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別離編
第五十九話 鎮魂の儀②
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◆◆◆
ーー霊長の里・宿屋
「勇者、私達と一緒に来てほしい。戦場の事後確認による状況報告もかねて、御神木の下で鎮魂の儀を行う。共に戦った戦友達を見送ってくれ。」
ジアロは固い表情を浮かべてそうクロムに告げる。顔と名前は知らなくても一緒に帝国軍を討ち倒すために協力してくれた仲間だ、彼らを弔わない理由などあるわけがなく
「わかった、レズリィとコハクも買い物からもうそろそろ帰る頃だから彼女達にも知らせておく。」
クロムはその誘いにすぐ了承した。参加の答えを聞いたジアロはホッと息を吐き、緊張から解放された。きっと重傷人だから参加できないと思われていたのだろう。
「では1時間後、中央広場で待ってる。」
ジアロはそう言うと、軽く礼をして部屋を去る。後に続いてシリアスも彼と同じく礼をし、一言呟く。
「あなたって優しいのね…もっと早くに関係を築けたらよかった。」
そう、後悔の色を含んだ悲しげな笑みを浮かべてクロムの前から去ろうとする。それを見たクロムはたまらず彼女に声をかけて励ました。
「一緒に頑張ってきた仲間だろ、もう強固な関係を築けたようなものだ。だから挫けるなよ、助けを必要とする時、お前の力が必要なんだ。」
自分を必要としてくれるその声を聞き、シリアスの中で心を蝕む後悔の闇が少し晴れたような気がした。
彼は仲間を無駄に死へ追いやった私のような罪人さえも見放したりせず、手を振って自分がそちらに歩んでいくのを待っていてくれる。
そんな彼の心の広さに感服し、自然と目から涙が零れ落ちる。伝う涙に気づいたシリアスはこれ以上涙が零れないよう顔を上に向けて返答する。
「えぇ…君の力に応えられるように…強くなるわ。」
震えた声で言うと、彼女は部屋を後にした。
◆◆◆
二人が部屋から出ていくらか時が経った。クロムはベッドの上で横になり、ジアロとシリアスの会話を思い浮かべる。
「迷惑じゃない…か…」
二人の話から一度もクロムを咎めるようなものが無かった、すべてはクロムが悪いと責任を俺に押し付けないところが…優しく、そして心に刺さる言葉だった。
「悔しいな…優しさは時として残酷だ…仲間にそう言わせている時点で頼りにならない証拠じゃないか。」
相手はこちらよりもはるかに多い敵勢力と幹部、そして起こりうる厄災魔獣。戦えば多くの犠牲が出ると覚悟していた、だが…
戦場で倒れていく仲間達の姿を見て、伝えられた犠牲者の数を聞き、胸が苦しくなった。
どうすることもできなかった…あの時の戦力では仕方がなかった…そんな言い訳を今ならいくらでも吐ける、反省もできる。
だが…隊員達110名が死んだという結果は変わらない。だから自然と後悔の念が沸き上がる。
「俺は弱いってわかっていただろ…!厄災魔獣が
起きることをわかっていただろ…!なんで先に進む前にちゃんとした準備をしなかった…!準備しておけば、もっと選択肢を増やせた、仲間達を守れた…」
時間なら最初からたっぷりあった…結末を知っているのだから、なぜ事が始まる前に援軍を呼ばなかった?
ルーナ城から出た後ならルカラン王国にも呼びかける時間もあったはずだ、自分は弱いとわかっておきながらなぜ進むことを選んだ?
ーー思い返せば簡単な答えだ、事が始まる前に早くあちらに着ければ災厄は防げると考えたのだ。自分が弱いことを二の次にして。
「そうだ…問題はそれだけじゃない…。」
自分達は弱いから、だからこそ死なないように準備を尽くす。
だがその準備にも限界がある、自分が弱い限り選択肢の幅は広がらない。
結果…強い誰かを加えてその選択肢を広げてやることしかできない。モルガン…ニーナ…アマツ…彼女達がいなければ何もできなかったのだ。
「ニーナがいなかったら、シトリー相手に戦いにすらならなかった。アマツがいなかったら帝国の残党を殲滅するどころか、パンデモニウムの攻略すら出来なかった。」
弱い…弱い弱い弱い…!
そこに俺がいても目立った活躍などしていない、果たしてどちらが協力者なのか。
「アァァァァァァ!!強くなりてぇ!強くなりてぇ!強くなりてぇ!!」
俺はベッドの上で悶えながら赤ん坊が駄々をこねるみたいに暴れた。傍から見ればいい大人が叫び暴れる狂人みたいだ。
それでも俺は叫ばざるを得なかった、自分の不甲斐なさを責めたくて仕方がなかった。
「弱いままじゃだめだ、今のままじゃだめだ!戦略の幅を広げるならもっと強くなれ、もっと戦うための引き出しを増やせ!勝ちたいなら!勝ちたいなら!勝ちたいなら!!」
暴れ回ったせいで毛布が俺の体に巻き付き、暴れる手足を押さえた。身動きが封じられ、後悔と自省の念を包み込んだまま、自分の原点をぼそりと小さな声で問いかける。
「リリス…お前に…会えるかな…」
わからなくなった、俺のこの旅はどこまで通用するんだ…
ガラガラ!
「わわっ!」
「きゃあ!」
突然部屋の扉が開かれ、何事かと俺は巻き付いた毛布に体を縛られながらも顔を扉の方へ向けた。すると俺の目に、共倒れのように床に転がるコハクとレズリィが映った。
(ごっ、ごめんなさいレズリィさん!袋の中から落ちたリンゴを取ろうとしたらバランス崩してしまいました!)
(なんで床に置かなかったんですか!これでは……あ…)
コソコソとこうなった経緯を話す二人だが、こちらに羞恥の顔で目を見開くクロムと目が合って話を止めた。
「二人共…いつから…?」
「えっ、えっと…強くなりてぇ、強くなったらレズリィに心配をかけずに旅ができる、もう無茶な戦いなんてしなくなる。自分の体に気を使うようにこれから努力…」
「そこまで言ってないだろー!!っていうかそれ!ほぼレズリィの願望じゃねえか!」
ぴちぴちと魚が跳ねるように体を動かしながら俺はツッコんだ。解けない毛布がもどかしい。
「当たり前です、弱いままではまた無茶をするでしょう?だから強くなるんです、あなたも…私達も…。」
「いや開き直ろうとしないで!勝手に終わらせようとしないで!見ただろ!俺のこの小っ恥ずかしいところ見ただろ!」
もはや恥ずかしいとかそういう次元ではない、ただ騒いでいれば何事かと思うだけで事が済んでいただろう。問題はこのネタにされそうな暴れ模様をすべて見られたということだ、もはやそこに勇者というプライドは粉々に砕かれてしまった。
「あの…はい、少し…。海苔巻きみたいに毛布がクロムさんに巻き付いていくあの光景は…少し…プッ!」
レズリィが口元を手で押さえ、彼女には似つかわしくない嘲笑の声を上げた。
すると後ろでも…
「はははっ!駄目っ、もう我慢できない!あのクロムさんがあんな…!はははっ!思い出すだけでお腹が捩れます!」
コハクが床を転げまわりながら大笑いしている、よほどツボにハマったのだろう、見ていて腹が立ってきた。
「笑うなコハク!お前そんなキャラじゃなかっただろ!って!レズリィもいい加減やめろ!顔伏せて笑うな、恥ずかしいだろうが!」
恥ずかしい感情を表に出して二人を制止するも止まらず彼女達は笑い続け、もうどうにでもなれと感じたのか、俺もつられて笑い始めた。
本当にくだらない、俺をネタにした恥ずかしい光景、それでもその時の俺達は過去一番笑った。そんな気がした。
◆◆◆
夜も更け、街に集まる人だかりは少なくなり、商店の灯りが代わりに賑やかさを示すように街を明るく照らす。
その中心街から歩いて里の守り主である御神木に向かうと、その賑やかさは一変する。
御神木の周りは松明が立てられ、炎による灯りは広い外を照らすにはまだ足りず、薄暗い。そしてここにはこの里を守衛する隊員達が大勢来ており、今から始まる鎮魂の儀に誰もが友との別れを悲しんでいた。
「……来たぞ。」
隊員の一人がそう言って広場の入口に顔を向ける、それに釣られるように周りの隊員が同じ方向に顔を向けると、視界に彼らの姿が映った。
先導を歩く近衛隊の隊長ジアロ、魔道隊の隊長シリアス、その後ろを歩くクロムとレズリィ、コハクを率いる勇者パーティーの三人。
彼らが広場に入ると隊員達は捌けて彼らが通る道を作った。クロム達がその中に入ると、隊員達の無感情に近い顔からこちらを見つめる視線の数々で、三人は嫌な緊張感が走る。
「クロムさん…」
「……。」
レズリィはその空気に耐えかねクロムの近くに寄って緊張を紛らわす。クロムを見ると、ただ口を閉ざして真っ直ぐ広場の中央に伸びる巨大な一本の樹を見つめていた。
周りの暗い視線を気にしたら口に出そうになる、鎮魂の儀という大事な場で彼らとの揉め事を避けるため、それらを押し込んでこちらを見つめる視線から目を逸らしている。
だから聞けない、されども聞きたい、なぜそのような顔でこちらを見つめるのか、彼らは一体何を抱えているのか。
気分が悪くなる、緊張感が嫌な空気を作って息苦しい…私達は歓迎されていないのか…?まさか、セーレを連れていたことを言及しようとしているのか…?そう悲観的に考えていると。
パチパチパチパチ…
どこからか拍手の音が聞こえ、クロム達は足を止める。
その音がする方向に全員が顔を向けると、重苦しい雰囲気の中で一人、クロム達に向けて拍手を送っている人物がいる。
するすると拍手を送る人物から避けるように人がはけていくと、クロム達にもそれが誰なのか認識できた。
「ルミール…。」
たった一人、俺達を讃えるように拍手をし、和やかに感謝の気持ちを一杯に表すように笑みを浮かべて言う。
「お疲れ様ですクロムさん、皆さん。そして…ありがとうございます、僕達を救ってくれて。」
「あっ…ああ、当然のことをしたまでだ。」
場違いな雰囲気の中で受け止めた感謝の言葉に、クロムは少し困惑気味にルミールに答える。
それを聞いた直後、ルミールは叩き続けていた手を止め、不思議そうに見ている周りに向かって叱りつけた。
「皆さん、いつまで口を閉ざしているんですか。彼らは皆さんの住む里を救うために戦ったんです。多くの犠牲が出て辛いのは分かりますが、彼らの協力無しではこの帝国との戦いは成し得なかった。その人達に向かって何なんですか、あなた達のその態度は!失礼にも…!」
俺達を擁護するように説得するルミールを、クロムは肩を掴んで制した。なぜ止めるのかと、怒りと困惑の色をした表情をして問いかけるルミールにクロムは優しく感謝するように言った。
「いいルミール、あとは俺に言わせてくれ。」
「クロムさん…でも…!」
ルミールの待ったの声を待たずにクロムはこちらに視線を向ける隊員達の顔を見据える。
「たぶんだが…みんなが思ってることを当ててやろうか。」
ルミールの声が周りの隊員達の心を響かせた。だが周りの表情を見る限り、ルミールの言う言葉に納得できない者が多々いる。
俺達のために叱ってくれるのは嬉しいが、隊員達の抱えている不満がルミールに飛び火するのは見ていて苦しくなってくる。
飛んでくる火の粉はすべて俺達に関わっていることだ、自分で火消しをするのは当然のことじゃないか?そう考えて俺は隊員達に向かってストレートに思ったことを口にする。
「勇者の力があったのに、なんでこんなに多くの犠牲者を出したんだ…。勇者が持ってきた災厄を自分達に押し付けなかったらこんなことにはならなかった…。みたいな、これほどの被害を出した責任と、戦友を失った恨みを俺達にぶつけたいんだろ。」
「「…っ!!」」
周りの空気が俺の言葉を聞いて凍りつく。その戸惑いを見る限りおそらく図星だろう。
そして、相手に容赦なく煽りに近い文句を吐きつけた姿を後ろで見ていたレズリィとコハクは、囲まれている状況でそれを言うのか……と周りの視線を気にしながらそう思う。だが……ルミールは違った。
「なぜ言い返さないんですか…あなた達は……!」
なおも不満と不愉快な雰囲気を出し続ける隊員達を前に吠える姿勢を崩さないでいると、ゆさりと肩を揺らされる感覚を感じ、ルミールは言葉を切ってクロムの方を見た。
そこには頭を下げて、それでも相手の間違いを正すような真剣な目をして謝る姿があった。
「それについては謝る、不満が消えないのなら殴ってきてもらっても構わない。でも、みんなが抱えている失ったという気持ちは俺達にもあるということをわかってほしい。」
クロムは顔を上げると、その目で隊員達を睨みながら続けて言う。
「たった数日の顔合わせ程度で何を言ってんだと思うだろうが、帝国軍を討つため、厄災魔獣を復活させないためにみんなの知恵を出し合って作戦を練った。迫る大勢の悪魔達を倒すために俺達と一緒に死力を尽くして戦った。誰が何を言おうと、あの場で戦った人達はみんな俺の仲間だ!」
その瞳には嘘偽りはなく、隊員達を本気で大事な仲間だと思っている。それを間近で見ていた彼らは強烈な意思力で気圧されていた。
「俺だって辛い…耐えられない…俺の力不足のせいで仲間を守り抜けなかった。だから俺はここに来た、もうこの先仲間は死なせないって自分に戒めを課すために。」
戒めを課すという言葉にシリアスは強く反応し、持っている杖を力強く握りしめる。そして自分の贖罪と向き合うため魔導隊という立場を捨て、一人の女性エルフとして隊員達に呼びかける。
「あなた達は……あなた達は何も感じないというの?この戦いを経て、仲間を守り抜けなかった自分の不甲斐なさを。なぜそれを外から来た協力者が強く思っているのかしら、本来それを一番に思うべきなのは私達じゃない?」
シリアスの言葉に全員が彼女に顔を向ける、そこには魔導隊として皆を率いていた凛々しい彼女はいなかった。
涙を流し、悔い改めるように自分の罪を吐き出す辛い様子の彼女がそこにいた。だが、その姿は魔導隊の隊員達を導く隊長そのもので、しっかりと大地を踏み締め、前を向いて隊員達に訴えかける。
「自分の弱さと向き合いなさい、あなた達…!私達は…他人に自分達の役割を任せてしまうような、誰かのせいにしないと正当化できないような、そんな落ちぶれた集まりではないでしょう…!」
「「っ!!」」
隊員達がざわめき出し、誰もがその言葉に深い感銘を受けた。
里を守衛するために自分達がいる、どんな敵が来ようとも里を守るために立ち向かうと決めたではないか。
勇者が訪れなくても、帝国が悪事を働く運命は変わらない。だからこそ、起こりうる厄災を本来なら自分達が相手にし、里を守らなければならないのだ。
だが……もし……
その戦いで犠牲者を多く出してしまったら、自分達は一体誰のせいだと咎めるつもりだ?
指揮をしていた隊長か、ミスをした仲間か、なんの成果も上げられず散っていった仲間達か……
それらを考えた時点で、里の守衛という役割を捨てて自分の保身のために走る無能者へとなり変わる…。
果たしてそれは、自分が本当になりたかった者なのだろうか?戦いで受けた傷を広げていくような人でなしになるために、努力して隊員となったのか?
そう考えた瞬間、隊員達に残っている守衛者としての心が熱くなり、黙ってなどいられず声を出した。
「本当は…感謝してるんだ。でも…失ったものが大きすぎて、どうしたらいいのか分からなくなった…。」
「勇者さんが来てくれたから絶対無事に終わるって思って…でも、それが叶わなくて…」
「馬鹿か俺は!最後まで戦った勇者様に向かって、なんで助けられなかったんだって…なんてひどい事を考えちまった…!」
俺も…私も…と、隊員達は次々と自分が抱えているものを吐き出していく。そのほとんどがやはりと言えばいいか、失ってしまった仲間達の事があげられていた。
あの場で戦った者達はみんな仲間だとクロムは告げたが、当然ながらその隊で共に過ごした時間が長い彼らにとって仲間と告げる意味にはそれ以上の重みがある。
「みんな…」
隊員達の哀しい表情を見てクロムは思った…大勢の仲間達を守ることができなかった、頼られていたと考えれば自分がこれほど弱かったことに申し訳なさを感じる。
ただそれは悲観的に考えた場合で見えた自分の不甲斐なさの話であり、彼らについてとなるとまた違う考え方にまとまる。
「みんなが自分を責めている、相手にじゃなく自分自身に…」
クロムが周りの状況を観察してそう言うと、不安じみた様子でレズリィが問う。
「…それ、まずいんじゃないでしょうか…皆さんがヒステリックになったらこれからのことに支障が…」
「いや…彼らにとってはそれでいいと思う。」
クロムは最善案としてレズリィに説明する。
「悪く言えば、自分を責め立てるという行為は自分の心に強いストレスを生んでしまう、精神的に病んでしまう理由がそれだな。でも逆に言えば、自分が何に失敗したのか反省と改善を導き出すことができる。彼らは自覚しようともしなかったんだ、自分が誤っているということを…それに気づけただけでも、この嘆きには意味がある。」
その言葉を聞き、レズリィは嘆く彼らを見渡しながらその言葉の意味を考える。
思えば彼らとの出会いから今日に至るまで、彼らの里のルールや命令などを遵守する性格にどれだけ困らせられたことか。そのせいで色々な対立を引き起こし、ともすれば全滅の危機に晒される事もあった。
きっとこれからもこの性格は変わらない、このままではいけないとわかっていても、自分達は部外者だからそういう内面的な事情まで踏み込むことができない。
だから、こればかりは手の施しようのないことだと諦めるしかなかった。クロムさんもそれがわかって彼らの性格についてとやかく指摘しなかった、自分達が気づかなければ無意味になると知っていたから。
でもそれは…思わぬ副産物として実っていたのだ。
「共に戦い、共にその役割を担い、そして守衛者の真の心に改めて気づかせてくれた者達にちゃんと敬意を払おう。私達を変えてくれた者にわだかまりなど必要ないでしょう。」
シリアスの言葉を聞き入れた者達が一人、また一人と頭を下げていき、最終的にはシリアスとジアロも含め、俺達の周りにいる者全員が頭をこちらに向けて下げていた。
それは隊長格の人物がそう命令したように聞こえるだろう、だが頭を下げた際に見た彼らの表情には、恨めしいものなどなく、心が洗われたかのように哀しみの中にある感謝の色をしていた。
「……共に戦い…そしてこの里を守ってくれて、ありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
シリアスの言葉の後に大勢の声が合わさって、広場に感謝の言葉が響いた。そのあまりの気迫に俺は戸惑いを隠しきれずにいた。
「あっ…いや…俺そこまでのことは求めていなかったんだが…」
そんな俺の背中をポスっと優しく触れる二つの手、振り向くとレズリィとコハクのホッとした優しい顔が映った。
「誇ってくださいクロムさん、あなたがやってきたことはちゃんとこうして報われたんです。」
「そうですよ!一番の功労者がたじたじしていたらカッコ悪いです!」
と、二人は同時に俺を押し出した。驚いて変な声を上げながら頭を下げる隊員達の中央に足が止まる。
一言彼らに話してこい、とのことだろう。まったく…俺の身にもなれって話だ、こんな大勢の前で急に締めの一言を話せなど無茶振り過ぎる。
「あはは…なんかこういうの慣れないなぁ…。」
一言…一言か…彼らの感謝の後に何を語ればいいのか、勇者という立場であるから簡単に答えを返すのもなんだが…と、深く考えるが
(いや…そんな見栄を張るようなタイプじゃないよな。俺…)
そう考え、頭の中で思い浮かべた台詞を捨てた。
「みんな…顔を上げてくれ。」
そう言ってみんなが顔を上げた後、俺は深呼吸し微笑みながら思ったことを口にした。
「俺は…みんなが思うような大それたことはしてない、抱えた哀しみは俺には拭えない。だから、そのかわりにみんなの哀しみは俺が全部持っていく、亡くした者達と一緒に戦う。そして…」
心臓がある左胸を右拳で叩き、宣言する。
「勝つ!!絶対に!」
その言葉を聞き、思い思いの感慨を胸にみんなは心からの称賛を送った。
ーー霊長の里・宿屋
「勇者、私達と一緒に来てほしい。戦場の事後確認による状況報告もかねて、御神木の下で鎮魂の儀を行う。共に戦った戦友達を見送ってくれ。」
ジアロは固い表情を浮かべてそうクロムに告げる。顔と名前は知らなくても一緒に帝国軍を討ち倒すために協力してくれた仲間だ、彼らを弔わない理由などあるわけがなく
「わかった、レズリィとコハクも買い物からもうそろそろ帰る頃だから彼女達にも知らせておく。」
クロムはその誘いにすぐ了承した。参加の答えを聞いたジアロはホッと息を吐き、緊張から解放された。きっと重傷人だから参加できないと思われていたのだろう。
「では1時間後、中央広場で待ってる。」
ジアロはそう言うと、軽く礼をして部屋を去る。後に続いてシリアスも彼と同じく礼をし、一言呟く。
「あなたって優しいのね…もっと早くに関係を築けたらよかった。」
そう、後悔の色を含んだ悲しげな笑みを浮かべてクロムの前から去ろうとする。それを見たクロムはたまらず彼女に声をかけて励ました。
「一緒に頑張ってきた仲間だろ、もう強固な関係を築けたようなものだ。だから挫けるなよ、助けを必要とする時、お前の力が必要なんだ。」
自分を必要としてくれるその声を聞き、シリアスの中で心を蝕む後悔の闇が少し晴れたような気がした。
彼は仲間を無駄に死へ追いやった私のような罪人さえも見放したりせず、手を振って自分がそちらに歩んでいくのを待っていてくれる。
そんな彼の心の広さに感服し、自然と目から涙が零れ落ちる。伝う涙に気づいたシリアスはこれ以上涙が零れないよう顔を上に向けて返答する。
「えぇ…君の力に応えられるように…強くなるわ。」
震えた声で言うと、彼女は部屋を後にした。
◆◆◆
二人が部屋から出ていくらか時が経った。クロムはベッドの上で横になり、ジアロとシリアスの会話を思い浮かべる。
「迷惑じゃない…か…」
二人の話から一度もクロムを咎めるようなものが無かった、すべてはクロムが悪いと責任を俺に押し付けないところが…優しく、そして心に刺さる言葉だった。
「悔しいな…優しさは時として残酷だ…仲間にそう言わせている時点で頼りにならない証拠じゃないか。」
相手はこちらよりもはるかに多い敵勢力と幹部、そして起こりうる厄災魔獣。戦えば多くの犠牲が出ると覚悟していた、だが…
戦場で倒れていく仲間達の姿を見て、伝えられた犠牲者の数を聞き、胸が苦しくなった。
どうすることもできなかった…あの時の戦力では仕方がなかった…そんな言い訳を今ならいくらでも吐ける、反省もできる。
だが…隊員達110名が死んだという結果は変わらない。だから自然と後悔の念が沸き上がる。
「俺は弱いってわかっていただろ…!厄災魔獣が
起きることをわかっていただろ…!なんで先に進む前にちゃんとした準備をしなかった…!準備しておけば、もっと選択肢を増やせた、仲間達を守れた…」
時間なら最初からたっぷりあった…結末を知っているのだから、なぜ事が始まる前に援軍を呼ばなかった?
ルーナ城から出た後ならルカラン王国にも呼びかける時間もあったはずだ、自分は弱いとわかっておきながらなぜ進むことを選んだ?
ーー思い返せば簡単な答えだ、事が始まる前に早くあちらに着ければ災厄は防げると考えたのだ。自分が弱いことを二の次にして。
「そうだ…問題はそれだけじゃない…。」
自分達は弱いから、だからこそ死なないように準備を尽くす。
だがその準備にも限界がある、自分が弱い限り選択肢の幅は広がらない。
結果…強い誰かを加えてその選択肢を広げてやることしかできない。モルガン…ニーナ…アマツ…彼女達がいなければ何もできなかったのだ。
「ニーナがいなかったら、シトリー相手に戦いにすらならなかった。アマツがいなかったら帝国の残党を殲滅するどころか、パンデモニウムの攻略すら出来なかった。」
弱い…弱い弱い弱い…!
そこに俺がいても目立った活躍などしていない、果たしてどちらが協力者なのか。
「アァァァァァァ!!強くなりてぇ!強くなりてぇ!強くなりてぇ!!」
俺はベッドの上で悶えながら赤ん坊が駄々をこねるみたいに暴れた。傍から見ればいい大人が叫び暴れる狂人みたいだ。
それでも俺は叫ばざるを得なかった、自分の不甲斐なさを責めたくて仕方がなかった。
「弱いままじゃだめだ、今のままじゃだめだ!戦略の幅を広げるならもっと強くなれ、もっと戦うための引き出しを増やせ!勝ちたいなら!勝ちたいなら!勝ちたいなら!!」
暴れ回ったせいで毛布が俺の体に巻き付き、暴れる手足を押さえた。身動きが封じられ、後悔と自省の念を包み込んだまま、自分の原点をぼそりと小さな声で問いかける。
「リリス…お前に…会えるかな…」
わからなくなった、俺のこの旅はどこまで通用するんだ…
ガラガラ!
「わわっ!」
「きゃあ!」
突然部屋の扉が開かれ、何事かと俺は巻き付いた毛布に体を縛られながらも顔を扉の方へ向けた。すると俺の目に、共倒れのように床に転がるコハクとレズリィが映った。
(ごっ、ごめんなさいレズリィさん!袋の中から落ちたリンゴを取ろうとしたらバランス崩してしまいました!)
(なんで床に置かなかったんですか!これでは……あ…)
コソコソとこうなった経緯を話す二人だが、こちらに羞恥の顔で目を見開くクロムと目が合って話を止めた。
「二人共…いつから…?」
「えっ、えっと…強くなりてぇ、強くなったらレズリィに心配をかけずに旅ができる、もう無茶な戦いなんてしなくなる。自分の体に気を使うようにこれから努力…」
「そこまで言ってないだろー!!っていうかそれ!ほぼレズリィの願望じゃねえか!」
ぴちぴちと魚が跳ねるように体を動かしながら俺はツッコんだ。解けない毛布がもどかしい。
「当たり前です、弱いままではまた無茶をするでしょう?だから強くなるんです、あなたも…私達も…。」
「いや開き直ろうとしないで!勝手に終わらせようとしないで!見ただろ!俺のこの小っ恥ずかしいところ見ただろ!」
もはや恥ずかしいとかそういう次元ではない、ただ騒いでいれば何事かと思うだけで事が済んでいただろう。問題はこのネタにされそうな暴れ模様をすべて見られたということだ、もはやそこに勇者というプライドは粉々に砕かれてしまった。
「あの…はい、少し…。海苔巻きみたいに毛布がクロムさんに巻き付いていくあの光景は…少し…プッ!」
レズリィが口元を手で押さえ、彼女には似つかわしくない嘲笑の声を上げた。
すると後ろでも…
「はははっ!駄目っ、もう我慢できない!あのクロムさんがあんな…!はははっ!思い出すだけでお腹が捩れます!」
コハクが床を転げまわりながら大笑いしている、よほどツボにハマったのだろう、見ていて腹が立ってきた。
「笑うなコハク!お前そんなキャラじゃなかっただろ!って!レズリィもいい加減やめろ!顔伏せて笑うな、恥ずかしいだろうが!」
恥ずかしい感情を表に出して二人を制止するも止まらず彼女達は笑い続け、もうどうにでもなれと感じたのか、俺もつられて笑い始めた。
本当にくだらない、俺をネタにした恥ずかしい光景、それでもその時の俺達は過去一番笑った。そんな気がした。
◆◆◆
夜も更け、街に集まる人だかりは少なくなり、商店の灯りが代わりに賑やかさを示すように街を明るく照らす。
その中心街から歩いて里の守り主である御神木に向かうと、その賑やかさは一変する。
御神木の周りは松明が立てられ、炎による灯りは広い外を照らすにはまだ足りず、薄暗い。そしてここにはこの里を守衛する隊員達が大勢来ており、今から始まる鎮魂の儀に誰もが友との別れを悲しんでいた。
「……来たぞ。」
隊員の一人がそう言って広場の入口に顔を向ける、それに釣られるように周りの隊員が同じ方向に顔を向けると、視界に彼らの姿が映った。
先導を歩く近衛隊の隊長ジアロ、魔道隊の隊長シリアス、その後ろを歩くクロムとレズリィ、コハクを率いる勇者パーティーの三人。
彼らが広場に入ると隊員達は捌けて彼らが通る道を作った。クロム達がその中に入ると、隊員達の無感情に近い顔からこちらを見つめる視線の数々で、三人は嫌な緊張感が走る。
「クロムさん…」
「……。」
レズリィはその空気に耐えかねクロムの近くに寄って緊張を紛らわす。クロムを見ると、ただ口を閉ざして真っ直ぐ広場の中央に伸びる巨大な一本の樹を見つめていた。
周りの暗い視線を気にしたら口に出そうになる、鎮魂の儀という大事な場で彼らとの揉め事を避けるため、それらを押し込んでこちらを見つめる視線から目を逸らしている。
だから聞けない、されども聞きたい、なぜそのような顔でこちらを見つめるのか、彼らは一体何を抱えているのか。
気分が悪くなる、緊張感が嫌な空気を作って息苦しい…私達は歓迎されていないのか…?まさか、セーレを連れていたことを言及しようとしているのか…?そう悲観的に考えていると。
パチパチパチパチ…
どこからか拍手の音が聞こえ、クロム達は足を止める。
その音がする方向に全員が顔を向けると、重苦しい雰囲気の中で一人、クロム達に向けて拍手を送っている人物がいる。
するすると拍手を送る人物から避けるように人がはけていくと、クロム達にもそれが誰なのか認識できた。
「ルミール…。」
たった一人、俺達を讃えるように拍手をし、和やかに感謝の気持ちを一杯に表すように笑みを浮かべて言う。
「お疲れ様ですクロムさん、皆さん。そして…ありがとうございます、僕達を救ってくれて。」
「あっ…ああ、当然のことをしたまでだ。」
場違いな雰囲気の中で受け止めた感謝の言葉に、クロムは少し困惑気味にルミールに答える。
それを聞いた直後、ルミールは叩き続けていた手を止め、不思議そうに見ている周りに向かって叱りつけた。
「皆さん、いつまで口を閉ざしているんですか。彼らは皆さんの住む里を救うために戦ったんです。多くの犠牲が出て辛いのは分かりますが、彼らの協力無しではこの帝国との戦いは成し得なかった。その人達に向かって何なんですか、あなた達のその態度は!失礼にも…!」
俺達を擁護するように説得するルミールを、クロムは肩を掴んで制した。なぜ止めるのかと、怒りと困惑の色をした表情をして問いかけるルミールにクロムは優しく感謝するように言った。
「いいルミール、あとは俺に言わせてくれ。」
「クロムさん…でも…!」
ルミールの待ったの声を待たずにクロムはこちらに視線を向ける隊員達の顔を見据える。
「たぶんだが…みんなが思ってることを当ててやろうか。」
ルミールの声が周りの隊員達の心を響かせた。だが周りの表情を見る限り、ルミールの言う言葉に納得できない者が多々いる。
俺達のために叱ってくれるのは嬉しいが、隊員達の抱えている不満がルミールに飛び火するのは見ていて苦しくなってくる。
飛んでくる火の粉はすべて俺達に関わっていることだ、自分で火消しをするのは当然のことじゃないか?そう考えて俺は隊員達に向かってストレートに思ったことを口にする。
「勇者の力があったのに、なんでこんなに多くの犠牲者を出したんだ…。勇者が持ってきた災厄を自分達に押し付けなかったらこんなことにはならなかった…。みたいな、これほどの被害を出した責任と、戦友を失った恨みを俺達にぶつけたいんだろ。」
「「…っ!!」」
周りの空気が俺の言葉を聞いて凍りつく。その戸惑いを見る限りおそらく図星だろう。
そして、相手に容赦なく煽りに近い文句を吐きつけた姿を後ろで見ていたレズリィとコハクは、囲まれている状況でそれを言うのか……と周りの視線を気にしながらそう思う。だが……ルミールは違った。
「なぜ言い返さないんですか…あなた達は……!」
なおも不満と不愉快な雰囲気を出し続ける隊員達を前に吠える姿勢を崩さないでいると、ゆさりと肩を揺らされる感覚を感じ、ルミールは言葉を切ってクロムの方を見た。
そこには頭を下げて、それでも相手の間違いを正すような真剣な目をして謝る姿があった。
「それについては謝る、不満が消えないのなら殴ってきてもらっても構わない。でも、みんなが抱えている失ったという気持ちは俺達にもあるということをわかってほしい。」
クロムは顔を上げると、その目で隊員達を睨みながら続けて言う。
「たった数日の顔合わせ程度で何を言ってんだと思うだろうが、帝国軍を討つため、厄災魔獣を復活させないためにみんなの知恵を出し合って作戦を練った。迫る大勢の悪魔達を倒すために俺達と一緒に死力を尽くして戦った。誰が何を言おうと、あの場で戦った人達はみんな俺の仲間だ!」
その瞳には嘘偽りはなく、隊員達を本気で大事な仲間だと思っている。それを間近で見ていた彼らは強烈な意思力で気圧されていた。
「俺だって辛い…耐えられない…俺の力不足のせいで仲間を守り抜けなかった。だから俺はここに来た、もうこの先仲間は死なせないって自分に戒めを課すために。」
戒めを課すという言葉にシリアスは強く反応し、持っている杖を力強く握りしめる。そして自分の贖罪と向き合うため魔導隊という立場を捨て、一人の女性エルフとして隊員達に呼びかける。
「あなた達は……あなた達は何も感じないというの?この戦いを経て、仲間を守り抜けなかった自分の不甲斐なさを。なぜそれを外から来た協力者が強く思っているのかしら、本来それを一番に思うべきなのは私達じゃない?」
シリアスの言葉に全員が彼女に顔を向ける、そこには魔導隊として皆を率いていた凛々しい彼女はいなかった。
涙を流し、悔い改めるように自分の罪を吐き出す辛い様子の彼女がそこにいた。だが、その姿は魔導隊の隊員達を導く隊長そのもので、しっかりと大地を踏み締め、前を向いて隊員達に訴えかける。
「自分の弱さと向き合いなさい、あなた達…!私達は…他人に自分達の役割を任せてしまうような、誰かのせいにしないと正当化できないような、そんな落ちぶれた集まりではないでしょう…!」
「「っ!!」」
隊員達がざわめき出し、誰もがその言葉に深い感銘を受けた。
里を守衛するために自分達がいる、どんな敵が来ようとも里を守るために立ち向かうと決めたではないか。
勇者が訪れなくても、帝国が悪事を働く運命は変わらない。だからこそ、起こりうる厄災を本来なら自分達が相手にし、里を守らなければならないのだ。
だが……もし……
その戦いで犠牲者を多く出してしまったら、自分達は一体誰のせいだと咎めるつもりだ?
指揮をしていた隊長か、ミスをした仲間か、なんの成果も上げられず散っていった仲間達か……
それらを考えた時点で、里の守衛という役割を捨てて自分の保身のために走る無能者へとなり変わる…。
果たしてそれは、自分が本当になりたかった者なのだろうか?戦いで受けた傷を広げていくような人でなしになるために、努力して隊員となったのか?
そう考えた瞬間、隊員達に残っている守衛者としての心が熱くなり、黙ってなどいられず声を出した。
「本当は…感謝してるんだ。でも…失ったものが大きすぎて、どうしたらいいのか分からなくなった…。」
「勇者さんが来てくれたから絶対無事に終わるって思って…でも、それが叶わなくて…」
「馬鹿か俺は!最後まで戦った勇者様に向かって、なんで助けられなかったんだって…なんてひどい事を考えちまった…!」
俺も…私も…と、隊員達は次々と自分が抱えているものを吐き出していく。そのほとんどがやはりと言えばいいか、失ってしまった仲間達の事があげられていた。
あの場で戦った者達はみんな仲間だとクロムは告げたが、当然ながらその隊で共に過ごした時間が長い彼らにとって仲間と告げる意味にはそれ以上の重みがある。
「みんな…」
隊員達の哀しい表情を見てクロムは思った…大勢の仲間達を守ることができなかった、頼られていたと考えれば自分がこれほど弱かったことに申し訳なさを感じる。
ただそれは悲観的に考えた場合で見えた自分の不甲斐なさの話であり、彼らについてとなるとまた違う考え方にまとまる。
「みんなが自分を責めている、相手にじゃなく自分自身に…」
クロムが周りの状況を観察してそう言うと、不安じみた様子でレズリィが問う。
「…それ、まずいんじゃないでしょうか…皆さんがヒステリックになったらこれからのことに支障が…」
「いや…彼らにとってはそれでいいと思う。」
クロムは最善案としてレズリィに説明する。
「悪く言えば、自分を責め立てるという行為は自分の心に強いストレスを生んでしまう、精神的に病んでしまう理由がそれだな。でも逆に言えば、自分が何に失敗したのか反省と改善を導き出すことができる。彼らは自覚しようともしなかったんだ、自分が誤っているということを…それに気づけただけでも、この嘆きには意味がある。」
その言葉を聞き、レズリィは嘆く彼らを見渡しながらその言葉の意味を考える。
思えば彼らとの出会いから今日に至るまで、彼らの里のルールや命令などを遵守する性格にどれだけ困らせられたことか。そのせいで色々な対立を引き起こし、ともすれば全滅の危機に晒される事もあった。
きっとこれからもこの性格は変わらない、このままではいけないとわかっていても、自分達は部外者だからそういう内面的な事情まで踏み込むことができない。
だから、こればかりは手の施しようのないことだと諦めるしかなかった。クロムさんもそれがわかって彼らの性格についてとやかく指摘しなかった、自分達が気づかなければ無意味になると知っていたから。
でもそれは…思わぬ副産物として実っていたのだ。
「共に戦い、共にその役割を担い、そして守衛者の真の心に改めて気づかせてくれた者達にちゃんと敬意を払おう。私達を変えてくれた者にわだかまりなど必要ないでしょう。」
シリアスの言葉を聞き入れた者達が一人、また一人と頭を下げていき、最終的にはシリアスとジアロも含め、俺達の周りにいる者全員が頭をこちらに向けて下げていた。
それは隊長格の人物がそう命令したように聞こえるだろう、だが頭を下げた際に見た彼らの表情には、恨めしいものなどなく、心が洗われたかのように哀しみの中にある感謝の色をしていた。
「……共に戦い…そしてこの里を守ってくれて、ありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
シリアスの言葉の後に大勢の声が合わさって、広場に感謝の言葉が響いた。そのあまりの気迫に俺は戸惑いを隠しきれずにいた。
「あっ…いや…俺そこまでのことは求めていなかったんだが…」
そんな俺の背中をポスっと優しく触れる二つの手、振り向くとレズリィとコハクのホッとした優しい顔が映った。
「誇ってくださいクロムさん、あなたがやってきたことはちゃんとこうして報われたんです。」
「そうですよ!一番の功労者がたじたじしていたらカッコ悪いです!」
と、二人は同時に俺を押し出した。驚いて変な声を上げながら頭を下げる隊員達の中央に足が止まる。
一言彼らに話してこい、とのことだろう。まったく…俺の身にもなれって話だ、こんな大勢の前で急に締めの一言を話せなど無茶振り過ぎる。
「あはは…なんかこういうの慣れないなぁ…。」
一言…一言か…彼らの感謝の後に何を語ればいいのか、勇者という立場であるから簡単に答えを返すのもなんだが…と、深く考えるが
(いや…そんな見栄を張るようなタイプじゃないよな。俺…)
そう考え、頭の中で思い浮かべた台詞を捨てた。
「みんな…顔を上げてくれ。」
そう言ってみんなが顔を上げた後、俺は深呼吸し微笑みながら思ったことを口にした。
「俺は…みんなが思うような大それたことはしてない、抱えた哀しみは俺には拭えない。だから、そのかわりにみんなの哀しみは俺が全部持っていく、亡くした者達と一緒に戦う。そして…」
心臓がある左胸を右拳で叩き、宣言する。
「勝つ!!絶対に!」
その言葉を聞き、思い思いの感慨を胸にみんなは心からの称賛を送った。
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