推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十四話 巻き付く毒蛇②

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 ーー少し前。

 王室は騒然となっていた、その理由は俺が今の戦力で帝国に打ち勝つ策を話したからだ。

「ふっ、ふざけるな!そんなのが上手くいくわけがない!」
「同感だ!失敗すれば戦力を失うどころか、厄災魔獣を止める者がいなくなるじゃないか!」

 狂ったような怒りの目でこちらを睨む隊員達に圧倒される。正直逃げたい気持ちはあった、ここで諦めたら何の意味もないと心に言い聞かせているがこんな騒然としている状態では話すことすらできない。
 まるで大量の銃弾を浴びせられ逃げ場を失った傭兵のようだ。

「はっはっはっ!確かに馬鹿げてる…」

 数多の怒りの声で萎縮している俺の隣で高笑いをあげ、面白がるよう拍手しているモルガンの姿があった。

「だが…天才的な発想だ!成功すれば一気に戦況をひっくり返せる!面白そうじゃないか?」

 俺が考えた策に唯一興味を持った彼女は、隊員達にその策の利点を語るが皆モルガンの話をまともに聞くわけがなく…。

「お前の意見など聞いてない!こんな作戦のどこが天才的な発想だ、ただのできればいいという妄想じゃないか!」
「この蛇女!お前はただ狂ったことが好きなだけの…」

 ブォォォォ!
 突如として王室の中を強風が吹き荒れる、騒いでいた隊員達もその風に圧倒され静まり返った。
 俺はその風の出元であるモルガンを見ていた、彼女は手を左から右に薙ぎ払い、まるで大きな翼で風を送ったかのように見せた。

「幼稚なエルフ共…どうせ戦って死ぬか、厄災にまみれて死ぬかのどっちかなんだ。お前達は悔いが残る死はしたくないと考えているが…死ねばそんなことすら考えることなんてできなくなるぞ。」

 呆れたような表情で皆を力づくで黙らせた。その態度に隊員達も物騒なことを喚きだしモルガンに反撃の手を前にかかげた。

「やめるんだ君達!!」

 フォルティアの叫びが王室に響くと、時が止まったかのように隊員達の動きが止まった。

「ゲホッ!うっ…ゲホッ!」
「フォルティア様!」
「心配いらない…急に大声を出してむせてしまっただけだ。」

 咳込みながら近衛隊員に支えられ元の席に座った。多少咳が治ると隊員達をまとめようと言葉を発した。

「君達が怒る理由もわかる、だがまだ何もしていないのに勝手に決めつけるのはよくないと思うぞ。」
「ですがフォルティア様、あの勇者が考えた策はあまりにも実例のない行動ゆえ、現状を変えることなど不可能に思われます。」

 そう言った隊員にフォルティアは無表情で尖った目つきをして聞き返す。

「では君達はあるのか?この足りない時間では外部の助けに期待出来ない、今現在の戦力で私達より数が圧倒している帝国に打ち勝つ策を。」

 その言葉に隊員は顔を見合いながらざわめき始めると、近衛隊から一人挙手をし提案を挙げる者がいた。

「不意打ちなら…!こちらの身を隠しつつ外堀を埋めていくように倒していけば…。」
「無理だ、隊全員を連れての隠密作戦は返って目立つ。それでは全員で突っ込むのと同じになる。」

 隊員の提案を即座にジアロが否定する、悠もつかせぬその正論に挙手した隊員やその他の者も黙りこくる。

「だったら…私達の魔力を集めて特大の魔法を放ちましょう!それなら敵を一網打尽にできます!」

 次に魔導隊の隊員が挙手をし提案をした、魔導隊達はその案に賛成の勢いだったが逆に近衛隊は難しい顔した。

「それこそ本当の妄想じゃないか、そんな巨大な魔法を本当に作れるのか?それにその魔法が死霊の谷にめがけて撃てるとは思えないぞ。」
「というか、それをパンデルム遺跡に撃って大丈夫なのか?魔力を吸収して復活する厄災魔獣にとってそれは逆効果なんじゃないか?」

 魔導隊の意見を真っ向から反対した近衛隊達の対応に、魔導隊は押し通すように話を切り詰めた。

「ちまちま一体ずつ倒すよりも効率がいいでしょ!それに隠密作戦だなんて、人数分の透過魔法を準備しないといけないじゃない!」
「どうせ僕達の仕事は変わらないんだ、わざわざ危険なことに出向かなくてもこの策で解決出来れば無血で終わらせられる!」

 お互いの意見が食い違い、言い争いが苛烈する中フォルティアが魔導隊に向け口を開いた。

「魔導隊の提案について聞きたい、特大の魔法を作成に要する時間は?」
「原理は魔法陣を生成するのと同じなので、起動の計算で時間をもらえるなら今日中に終わらせます。」
「では、その作業を分担しても同じ時間で終わらせられるのか?」
「えぇ…それくらいなら。」

 そうか…と呟いた後、何かを見いだしたかのよう真っ直ぐ目の前にいる隊員達を見て発した。

「ではこうしよう、第一の矢として魔導隊の策を行う。そこで成果があがらなかった場合は第二の矢として勇者君の策を行う。」
「本気ですか!?フォルティア様!」
「現状急ごしらえで救援を望むことが出来ない今、私達の戦力で帝国に立ち向かう策としてこれ以上の策は考えられん。優秀な魔導隊の皆なら出来るだろう。」

 今にも苦言を呈するよう立ち上がりそうな魔導隊の隊員を、最後の一言で静止させた。
 近衛隊達と同様、フォルティアの命令には逆らわない。皆何か言いたそうな顔を浮かべながらも、「分かりました…。」と低く呟いた。

「それでは…各々の戦いに向けて準備するよう。大丈夫だ、私達なら勝てる。」

 そうフォルティアは意気込むと、杖を地面に叩き入口の扉を開けた。
 皆はそれを見ると、ぞろぞろと入口の方へ向かって行った。会議は終わったのだろう。
 俺も立ち上がり王室を後にしようとしたところ、近衛隊や魔導隊の隊員から質問攻めをくらわせられた。
 質問は皆同じく、「作戦の成功率と実証性はあるのか?」というものだった。
 何人か答え終えた後、半端逃げるようその場を後にした。

 ーー現在・緑土の館

「わかっているのだろうクロム、自身が考えた理論と相手の性格からして一気に形勢を逆転することは出来ると言っても、一歩間違えれば厄災魔獣に辿り着く前に全滅なんだぞ。」

 モルガンの話から少しの前の会議の状況を思い返した、皆俺の作戦に否定的だった、モルガンも真剣にそれは可能なのかと聞き返すほどに。
 だが俺はそれでも自分の考えを曲げることなく自信を持った眼差しをモルガンに向けた。

「一歩でも間違えるんじゃない、一歩も間違えられないんだ。」

 そう言ってでも絶対に成功するとは限らない、現に隊員達が協力的でない以上失敗する確率は高くなる。
 俺はそれを危惧してもう一言付け加えた。

「俺達パーティーだけだったらそう言えるけど、今回に限っては隊員全員が協力するからな。俺に反抗して作戦に乗らないって言う人だっている。」
「それを考えての五分五分か…まぁ、策がなければただ馬鹿正直に突っ込むだけだからな。どちらにせよってとこらか。」

 俺の言葉の意味を察し、モルガンは少し面倒そうな表情をして窓に映る外に視線を追う。
 彼女が何に対してそう思い込んでいるのかわからなかっため、ニーナに囁き聞いた。

「なぁ…ああいう時のモルガンって何考えてるんだ?」
「悪巧みを考えているように見える?先生だって苛立つことくらいあるよ。」
「聞こえてるぞ。」

 微笑な表情に顔を変え、クロムに目をやる。

「別に君に怒ってるわけじゃない、私は…未知の世界に歩むことがどれだけ過酷なことなのかわからないのに、上からもの言うあいつらに苛立っているだけだ。」
「それってつまり…。」
「何を気にしているのか知らないが、君が誘ってきたのだから君に協力するのは当然だろう。もし嫌だと感じればもう君を追い出しているよ。」

 モルガンの口から発せられた言葉は、味方はここにいると意味が込められている感じがした。
 たった一人であっても彼女が味方でいるだけでここまで心強いことはない。それは言葉や思考だけでなく行動でもそれを示した。

「その瓶って…」

 モルガンの懐から青色の液体が入った小瓶が机の上に置かれた。俺はその瓶に何が入っているのか直感で理解した。

「頼まれていた、対パンデモニウム用状態異常無効薬。もう完成まであと一歩のところまで来ている、ここまでやっておいて失敗なんてしたら一番困るのは私だからね。」
「…マジか?」

 正直俺は心配していた。対抗薬を作ってくれと頼んだのはほんの2日前の出来事だ、そして今日の会議で時間がない事を示唆した。残り時間が僅かな状態で薬なんて作れるわけがない、そう思って対抗薬の製作を断念して帝国殲滅に尽力しようと話つけるはずだったのだが…
 完成直前という言葉を積んで、その薬は俺の目の前に置かれた。

「ちょっと待て…頼んでから丸一日くらいしか経ってないぞ。新薬ってそんな簡単にできるものなのか?」

 俺の問いに、モルガンは不敵な笑みを浮かべると答えた。

「私を誰だと思ってる?これでも昔はルカラン王国の魔法研究者の一人だったんだ。新薬くらい原理さえ掴めればあと調合するだけ、簡単なお仕事だ。」

 マジか…
 と再び声に出そうになった。
 現実世界で同じことをすれば天才だと思う人が半分、そんな薬に信用できないと思う人が半分と分けられるだろう。
 だが研究者はやっぱり彼女のことを天才と呼ぶのだと思う。理屈や理論で満足はしない、結果というものを作ってしまうのだから。

「ただ…やはり時間が足りなさすぎた、対抗薬を作れても大人数分までは用意出来ない。せいぜい10個程度だと思ってくれ。」
「10個ね…。」

 唯一残念がったのは薬を量産出来なかったことだった。気だるそうにソファに沈み込み不機嫌に「はぁ…」と口にこぼす。

「それでもすごい事だろ、俺内心諦めていたのにここまでやり遂げるなんて。」
「そうだろうそうだろう?私はちゃんとやり遂げたんだ、そっちもちゃんと約束の品を持ってくるんだぞ。」

 ソファの背もたれに首をかけ、だらしない姿勢で今度はお前の番だと告げられた。

「いい奴なのか悪い奴なのかわからないなお前は。」
 
 正直その態度に頭にくるが、彼女に自分の命を握られている時点で立場はまだ彼女よりも下であることを認識され、悔しい表情と笑みが混じった混沌の表情を浮かべながら毒を植え付けられた部分をさすった。

「という訳だ、私はそろそろ薬の調合に戻るとするよ。」
 
 ゆったりとモルガンは起き上がり、ニーナもモルガンの後ろに付いていくよう離れて行った。
 薬の調合という話を聞く限りこれから忙しくなるのだろう、自分の用件も聞けたことだしこちらも引き上げようと体を起こした。

「じゃあ俺もそろそろ…」

 グッ…
 俺の頭に一瞬「?」の文字が浮かびあがった、立ち上がろうとしたところ膝に力が入らず起き上がれない。
 手でソファを押して体を起こそうと試みても駄目だった、太ももとソファがくっついたみたいに離れない。

「は?えっ?なんだこれ?ソファと尻がくっついて…!」

 この状況は以前にも感じたことがある、言葉にした事でより鮮明に記憶が蘇った。

「おいおい…これってまさか…あのベンチと同じ!?」

 ゼルビアでモルガンと初めて会った時、セーレとニーナとの戦いに邪魔されないよう俺はベンチに拘束をされた。
 その時に仕掛けられたのが強力な粘着性を持っているスライムであり、ベンチと尻の間に仕掛けられ起き上がることができなくなってしまっていたのだ。
 その状況に今も置かれている、これが起きたということはただで帰ることは許されないと暗示しているようだった。

「帰るにはまだ早いよ。言ったでしょ?逃げないでって。」

 僅かながら部屋の奥から聞こえたその声に、俺は振り返る。
 リビングとダイニングの間、そこに備えつけられた扉が空いており中から物音が小さく耳に入ってくる。
 俺の焦りの声が聞こえ聞き返してきたのも納得できる。モルガンは知っていた…いや、仕向けていた。こうなる事を。
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