推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十四話 舞う紅き脅威④

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 そこからはもはや《戦い》と呼べる状況でなかった。クロムはシトリーや他の悪魔に引けを取らない殺意のオーラを出しながら、まるで凶暴な鬼が暴れまわるような戦場に作り変える。
 勇者とは呼べぬ悪鬼の戦い、その全貌を側から見ていたシリアスは驚愕した目をしていた。

「何…?あの禍々しい殺気の塊は。あれが本当の勇者の姿だっていうの?」

 横から大きく薙ぎ払われる剣は、斬るというより相手を吹き飛ばすような振るい方をしており。縦に振り下ろす剣は、相手の体を無慈悲に両断している。人間らしい戦い方など微塵も感じられない。

「人間性を捨てているような野蛮な動き…いや、理性が力に追いついていないのかしら。」

 《暴走》…その単語がシリアスの脳裏に浮かび上がる。怒りのあまり目の前の敵を叩き潰すために動いていると考えればその行動に納得はする。
 だが敵味方も認識できないほどに理性が失われたりでもしたら、その場で倒れている勇者の仲間達や自分にもあの刃が振り下ろされる。
 今の彼は、敵にも味方にもなる爆弾を背負っているようなものだった。

「シリアス隊長!隊長!」

 聞き慣れた声が聞こえ、咄嗟に後ろを振り向くと三人の魔導隊の隊員がこちらに向かって走ってきた。

「皆!近衛隊達と撤退したんじゃなかったの!?」

 彼らはクロム達の到着後、ここは彼らにまかせて先に撤退するよう指示された隊員達だった。

「すみません隊長、俺達が情けないばかりに手を差し伸べることが出来なくて…!」
「俺達、襲っていた悪魔が全員隊長達がいた場所に戻って行くのを見て、何があったのか心配になって戻って来たんです。」
「まさか…こんなことになっていたなんて。」

 シリアスが無事だったことに安堵したのも束の間、荒々しく悪魔達と戦っているクロムに目を向け恐ろしくなっていた。

「なんて暴力的な戦い方だ、まるでこちらが悪役のようだ。」

 彼らの目にはまだクロムが目の前の悪魔を倒してくれる存在だと認識していることだろう、それを感じとったシリアスは三人向かってある命令を告げた。

「あなた達、私を助けるよりあっちで倒れてる勇者の仲間をここに連れてきてくれないかしら?彼女達の治療がしたいの。」
「えぇ!?まさかあの中に入れと言うんですか?」

 三人は目の前で繰り広げられている戦いを目にし、無理だと顔を横に振った。
 怪我人は動けないニーナを含めて4名、どちらも戦場の外で倒れている。暴走するクロムの攻撃と迎撃する悪魔達の猛攻を潜り抜けながらそこに辿り着くのはあまりにも危険な所業だろう。

「むっ、無茶ですよ!あんな猛獣達が殴り合っている場所に行って、間違っても目をつけられたりでもしたら…」
「頑張って突っ込めだなんて言わないわ、私が提案したんだから私も動かないとね。」

 シリアスはそう自らも参戦する意気込みを話すと杖を地面に突き立て、魔法陣を展開した。そこから溢れ出る冷気を感じ、隊員達の体に緊張が走った。

「悪いけどあなた達の心の準備なんて待ってる暇ないわ、私が魔法で道を作るからその瞬間に走って。」
「ちょっ!どのような魔法を放つのか具体的に…!」
「うるさいぞ!俺達は目の前の負傷者を救助するのに集中してればいいんだ!」

 一番ビビりな隊員を説得させ、三人は無理矢理心の準備を整え走り出す姿勢をとった。それを見計らったようにシリアスの展開している魔法陣から強烈な冷気が吹き荒れた。

「特殊詠唱・氷遮蔽壁《フローズンウォール》!」

 地面に展開された魔法陣から氷の壁が二つ、V字型に形を作り徐々に空に向かって伸び始めた。十メートルほど高くそびえた氷の壁は陽の光を覆い隠し、中にいる者達の光景を薄暗くさせる。
 分断、これがシリアスの狙いだった。二つの壁の間にクロムと悪魔達を挟み込むことで、外側にいる負傷者やそちらに向かう隊員達に攻撃が当たらないよう防御壁を作り上げる。耐久性は遮蔽壁《ウォール》より脆い、だが壁を形成する効果は抜きん出てており、守るというより場を作り出すための補助魔法を唱えたというべきだろう。

「行って!」

 シリアスの合図と共に一斉に三人は走り出した。一人は近くに倒れているコハクと意識がまだあるニーナの救助を担当、残りの二人は遠くで重なり合うように倒れているアルノアとレズリィの救助を行った。

「なっ、何だ!?」

 悪魔達は突然現れた大きな氷の壁に驚き一瞬動きが止まる、その隙を狙ってクロムは無心で斬りかかってきた。

「調子に乗るな!」

 シトリーは右手に持った槍でクロムの一撃を受け止めた。だが…

(ぐっ!重い…弾き返せないだと…!?)

 今まで何度も目の前の人間を払い退け、吹き飛ばしてきたはずだが、まったくと言っていいほど押し返すことが出来ない。
 クロムに左手の指を切り落とされ両手が使えないとはいえ、ニーナの衝突により体全体にダメージをくらったとはいえ、ここまで差が広がってしまうことに驚きを隠せなかった。

「シトリー様から離れろ!」

 周りの悪魔達はシトリーを襲おうとするクロムに向かって魔法を放つ、シトリーは巻き添えをくらわないようバックジャンプで回避し無数に弾幕を撃ち込まれるクロムを眺めた。

「やはり…効かない。」

 だが結果は同くクロムの体にまったくダメージが通らない、何食わぬ顔で再びシトリーに攻撃を始めた。

「くそっ!こんなに撃ち込んでいるのになんで攻撃が通らないんだ!」

 何十といた悪魔達から何百という魔法を撃ち込まれてもなお無傷というクロムの異様な状態を間近で見たシトリーはあることに気がついた。
 クロムの肌に魔法が触れた瞬間、そこから緑色の波紋が肌に広がり魔法が役目を果たしたかのように小さくなっていることを。まるで水面に落とした油だ、油は水を弾いて水面に漂う、水は油が当たった衝撃で波紋を作り出す。
 それと同じ原理で推測すると、勇者の体全体には魔法を油と水のように弾く性質を持つバリアが張られているということになる。
 それは…魔法を主力として戦う悪魔達にとって最悪な相性だ。

(最悪だわ…認めたくないけど、これ以上戦えば被害が出るのはこっちの方。)

 気づくのがあまりにも遅すぎた、仲間達は意味もなく魔力を消費し、何人もの仲間が斬り伏せられた。
 そして突然現れたそびえる氷の壁、まるで飢えた猛獣を小動物がいる檻の中にぶち込まれた気分だ。

(あのエルフ…!それをわかったうえで私達を氷で挟んで逃げ場を無くさせた!私達をここで殲滅…いや、蹂躙するつもりで…!)

 明らかに意図的に仕掛けられたであろうこの戦術に、氷の向こうにいるシリアスを睨みつける。
 だが相手の戦術を恨み続ける隙などない、襲いかかるクロムの斬撃が仲間を屠る前にシトリーは皆に告げた。

「上に逃げてあなた達!こいつは魔法が効かない!被害を抑えるために一時体勢を立て直す!」

 シトリーが話した内容に全員が絶句し、改めて今相対している人物が何なのか理解した。
 化け物ーー驚嘆をこえて恐怖として現れた感情に身を任せ、悪魔達はその化け物から目を逸らすように上へ逃げる。

「ありえない!ありえないだろ!」
「デタラメ過ぎる!何なんだよお前っ!」

 悪魔達はそう吠えながら翼を羽ばたかせ上へ登っていく、その場に残ったシトリーは逃げる仲間ためしんがりを務めようとクロムにぶつかり合う。
 負傷した自身の体、突然凶暴になった勇者、魔法は効かず、力もおそらくあちらが上、勝負になればこちらが敗北になるのは目に見えている。だが《私達》となればまだ負けていない。

(私達の最終目的は厄災魔獣の復活、勇者とその仲間達を殺すことじゃない。この異常事態を後方にいる仲間達に知らせられればまだ勝機はある。こいつをここで足止めできれば…!)

 希望を誰かに託すような気持ちで、限界を超えたような力を湧き出すシトリー。怒りも何も感じず無心で爆発的な力を引き出すクロム。互いに武器を構え、目の前に立つ敵を睨みつけ、同時に地を蹴り出した。

(私の勝負は負けても帝国の勝利は変わらない、倒れた仲間達、力に暴走する勇者、もう厄災魔獣を止める切り札は残されていない!)

 先に仕掛けたのはシトリーだ、二歩目に力強く足を地面に踏み込み一瞬にしてクロムの懐に入り込む突き技《アクセルスピア》を放った。
 彼女も勝負を諦めたわけじゃない、まだクロムに試していないことがあった。
 仲間達は魔法を使って遠距離で攻撃をしていた、その結果妙なバリアを張られていたため無効化されてしまっていた。だが武器を使った近距離戦ではどうだろうか?シトリーが振るった槍は全て剣に受け止められていた、もしそのバリアがダメージを受けない完全無敵だったとしたら剣で防御することなく身体で受け止めるはずなのだ。
 そして今の状況、クロムは後ろに剣を下げたまま走っている。狙いは胴体、防御しようにも剣が槍を受け止める前にはクロムの体を貫き、回避しようにも人間は急には止まれない物理の理論上隙を晒してしまう。たとえ物理が効かなくても、重い一撃をくらえば怯ませることができる。数十秒の時間稼ぎでもこちらに軍配が上がる。
 クロムはこの瞬間、詰みに入ったのだ。

(あなたの負けよ!勇者!)

 もの凄い速さでクロムの胴体に目掛けて槍を突く、予測通り剣で防御もできず無防備に胴体を晒している、「仕留めた」と断言してそのまま槍を押し出した。
 その時、シトリーの側で疾風が吹いた。まるで何かが通り去ったような体近くで渦を巻いた風。たった一瞬のうちに吹いたその風の正体を彼女自身理解できて理解できなかった。 

「……えっ?」

 フッと、目の前にいたクロムが忽然と姿を消した。
 マヌケな声を上げて、シトリーは通り過ぎた風の先を注視する。
 そこには…
 クロムが背を向けて走る姿が映し出された。

(避けた…!?あの一瞬でさらに加速して攻撃の射線から逃れるなんて…!)

 そう、クロムはシトリーの攻撃をスピードを殺さず体を捻らせて回避していた。それはもはや人間技なのではない、迫って来る者に対し踏みとどまることなく向かって斜め横に回避するなど常軌をいしているとしか考えられない。
 そしてその行動はまたも彼女の脳内に収まることなく動き続ける。

「何…?えっ…どこへ行く…?」

 全速力で走るその先は氷の壁、クロムはスピードを緩めることなく壁に向かって走り続けた。さっきまでぶつかり合っていたはずが、急に冷めたかのようにこちらに見向きもしない。

「そっちは壁…私を無視してあなた…まさかッ!?」

 目の前にそびえる氷の壁に足をかけたクロムは人間とは思えない脚力で壁を蹴り、上へ跳ね上がった。
 シトリーもその光景を見た瞬間、加速していた足を止め、クロムが跳ね上がった方向へ翼を広げ飛び上がった。

「ふざけるな勇者!私を見ろ!私と戦え!」

 シトリーの怒りの問いかけにまったく応じないクロム、彼が《演技》してやっていると思うと余計に腹が立ってくる。
 私達は一つ勘違いをしていた。
 その異変に気づいたのは先程の攻撃を回避した時からだった、スピードを落とさずに無茶な回避をするなんて発想、まるで相手のことなんて眼中にもないと考えない限りできない行動だ。
 誰が思ったか、勇者は暴走していると。誰が思ったか、敵味方関係なく無差別に攻撃していると。
 あの変貌具合からして誰もがそう思うことだろう、だが今行おうとしている彼の行動でそれが目的意識があるとだと察してしまった。
 クロムは我を忘れて暴走しているわけじゃない、狩るべき相手を見極める理性を持っていた。
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