推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十話 夢が堕ちた日③

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「はぁ…はぁ…クソ野郎が…!」

 アルノアは体を起こすと、体全体を虫食い状態にさせられたベアルに近づき愚痴をこぼした。

「ふざけやがって!このっ!お前の…お前のせいで私は…!」

 近くに置いてあった石を握り、何度もベアルの体を叩くアルノア。もう死んでるとわかっていても、彼女の中にある恨みを消すために元凶である悪魔を叩かないと気が収まらなかった。

「やめておきなさい、それを叩いても本体にはダメージなんて入らないわ。」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、振り上げた腕が止まる。
 1年前、危うく殺されそうになったあの出来事が鮮明に蘇り、少し怯えながら背後を振り返った。

「大賢者…様…。」
「生命活動が停止したのに塵となって消えてない。おそらくこれはダミー、本体はここにはいない別な場所でしょうね。」

 マリアナは偽物のベアルの死体を眺めながらそう言った。その顔は1年前と相変わらず無機質な表情で、怒りも悔しさも感じなかった。

「はぁ…庭園が焼けちゃったわね、こんな事されるとさすがの私でも傷つくのだけれど。」

 マリアナは変異したアルノアに見向きもせず、焼け焦げた花壇に目を向けた。
 それが逆に恐ろしかった、人として大罪を犯した私に興味を示さないというのが。

「大賢者様…わっ、私は…。」

 震える声を絞り出し、何故自分の姿について何も言わないのか聞き出そうとした。するとマリアナはこちらに顔を見せずにアルノアが聞きたかった答えを言った。

「その身でわかったかしら?夢は時に自分を壊す狂気にもなるということを。」
「えっ…。」
「本当ならもう一度試験を受けに来たあなたにその現実を突きつけてわからせるつもりだった。諦めの悪いあなたなら絶対にここに来るとふんでいたから。」

 マリアナはこちらに顔を向けると、魔物化した象徴である角をじっくりと見ていた。私にはその目はどこか哀しみに満ちているように見えた。

「ただ…悪魔の口に乗せられその姿になってここに来たのは予想外だったけどね。」

 そう言うとマリアナはやるべきことを終えたかのようにその場から去ろうとした。

「それ…だけかよ。」

 そう呟くと、アルノアは悔しさを滲ませながら自分が聞きたかった答えを叫び混じりにマリアナに伝えた。

「もっとあるだろ!私は人間としてやっちゃいけない禁忌に触れた!咎める理由くらい言ったって…!」

怒るのに必死なのには理由がある。
人間が魔物になるというのは、欲望の強い人間の性格と人間以上の力を持つものが合わさってしまうと厄介な人外へ変貌するという意味が込められているからだ。
まるで自身の欲望のために力を振るう悪魔族のように化けてしまう、人間達の敵を増やしてしまう、それが人々に危険を及ぼすとされ禁忌として言われるようになった。
 だからこそ怒ってほしかった…いいつけ通りにしていればこんなことにならなかったというのに…。

「言ったって…。」
「言って何か変わるものかしら?」
「っ…!」
「私が何を言おうともあなたは人間には戻れない。騙されて、魔物にされて、自分の夢を踏み潰されたあなたにこれ以上の酷い文々は可愛いそうだと思ってね。」
「可哀想だと…!私は…」
「情けなんていらないって言いたいのかしら?そうやって自責の念に駆られているから周りが見えなくなってしまうんじゃない?だから禁忌の所業だと分かっていてもそれを行ってしまった。違うかしら?」

 自責の念に駆られているせいという言葉に思い当たる出来事があった。
 そう1年前、ベアルに…いや、ベアトリスに出会った時もそうだった。絶望感に苛まれ周りからの情報を閉ざし、簡単に詐欺師のような手口に引っかかってしまった。
 見えていなかったのだ、自分の事ばかりで都合の良い部分だけを切り取った…ただの盲目の馬鹿者だった!

「あああああああ!くそぉぉ!私は…!私はなんで…!あんな詐欺師みたいな口車に乗せられちまったんだ!わかっていたのに…危険だって知ってたのに…なんで…なんで!なんで!?」

 アルノアは頭を抱えて咽び泣きながら自分の行いを呪った。
 何故あんな簡単に騙されてしまったのかと何度も口にする姿を見て、マリアナは淡々と理由を述べた。

「なんでって…それはあなた、自分の欲に従ったからでしょう?」
「欲…だって?」
「あなたは諦めきれなかった、自分だけなれなかったという屈辱を見せたくなかった、自分以外の誰かが自分にはないものを持っているというのが羨ましかった。そうやって自分に足りないものばかり数え過ぎた結果が生まれてしまった、どんなことをしてでも手に入れたいという強欲が。」

 強欲…その言葉通りになってしまったきっかけはすぐ身近にあった。
 魔力だ…
 魔法使いの夢を諦めきれず、魔力欲しさに自分の手に魔石を埋め込んだ。
 あの時を思い返せば自分はどうかしていた、無事では済まされないと頭のどこかで感じていたのに何故あんなにも喜んでいたのか。
 アルノアは馬鹿だと何度も呟き続けた。今ならわかるマリアナのあの言葉が、夢は時に自分を壊す狂気にもなるという意味が…。
 夢の達成のために自分を犠牲にしてしまったら意味がないということを。

「全部失った…夢も…生きる希望も…待ってるのは人間の裏切りとして殺される未来だけ…。」

 もっとあの意味に早く気づいていればと嘆いても魔物になった体は戻らない、またやり直せるという希望が生まれることはない。
 私は…この結末を選んでしまったのだから。

「殺してくれ…頼む!化け物を見るような目で殺されるのだけは嫌だ!」

 アルノアは懇願するような姿勢でマリアナに自分を介錯させよう頼み込んだ。こんな姿になればもう人として生きることはできない、待っているのが殺されるだけの地獄なのなら今ここで消え去りたい。

「……。」

 だがマリアナは何も言わずに背を向けて立っていた、まるでそんなことに付き合う暇はないと語っているようで、少し落胆した。

「ははっ…虫のいい話だよな…。」

 アルノアは苦笑の笑みを浮かべ、自分の手を顔に押して魔法を唱えた。
 魔物の体になったとはいえ、零距離で顔面に魔法を喰らえば消し飛ぶくらいになるだろう。

 キィィィン…

 アルノアの手から魔法陣が展開された。
 哀しみや虚しさに包まれても体に馴染ませた魔法の経験は消えずにいた。せっかく覚えた魔法が誰の役にも立てずに、魔物を討ち倒すこともできずに、自殺するための道具として成り下がったことにアルノアの心は虚ろになっていった。

「っ…!ファイ…」
 ビュォォ!ザバァァン!

 覚悟を決め魔法を唱えようとした瞬間、アルノアの体が強風に吹き飛ばされ噴水の中に投げ出された。

「ぶはっ!」

 アルノアが水の中から顔を出すと、目の前には眉をひそめ怒りの表情を見せたマリアナが立っていた。
 地面がめくれ削れているところを見ると、先程の強風がマリアナの風魔法によるものだと気づくが、介錯するような威力もないその行為にアルノアはマリアナの考えがわからなくなっていった。

「大賢者…わからねえよ!あんたは私をどうしたいんだよ!」
「あなたの言う通り、親しみのある人達から攻撃されるのは気分が悪いわ。でも魔法使いになった以上、自分の魔法で命を絶つなんてそんな選択肢を私の目の前でやってみなさい!」

 マリアナは力強く片足を地面を踏むと、そこから氷の柱が地表から伸び、噴水の水に触れた瞬間一瞬で水面に氷が張った。

「ああ!ぐっ…!」
「努力や才能をそうやって無駄にするのなら私が許さないわ!たとえ最悪な体に作り変えられたとしても、戦わなきゃいけないのよ。それが魔法使いなのよ!」

マリアナの発言はいかにも魔物化したことを許すような口ぶりだった。
何故だが分からなかったが、思い返してみると彼女は一言も私を死なせるような言葉を話さなかった。
何故?どうして?禁忌に触れた人間にどうして生きてほしいというのか?それを聞き出そうとしたところ…

「大賢者様!」

マリアナの名を大きな声で叫び、こちらに息を荒げて走って来た人物が現れた。マリアナと似た黒と紫のしま模様のローブを着ており、後ろに縛った長い黒髪の若い男性。
サピエルだった。

「待ってください…まだ…彼女の処分を決定するのは早いです…!彼女は…」
「ストーンキラーについて何か情報を持っているかもしれないからかしら?」
「まさか、もう彼女から聞き出したのですか?」
「彼女を苦しめたストーンキラーは変装した悪魔だった、隙をついて倒したけど偽物だったわ。それに16年前のような知性のない魔物にはならない試験者がいた。今回はかなり成果があったと思わない?サピエル。」
「あの…何が言いたいのかわからないのですが大賢者様。」

サピエルには急な話で状況が飲み込めなかった。ストーンキラーの正体に撃退、自分の担当している試験者が知性のある魔物、どれも衝撃的だったが成果という言葉が引っかかった。
そのサピエルの困り具合を見て、マリアナはアルノアに纏っていた氷が溶かし、彼女を表彰するように前に突き出した。

「痛っ!」
「彼女はその二つの成果をあげたってことよ、魔物だからとか人間の裏切りとかで殺すには惜しいと思わない?」
「まさか…彼女を生かすと言うんですか!?私達が納得しても、国民達は納得なんてしてくれませんよ!」

マリアナはそっと人差し指を口に寄せ、静かにさせるポーズをとった。だがそれを見ていた二人には違う意味に見えた。

「隠せばいいのよ、私だって数少ない優秀な卵を国民の非難で失うわけにはいかないからね。」
「大賢者様…。」
「ねぇあなた、魔法使いになって何がしたい?」

マリアナが目を真っ直ぐアルノアに向けて質問した。
私が魔法使いになってしたいこと…過去の私ならどう答えただろうか?
こんな姿にさせられ、元凶の悪魔は健在、姿を公に晒せなくなり、不運と最悪で塗られた真っ黒な色が目指したかった夢を覆い尽くしていく。

許せない…許さない…殺したい…恨みを晴らしたい…絶望させたい…

アイツに…

私の中で生まれた黒い色をぶちまけたい…!

「私をこんな姿にさせた悪魔を…この手で殺したいです!」

マリアナの目にはアルノアの力強い覚悟が映った。
純粋だった彼女がここまで黒くなってしまったが、マリアナは彼女の思いに実現出来る希望を感じた。

「うん…悪くない志願理由ね。」

この日…人間としてアルノアの人生は幕を閉じ、魔法使いとして、魔物としての人生が始まった。
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