中は普通の家と変わらないから、安心していいぞ。」
「来たことあるんですか?」
「ああ、対抗薬に関しての打ち合わせみたいな形で招かれた。」
ーー表じゃあんな目立つ非行できないからここに連れて来られたのが正解だけどな…
本音をひた隠しつつ、二人には打ち合わせとそういう定で話を進めた。
「それでしたら別な日でも良かったのでは?それにお返しなら私達が代わりに行けましたのに。」
「俺じゃないといけない理由があるんだ、今回はな。」
「それってどういう…」
クロムの意味深な言葉についてレズリィは問いかけようとした時、コハクが頭を咄嗟に体に擦り付け、まるで不快感を示すような素振りを見せた。
「うえぇ…鼻が曲がりそうな臭いです、私だけですか?こんなに臭いが強烈に感じるのは。」
建物の敷地内に入る前にコハクは苔についた薬品の臭いを嗅ぎ分けた。人よりも感覚器官が鋭い獣人だからこそだろう、レズリィや俺はまだその臭いを感じない。
臭いという言葉に疑問を持ったレズリィが建物に近づいていくと、ツンと鼻に抜ける刺激臭が急に現れ咄嗟に手で顔を覆った。
「ううっ!何ですかこの臭い。」
嫌な臭いにやられ、その場に立ち止まる二人。そんな二人を前に俺はふざけ模様を隠しつつ淡々と言った。
「苔を倍に増やす薬を周りにかけてるみたいだからな。あんまり吸わない方がいいぞ、毒だから。」
「「早く言ってください!!」」
二人に大声で怒られるものの、どこか悪戯が成功した時のような快感を得ながら「ワリ」と右手を上げて謝罪する。
そのやりとりを聞いたからか、古めかしい木の音を出しながら玄関の扉が開かれる。
「ははっ、そのやりとり、私を真似かい?無知な者をからかうのは楽しいだろう。」
モルガンが笑いながら中から出てくる、彼女の言う言葉に俺にからかわれたのかと感じたのか二人はこっちを見つめてくる。
俺はそれを苦笑いを浮かべて無視しつつ、モルガンに要件を伝える。
「モルガン、約束の物を渡しにきた。そっちの約束も守ってもらうぞ。」
「ああ、楽しみにしてたよ。さぁ中に上がりな。」
その笑みに込められたものが期待か、それとも策略か、その意味を問いかけられる中、俺を乗せたコハクが館に足を踏み入れる。
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