推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十五話 敗北の中で消えぬ灯①

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「ハッ!」

 目が覚めると辺りは暗い空間が広がり、真っ暗な闇の中で一人の人間だけが動き始めた。

「またこの世界…いい加減ここが何なのか教えて欲しいんだけど。」

 驚くこともなくまるで常連のような雰囲気を纏い、ゆっくりと体を起こす男。クロムだ。
 彼はこの光景を何度も見ていた、変わらぬ闇、変わらぬ孤独、だが一つ変わっているとしたら…

 ーー助けて…。ーーワタシ…を…助けて…。

「またあの声か…。」

 謎の女の子の声が闇の中で響き渡る、クロムは動じることなく辺りを見渡すと闇の中でぼんやりと光る場所を見つけ、そこに向かって歩き出す。
 この闇の空間に訪れたのは三回目、そしてその光る場所だけが唯一この空間に変化が表れた鍵。
 白く光る光源、最初はぼかした光る球体にしか見えなかったのが、丸くなって座っている人の姿に映り変わり、そして今は体の輪郭がはっきりとわかるようになっていた。暗闇の中ほのかに光る蛍のような光を出している全身光源の状態だが、それは間違いないなく人間だった。

「お前は誰だ?俺に助けを求めているのか?」

 その光る人は頭を脚に埋めて座り込んでいる、体型は小柄、腕も脚も細く掴めば骨が折れそうなか弱い少女。
 少女…全身光源で顔も分からず女性特有の髪型すら不明。だが唯一闇の中で響く声の主が女の子ということで、俺の頭の中そう解釈した。

「…あー…あれ?」

 急に話しかけたせいで怖がらせてしまったのだろうか?目の前にいる少女は蹲(うずくま)ったまま声も発さない。
 考えてみれば会話も一方的でほとんど初対面な状況、しかも俺より年下の女の子にお前は誰だとか怖い質問をすれば萎縮するに決まっている。

「えっと…こういう時はどうするべきだ?レズリィだったらどうやって対処するんだ?」

 ふとレズリィが俺に向けて心配そうな表情をしている光景を思い浮かんだ。彼女は俺を治療する時、不安気ながら「大丈夫か?」と聞いていた。傷を治療するにあたっても彼女は相手の苦しみを和ませようとする心意気だけは決して怠らなかった。

「えっと…もう大丈夫だ。俺はクロム、安心しろ、俺はお前の味方だ。」

 俺は膝を折り、少女と顔を合わせる位置に置くと、不慣れながら柔らかな声を出して目の前の少女を安心させようとした。
 そして、孤独で寂しさが表れている彼女の小さな背中をさすろうと手を伸ばすと…

「それは違うんじゃないか?」

 助けを求めていた少女の声とはまるで違う、怪しげに大人びていて、性別が判別できない何かが俺の耳に届いた。

「…っ!?」

 俺は少女に伸ばした手を引っ込めると、咄嗟に立ち上がり辺りを見渡した。
 相変わらずな闇の中で黒以外何も見えるものはない、その中で一部、地面から赤い色をした煙が立ち昇る現象を目にし警戒した。
 声の主といい、立ち昇る煙には何か嫌な予感を感じずにはいられなかった。

「誰だお前、正体を現さないところを見ると労わらなくてもよさそうだな。」

 少女を守るように煙の前に立ちはだかると、剣を抜き煙の先に突きつけた。

「正体を現さないのはそこの人間も同じことだろう、扱い方が全然違くて悲しいじゃないか。」
「助けを求めてるかいないかの差だな。この世界で平然と会話しようとしてる時点で何か知っているような雰囲気もあるし。」
「そう見えたかい?まぁ、あながち間違っちゃいない。ここはお前の精神世界、そして私はお前の精神に干渉した古い記憶の人形《ヒトガタ》さ。」

 記憶の人形《ヒトガタ》と呼ばれるその煙は意外なほど素直に言葉が出てきた。敵意を感じる動きも見せず、ただ話をしに来たような、そんな気がした。

「精神の世界…古い記憶の人形…わけわからんこと口走ってるけど、この少女のことについて何か知ってるのか?」
「それはお前が強く思っている、忘れられ…忘れたくなかった魂の記憶。名前も顔も覚えていないはずなのに、その存在がいたという記憶だけは残っている。哀しき存在さ。」

 真実を聞き出せたことにようやく一歩を踏めた感じがしたのだが、支離滅裂な話の内容に頭を悩ました。
 それが面に出ていたのだろう、記憶の人形《ヒトガタ》は話を補正すべく話続けた。

「まぁ…普通はそれすらおかしいのさ、その存在がいたといっても覚えていないということは思い出すこともできないということ。だがお前はそれを必死に思い出そうとしている、いや…」

 話が途切れると、まるでこちらに指を指されているようなそんな緊張感が湧き上がる。そして記憶の人形《ヒトガタ》は…

「そもそもお前は、その存在を知っている者と知らない者とで二つが混ざりあっているとしか考えられない。」

 と言葉を紡ぐと、俺の中である一つの可能性が浮かび上がる。

「知っている者と知らない者で混ざっている…まさか!」

 今まで以上に脳が冴えて本当に自分なのか疑いたくなる、ほんの微かな発想の種がみるみる膨らみ、衝撃という芽が伸びていく。伸び出したその芽は止まることはなく俺の脳を刺激していく。

「俺自身の体は…なっ!」

 浮かんだ可能性を記憶の人形《ヒトガタ》に告げようとすると、目の前で立ち昇っていた赤い煙は闇の中に霧散していた。

「話はこれくらいだ、今の私は古い記憶から呼び出された存在の弱い魂。この場にいるだけでも場違いなのさ」
「待てよ!またお前に会えるかわからないのに、答えも残さず消えるっていうのか?」

 ぼんやりと空中に漂う煙に向かって叫ぶ、まるでお預けをくらわせられたような気分で答え欲しさにもどかしくなる。

「私がこの精神から消え失せようと、お前が解き放った力が私とお前が繋げる記憶の架け橋となる。お前がその力の全てを知ったその時…また会おう。」

 記憶の人形《ヒトガタ》は最後まで意味深な言葉を残し、煙が完全に消えると同時に声が聞こえなくなった。

「あいつの言うことが正しいなら、ここは俺の精神世界。そしてこいつは…」

 俺は座り込む少女を眺めた。
 記憶の人形《ヒトガタ》が言っていた、「忘れられ…忘れたくなかった記憶」、「覚えていないのに思い出そうとしている記憶」、一見支離滅裂に聞こえる内容だが、今の状況を重ね合わせると奇跡的にかみ合うものがあった。

 ーー俺が見ているのは、転生する前のクロムの記憶…。

 俺は現実世界で死んで、勇者クロムという体に転生した。この世界で生まれ直したというわけでなく、勇者となった時に俺の魂が宿ったということは…産まれてから勇者になるまでにはこの体の本当の持ち主である《クロム》の思い出があったということだ。
 忘れたくなかったことと、思い出そうとしていることに前のクロムに置き換えるとそれが当てはまる。この少女の存在は俺にはわからない、だがクロムにとって大事な存在なのだ。

「なぁ、教えてくれないか?君は誰だ、名前を聞かせてくれ。」

 知りたい…俺の知らないクロムの記憶を、ゲームでも知らされなかった主人公の秘密を。
 ゲーマーとしての血が騒ぐのを感じる、さっきまでの和ませようとする雰囲気ではなく、ただ彼女のことを知りたいという願望になり変わっていることに気づかないでいた。
 クロムはしゃがみ込み、少女にふれようと右手をそっと彼女の左肩に伸ばし…

 プツッ!と急に目の前が暗転した。

「ガハッ!!」

 急な暗転に驚き、俺の意識は無理矢理呼び戻された。目が見開き、自然溢れる空模様と仲間の顔が映しだされる。

「クロムさん!よかった…目が覚めて。」

 目の前には、泣き出しそうに不安気な表情を見せながらも、俺が無事なことに喜ぶレズリィの顔があった。
「あれ…レズリィ、光る人は?」
「もう!何寝ぼけてるんですか!クロムさんまた無茶して気を失っていたんですよ!」
「無茶して…気を失った…。」

 霞かかっている脳を働かせ、何が起こったのかぼんやりと思い出す。必死で何かをやっていたような気がする…無茶するほどまで体を動かして何かを追いかけていたような気がする…。
 何か…そうだ…!俺が必死になることなんて一つしかない…!

「そうだ…!シトリーは!?あいつは…!」

 シトリーを倒した感覚があまりなかった、意識が消える瞬間まで力を振り絞っていたからか、周りを確認する余裕などなく彼女が最後にどうなったのか確認できなかった。
 俺は自分の目で彼女の最後を確かめるべく横になっている体を起きあがらせようとするが…

「痛っ!何だこれ…!体全部ひどい筋肉痛をうけてるみたいだ!」

 体に力を入れる箇所全てに激痛が走り、起き上がることを断念した。いや、断念させられたというべきだろう。

「落ち着いてくださいクロムさん、あなたの体はかなりの重傷なんです。」

 レズリィが起き上がる俺の体を押さえ地面に寝かせた。彼女はそんな力を込めていないはずなのだが、押さえつける力が強く感じ起き上がる力に押し負けてしまった。
 重傷という言葉の意味をはっきり理解した、体の感覚が戻り始めると徐々に痛みがひどくなっていく。

「痛っつ~!意識がはっきりしてきたら痛みがひどくなってきた。どうなってんだこれ?めっちゃしんどいんだけど…。」
「最初見た時には衝撃を受けました、筋肉が痙攣を起こして不自然に体が震えていて、顔からは鼻血が止めどなく流れて真っ青になっていたんです。治癒魔法をかけてもまったく治まる気がしなくて…このままじゃ…」

 それ以上のことを考えそうになり、レズリィの目頭が熱く今にも泣きそうになっていた。

「ああ悪かったって!無茶しすぎたのは謝るから!俺、皆が倒れていくところを見たら急に頭に血が上って…なんていうか…」
「頭に血が上ったらあんな化け物のような戦闘をするのかしら?」

 レズリィを慰めようと必死に身振り手振りで身に起こったことを反省すると、頭の上から別な声が聞こえてきた。話の内容からして俺の話にどこか疑問を持っているようだ。

「シリアスさん、皆の容態は?」
「治療は済んだわ、もうすぐ目覚める頃でしょう。」

 シリアスという名前が聞こえ、首を上に傾けて確認しようとする前に彼女が俺の視界に入ってきた。

「起きたわね勇者、今にも死にかけだったのに話せる元気まで回復したのは驚きだわ。」
「まだ元気ってわけじゃないな、こうして喋っている間にも筋肉が悲鳴を上げてて俺も悲鳴を上げそうな気分だ。」

 冗談半分の台詞にシリアスとレズリィはフフッと笑う。

「とりあえず、その状態についても色々と話したいことがいっぱいあるから、まずは今の状況から説明するわね。」

 そう言うとシリアスは目を閉じて、しゃがみ込んだ姿勢から深く頭を下げた。

「まずは…ごめんなさい。私の判断で作戦を台無しにしてしまって。」

 彼女の突然の謝罪に俺は戸惑うが、言葉を返す前に彼女は話続けた。

「もし《第二の矢》作戦が成功していたらどうなっていたかわからなかったけど、少なくともあそこまでの被害にならなかったと思うわ。」
「かなり深刻なのか?」
「近衛隊は敵との接触が激しかったから重傷者が多数、死者もかなりいる。魔導隊は近衛隊が体を張って守ってくれたから死者や重傷者も数える程度しかいない。けど…」
「けど?」
「今から再突撃をするということになったら、私達隊員達の力は期待できないと思っておいてほしいの。」
「何かそうならざる理由が魔導隊にあると?」

 複雑な表情をしたシリアスにレズリィは疑問に感じると、俺はその答えを予想をたてて話した。

「おそらく魔導隊は疲弊している、魔法に特化した隊員達がいるなら皆持ってるはずだ、負傷者を治す治癒魔法が。」
「あっ!」

 勝手な解釈だが、レズリィも魔導隊がどんな状況なのかを理解した。

「近衛隊は死力を尽くして魔導隊を護衛した、そこで全てを出し切ってしまったから傷を癒しても反撃する余力はほとんどない。魔導隊も負傷者を治すことに力を入れてしまって戦うほどの力は残っていない。そうだろ?」

 シリアスに事の状況を予想した答えを出すと、素直に頭を縦に振り正解の意思を見せた。

「ええ…かく言う私もあの氷の壁を作ったのが最後、魔力を回復しないと戦うことすら出来ない。」

 どこか苦しそうな表情をしていると思っていたが、どうやらシリアスもガス欠寸前にまで疲弊しているようだ。
 近衛隊の被害は甚大、魔導隊も魔力切れに近い隊員が多い。相手の軍勢はまだおそらく半数ほどいるだろう、なんとかなるという数ではなさそうだ。

「それでは…今持てる戦力では、もう帝国を討てないということですか?」
 
 討てない…その言葉に追い打ちをかけられそうになったが、ある一つの光明ともいえる希望が俺の脳裏に浮かび上がる。

「いやまだだ、俺が相手していた帝国幹部はどうなった?もし倒せていたら軍の指揮系統を壊すことができるが、あいつがどうなったのか二人は知らないか?」

 そう、シトリーの存在だ。彼女が大軍勢の総指揮をとっているのなら、討ち取られたという報告は奴らにとっては最も強いダメージとなる。そんな状況下ですかさず本来の目的である厄災魔獣を復活させようと起点するのはおそらく困難、好戦的な彼らならすかさず仇討ちに移ると考えた。
 俺があの時トドメを刺したのか否かで状況は変わってくる。二人のどちらかから倒せていたと口にするのを期待していたが、二人の曇った表情は未だ消えていなかった。

「逃げられた…いや、生き残っていた悪魔に連れていかれたって言えばいいかしら。ほんの一瞬目を離した隙に彼女を持ち去られたわ。」

 シリアスの口から告げられたその内容は、倒したのか倒せていないのかわからない報告だったが、俺にとっては倒せていないことと同じことだった。

「くそっ!あと一歩届かなかったのか…!」

 悔しい…その気持ちの昂りが全身の痛みをさらに増していく。だがそんな痛みよりも、皆の期待に応えられず、戦況を最悪な方向に傾けてしまった罪悪感に胸が痛かった。

「すまない…俺の力不足で…。」

 唇を噛み締め、悔しさを表に出しながら自分の不甲斐なさを告げると…
 ばしっ、とシリアスが手のひらを振り下ろし、俺の腹に叩きつけた。

「痛っっダァァァ!!」

 服の上からであってもその衝撃は強く、痛めている筋肉が悲鳴を上げた。

「勝手に一人で背負いこむんじゃないわよ!力不足ですって?それはあなた一人に敵軍を相手にさせてしまった私達が言う台詞よ。」

 シリアスは痛みで悶絶している俺に向かって喝を入れた。彼女のそれは俺に強く当たるものではなく、自分達の不甲斐なさを責めるような言い方だった。

「そうです!クロムさんが責任を感じることではありません。戦力的にもこちらが不利なところからここまで追い込んだんです、これ以上のない戦果ですよ。」

 レズリィも元気を出せと言わんばかりに、俺がしてきた行動を称賛していた。

「胸を張ってください、たとえ負けたとしてもクロムさんのおかげで帝国相手に爪痕を残すことができたんです。誰もあなたを責めたりしません。」

 レズリィの言う通り、圧倒的に不利な状況からシトリー率いる軍勢に大きな爪痕を残すことができた。それだけでも大きな功績だ、でも…

「…それは。」

 目を固く閉じ、二人の慰めから目を背けた。
 俺が逃したこのチャンスはあまりにも大きすぎた、慰めはそれを認めさせないように隠蔽する行為でしかならない。
 誰の責任かを押し付ける話じゃない、誰の行動で命が助かったかを聞きたいわけじゃない…勝ったか負けたか、その区別をはっきり言わないと出てきてしまう。

「いや…それは違うよな。」

 ーーまだ負けていないという諦めの悪い闘志が。







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