推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十四話 舞う紅き脅威③

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「あれは…」

 俺はその人影を知っている、影のような真っ黒なフード付きのローブを身に纏い、その手には所有者と同じ長さの槍が握られている。そしてその正体を決定づけたのはその顔だった。黒いフードが飛び上がった際に後ろに下がり、中から桃色の長い髪と一緒に可憐な素顔が現れた。

「ニーナッ!!」

 空中に飛び出した彼女が何をするのかその場にいる者達はすぐに理解できた、だからこそ皆はこう思う、無理だ…絶対にありえない。と
 そんな彼らを観客に始まる、ニーナは空中を舞い始めた。二回ほど体を回転させると、槍が紫色のオーラを纏い始める。それは俺が使っていた魔導武装よりも特殊な変形も派手さもなかった。ただ言えることとすればそれは…

 ーー想像もつかない《何か》が彼女から放たれようとしてる。

「魔力解放。モード《217》。」

 ニーナは詠唱ような台詞を吐くと体を無数の降る槍の中をくぐった。それと同時に回転で利用した遠心力を力に、円を描くように槍を振り払った。

「万象魔円斬《コスモループ》!」

 ニーナを中心に紫色の閃光が辺りを覆い尽くした。それに触れたものはあらゆるを消し去るかのように、無数に降り注ごうとしていた槍が紫色のオーラに飲み込まれた。

「なっ…何よ…その出力!」

 一瞬で全ての槍を消し飛ばすという理解が追いつかない暴論に、シトリーは驚愕のあまりニーナに吠える。

「ーーっ!」

 ニーナの桃色の瞳がギロッとシトリーを睨むと、空中で魔法陣を展開させ落下する自身の身体を受け止めた。
 そして、クルッと魔法陣が上向きに移動するとニーナの身体は同時に逆さまになり、まるでこちらに飛び込んでくるような姿勢を作った。

「こいつ…!まさ…」

 シトリーがそう察した瞬間、大気の摩擦とガラスが割れるような音と共にニーナは魔法陣を蹴り出した。
 槍に纏う紫のオーラが溢れ出し、真下に佇むシトリーに目掛けて叩きつけた。

「万象撃突《コスモインパクト》!」

 ニーナの衝突により激しい衝撃波が周りを広がる、近くにいた者はその衝撃に吹き飛ばされた。

「にっ、ニーナァァ!?」

 見たこともない圧倒的な威力で叩き込んだその一撃に、俺を含め皆が驚きで何も言い表せない表情を作っていた。
 やがて衝撃波が止み、立ち昇る煙の中から一人逃げ出すように飛び出し、俺の前で倒れた。
 ニーナだった。

「はぁ…はぁ…。」
「ニーナ!」

 顔が真っ青になり、今にも死にかけそうな苦しい表情の中で彼女はゆっくりと口を動かした。

「ごめん…命…までは…。」

 掠れた声でそう言った直後、ニーナが飛び出してきた砂煙の中から地面を引きずるような足音が聞こえた。
 傷つき、可憐な姿を失ったシトリーがこちらにゆっくりと歩み寄る。
 身に纏っていた白いドレスは焼け焦げ、切り裂かれ、滑らかな白い肌が見える。左手はクロムに指を切り落とされ紅い鮮血が今も滴り落ちている。下半身もまた、引き裂かれたスカートと、中に隠れて見えなかった脚の装甲が見えていた。

「その黒い奴は脅威だってわかっていた…勇者が邪魔をしなければ今頃片付いていたのに…!癪に触るわ…!すごく…!」

 彼女もかなりの疲弊で体力が落ちているように見えた。それでも俺を睨む目は変わらず、戦う意欲を見せていた。

「くそっ、まだ戦うっていうのか…。」

 正直、ニーナのあの衝突で勝負を決めてほしいと願っていた。再びこの悪魔とやり合うのはかなり骨が折れると考えていたが、その考えは別な形となって表れた。

「「シトリー様!!」」

 周りからアルノアとコハクが足止めしていた悪魔がシトリーの周りに集まり始めた。

「しまった!」

 アルノアもシトリーの生死を確認しようと目を移していた隙を狙われ、悪魔の侵入を許してしまった。
 それに続いて近衛隊達を襲撃した者達も主のピンチに駆けつけ、シトリーの周りに続々と集まり始める。
 その数、およそ30…いや、40はいる。負傷したシトリーを相手にするだけならまだしも、複数の悪魔と相手にするとなれば圧倒的に不利となる。
 だが脅威はそれだけだけじゃなかった、その異変を遠くから見ていたシリアスはそれを感じ取った。

「戦える者全員、あの群がる悪魔達を討ち払って!幹部を回復させるつもりだ!」

 群がる悪魔の中心で淡い緑色の光がチラリと見え、その行動が治癒魔法による神秘の光だと考えた。あの主人を体を張って守る行い、それがシトリーの傷を癒そうとする信憑性を高めた。

「くそっ!」

 シリアスの声に反応した俺や、アルノア達は一斉に群がる悪魔達に向かって駆け出した。
 このタイミングで敵の一番の戦力であるシトリーを回復させられるのは非常にマズイ。ニーナが戦闘続行をできない状態、パーティー皆の疲弊、戦える限界が全員の目に見えてしまっていた。

「ブラスト《炎爆》!」
「「ブラスト《炎爆》!」」

 アルノアが放った爆破魔法は、複数の悪魔達から放たれた爆破魔法に飲まれていき、大量の火花がアルノアの体を焦がした。

「ぐぁぁぁぁ!」
「なっ!アルノア!?」

 アルノアの絶叫が響き、俺は咄嗟に顔をそちらに向けた。赤いローブが焼け焦げ、中に装備している黒いベストがボロボロになっていた。そして長らく隠し続けていた魔物の象徴である黒い角が表に出ていた。

「このぉ…!」

 それでも彼女は悪魔達に反撃しようと食いかかるが、体力の限界か力無く倒れてしまった。

「アルノアァァーー!」

 この時、自分の心配性が表に出たのがまずかった。群がる悪魔の隙間から紅い光がチラリと覗くのを見過ごしてしまった。

「離れてクロムさん!」

 その絶叫が聞こえた瞬間、俺の体が勢いよく吹き飛ばされた。いや、蹴られたというべきだろう。俺の隣に、凄まじいスピードで飛び込んだ人影があった。緑色の髪と白いワンピースの裾が宙を舞った。あれは…

(コハク…お前…!?)

 まるで時間がスローに流れていくような感じがした、足を出し、体を大きく広げた彼女は、悪魔の中から現れた紅い槍に貫かれた。
 シトリーのあの紅い槍だ、大勢の悪魔達の身体で自身のアクションを隠しつつ、外からでは見えないその凶弾を俺にくらわせようとしていたのだ。

(……あ…。)

 鮮血がコハクの身体から飛び散り、不快な音が耳に届く前に、離れた場所へ無慈悲にコハクを突き飛ばした。 

「コハクゥゥーー!」

 俺の叫びに反応せず、ピクリとも動かないコハクの姿を見て一気に自分の血が冷えていくのを感じた。

「嘘だろ…コハク…レズリィ!」

 すぐに彼女の姿を探した、コハクの治療を願おうと辺りを見渡す。
 レズリィは近くにいたアルノアの治療にあたっていた。そこには敵からの妨害を防ぐ盾役は存在せず、悪魔達にとって絶好の的のようになっていた。

「そいつは治癒魔法を使う!徹底的に潰せ!」

 一人の悪魔がレズリィに向けて攻撃を指示すると、大勢の悪魔が彼女に向かって手を伸ばした。

「やめろ!やめろぉぉ!」

 俺は咄嗟に倒れている体を起こし、レズリィのもとへ走り出した。
 だがそれを阻むように悪魔達はこちらに目掛けて魔法を放つ、たった三十メートルの道が長く感じられるほど迫る魔法の勢いが凄まじかった。

「邪魔だ!どけぇぇ!」

 俺の視界はレズリィしか見えなかった、彼女に近づくたび熱を浴びたり、腹や足に冷たい何かが刺さったりとしたが足を止めずに走り続けた。

「ウォール《遮蔽壁》!」

 レズリィは飛んでくる魔法を防壁魔法・ウォール《遮蔽壁》で防ぐ。だがそのバリアに受けている魔法の密度は俺以上に多い。
 早くレズリィの防壁魔法が壊れる前に撃っている悪魔達を倒さなければ…!俺よりも沢山の魔法をくらって踏ん張り続けている彼女をこれ以上見ていられなかった。

 ピシッ…!
 障壁にヒビが入った。

 ダンッ!
 俺は足が地面にめり込むような勢いで踏み込み、一気に悪魔達がいる場所に飛び込んだ。

「スラァァァシュァァァァ!」

 横一振りに鋭い斬撃を放つ《スラッシュ》を轟く叫びと共に繰り出した。シリアスにかけてもらった魔法でバフがかかり、速く、そして力強くなったその斬撃は滑空しながら端から端までにいる悪魔達を斬り裂いた。
 大きく、長く、一振りで斬り終えてもその勢いは収まることなく、俺は地面に転がり倒れた。
 耳には悪魔達の痛々しい叫び声が聞こえてくる、魔法を撃ち出すような神秘的か音はパタリと聞こえなくなった。

「奴らの攻撃を防げた…前衛を潰せばこっちに攻撃が流れてくるはず!」

 俺はすぐ立ち上がるのと同時に両足を地面に滑らせながらレズリィのもとへ走ろうとした。
 …が、そんな必死な行動は目の前で倒れている人物を見かけて冷め切った。

「…は?」

 俺は目を見開いて、今見ている光景が本当なのか整理していた。だが恐ろしく冷静になった俺の頭は一つの答えを告げていた。

 ーーレズリィが倒れている…アルノアに覆い被さりピクリとも動いていない。

「れっ、レズリィ!しっかりしろレズリィ!」
「死んだよ、見てわかんないか?」

 必死に彼女に向かって声をかけている俺に目掛けて冷たい言葉を隣で言い放った。
 俺はゆっくりと無言でその言葉を発した悪魔に顔を向けた。

「はん!キレるか?お前達のせいで何百って数の仲間が死んだんだ。たった一人や二人仲間を失ったお前とは、ため込んでる怒りが違うんだよ!」
「ぷっはっ!あいつ泣いてるぞ!仲間が死んで悲しいか?とんだお子ちゃま勇者だなお前は!」

 悪魔達は立ちすくんでいる俺をゲラゲラと笑い続け罵った。仲間を守れなかった雑魚、自分達に手も足もでない弱虫、見ていることしかできない馬鹿と言いたい放題だ。

「……。」

 俺はそんな性根の腐った奴らを前に、何も言い返すことなくただそいつらの足もとを無意識に眺めていた。
 仲間を一気に失った絶望感、それはゲームとはまた違う「本当の損失」という精神的ダメージを負う。失ったものはリセットされない、築き上げてきた大事なものは壊されたまま。
 ぽっかりと穴が空くとはこういうことだろう、そこには声にならない哀しみが込み上げていた。

 ピシッ…!

 俺の中で何かに亀裂が走ったような音を立てた。そこから出てくる黒い煙が俺にまとわりつくようにどんどん体を黒く染めていく。
 煙が背中をよじ登り、やがて首筋、下顎と徐々に伸ばしていき、自身の両耳を覆い尽くすと妙な声が耳を通して頭に入り込んできた。

 ーー今日がお前にとってどんな意味をもっているのかを、この先ずっと記憶に残していかないといけない。

 機械音声のような一定した高さを維持したまま話続ける女性らしき声が頭にこだまする。

 ーー感じろ、お前の中に流れる血は何を欲しているか?いつまで今の体で楽しんでいる気だ。

 何度も音が反響する気持ち悪い空間に立っているような気分で咄嗟に俺は耳を押さえる。だがその声ははっきりと俺の頭の中に入りこみ話し続ける。

 ーー壊せ、喰らえ、そして自分の力に快感を覚えろ。弱い自分とはここで決別だ、ここからの世界は…

 気づけば黒い煙が体全身を覆い尽くしていた、もう何も見えない、もう何も感じない。
 自分がやるべきことはなんだったか?もう考える力も残っていない。
 俺は全身の力が抜けていくのを感じて、真っ暗な闇の中に身を委ねた…。

 ーー選ばれた者達の領域だ。

 ーーー。
 ーー。
 ー。

「うっ…!」

 群がる悪魔達から笑みが消えた。奇妙な殺気が辺りに立ち込め、彼らから余裕という感情を消し去った。

「おい…おい…なんで体が…震えてんだ?」
「心臓が苦しい…何だよ…何なんだよこれ…!」

 体中から冷や汗が流れる、心臓が耳に響くほどに鼓動が激しくなる。彼らはそう自分の不調を口にするが、誰しもその原因を話すことはなかった。
 ありえないからだ、膨れ上がる殺気の発生源がさっきまで罵っていた勇者からだということを。認めたくないからだ、自分より強い人物に恐怖し萎縮しているということを。

「……。」

 目の前に佇むクロムら下がっていた顔をゆっくりと上げる、そこには喜びも悲しみも怒りもない不気味な無表情を作っていた。そして、彼の勇気と諦めない心を宿すような綺麗で輝く青い瞳は、真紅に沈むような狂気的な緋色に移り変わっていた。

「怖気ないで!全員で叩きなさい!」

 クロムが何かしらの動作を起こす前に、中央で彼らに守られているシトリーは彼らの緊張感を吹き飛ばすよう声をあげた。
 殺気で押しつぶされそうになっていた彼らはその声で呪縛が解かれ、全員慌ててクロムに魔法を撃ち出そうと構えた。
 だが…コンマ数秒遅かった。

「は…?」

 一瞬にしてクロムは悪魔達の目の前に飛び込んできた。突然現れたことで彼らは戸惑いの声をあげる中、クロムの右手に持った剣が左から右へ横薙ぎに振り払った。

 ザァァン!!
 斬りつけるような音とはまるで違う奇怪な音と共に、クロムの前にいた悪魔達が真横に切り飛ばされた。

(今…何をした?前にいた仲間が吹き飛ばされて…)

 シトリーは宙を舞う仲間達を目に一体何が起きたのか情報を取り入れようとした。一瞬見えた悪魔達の身体は斬られたというより引き裂かれたというのが正しいだろう、宙に吹き飛んだ悪魔達はどれも抉られたような傷跡を残し…

「……!?」

 そして、あっけなく塵へと化した。

「うっ、撃て!シトリー様を守れ!」

 前方の数名が虚空へ散ったのを見て、我に返ったように悪魔達はクロムに目掛けて魔法を一斉射撃した。

 ズダダダダダッ!
 多種多様な魔法がまるで機関銃のような勢いでクロムに撃ちつけられる。並の冒険者なら塵も残さず黒焦げにされてしまうことだろう、撃ち込んでいる悪魔はようやく殺せたとそんな自信を持っていた。
 だが…そんな希望も容易く一瞬で叩きつけられる。

 ザァァン!
 再び奇怪な音を流し、一番クロムの近くにいた悪魔達はさっきとは反対方向へ切り飛ばされた。
 驚くべきことに、クロムは左右どちらかから仕掛けるわけでもく魔法が集中している正面から斬りかかってきたのだ。

「……!?」

 吹き飛ばされた者達は叫び声を発する間もなく、宙に浮いたまま塵へと化して消えていった。

「撃て…撃て!撃つんだ!ありったけの火力をぶつけろ!これ以上シトリー様に近づけさせるな!」

 シトリーの前に何人もの悪魔が壁となり、一斉にクロムに目掛けて魔法を放った。
 火球、氷塊、雷、色々な魔法を撃ち込んでいるはずなのだが、その全てがクロムに触れる直前で消えてしまっているかのよう、彼の身体に全くダメージが通らない。

「何だこいつ!これだけ撃ち込んで何で平気でいられるんだ!」

 悪魔達の顔はもはや焦りより恐怖という色に染め上がっていた。異常、狂気、どの言葉で当てはめたらいいかわからないほど目の前に立つ人間が理解できない存在だった。
 倒れない…薙ぎ払った後にもう一度構えようとしている。
 止まらない…ゆっくりと剣を後ろに振り、大きく薙ぎ払う準備が整った。
 これ以上は…

「…駄目だ!退がれ!」

 シトリーは彼らの限界を悟り、目の前のクロムから遠ざかるよう叫んだが…

 ドガァァ!
 暴風のような空気を切り裂く音と共に目の前に立っていた悪魔が上へ吹き飛ばされた。
 まるで分厚い壁が破られて自分の世界へ入り込んで来るかのよう、クロムの剣を振り上げた姿にシトリーは体が激しく強張るのを感じた。

「何なのよあなた…こんなの無茶苦茶じゃない!」

 震えた叫びで今のクロムがどうなっているのか問いただすが、彼は口を開く事なく無言でシトリーを見ていた。それの見た目は化け物とは程遠かった。異形になってる形跡はなく、鋭い牙や爪もない、そこらの街にいそうな一般人でしかない。
 …全てに興味など湧かない狂気的な紅い目を孕んでいなければだが。

「チッ、リミッターが壊れたのね。私達はとんでもないモンスターを外に出してしまったようだわ。」

 シトリーは息を整え、片手で槍を構える。両手で槍を支えないと不安か、今までのダメージが消えていないのか、彼女の持つ槍が少し小刻みに揺れていた。
それでも彼女は怯むことなくクロムに向かって一歩踏み出した。

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