推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十三話 集結、そして反撃へ…①

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 シトリーの雄叫びが俺の耳に響く。ここからでは見えないが彼女の悔しそうな苛立ちが頭に思い浮かぶ。

「はぁ…危なかった、マジで死ぬとこだった。」

 空間から光を発し、そこからクロムがおぼつかない足取りで出てきた。シトリーと戦っていた場所から魔導隊達が在中していた場所へ転移して戻ってきたのだ。

「巨大魔法陣があって助かった、あの目印がなかったら場所を特定できずに転移魔法が使えなかった。」

 見たところこちらでも戦闘があったのだろう、枯れ木が薙ぎ倒され地面焼け焦げている。そしてここでも超級魔法による地形変動があったようだ、魔導隊達がいる場所へ歩こうとする地面が少し傾いている。
 転移魔法は自分が印象に残った場所を強くイメージする事で発動できる。どんなに地形や風景が変わろうと、そこに自身が思う印象に残ったものがあれば転移の道を繋げられる。

「ーー、ーー。」

 俺は記憶の印象に残った巨大魔法陣に向かっていると、行く先で話し声が聞こえた。
 敵か味方が未だわからない状況に、緊張した面持ちで倒された枯れ木と岩でできた身を隠せる場所へ移動する。
 ゆっくりと顔を出し、その場所に目をやると…地面が光る箇所、おそらく魔法陣を中心に魔導達、近衛隊と四方から来る敵に警戒するよう陣を作っていた。

「はぁ…なんだ、敵じゃないみたいだな。」

 味方だと判断すると、その場にへなりと座り込む。一時的だが死と隣合わせの緊張感からようやく抜け出したと感じると、一気に疲労感に見舞われた。
 改めて思い返すと奇跡の連続のようなものだった。
 一対一でシトリーに勝つことなど不可能、どこかで逃げる隙をうかがいたかったが、彼女の猛攻にそんな余裕などありもしなかった。
 だがあの時、突然起こった少規模の爆発で逃げる隙を作るきっかけを見つけた。
 死霊の谷は死骸が積もった地層により長い年月を経て作られた腐敗ガスが埋もれている、それをシトリーが舞うような槍捌きで掘り起こし、槍の炎に反応して爆破したのがその理由だった。
 もし地面に大量のガスが埋まっていたら、そのガスに反応した爆発を防ごうとシトリーが止まってくれたら。俺はその二つの賭けを考え、隙を見て転移魔法で脱出した。

「もう…土壇場でギャンブルとかしないように…俺も強くならないと…」

 今回は地形の特性で助けられた、だがこういう奇跡は何度も続かない、結局敵を倒す最大のカギは自分の力なのだ。今回の戦いでそれが痛感させられた。

「力が欲しい…もっと、皆に負けないくらいの…。」

 俺は傷だらけの剣を強く握りしめ、悔しい気持ちを歯を食いしばって呑み下した。
 まだ戦いは終わっていない、この嫌な気持ちを消すために戦い続ける選択肢を選んだ。


 数分前、超級魔法により地形が変形したその頃…

「どうしましょう…私が…私があそこで…クロムさん。」

 そう不安気に泣き出しそうな声で呟く者がいた、銀色の杖に頭を当てて必死に神に祈る神官、レズリィだ。

「最悪だ…視界も晴れないし地形はあの巨大な光で変形するわでこっちも迂闊に歩けない。」

 その隣では苦い表情をして、濃い砂煙が舞っている周辺を見渡しながら敵が来ないか見張りをしている赤い魔法使い、アルノアがいた。
 砂煙による見通しの悪い光景、地鳴りにより今も地面が崩れる地形、二人は滑落の危険を避けるためその場で動かず、周りの探索とクロムの捜索をまかせているコハクの帰りを待っていた。
 少し前、魔導隊が放った超級魔法により、その場にいた敵は全員倒すことが出来た。
 だがその代償も大きく、一緒に戦ってくれた近衛隊のほとんどが敵の攻撃と超級魔法の巻き添えをくらって死んでいった。
 そして、その巻き添えには自分達のリーダーであるクロムも入っていた。

「私が…あそこで倒れなければ…きっと遅れることはなかった。私のせいで…」
「レズリィ!あいつがくたばったってわけじゃないだろ。きっとコハクがいい報告を持ってきてくれる、だからそんな暗い気分になるな!」

 祈りを続けているレズリィの目元には涙が滲んでいた。アルノアもレズリィに必死を説得するが、仲間を急に失ったショックはアルノアの心にもくるものがあった。

「くそっ、信じるもんか!こんな簡単にくたばっていい奴じゃないだろお前は!」

 脳裏に嫌な想像が押し寄せてくる、アルノアはそれを考えないようただ強い言葉でクロムの帰りを呟いていた。

「ーーアルノアさーん!」

 今一番聞きたかった声が聞こえ、すぐ顔をそっちに向けた。視界が悪い場所から緑色の髪をした獣人、コハクが走って来た。

「コハク!どうだった?」

 そうアルノアはコハクに質問するが、彼女の不安そうな表情を見て言葉待たずに大体の予想がついた。

「この視界に、腐敗臭が混ざったような臭いのせいでクロムさんの位置を特定することができませんでした。」
「そう…か。」

 最後の希望であった獣人の捜索でも見つけることは叶わず、三人の間で途方もなく重苦しい静寂が流れる。
 今は帝国との戦いの真っ只中、たった一人の行方不明者を探す余裕もない状況ではもう諦めるしかなくなっていた。
 ーーが、その時…。

「ーーァァァァ…!」

 暗い雰囲気を裂くように誰かの叫び声がこだまし、一気に三人の体に緊張感が走った。

「っ!コハク、警戒しろ!」

 コハクは瞬時に二人の前に出て、砂煙の中から奇襲する敵を探すため五感を研ぎ澄ませた。

(来る…目の前の人を薙倒しながらこっちに向かって来ている!)

 コハクの耳には、傷つけられた者達の叫びと同時に、凄まじい速さでこちらに向かってくる足音が聞こえた。
 距離にして40、いや…把握している間に20メートルほどまで近づいて来ている。もうすぐ視界に捉える、コハクは姿勢を落として攻撃する準備をした。

「10時の方角、来ます!」

 ザッ!
 コハクが二人に知らせた直後、黒い物体が砂煙の壁を貫きコハクに近づいた。

「速い…!」

 コハクの目に相手の右腰に構える武器が一瞬見え、脳が指示をする前に勢いよく後ろに飛んだ。その瞬間、武器を構えた人物は右腰から左にかけて高速で薙ぎ払い、虚空を切り裂いた。

「…!?」

 渾身の一撃が回避されたことに驚いたのか、相手はスピードを落とし私の方へ顔を向けた。
 姿形を観察している暇などない、ただ黒いコートと深く被ったフードの中から見えるドクロの顔を見てコハクは魔物だと判断した。

「はあっ!」

 魔物だと判断した彼女の行動は早かった、地面に足が降り立つのと同時に後ろに蹴って前へ飛び出した。
 速さを活かし右手を捻りながら突き上げる、爪スキル基本技《ソニッククロー》。威力の弱さが欠点となるが、獣人が誇る圧倒的な速さを足すと反応出来ない高威力の技へ化ける。
 はずなのだが…

 ガギィィン!
 激しい金属音と共に、コハクの突撃は相手の持ち手の槍に防がれてしまった。
 コハクは目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。相手の攻撃をガードしようとする姿勢にかかる時間、それを行おうとする異常なまでの反応速度、どれをとってもただの人間もとい魔物が成せるものではない。

「どけ!コハク!」

 背後から聞こえるアルノアの声と共に、魔法陣から放たれた雷が空間を走る。
 コハクは背後から来る雷魔法を避けようと、掴んでいる相手の槍を離そうとした瞬間、相手はコハクの体をもの凄い力で振りほどき上へ投げた。

「うわぁぁ!」

 コハクが投げ出されたことで魔法の直撃は回避でき、相手の体に稲妻が走った。

「っ…。」

 だが、相手は攻撃を受けたことに身じろぎもせず撃ってきたアルノアに顔を向けた。

「くそっ!魔法耐性のあるコートか、一体何者なんだ!?人か?魔物か?味方か?敵か?」

 表情が骸なため感情がうまく読み取れないのが一番の恐怖だった。この人物が一体何を考えているのか、それを問いただそうとアルノアは相手の素性を尋ねた。

「……。」

 ところが、おぞましい骸は沈黙のまま武器を下ろし、その場に立ちつくしていた。
 さっきまで殺しかねない状況だったのが一変、戦う気がなくなったかのような光景にパーティーの三人はその人物に目を離せなくなっていた。

「おっ…おい!お前は誰だって聞いてるんだ!さっさと答えろ!」

 緊張気味にもう一度アルノアが尋ねると、ドクロの表情は変わることなく声が発せられた。

「赤いローブ、獣人、青髪の神官…もしかして…クロムと一緒に行動していた、あの…?」
「っ!?」

 クロムという言葉を聞き、三人は驚愕のあまり喉を一瞬詰まらせた。
 外見からして恐怖という印象が強い人物が、クロムを…そして自分達を知ってる。

「あぁー!!」

 相手とどういう関係なのかレズリィとアルノアは思考を巡らせていると、コハクが大声で気づいたような声をあげ、その人物に向かって指を指した。

「あなた確か…ゼルビアの時に博識な人と一緒にいましたよね?疲弊したクロムさんを担いでいたのを覚えている気がします!」

 コハクが話した内容にレズリィも、ハッと目を見開いて思い出したようにコハクと話を続けた。

「私も思い出してきました!たしかあの時、クロムさんがあなたと…よ…夜を一緒に過ごしたと聞いて取り乱した記憶があります。」
「…え?何?どっから突っ込んだらいいかわからないんだけど。でも、たしかにそんな奴ゼルビアで見かけたような気がする。」

 三人が目の前に立つ人物の正体に気づくと、殺気だった緊張感が消え、どのような人物だったか思い出そうとしていた。
 そんな彼女達に助言をしようと、その人物はドクロの仮面越しからくぐもった声を発した。

「ニーナ。それと博識な人じゃない、モルガン先生っていう名前。」

 ニーナ、彼女の名前を聞いたのは初めてだった。
 最初に彼女とモルガンという人物と出会ったゼルビアの地では、クロムの妙な寝不足とモルガンとの話に気を取られていた。その後も馬車の事件や霊長の里で情報収集などで彼女と共に行動すること出来ず、交流も無いほぼ初対面な状態で三人と出会ってしまった。
 しかも戦場の場で、彼女の普段着であろう黒いローブと顔を隠したドクロの仮面を身につけていた。容姿を知らない人からすれば紛れもなく魔物だと勘違いされてしまうだろう。

「あの…ニーナさん、さっきは攻撃してしまってすみません。もっと私が早く気づいていれば…」

 コハクは敵だと思って攻撃してしまったことに頭を何度も下げて謝罪した。

「いや、この先にクロムがいるからって前にいる邪魔者達を蹴散らして走ってた私が悪かった。そのせいで間違ってクロムの仲間を傷つけるところだった、ごめん。」

 ニーナも自分の行動でコハク達を傷つけようとしたことに反省をし、頭を少しだけ下に傾けさせた。
 だが、コハクはニーナの謝罪の中で口にした言葉に耳を立てた。

「えっ?ニーナさんはクロムさんの位置がわかるんですか?」
「うん…わかる、私は先生と長く行動していたから先生の魔力を感じとることができる。たとえそれが残り物の残滓でも。」

 ニーナは砂煙の向こうへ指を指した、コハクの常人離れした視野を持ってしても目の前は砂の壁に覆われて何も見えなかった。

「あっちにいる、近いよ。」
「ああ!ちょっと!」

 走り出したニーナを追いかけようと三人はその場を後にし、砂煙の中を走り出した。
 負傷もあってか体力の低いレズリィはコハクが背負い、先頭を走るニーナの姿を見失わないようについて行った。
 ニーナもそれ知ってか、先ほどのような素早い走りを止め、後ろからついてくる三人にギリギリ合わせるスピードで走っている。

「誰だ?ぐぁぁ!」

 途中、砂煙の中から現れた敵達を薙ぎ倒しながら進み続けるニーナ。それを後ろで見ていたコハクは彼女の動きに目を見張った。

「すごいですあの人、こんな視界が悪い状態の中、敵の急所を的確に突いているなんて…。ニーナさんって本当に人間なのでしょうか?」
「人間だろうが化け物だろうが今は関係ない、あいつがクロムの場所を知ってる。それだけを信じて走るしかないだろ!」

 コハクと違って体力に自信がないアルノアは息を切らしながら必死に走っている。
 
「ゼェ…ゼェ…!っていうかあの野郎、近いって言ってたじゃねえか!どれだけ走らせる気だよ…!」
「頑張ってくださいアルノアさん、もっと肺に酸素を送り込まないと走れませんよ!」
「くそぉ!コハク、私もおぶってくれよ!」
「無理ですよ!アルノアさんを乗せる所なんてありません。」

 アルノアの足が止まりかけそうになってきた。ニーナとの差がどんどん広がっていく、休みながら走っていれば見失ってしまうだろう。

「はぁ…はぁ…!肺が痛え…横っ腹が痛え…もうこれ以上は無理だ。」
「痛み…それなら。」

 泣き言を言うアルノアを目にレズリィはある秘策を思いつき、銀色の杖を彼女に向けた。

「私に任せてください、治癒《ヒール》!」

 杖から放たれた緑のオーラがアルノアに降りかかる、すると呼吸する度に痛み出した肺や、筋肉痛などの痛みの原因が緩和されていった。

「おっ、肺と横っ腹の痛みが消えた!」
「痛みがある場所なら回復魔法は的面みたいですね、これで走れますよ。」
「たしかにこれならまだ走れる…って!鬼畜すぎるだろ!嫌なことエンドレスで続けさせてるだけじゃねぇか!」

 そう叫びながら、ニーナと共にレズリィを背負うコハクを怒りの感情を糧に勢いよく走り出した。
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