推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十六話 勝てないと知ってでも①

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 ーーパンデルム遺跡・第3階層

 シトリー率いる全軍が遺跡外に配置され、薄暗く不気味な空間が広がる遺跡内部。

 ドガァァ!

 フロアに鈍い振動が起こるのと同時に、天井から二つの影がガレキと共に落ちてきた。

「ぐっ…!このぉ…!」

 顔を地面に押し付けられ声をうまく発せない人物と、その人物を組み伏せ余裕な笑みで見下すように見ている悪魔がいた。
 シトリーの側近についているヒズミと、レズリィを主人に付き添う元幹部のセーレだった。

「人間のくせによく頑張ったほうだわ、ここまで粘れるのはシトリーとの忠誠心からかしら?」

 セーレは本調子ではないような不満気な表情をして、そううそぶいた。

「黙れ!」

 武器を持つ手を押さえられたヒズミは片方の空いた手でセーレの体に触れて魔法陣を展開し、即座に火炎魔法を撃ち込んだ。が…
 バサッと、セーレは翼を羽ばたかせ横へ飛んだ。その際、魔法で作られた火球はセーレの体をかすめ天井に当たった。

「その不意打ちは経験してるのよ、ちょっと最近にね!」

 セーレは空中で体を自在に動かすと起き上がろうとするヒズミへ瞬時に近づいた。

「くそっ…!」

 ヒズミは咄嗟に持っている曲刀で防御するが、セーレの重い蹴りが腹部に直撃し壁際に蹴り飛ばされた。

「ぐっ…!おぇえ!!」

 腹部の圧迫に胃から込み上げてくるものを口から吐き出し、荒い呼吸をあげ続ける。
 目の前の悪魔は攻撃意思を見せない、もう決着はついたと勝利の余裕を見せている。

「綺麗にみぞおちに入ったわね、お腹に力が入らなくて立てないでしょう?」

 セーレの声には耳を傾けず反撃しようと体を起こそうとするが、体に蓄積された疲弊と怪我でうまく立てずにいた。
 ことの状況になったのは少し前、シトリーが巨大火球の対応に遺跡から飛び出した後、その場に残ったセーレがシトリーを追わないように自身が彼女の前に立ち塞がった。
 シトリーとの戦いで胸の刺し傷と右手から流れる血が見られ、手負いの状態からヒズミはセーレに戦いを挑んだが…

 ーーそれは、万全ではない状態なら勝てるという慢心の恐ろしさを教え込まれたような戦いだった。

 セーレは魔法による遠距離攻撃は使用せず、超近距離で攻める拳闘士スタイルで自身を殴り続けた。
 一発の打撃が相当高いのは地面や壁の壊れ模様で察したが、一番厄介なのは彼女のスピードだった。
 0からMAXへの瞬間加速とMAXから0への瞬間減速、翼と脚力を活かしたその俊敏性な動きは考えて行動していたら間に合わない。
 実際、突進してくる彼女を剣で突こうとしても瞬時に体を急停止させ、切り返してから再び突進してきた。一見戸惑って足を止めているように見えるが、彼女にとってそれはどこに飛ぶか判断《ジャッジ》するための考える時間でしかない。
 そうして何度も攻撃をかわされ、何度もカウンターをくらい続けたせいか、自分の着ている黒いコートやシャツは血や砂埃で汚れている。その服の下は裂傷や青タンが痛々しく至るところに出来ている。魔物と違い人間の体だ、痛みの原因が少しでもあるだけで動きに支障がでる。

「まだだ…お前を…行かせるわけにはいかないっ…!」

 ヒズミは壁にもたれつきながら懸命に立ち上がろうとする、正面から戦っても勝てる相手ではないことはよくわかった。だが自身の目的は彼女を倒すことじゃない、できる限りここに足止めをさせることだ。

「お終いよ、お前とのじゃれ合いのせいで時間をくった。立つだけで精一杯のサンドバッグを叩くほど私は暇じゃないの。」

 セーレは嫌悪感を抱くようなしかめた表情をしてそう言う。もはや戦えるような状態ではないのにまだ抗おうとしている彼の姿は、どことなくクロムに似ている。
 正直言って面倒、相手にするだけで不快に感じて仕方ない。

「何度も何度も立てないくらいに叩き込んでも立ち上がるその鬱陶しさ…あの勇者とよく似て面倒なのよ。」

 そう文句を垂れると、セーレはヒズミを背に立ち去ろうと翼を広げた。

(駄目だ…奴を行かせるわけには…。)

 前にも同じようなことがあった気がする…勝てないとわかってでも目の前の状況を変えようと飛び出そうとする癖。
 駄目だとわかっていても手を伸ばしてしまう、この先にお嬢様がいると考えれば居ても立っても居られないからだ。

「待てよ…!」

 体に鞭を打ち、ヒズミは手を伸ばしてセーレを止めようと彼女の肩を掴もうとした。それと同時にセーレは地面を蹴り出し素早く前に進み出す、自身の手を伸ばすスピードではあと一本肩には届かないと諦めかけていたその時、何かに触れて咄嗟に掴んだ。

「んぎっ!」

 突然セーレは妙な喘ぎを発し、体が痺れたかのような捻り方をして足を止めた。
 ヒズミは自身の手元を見ると、彼女の翼の付け根を掴んでいた。彼にとって良くか悪くか、彼女の敏感な部分を触れたことで足止めにはなった。

「お前…よほど死にたいらしいわねっ!」

 セーレの眼に浮かんだ殺気が一際強まった、彼女にとってこの行為が(面倒)から(殺す)ことへと切り替わった瞬間だった。
 彼女は体を即座に反転させ、翼を持ったヒズミの手を払い除けたのと同時に彼の頭を鷲掴みにした。

「がっ!」

 女の子の手とは思えない巨大な金属の手は顔の全てを覆い、硬い指が肌に食い込む痛みを感じながら必死にヒズミはもがいた。
 そして、セーレは力強くヒズミの頭を何度も壁に叩きつけた。

「死ね!死ね!二度と!私の!後ろに!立つな!」

 彼女の怪力により彼を叩きつけた場所が激しくめり込んでいる、普通なら死ぬところだろう。だがセーレは妙な違和感を感じた。
 自身の手を引き剥がそうとする彼の手が弱まらない、そして何より叩きつけた箇所から血がまったく出ていない…。
 今の彼には攻撃が届いていないように見えた。

「止めるっ…!勝てる勝てないじゃなく…一番厄介なお前を軍に…お嬢様に…近づけさせないように死力を尽くすしかないんだ…!」

 叫び混じりにヒズミの決死の覚悟が沸々と湧き上がるのをセーレはその目で感じていた。
 あぁ…本当に嫌だ、嫌な気分だ。この覚悟を力に変える様子、本当にクロムとそっくりで不快な気分だ。

「ちっ!」

 セーレは腕に力を込めてヒズミを道の奥に投げ飛ばした。その際、頭を潰すような握力で握ったはずだったが…

「フゥゥゥゥ…!フゥゥゥゥ!」

 ヒズミは体を翻して体勢を戻し着地した。
 鋭い呼気を吹き、闘争心を剥き出しにした獣のような立ち姿。血が沸騰しているという言葉が合ってるのか、皮膚が少し赤みがかっている。
 赤といえば眼もその色に染まっていた。充血しているわけじゃない、瞳が赤く、薄暗い場所で目立つように光を帯びている。
 果たしてこれは人間と呼べるのだろうか?いや、一人合致する者がいた。

「あいつといい…お前といい…何で急に化物みたいに化けるのかしら?ほんと…」

 思い出す、ゴブリンの集落で豹変したクロムの姿を。人間の形を維持したまま狂気に戦うあの姿はまさしく手に負えないという一言に尽きる。
 もし彼も同じ境遇に至ってしまったとしたら…

「大概にしてほしいわ。」

 セーレの表情が余計な感情を捨て去る無へと変わる。もう彼を雑魚とは考えない、脅威となる敵と認識し集中力を研ぎ澄ませた。

「氷撃《プロズレイ》!」

 足を床に踏み締めセーレは地面に魔法陣を展開した。それと同じくしてヒズミは力強く地面を蹴り出し、低い姿勢を維持したまま加速する。
 その道中、セーレの氷結魔法により地面から伸びる氷柱を掻い潜り、腹を蹴られた際に手放した曲刀を拾い上げると、そのままの勢いでセーレに素早く突進した。

(豹変したっていうのに馬鹿正直に正面から突進してくる?そんなわけないでしょ!)

 そう予想した矢先、ヒズミが仕掛けた。
 距離にしておよそ大股で5~6歩ほど、どこに避けるか判断《ジャッジ》する時間は十分ある。
 だがそんな考えは通用しなかった、ヒズミがその距離を低く滑空するように一瞬で距離を詰めてきた。
 この突然の加速力…シトリーが使用する《アクセルスピア》と似ていた。

 ガァァン!

 ヒズミの加速を活かした突き技をシトリーはほぼ反射的に両腕を合わせて防御した。ヒズミの攻撃は先程よりも速く、そして…

「こいつ…!やっぱり…!」

 曲刀がへし折れるのではないかと思われるほどに、刀身一点にかかる力がとんでもない威力だ。このまま受け続けてしまえば押し切られることだろう。

「面倒だけど…こいつを黙らせるには…」

 そう小さく呟いた後、ヒズミの雄叫びと共にセーレは後方に飛ばされた。それに後を追うようにヒズミも直走る。
 迷路のような小道で二人の衝突が何度も起きる。セーレは壁や床を蹴り出しヒズミの間合いから逃れようと勢いをつけて飛行しているが…

「ちっ…自分の攻撃力を足に移して加速力を上げている!」

 突き放せば2秒もかからない内に追いつかれる、そして繰り出す技を回避や防御をすると飛行する勢いが無くなり一気に減速する。
 豹変したヒズミの速さはさっきの比ではない、少し鈍くなった瞬間を狙って脚や翼といった移動をメインとする箇所を集中的に狙っている。

(粘れ…!食らいつけ…!奴を少しでもここに留めさせろ…!)

 呼吸が苦しい…人間の運動量をとうに超えて体中が悲鳴を上げている。
 受けた傷が強く滲み出て痛い…止まってしまえば反動で更なる激痛が襲いかかる。
 すべては彼女をここに足止めさせるため。目の前の悪魔は自分の攻撃についていけず防戦一方で逃げ続けている、こんな好機二度とやってこない!ここでやらなければもう後がない!

「もっと上がれ!俺の内なる力《ボルテージ》!」

 まさに無我の境地と言うべき、目の前の敵だけしか見えていない超集中状態。曲刀を振る速度が上がり、一太刀の威力が壁を抉り出すようような強撃へと化けた。

「ぐっ…!」

 さすがのセーレも焦りが募っている様子だ。魔導武装《黒腕》を発動し斬撃の威力をカバーしているが、相手の風を纏う魔導武装がセーレの防御をすり抜ける。顔や脇、翼や脚などに細かく切れ込みを入れるように風を使った真空刃がセーレの徐々に追い詰めていく。
 の筈だが…

「ははっ!」

 どういう気持ちを表しているのか、目の前の悪魔は笑っていた。精神が狂ったような壊れた顔じゃない、勝ち誇った余裕の顔だ。

「っ…!?」

 ヒズミは一瞬戸惑った、今この状況下で優勢なのは間違いなく自分のはずだ。それをわかっているのは相手も同じなはず、不気味で仕方ない。

「お前は強い、これが一騎打ちの戦いだったらもしかしたらいい勝負になっていたかもね。」

 意味深な台詞を吐くと、セーレはヒズミの曲刀を捉えて掴んだ。ヒズミはすぐに振り払おうと腕に力を込めて壁に叩きつける勢いで振るった。
 その一瞬のことだった、ヒズミが一番強く力が乗った瞬間にセーレは曲刀に足を乗せた。

 ーー悪いけど…それはそれ《一騎打ち》、これはこれ《逃走劇》だから。

 ヒズミが腕を振り下ろすのと同時にセーレは勢いよく飛び出した。ヒズミの力を借りて生み出したその勢いは今まで以上の速度を出していた。

「ありえない!振り下ろす腕の力を利用した射出飛び《カタパルトジャンプ》だって!?」

 あの一瞬で自分の力を利用するという神技に驚くが、ぐんぐん距離を伸ばす彼女を見てすぐ我に返り、急いで彼女を追いかけた。
 唯一救いだったのはこの階層は曲がり角が多く、方向転換する時はどうしても減速してしまう。セーレは曲がり角に入った瞬間、体を丸めて曲がりたい方向に体を向けバネのように足で壁を蹴り出して進んだ。
 明らかに距離が縮まっている、ヒズミも後に続くように曲がり角を曲がると、一番見たくなかった光景が目に映った。

「しまった…階層を行き来する穴!あれが近くにあるとわかってスパートをかけたのか!」

 彼女にとってのゴール地点、ここから上に飛べば第一階層にすぐ辿り着く。
 負けだ…どんなに速い足を持っていたとしても縄梯子を切られたりでもしたらお終い。飛行能力を持っている彼女の前では上昇という動作はそちらに軍配が上がる。

「くそっ…!俺の方が勝ってたんだ!勝ってたのに…!あとほんの僅かの差で…!」

 歯をギリギリと鳴らし、駄目だったと自分を責め立てる。その気持ちは足にも届き、力が薄れていくのを感じた。
 だがそんな時…諦めていたヒズミの目に少しだけ光を取り戻す出来事が起きていた。
 セーレが飛びあがろうとしていない、翼を異常なまでに羽ばたかせて飛行を維持してるように見えた。
 まるで…初めて空を飛ぼうとするひよこのようだ。

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