推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第三十七話 幹部vs元幹部①

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 セーレは厄災魔獣の復活に部下である自分達を使っている、そんな噂話を1日かけてほぼ全部隊に話した。
 ある者はそんなことするわけがないと激昂する者、またある者は自分の仲間が煙のように消えたことの繋がりを察し、噂話を信じ込む者。
 あらゆる箇所でその話題が持ち越され、最終的にはその真実を語ってもらおうと、シトリーがいるパンデルム遺跡の入口に隊員達がなだれ込んだ。

「シトリー様!どういうことか説明してください!」
「退がれお前達!憶測でシトリー様を悪党と判断するとはどういうつもりだ!」
「俺達なんてその程度の駒だったってことですか!?どうしてこんな事になったのか教えてください!」
「シトリー様がお前達を必要としていたことを忘れたのか!?恩を仇で返すな!殺されたいのか!」
「もう殺してんじゃねぇか!勝手に俺の仲間を連れて行かせやがって!」

 遺跡の入口にある広い敷地に悪魔達がぎっしりと埋まっていた。まるで暴徒と化した部下達を隊を率いる隊長達が、遮蔽壁《ウォール》で壁を作って抑えているが、少しの緩みで一気に押し負けそうな勢いに隊長達も主であるシトリーに助けを求めていた。

「くそっ、何がどうなってる?この間までただ魔物を狩っていた奴らがこんな反乱を引き起こすなんて。」
「シトリー様とヒズミさんは何をしている?この状況をわかっているのか。」
「誰か二人を呼んできてくれ!」
「無理だ!一人でも欠けたらそこから漏れて壁が崩れる!」

 この状況をセーレとヒズミが気づいてくれることを願いつつ、隊長達は目の前で押し寄せる部下達の進行を止めることしか出来ずにいた。
 これほどの群衆が大声で喚けば、遺跡の地下にいるシトリーにもその声が届く。だが現実、彼女にとって部下達の反乱よりもさらに面倒な場面に出くわしそれどころでは無かった。

 ーーパンデルム遺跡・第二層

「氷撃《フロズレイ》!」

 シトリーの放った氷結魔法が一層に直結する穴を塞いだ。
 彼女は第三層で現れた正体不明の悪魔を追うため、魔法や自身の槍を駆使しつつその距離を縮ませていった。
 だがその道中、一度だってその悪魔に傷を与えることが出来ずにいた。それを踏まえシトリーの中で、その悪魔の正体が徐々に面影として現れるのは時間の問題だった。

 ギリッ…
 正体不明の悪魔は氷で塞がれた穴を見上げ、力強く手を握るとその塞がれた氷に向かって拳を突き上げた。

 ズァァァ!

 氷の蓋に拳が当たろうとしたその直後、下から猛烈な速さでこちらに迫ってくる槍に気づき、悪魔は間一髪で避けると諦めたかのように地面に降り立った。

「ちっ…!」

 決定的なチャンスを持ってしても目の前の悪魔を傷つけさせることが出来なかった、その悔しさを表すようシトリーの口から舌を打つ音が聞こえる。

「殺す前に聞いてもいいかしら、あなたは誰?」
「……。」

 目の前にいる悪魔は沈黙を貫いたまま動こうとしない。この部屋は天井の穴とシトリーの後ろにある道しか逃げ道がない、彼女の質問に無言なのは逃げ道を探していることにも見えた。

「だんまりね…だったら質問を変えよう。」

 シトリーは急に沈み込んだ体勢を作ると悪魔に向けて飛び出した。

「アクセルスピア!」

 飛び出した勢いからさらに一歩力強く踏み込み、加速した状態で放つ突き技だ。
 悪魔はそんな目にも止まらない突きにくるりと体を捻り回避すると、翼を使った滞空により姿勢を変え、シトリーに目掛けて右ストレートを放つ。
 だがそれを読んでいたシトリーはすぐさま槍を横に振り払い、鉄製の拳に火花が散った。
 強烈な一撃にシトリーは後ろによろめくと、悪魔は隙を見せず地面を蹴り出し素早く彼女の懐に入り込む。

「氷撃《フロズレイ》!」
 パキィィィン!

 セーレは足元に魔法陣を出現させ、自分を巻き添えにした氷結魔法を放った。
 シトリーは両足が凍り、悪魔は胴体が氷の柱に埋まった。両者とも身動きができない状態だが、リーチのある槍を持つシトリーに軍配が上がった。

「デッドリー・フォース!」

 槍の先端が紅い炎を纏うとシトリーは持ち手を逆さにし、悪魔に向けて突き刺そうとしたが…

「電撃《ボルティクレイ》」

 悪魔はシトリーを見上げるのと同時に両腕を上げ雷魔法を唱えた。

 ドガァァァァ!
 シトリーの放つ炎の槍と悪魔の電撃が合わさり、激しい衝撃波を生みだしたことで二人の体は後方へ吹き飛んだ。
 その瞬間シトリーは見た、電撃の光によってずっと暗いベールに包まれた悪魔の顔を。

「っ!お前っ…!」

 口元がマスクで覆われていたが、その黒髪と鏡のように反射しそうな黒い瞳には見覚えがあった。
 悪魔の中で拳を使った戦いをする者がいると。その悪魔は綺麗な長髪をしながらも荒々しい戦いをし、黒いオーラを纏う姿は見る者を威圧させる。
 だがその悪魔はこの世にいない、この場にいる事自体ありえないことなのだ。

「やっぱりか…初見で私の技を見切り、力も私と同等、今までの私だったら困惑していたでしょうね。」

 シトリーは確信めいた真剣な目で、目の前に立つ悪魔を睨んだ。
 本当ならありえない話だ、だがシトリーは少し前からイレギュラーの対策であらゆることに疑問を持つようになっていた。
 だからこそすぐにその答えが頭に浮かんだ。

「ここに何の用で来たのかしら?セーレ。」

 帝国幹部セーレ、ルーナ城の魔導兵器強奪に失敗し、死亡したと報告された悪魔。
 具体的なことは伝えられていないが、ヘラ様の使役権が消えたという事実に、魂が消えた…つまりはこの世にいなくなったというのが証明されていた。
 それでも彼女以外にはありえないことだった、自分と対等に渡り合える拳闘士の悪魔など帝国中探してもおそらく彼女しかいないのだから。

「はぁ…さすがに幹部相手から逃れるのは厳しかったわね。」

 目の前の悪魔はそう言うと、衝撃波によってボロボロになったマスクとローブを外し、その姿を表に見せた。
 シトリーの目には記憶にあった姿と酷知した…いや、その本人が生者として立っている姿が映った。
 セーレだ、間違いようがない。

「感動の再会なんていらないでしょ、シトリー。」

 セーレは戦闘により乱れた黒髪を両手で後ろに払うと、懐かしみを表すような笑みをシトリーに向けた。
 
「感動?そうなるほど私達って仲良かったかしら。」

 そう答え返すシトリーは、見知った同族であっても攻撃的な目つきを緩めず、攻撃の機会を伺っていた。

「お嬢様!」

 通路からヒズミの声が聞こえ横目で見ると、薄暗い先から人が走る輪郭が徐々に浮かんできた。
 人間の足にも限界がある、逃げるセーレを飛行しながら追いかけていたため、どんどん距離を離されてしまっていたようだ。

「これは…お嬢様!」

 ヒズミがシトリー達のいる部屋に辿り着くと目の前に立つ悪魔に驚いていた。彼も帝国で他の幹部の特徴などは把握している、なぜここで…なぜその特徴と似た人物が自分の主人に手をあげているのか、その疑問で頭がいっぱいだった。

「わかってる、私も驚いたよ。死んだとされた奴と会えるなんて。」
「私も驚きだよ、あんなやり方で厄災魔獣を復活させてるなんて。外見てきなよ、皆お前の答えを待ってるよ。」

 シトリーもセーレもその顔に驚きの表情を見せず、ただ無関心な台詞をお互いにぶつけあった。
 ヒズミはセーレの言葉から、隊全体に秘密をばらされた原因が彼女だと発覚し声をあげた。

「隊に妙な噂を立てて混乱に陥れたのはお前だったのか!?」
「噂?私は本当のことを言ったまでよ。そもそも皆に隠しながらあんな非道なことをしてるなんて、そんな策を考えたお前の主人に怒るべきじゃない?」
「黙れ!」

 答え返せない事実にヒズミは殺意混じりに叫ぶと、自身の曲刀を素早く抜いた。その直後、曲刀を抜いた軌道上に妙な空間の歪みが見え、セーレに向かってその歪みが近づいてきた。

 ガァン!
 セーレは腕を前にする姿勢をとると、金属質な音が鳴くのと同時に腕に物体が当たったような感覚を感じた。

「かまいたちか、自分の剣に風魔法を纏って斬撃波を出すなんて考えたわね。」

 よく見るとヒズミの曲刀には、立ち込める砂のおかげか渦状に風が舞っているのが見えた。
 そんな彼の芸当を見て、セーレは不敵な笑みを浮かべながら自身も真似をした。

「でも、武器に魔法を纏うことなら私も負けちゃいないわ。」

 セーレは互いの拳を叩くと、その腕から黒いオーラが溢れ出てきた。そして、黒い手甲にそのオーラがまとわりつくと、まるで燃える炎のような赤い模様が浮かび更に禍々しく変化した。

「魔導武装《黒腕》」

 セーレの戦闘スキルの一つ、闇魔法を腕に纏う事で攻撃と防御を兼ね備える《黒腕》状態となる。
 セーレと手合わせをしたシトリーは、それがどれだけ恐ろしい状態になっているのかすぐに理解し、今に斬りかかろうとしているヒズミの前に手を出した。

「っ!?お嬢様!」
「ヒズミ、私の代わりに隊の全員を静かにさせて。もちろん、この状況もちゃんと皆に伝えて誤解を解かせるんだ。」
「いえ、二人で戦いましょう!すぐに終わらせればこっちの対応にも…」
「命令だ、あなたがいると私は本気を出せない。言ってることがわかるな?」

 ヒズミの方へ振り向いたシトリーの表情は、無表情でありながらも憤怒の目でこちらに訴えていた。
 彼女が本気を出せないという台詞は、遠回しに邪魔と言っているような意味である。
 だがそれは悪い意味ではない、本当に邪魔になってしまうのだ。彼女の攻撃に巻き込まれてしまうから。

「わかり…ました。こちらは任せてください!」

 共に戦えないことに悔しさを滲ませながらも、主人から与えられた使命を真っ当しようと、その忠誠心を力にその足で通路へ駆け出した。

「何よ、一緒に戦いましょう?常闇《バロム》!」

 セーレの右手から魔法陣が展開され、黒いオーラをなびかせた赤い球が曲線を描きながらシトリーの後方にいるヒズミを狙ったが、

 ズバァ!
 シトリーは手に持った槍でその禍々しい球を払い斬ると、余裕そうに槍を得意気に回転させ地面に突き刺した。
 お前の相手は私一人で十分と告げているような、誇らしげに笑っていた。

「聞きたいことは山ほどある、何故生きているのかや何故私達の邪魔をしたのかも。だけど今はあなたと付き合ってる暇なんてないから一つしか聞かない。」

 その余裕そうな笑みが一瞬で消え、明確な殺意を発する睨みを向け話し続けた。

「あなたは私達の…いや、帝国に刃向かうつもり?」
「刃向かうって、まるで私がそのためだけに生きているような言い方じゃない。お前と同じ、上から指示されてここで調査してるだけよ私は。」
「上?ヘラ様の使役から抜け出して、一体誰の指示であなたを動かしているの?」

 シトリーの質問にセーレはため息をこぼし、彼女の殺意で作りあげた張り詰めた空気をものともせず好戦的に答え返した。

「私達悪魔が素直に秘密を話すと思う?悪魔なら悪魔らしく力づくで聞いてみなよ。」

 その言葉を最後に会話は止まり沈黙が流れた。聞こえるのは突き刺した槍が抜かれる地面の音、地面を擦る靴の音。
 互いに顔を見合うとシトリーは一言言葉を発した。

「はぁ…同族の情けとしてせっかく親切に聞いてあげたのに、手をあげるのは心苦しいけど…」

 その言葉が続く瞬間、彼女達は同時に地面を蹴り出し互いの武器が交錯し合うと、大きな衝撃音と共に緊迫した空気が切り裂かれた。

「私達を裏切るっていうなら、もう一度死んでもらうしかないみたいね!」
「どの口が、皆の頼れるリーダーはどこいった?このペテン師が!」







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