推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十話 三人の隊長②

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「クロムさん!一体どこへ!?」

 近衛隊の人混みを抜け、クロムとパーティーの三人は谷の方向へ走る。
 目の前は枯れ木が立つ光景が広がっているが、その向こうに何が広がっているのかクロムには想像がついていた。
 だからこそ…

「皆、悪魔達を一点に集めるために力を貸してくれ。」
「ちょっと待てって!作戦はどうなってるんだ?こんな無断な行動してて大丈夫なのか?」

 アルノアが必死に俺の後をつきながら今の状況を問う。それはレズリィもコハクは同じで状況が未だ理解していない三人にとって俺の行動が不可解に感じていた。

「《第二の矢》作戦は失敗だ、俺達は自力であいつらと戦う羽目になる。」
「でも、それなら魔導隊の皆さんにすぐ作ってもらえれば…」
「その命令を下せるのはシリアス隊長だけだ、今あいつは悪魔達の追い討ちっていう命令を出して特大魔法の再詠唱を指示してる。」
「だったら危険じゃないですか!敵の方へわざわざ私達の方から出向いてきても返り討ちにあうだけですよ!」

 クロムが口にしたことが本当であるなら、今自分達は大勢の悪魔がいる場所へ突撃しようとしている。その無謀な行動にレズリィは驚き彼に叫んだ。

「俺達で全て倒すとは言ってない、後ろで援護してくれるあいつらのために時間を稼いでやるのさ。」

 驚愕の眼差しを向けられているとも知らず、クロムはただひたすら前を向いて走っていた。
 死地に赴こうとしてるのに恐怖を一切見せず、ただ信頼という形を信じて戦おうとするその精神に、皆は彼に同じ気持ちを感じた。

 ーー人間じゃない。と

「っ!止まってください!」

 突然コハクが危険を感じたかのよう皆に叫んで知らせた。
 その声に皆はその場に立ち止まる、コハクに何があったのか尋ねようとしたその時…

 バサ…バサ…

 枯れ木が立ち並ぶ向こうから、布を広げるような音が何重にも重なって聞こえ始める。その瞬間全員は勘づいた、自分達の前に何が迫って来ているのか。

「…くる…!」

 コハクは肩を上げながら息を吸って気持ちを落ち着かせていた、アルノアとレズリィは手に持っている杖を両手で力強く握りしめて音がする方へ顔を向けていた、俺は剣に手をかけながら三人が見据える方へ睨みつけた。

 バサ…バサ…

 音が大きく聞こえてきたと同時に枯れ木が並ぶ隙間から黒い影が現れた。その影は上へと上り、木の上までいくと全員の視界にその影の全体像が映った。

 ーー悪魔族だ。

「っあ…!?」

 そちらも俺達に気づいた様子を見せると、俺は戦いの火蓋を切るよう皆に声をあげた。

「行くぞお前ら!!」

 迫る恐怖を払いのけようと皆は気合いを込めた声を発し、動き始めた。

 クロム達より後方、魔導隊がいる集合場所には彼らが気づかないよう木陰から攻めて来た帝国小隊が襲いかかってきた。

「近衛隊!守備を固めろ!魔法陣だけは死守するんだ!」

 ジアロの指示通り前戦に立つ隊員達は悪魔達に突撃し始めた、その彼は高い枯れ木の上から弓を引いて前戦の援護をしていた。
 彼の引いた矢は氷を纏い、悪魔の胸に命中すると体のほとんどが氷と化した。そこに隊員の剣が当たると悪魔の体は無残にも崩れ去った。
 それは一本どころじゃない、二本、三本と複数の矢を放ち的確に悪魔に命中してきた。
 これが霊長の里を守る近衛隊の戦い方だ、エルフ族はその魔法に長けたやり口で属性を纏う《魔導武装》を発明した。彼らはその誇りと戦闘知識を今の時代にまで引き継いでいたのだ。

「くそっ!突撃してくる奴らよりも上から援護してくる奴が厄介だ!」
「こいつらはいい、あの弓矢を止めろ!」

 仲間達を氷漬けにしていくジアロに嫌悪感を抱き、多数の悪魔がそちらに向けて魔法を放った。
 多様の属性魔法が隊員達の上を流れ、それを追うように隊員達はジアロがいる場所へ振り向いた。

「隊長!」

 ジアロは迫る魔法弾に恐れを見せなかった、その逆に彼は右手に十数本の矢を弓に引き、狙う相手を睨みつけた。

 ガガガガッ!

 強い雨音が打ちつけるような音をして魔法弾がジアロの目の前で弾けた。
 彼は魔法が当たることなど考えもしなかった、なぜなら自分の背後にはそれらを弾くほどの遮蔽壁《ウォール》を生成できる魔導隊の隊長がいるのだから。

「防壁魔法!?ふざけやがって!」

 悪態を吐く気持ちは、鋭い眼光でこちらを狙うジアロの姿に一瞬でかき消された。

「やべぇ!狙われ…!」

 バシュ!
 ジアロの周りに張られた遮蔽壁《ウォール》が消え、力強く引き絞った矢が勢いよく放たれた。

「前を見ろ!行けっ!」

 隊員達の頭上を流れる矢と共に、鼓舞つけられたかのように勢いついた表情で悪魔達の方へ振り返った。

 ドドドッ!

「うわぁぁ!く…!」

 その矢は悪魔達に命中し、嘆きの声を叫ぶ前に口にまで氷が覆った。
 そして無慈悲に近衛隊達の手によって粉々に砕かれていく、悪魔達はその光景を目にすると勢いがあった足が止まった。

「なんだこいつら、俺達より数が少ないっていうのに…全然前に近づけねぇ!」

 戦意喪失目前の彼らにとって突撃は死を意味していた。その感情が表に出た瞬間、見ている景色は反転しエルフ達がいない場所へ駆け抜けた。

「逃げたぞ!追え!」

 背を向けて逃げる悪魔に追い討ちをかけるよう動き出す近衛隊だが、

「追うな!全員待機!」

 ジアロの声に隊員達の足は止まり、全員がこちらを向いた。何故追いかけないのかと問いかける前にジアロは言葉を続けた。

「目的は魔導隊を守ること、この場所を手薄にするわけにはいかない。第二軍に備えて準備しろ!」

 その言葉に隊員達は魔導隊に目をやった、その表情は抑えつつも殺気を満ちて睨んでいた。
 当然の反応だった、《第二の矢》作戦を自分達の作戦のためにないがしろにした。そのせいで近衛隊と勇者パーティーはより危険な作戦に身を投じることになってしまったのだから。

「やっと話ができる。どういうことか説明してもらおうか、忙しかったのなら何故私達に手伝いを頼まなかった?本当にあれから一つも作っていなかったのか?」

 さすがのジアロもこればかりは黙ってはいられなかった、シリアスの協力もあって防げたことだが、作戦を無視した考え方に怒りを感じたのか彼女の肩を強く掴んだ。
 シリアスは彼のその怒りに答えるよう、素直に口を開いた。

「私達はこの作戦で絶対的な自信を持っていた、巨大な火球とそれに伴うガス爆発、それで片がつくと皆思っていた。だから私は意味のわからない妙な作戦なんかよりこっちの方が成功率はあるって、皆に指示してこっちを進めていた…」
「ふざけるな!」
「っ!?」

 シリアスの話が終わる前にジアロは彼女の胸ぐらを掴んだ。あまり聞かない彼の怒声にシリアスは驚きを隠せなかった。

「何故だ…何故君達はいつも…自分が正しいと決めつけてしまう!?何故誰も!相手の主張を聞こうとはしない!」

 ジアロがそう怒るのにも理由があった、勇者パーティーが里に来た時にも同じことがあったからだ。里のきまりが正しいという凝り固まった考えのせいで一波乱が起きてしまった。
 今回もまたそれが起きてしまった、だが今度ばかりは許せるような状況ではなかった。
 間違いを踏めば大勢の仲間達が死ぬことになる戦場で起きた、もう謝って済む問題じゃ無くなっているのだ。
 
「自分のやり方が正しいと言えるのは、相手が納得して伝わることでそれが言える台詞なんだ。私はそれを彼に気付かされた。」

 ジアロが谷の方へ指を指す。その方向に顔を向けると、大勢の悪魔達に必死で抗うクロムとその仲間達の姿が目に入った。

「勇者…」
「見ろ…君の作戦に不満をこぼさず、自分の作戦を聞き入れてくれなくても、勇者は私達の力を信じて戦ってくれている。」

 なぜ?
 自分の作戦をないがしろにさせた者達になぜ信じていると口に言える?
 その疑問に触れようとすると、ジアロが未だ怒りを示しながら自分の体を揺らしていることに気づき我に返った。

「勇者をあんな危険な場所に立たせたのは誰だ?私達のために命張って戦ってくれる人は誰だ?これ以上私達の恥の塗り合いに勇者を巻き込ませるきか!?」
「っ…!だからって…」

 悪魔達がぞろぞろとこちらに向かって来る光景が見える、二つの作戦を失敗した自身の結果がそれだった。
 もう後悔したって手遅れだ、自分達がどんなに頑張ってもこの状況を変えることなんて出来ない。

「だからって…私にどうしろと!ここから勝つなんて不可能よ!あなただってわかるでしょ!」

 自分のせいで最悪の結果を生み出してしまった落とし前をつけたい、だがどうすることもできないという現状にシリアスは悔しさを嘆いた。
 それでもジアロは、まるでまだ希望があるかのようにその真剣な表情を変えることはなかった。そしてクロムから託された言葉をシリアスに告げた。

「勇者は…魔導隊に再び特大魔法を詠唱しててほしいと言ってきた。」

 ジアロは掴んでいたシリアスの服を離すと、勇者が戦っている風景を目にやった。その諦めていない目に何が見えているのか、シリアスも同じ方向に目を向けた。

「ここから見てわかった、勇者があそこで何をしようとしているのか、なぜ再び特大魔法を要求してきたのか、《第一の矢》作戦を考えた君にならわかるはずだ。」

 シリアスはジアロの言葉と目の前で広がっている戦場を目に通し、彼と勇者が何を考えているのか諦めていた脳を回転させた。

(勇者は私とは違って不測の事態に備えた戦略を練っている、そんなあいつが一度失敗した特大魔法をまた使おうとしている。一体どこへ、バラけてしまっては大勢を巻き込んだ攻撃は見込めないというのに。)

 答えを見いだせない状況が続くと戦況に変化が現れた、数十体の悪魔が両側から勇者がいる場所へ攻めて来ようとしている。

「まずい…!勇者がいる場所に集まろうと…あっ!」

 すぐに援護に移ると考えた瞬間に感じた、なぜ勇者が私達に特大魔法を要求してきたのかが。
 集めている、悪魔を一か所に集めて《第一の矢》と同じ条件を作り出そうとしている。

「そんなの自殺行為よ、第一私が勇者の作戦に聞き耳を立たなかったらどうするつもりだったのよ!」

 シリアスがその考えに辿り着いたと知った時、ジアロが先程とは打って変わって優しく口を開いた。

「あの時、双方のやり方で対立してしまっても、勇者はシリアスのことを信じて頼んできたんだ。」
「あいつが…私に…」
「それほどまでに君の作戦を期待していたのだろう、だったら応えるべきなんじゃないのか?自分達の失敗を挽回することじゃなく、お互いの目的のために。」

 期待…勇者と会話していた時にそんな風貌には見えなかった。いや…そもそも勇者はあの時、スパイの脱出と私の理想感を否定するような話しかしていない。
 私達が考えた《第一の矢》作戦に意見を言うことはしていなかった。勇者は私達の実力を信じていたのだ。
 それなのに私は、彼の考えをずっと否定し続けていた。当然怒ることだって、対立したっておかしくなかった、それでも勇者は私達の力を必要としてくれていた。

「ぐっ…なんで私は…こんな自分勝手に突き放してしまったの。敵は…私の目先にずっといたじゃない!」

 今この場で隊長として立っている自分が恥ずかしくなった。倒すべき相手を見誤っていた、自分も彼も最初から目的は決まって動いていたじゃないか。
 里に危険をもたらす悪魔を一人残らず倒すということを。

「魔導隊!特大魔法の準備を!」

 シリアスは振り返り魔導隊に向けて指示を出した。隊員達はシリアスに向けて顔をあげる、そこには出撃した時の号令と同じような覇気のある印象だった。

「勇者パーティーが敵をまとめている、彼らの作ったチャンスを私達で掴むわよ!」

 その力強い言葉に隊員達は元気に応え、陣に向かい再び魔法を生成し始めた。
 だが、それを邪魔するかのように枯れ木の間から魔法が次々と隊員達に向かって飛んでくる。

「ぐあっ!」

 魔導隊を守ろうと近衛隊の隊員が壁となって被弾した、それは一人、また一人と庇うように倒れていく。

「魔導隊には絶対に怪我させるな!私が奴らをあぶり出す!その隙を撃て!」

 ジアロには枯れ木の間から見え隠れする悪魔が見えていた、それらを仕留めようと数本の矢を引き絞った。

「シリアス、君のパワーを貸してくれ!」
「属性は?」
「炎で頼む!」

 シリアスは杖をジアロが狙う先に指し、大きめの火球を放った。そして目の前へ飛んで行った火球に狙いを定めるよう、ジアロは大量の矢を一斉に放った。

「炎散矢《ファイアアロー》!」

 全ての矢が火球に触れると、矢のほとんどが炎に包まれた炎弾となった。
 そしてその矢は枯れ木や地面に刺さった瞬間、強い炎となり燃え広がった。

「うわぁぁ!熱っ!」

 悪魔達は我慢できずに燃え盛る場所から上へ逃げた、だが逃げてホッとしたのも束の間、近衛隊の面々がこっちに向かって弓を引き絞っていた。

「何で!どこにそんな武器があったんだ!」

 ありえないと口にする悪魔だが、彼らはまだ近衛隊の戦いを理解していなかった。
 近衛隊は中、近距離を活かした戦いを得意としている。彼らの腰には剣を、背中には折りたたみ式の弓と矢が備えつけられていた。
 弓矢が脅威であったジアロばかり目をとられ、近衛隊は突撃することしかできないと勘違いをしてしまっていた。

「これが私達の戦いだ、死んで覚えておくんだな!」

 矢は合図と共に悪魔に向かって一斉に放たれた。
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