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復活の厄災編
第四十一話 希望の糸を手繰り寄せて③
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「ッ!?」
下にいる仲間達は何が起きてるのかわからないような唖然とした表情をしていた、さっきまで皆を指揮していた者が急に野心に目覚めたような轟く叫び声を上げるとは誰が思うだろうか?おそらく共に旅してきた仲間ですら思わなかっただろう。
「ひょっとしてギャグでやってんのか?あの馬鹿。」
「きっ、きっとこれも何かの作戦ですよ、クロムさんがただ何も考えずに叫ぶとは思えませんし。」
「レズリィ無理するなよ、顔ひきつってるぞ。」
下ではクロムの絶叫でおかしな空気に呑まれているとつゆ知らず、クロムは再び遠くの悪魔に向けて声を荒上げた。
「勇者を倒したいんだろー!俺、お前らみたいな雑魚に興味ないけど、まとめて相手してやるからかかって来いよー!」
叫びと同時にクロムの剣から炎が上がる、魔導武装を発動した剣はそれを高く上げ遠くから見えるように火柱を上げた。
すると遠くで動いていた悪魔達が一斉にこっちを見て、罵倒のような轟音を響かせた。
「ーーーッ!」
「ーーーーーーッ!」
複数の悪魔が叫んでいたため何を言ってるか理解できないが、どうやら彼らを振り向かせることには成功したようだ、もの凄いスピードでこちらに向かって来ている。
「ゲホッ!嘘だろあいつら煽り耐性ゼロじゃん、小学生でもこんな簡単な煽りに乗らねえぞ。」
咳払いをして、皆に悪魔を引き寄せることに成功したと報告しようとしたその時、
「ーーーッ!」
「ーーーーーーッ!」
同じように俺の反対側で動いていた悪魔達も、絶叫が混じり合う轟音を立てながらこちらに向かっていた。
「おいおい嘘だろ!そこまでは呼んでねぇぞ!」
レズリィに煽られた悪魔達の姿を見て煽る言葉に弱いのではないかと考え声を上げたつもりが、効果が凄まじく全員こちらに引き寄せてしまった。
「左右から来るぞ!迎撃準備!」
木の上からクロムがそう告げると、一瞬にして場の空気が張りつめた。
「おいマジか!?あれで釣られるのかよ!」
「敵の数は?どれだけの人数がここへ来るのですか?」
「全員来る、合わせて百以上はいる!」
百以上という数字、それはあまりにも恐怖を感じさせてしまうほどの絶望感があった。
近衛隊も流石に焦りを見せる、足止めとはいえど数の戦力では雲泥の差がある。それでもやるしかないと心に決め、震えた唇を噛み続ける。
「やるぞ皆…!逃げた先に希望なんてありはしない。だったら掴みにいくしかないだろう、たとえそれが小さな希望であっても!」
緊張感で固まっている皆を隊のリーダー格であろう一人のエルフが鼓舞する、皆は無言でその話に頷くと半数に分かれて左右からくる悪魔に向けて矢を引き絞る。
「うぉぉぉぉ!」と、怒号を上げながら両側から迫る悪魔達。俺は降りずに木の上で相手が突撃してくる光景を鋭い目で観察していた。
「来い…俺を見ろ、お前らの相手は…」
相手の顔が見えるようになってきた、それほど近くまで来ると彼らは手に魔法陣を出してこちらを狙ってきた。
「「死ねぇぇぇ!」」
罵倒の絶叫と共に俺に向かって数多くの魔法が放たれる、そしてクロムの背後から来ている悪魔達も同じように色とりどりの弾幕を放った。
放たれる魔法弾が合わさり、クロムの視界を白光に染め上がる瞬間、足をかけていた枝を炎刀で切り落とし自身の体が落下する。
その直後、左右から放たれた魔法弾がお互いに相殺し合い、凄まじいほどの火花と光の帯が目の前を覆った。
敵全員がクロムの始末に目を向けていることを確認し、クロムは下にいる近衛隊に合図をかけた。
「今だ!撃てぇぇ!」
その声に反応した近衛隊は、瞬時に引き絞る矢に魔力を込めた。
「魔導武装《雷針》!放て!」
弦の振動が一斉に音を鳴らし、電気を纏った矢が一斉に放たれた。
魔法の爆発とクロムのヘイトにより、悪魔達の視界外になった近衛隊の攻撃は嘘のように全弾命中した。
悪魔の体に矢が当たると、そこから強烈な電気が走り体を硬直させた。さらにその電気は集まっている悪魔達に連鎖し始め、たちまち襲ってきた悪魔全員に流れた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
一際大きな叫び声が被さり、固まっていた悪魔達の周りから稲妻が走る光景が広がる。
「撃て!麻痺効果を長引かせるんだ!」
麻痺効果はたったの数秒、それが終えればすぐさま数という暴力に流されることになる。そんなリスクを背負いながら近衛隊は麻痺を長引かせるため雷の矢を撃ち続けた。
「テメェら…!テメェェェェェらぁぁぁぁぁ!!」
だが、麻痺効果を抜けた一部の悪魔が金切り声を発しながらこちらに向かってくる。
「させるかよ!バーストクラッシュ!」
「先には行かせません!ソニックラッシュ!」
クロムは左から来る敵を刀身を伸ばした炎刀でまとめて貫き、コハクは右から来る敵を素早い動きで切り裂いた。
「迎撃するぞレズリィ!」
「はいっ!」
アルノアは飛んでくる魔法弾を爆破魔法・炎爆《ブラスト》で迎撃、レズリィは近衛隊の前に遮蔽壁《ウォール》を張り魔法弾を防御した。
「このォォ!調子に乗るなァァァァ!」
悪魔達は自身の怒りを原動力にジリジリとその距離を詰めてくる。麻痺の効果は続いている、だが何度も電撃を受けたことにより耐性ができ始めたのか、こちらに迎撃する悪魔が増えていった。
「やっ、ヤバイ!矢がもう無い!」
「まだ魔法がある!魔力がある限り奴らを足止めさせろ!」
要であった近衛隊も限界が近づいていた、クロム達も必死に隊員達を守るべく奮闘するが、あまりの敵の多さに手が回らなくなっていった。
「クロムもう駄目だ!これ以上は抑えられない!」
アルノアが限界を口にしたところで俺はようやく状況を理解した。近衛隊は誰一人弓を使う人はおらず雷魔法で必死に敵を食い止めているが、作戦が始まる前より隊員の数が少なくなっている。あれではこの数を押さえることなんて到底不可能だ。
「まずい…こっちの戦いに目が行って撤退の判断が遅れた!皆後退だ!」
俺はそう全員に告げると皆は今の持ち場からすぐに離れ逃げ出した。
だがそれを許さない悪魔は、逃げる仲間達を撃ち続ける。
一人、二人と逃げる背中を射抜かれ、その場に倒れる近衛隊。彼らは皆、助けを求める言葉を吐かなかった。一人でも多く逃げられるよう必死に最後まで抗い続けていた。
「行けぇ皆!俺達の努力を無駄にするな!」
負傷した隊員がそう叫び大きな爆破が起こった、それでもクロム達は必死に逃げ続ける。その最中で複数の悲鳴が上がろうとクロムやその仲間達は振り返らず前に進み続けた。
「きゃっ!」
聞き慣れた女性の声が聞こえた。その声が聞こえた方向に視線を向けると、背中を焼かれ白を模した服が煤焦げた姿を見せたレズリィが俺の視界から通り過ぎていった。
「レズリィ!」
俺はすぐ切り返し、倒れているレズリィの前に塞がった。前には数えるのが嫌になりそうなほどの悪魔がこちらを見て笑っている。俺はその光景に恐怖を味わったが、その奥に広がる異様な天気にその恐怖はかき消された。
ーー同じ頃
「これ以上は留めるのは無理みたいね…悪いけど皆、死ぬ気で走って頂戴!」
枯れ木のてっぺんでクロム達前線の状況を見ていたシリアスは苦しそうな表情を押し殺し、後ろにいる魔導隊に司令を告げた。
「《設置型魔法陣》展開!再詠唱用意!」
超級魔法の再詠唱準備が整った。狙う場所は前線の真ん中、そんな所に撃てば敵どころか仲間も消滅してしまうことだろう。
もうシリアスには迷っている暇などなかった。このチャンスを逃せば自分達は必ず敗北する、だからといって今撃てばそこにいる仲間達は巻き添えを喰らってしまうことになる。
どちらかを選ばなければならないこの選択に、彼女は前線で戦う仲間達を犠牲にするとういう判断に出た。
ーー暗雲よりきたれ裁きの鉄槌よ、轟く雷鳴と撃ち抜く滅びの光に逃れることなし。
魔導隊は超級魔法の詠唱を始めると、展開された複数の魔法陣から稲妻が走り、中央に集められた。そして体中が逆立つような痺れが周りに広がるほどに巨大な雷球が出来上がると、一瞬にして遥か高い上空へ飛んでいった。
「轟け!そして爆ぜろ!超級魔法!雷霆《ケラウノス》!」
雷霆《ケラウノス》、神が神罰を下す鉄槌として使われた雷と呼ばれている。その名のとおり上空から巨大な雷を落とし焦土と化すそれは、まさしく神の鉄槌と呼ぶべきに相応しい威力だ。
ゴロゴロ…
突然周りが暗くなりだし、身を感じることのない揺れる音が響く。逃げている近衛隊も彼らを追い詰めている悪魔達も、その異様な光景の正体を掴むため空を見上げた。
そこには暗雲と呼ぶより恐ろしい黒い雲が空を覆っていた。あんなに黒い雲は現実世界でもお目にはかかれない。
(やばい…この場所はやばい!)
直感的にこの場所は危険だと判断したクロムは、背後を走っていたコハクを大声で呼びかけた。
「コハクー!!」
クロムの声にコハクは即座に反応し、十メートルの距離を1秒もかからず到着した。
「レズリィを頼む!走れ!」
「はいっ!」
訳を聞かず、コハクはレズリィを抱えて走り出した。
そして、ただ茫然と空を眺めていた悪魔に一撃をかまして、クロムも全速力で逃げ出した。
「なんだ?私達に追われているような逃げ方じゃない、完全に背を向けて逃げている。まさか…上空のアレと何か関係が?」
何が始まるのかわからないと、その異様な光景に驚いて悪魔達は逃げるという選択肢が頭に入らなかった。
黒い雲から差す太陽のような光がこちらを覗かせるまでは…
「っ!逃げろォォォォ!」
慌てて叫んだ一人の悪魔の声に、呪縛が解かれた悪魔達は一斉にその場から逃げ出す。
だが、どんなに速く動こうとも雷の落ちる速度には敵わず、大きな光と爆発音が周りの悪魔達を呑み込んでいった。
ドガァァァァァァァァァァ!
耳が壊れそうなほどの衝撃音と迫り来る光の柱が襲いかかり、先に逃げていた俺達と近衛隊は大きく吹き飛ばされた。
「うわぁぁ!」
もの凄い土煙と鼓膜が破けそうな高音に脳が揺れ、俺の視界は何も見えなくなっていた。
「ーーーっ!ーー!」
何かが聞こえる、だが耳鳴りが激しくうまく聞き取れない。
「ーーさん!ーーん!」
衝撃か、自分の脳がまだ揺れているのか、うまく立つことが出来ず、目の前の木にしがみつくのがやっとだった。
ゴゴゴゴゴゴ…
体が震え始めた…いや、立てないほどに地面が揺れている。
「やっ…べ…」
掠れた声を出し、荒い息を吐きながら必死に前へと自分の体を動かし続ける。
「…クロムーーっ!」
「…クロムさんっ!」
耳鳴りが治り、仲間達の声が聞こえてくる。俺は自分の場所を示すかのよう大声を上げようとするが…
バキッ!
目の前で地面が割れ、急激に自分の体が後ろに下がっていく感覚を感じた。
土砂崩れだ。あまりの衝撃に地面が変形し、凹んでいる場所に土が流れようとしている。
自分の身では今何が起きているのかさっぱりわからなかった。だが、土煙が少し晴れた先にいた仲間が俺を探している姿が見え、咄嗟に手を伸ばした。
「みんな…待っ…」
その声は届くことなく土砂と共に崩れていった。
下にいる仲間達は何が起きてるのかわからないような唖然とした表情をしていた、さっきまで皆を指揮していた者が急に野心に目覚めたような轟く叫び声を上げるとは誰が思うだろうか?おそらく共に旅してきた仲間ですら思わなかっただろう。
「ひょっとしてギャグでやってんのか?あの馬鹿。」
「きっ、きっとこれも何かの作戦ですよ、クロムさんがただ何も考えずに叫ぶとは思えませんし。」
「レズリィ無理するなよ、顔ひきつってるぞ。」
下ではクロムの絶叫でおかしな空気に呑まれているとつゆ知らず、クロムは再び遠くの悪魔に向けて声を荒上げた。
「勇者を倒したいんだろー!俺、お前らみたいな雑魚に興味ないけど、まとめて相手してやるからかかって来いよー!」
叫びと同時にクロムの剣から炎が上がる、魔導武装を発動した剣はそれを高く上げ遠くから見えるように火柱を上げた。
すると遠くで動いていた悪魔達が一斉にこっちを見て、罵倒のような轟音を響かせた。
「ーーーッ!」
「ーーーーーーッ!」
複数の悪魔が叫んでいたため何を言ってるか理解できないが、どうやら彼らを振り向かせることには成功したようだ、もの凄いスピードでこちらに向かって来ている。
「ゲホッ!嘘だろあいつら煽り耐性ゼロじゃん、小学生でもこんな簡単な煽りに乗らねえぞ。」
咳払いをして、皆に悪魔を引き寄せることに成功したと報告しようとしたその時、
「ーーーッ!」
「ーーーーーーッ!」
同じように俺の反対側で動いていた悪魔達も、絶叫が混じり合う轟音を立てながらこちらに向かっていた。
「おいおい嘘だろ!そこまでは呼んでねぇぞ!」
レズリィに煽られた悪魔達の姿を見て煽る言葉に弱いのではないかと考え声を上げたつもりが、効果が凄まじく全員こちらに引き寄せてしまった。
「左右から来るぞ!迎撃準備!」
木の上からクロムがそう告げると、一瞬にして場の空気が張りつめた。
「おいマジか!?あれで釣られるのかよ!」
「敵の数は?どれだけの人数がここへ来るのですか?」
「全員来る、合わせて百以上はいる!」
百以上という数字、それはあまりにも恐怖を感じさせてしまうほどの絶望感があった。
近衛隊も流石に焦りを見せる、足止めとはいえど数の戦力では雲泥の差がある。それでもやるしかないと心に決め、震えた唇を噛み続ける。
「やるぞ皆…!逃げた先に希望なんてありはしない。だったら掴みにいくしかないだろう、たとえそれが小さな希望であっても!」
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「うぉぉぉぉ!」と、怒号を上げながら両側から迫る悪魔達。俺は降りずに木の上で相手が突撃してくる光景を鋭い目で観察していた。
「来い…俺を見ろ、お前らの相手は…」
相手の顔が見えるようになってきた、それほど近くまで来ると彼らは手に魔法陣を出してこちらを狙ってきた。
「「死ねぇぇぇ!」」
罵倒の絶叫と共に俺に向かって数多くの魔法が放たれる、そしてクロムの背後から来ている悪魔達も同じように色とりどりの弾幕を放った。
放たれる魔法弾が合わさり、クロムの視界を白光に染め上がる瞬間、足をかけていた枝を炎刀で切り落とし自身の体が落下する。
その直後、左右から放たれた魔法弾がお互いに相殺し合い、凄まじいほどの火花と光の帯が目の前を覆った。
敵全員がクロムの始末に目を向けていることを確認し、クロムは下にいる近衛隊に合図をかけた。
「今だ!撃てぇぇ!」
その声に反応した近衛隊は、瞬時に引き絞る矢に魔力を込めた。
「魔導武装《雷針》!放て!」
弦の振動が一斉に音を鳴らし、電気を纏った矢が一斉に放たれた。
魔法の爆発とクロムのヘイトにより、悪魔達の視界外になった近衛隊の攻撃は嘘のように全弾命中した。
悪魔の体に矢が当たると、そこから強烈な電気が走り体を硬直させた。さらにその電気は集まっている悪魔達に連鎖し始め、たちまち襲ってきた悪魔全員に流れた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
一際大きな叫び声が被さり、固まっていた悪魔達の周りから稲妻が走る光景が広がる。
「撃て!麻痺効果を長引かせるんだ!」
麻痺効果はたったの数秒、それが終えればすぐさま数という暴力に流されることになる。そんなリスクを背負いながら近衛隊は麻痺を長引かせるため雷の矢を撃ち続けた。
「テメェら…!テメェェェェェらぁぁぁぁぁ!!」
だが、麻痺効果を抜けた一部の悪魔が金切り声を発しながらこちらに向かってくる。
「させるかよ!バーストクラッシュ!」
「先には行かせません!ソニックラッシュ!」
クロムは左から来る敵を刀身を伸ばした炎刀でまとめて貫き、コハクは右から来る敵を素早い動きで切り裂いた。
「迎撃するぞレズリィ!」
「はいっ!」
アルノアは飛んでくる魔法弾を爆破魔法・炎爆《ブラスト》で迎撃、レズリィは近衛隊の前に遮蔽壁《ウォール》を張り魔法弾を防御した。
「このォォ!調子に乗るなァァァァ!」
悪魔達は自身の怒りを原動力にジリジリとその距離を詰めてくる。麻痺の効果は続いている、だが何度も電撃を受けたことにより耐性ができ始めたのか、こちらに迎撃する悪魔が増えていった。
「やっ、ヤバイ!矢がもう無い!」
「まだ魔法がある!魔力がある限り奴らを足止めさせろ!」
要であった近衛隊も限界が近づいていた、クロム達も必死に隊員達を守るべく奮闘するが、あまりの敵の多さに手が回らなくなっていった。
「クロムもう駄目だ!これ以上は抑えられない!」
アルノアが限界を口にしたところで俺はようやく状況を理解した。近衛隊は誰一人弓を使う人はおらず雷魔法で必死に敵を食い止めているが、作戦が始まる前より隊員の数が少なくなっている。あれではこの数を押さえることなんて到底不可能だ。
「まずい…こっちの戦いに目が行って撤退の判断が遅れた!皆後退だ!」
俺はそう全員に告げると皆は今の持ち場からすぐに離れ逃げ出した。
だがそれを許さない悪魔は、逃げる仲間達を撃ち続ける。
一人、二人と逃げる背中を射抜かれ、その場に倒れる近衛隊。彼らは皆、助けを求める言葉を吐かなかった。一人でも多く逃げられるよう必死に最後まで抗い続けていた。
「行けぇ皆!俺達の努力を無駄にするな!」
負傷した隊員がそう叫び大きな爆破が起こった、それでもクロム達は必死に逃げ続ける。その最中で複数の悲鳴が上がろうとクロムやその仲間達は振り返らず前に進み続けた。
「きゃっ!」
聞き慣れた女性の声が聞こえた。その声が聞こえた方向に視線を向けると、背中を焼かれ白を模した服が煤焦げた姿を見せたレズリィが俺の視界から通り過ぎていった。
「レズリィ!」
俺はすぐ切り返し、倒れているレズリィの前に塞がった。前には数えるのが嫌になりそうなほどの悪魔がこちらを見て笑っている。俺はその光景に恐怖を味わったが、その奥に広がる異様な天気にその恐怖はかき消された。
ーー同じ頃
「これ以上は留めるのは無理みたいね…悪いけど皆、死ぬ気で走って頂戴!」
枯れ木のてっぺんでクロム達前線の状況を見ていたシリアスは苦しそうな表情を押し殺し、後ろにいる魔導隊に司令を告げた。
「《設置型魔法陣》展開!再詠唱用意!」
超級魔法の再詠唱準備が整った。狙う場所は前線の真ん中、そんな所に撃てば敵どころか仲間も消滅してしまうことだろう。
もうシリアスには迷っている暇などなかった。このチャンスを逃せば自分達は必ず敗北する、だからといって今撃てばそこにいる仲間達は巻き添えを喰らってしまうことになる。
どちらかを選ばなければならないこの選択に、彼女は前線で戦う仲間達を犠牲にするとういう判断に出た。
ーー暗雲よりきたれ裁きの鉄槌よ、轟く雷鳴と撃ち抜く滅びの光に逃れることなし。
魔導隊は超級魔法の詠唱を始めると、展開された複数の魔法陣から稲妻が走り、中央に集められた。そして体中が逆立つような痺れが周りに広がるほどに巨大な雷球が出来上がると、一瞬にして遥か高い上空へ飛んでいった。
「轟け!そして爆ぜろ!超級魔法!雷霆《ケラウノス》!」
雷霆《ケラウノス》、神が神罰を下す鉄槌として使われた雷と呼ばれている。その名のとおり上空から巨大な雷を落とし焦土と化すそれは、まさしく神の鉄槌と呼ぶべきに相応しい威力だ。
ゴロゴロ…
突然周りが暗くなりだし、身を感じることのない揺れる音が響く。逃げている近衛隊も彼らを追い詰めている悪魔達も、その異様な光景の正体を掴むため空を見上げた。
そこには暗雲と呼ぶより恐ろしい黒い雲が空を覆っていた。あんなに黒い雲は現実世界でもお目にはかかれない。
(やばい…この場所はやばい!)
直感的にこの場所は危険だと判断したクロムは、背後を走っていたコハクを大声で呼びかけた。
「コハクー!!」
クロムの声にコハクは即座に反応し、十メートルの距離を1秒もかからず到着した。
「レズリィを頼む!走れ!」
「はいっ!」
訳を聞かず、コハクはレズリィを抱えて走り出した。
そして、ただ茫然と空を眺めていた悪魔に一撃をかまして、クロムも全速力で逃げ出した。
「なんだ?私達に追われているような逃げ方じゃない、完全に背を向けて逃げている。まさか…上空のアレと何か関係が?」
何が始まるのかわからないと、その異様な光景に驚いて悪魔達は逃げるという選択肢が頭に入らなかった。
黒い雲から差す太陽のような光がこちらを覗かせるまでは…
「っ!逃げろォォォォ!」
慌てて叫んだ一人の悪魔の声に、呪縛が解かれた悪魔達は一斉にその場から逃げ出す。
だが、どんなに速く動こうとも雷の落ちる速度には敵わず、大きな光と爆発音が周りの悪魔達を呑み込んでいった。
ドガァァァァァァァァァァ!
耳が壊れそうなほどの衝撃音と迫り来る光の柱が襲いかかり、先に逃げていた俺達と近衛隊は大きく吹き飛ばされた。
「うわぁぁ!」
もの凄い土煙と鼓膜が破けそうな高音に脳が揺れ、俺の視界は何も見えなくなっていた。
「ーーーっ!ーー!」
何かが聞こえる、だが耳鳴りが激しくうまく聞き取れない。
「ーーさん!ーーん!」
衝撃か、自分の脳がまだ揺れているのか、うまく立つことが出来ず、目の前の木にしがみつくのがやっとだった。
ゴゴゴゴゴゴ…
体が震え始めた…いや、立てないほどに地面が揺れている。
「やっ…べ…」
掠れた声を出し、荒い息を吐きながら必死に前へと自分の体を動かし続ける。
「…クロムーーっ!」
「…クロムさんっ!」
耳鳴りが治り、仲間達の声が聞こえてくる。俺は自分の場所を示すかのよう大声を上げようとするが…
バキッ!
目の前で地面が割れ、急激に自分の体が後ろに下がっていく感覚を感じた。
土砂崩れだ。あまりの衝撃に地面が変形し、凹んでいる場所に土が流れようとしている。
自分の身では今何が起きているのかさっぱりわからなかった。だが、土煙が少し晴れた先にいた仲間が俺を探している姿が見え、咄嗟に手を伸ばした。
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