推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十五話 敗北の中で消えぬ灯③

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「あれは…神巫の巫女!サギリ!」

 シリアスが目の前から歩いてくる人物の名前を呼んで、レズリィは唖然とした表情で聞き返した。

「嘘っ…!あれが…神巫の巫女アマツ・サギリさん?」

 一瞬レズリィは目の前の人物が英雄と語られた人物だとは思わなかった。20年前の帝国との戦争以降滅多に姿を現さず死亡していると語られていた人物が…クロムの誘いを断り、厄災魔獣復活阻止の計画に参加しなかった人物が…まさか目の前に歩いて来るとは予想もしていなかったからだ。
 だが一人…なぜ今になって来たのだと、そう違う驚き方をしていたシリアスは咄嗟に起き上がり、昂然とした歩調でアマツに歩み寄った。

「サギリ!あなた一体どこへ!?最初からあなたが戦っていればこんな…」

 アマツに掴み掛かる瞬間、ぴっ…とアマツの指先がシリアスの唇に素早く触れた。

「うるさい。」
「っ!?」

 シリアスはその指をすぐ振り払い、アマツに再び問い詰めようとした時、シリアスは開こうとした口にある違和感を持った。
 針だ、複数の赤く小さな針が上下の唇を縫い付けており、まるで接着剤でも塗られているかのようにぴったりとくっついていた。

「んーー!?んーーんー!んーんーー!」(何これ!?口が開かない!私に何したのよサギリ!)

 口封じされながらもアマツに食いかかろうとする姿勢は止まらず、アマツに触れようと前に歩き出すが…

「聞き飽きてるのよ、あんた達のような人任せなやり方は。」

 アマツはシリアスを横切るのと同時に捨て台詞を吐き、指先を彼女に向けて上から下へ振り下ろした。

「っ!?」(なっ!今度は足が!?)

 今度はシリアスの足が地面にくっついたかのように身動きが出来なくなってしまった。話すことも歩くことも封じられた彼女は、側から見るとパントマイムをしているように必死にもがいている様子が目に映る。

「一体どうなって?シリアスさんの様子がおかしくなっています。」
「あれは封針《ふうしん》だな、ダメージはないけど一時的に相手の動きを封じる針を刺す攻撃だ。」

 俺はゲームで見てきたアマツの縛り攻撃をレズリィに説明した。ゲーム内のイベント戦や会話などでアマツの攻撃を知り得た情報だが、実際に見ると恐ろしい技だ。初見でくらえば何もさせてもらえない、しかも針の太さは極細、投げる動作があってもその針を見つけ出すのは容易ではない。

「あんたが今代の勇者ね、私に啖呵切っておいてその無様な姿は何かしら?」

 アマツは、ニーナに支えてもらいながら上半身を起こしているクロムに向かって見下すように言葉を発した。
 その言葉に反応したニーナは仮面越しから鋭い呼気を吐き出し、まるで威嚇するような様子を見せた。

「やめとけ、妙な争いで関係性を崩したくない。」

 ニーナの背中をグイッと掴み、手を出そうとする彼女を引き止めた。
 正直俺もカチンとくるところはある、だがアマツは人との関係性を何年も絶つほど相手と仲良くなどできない性格をしている。いくら反論したところでその倍以上の論破で返してくる、最初の会話がいい例だ。だからこそ俺は…

「大勢の悪魔達から仲間を守った名誉の代償だ、こう見えてアマツ抜きでかなりの帝国軍を倒したし、幹部も退けた。これでもまだ無様って言えるのか?」

 アマツと同じ立場で物言うことにした。彼女が欲しいのは神巫の巫女の力に頼らず成果をあげる自分達の力量、今回の戦いの件で俺達はそれを少なからず達成した。
 アマツもそれをわかってくれる、そう考えていたのだが…

「そうね…。」

 そう一言そう呟くと、アマツは予備動作なしに腕を素早く振り上げた。その最中、手に持っていた極細の針を手放すと一直線に俺の胸に目掛けて射出され、避ける間もなく刺された。

「えっ…?」

 胸を押されたような感覚を感じ顔を下に向けると、黄色の針が身体を突いていた。そして、自分が刺されたことを認識すると、急に頭の中が霞がかかり一瞬で意識を手放した。

「クロムさん!!」

 レズリィの叫びはクロムに届く事なく、力なく後ろへ倒れた。
 ニーナは倒れたクロムの体を見てようやく状況を把握した。突き刺された針は心臓の位置を示している、目の前にいる巫女が針を投げて殺したのだと。

「お前っ!クロムを!」

 そこからの行動は早かった。すぐ手元から槍を召喚し、アマツの首筋に目掛けて横に薙ぎ払った。

 パキィィン!
 硬い金属が互いにぶつかり合う高音の金属音が鳴り響く。ニーナの槍はアマツの首筋手前で止まっており、彼女が唱えたであろう防壁魔法により四角形の小さなガラスに受け止められていた。

「このっ!」

 ニーナはすぐさま槍を引き戻し、アマツの胴体目掛けて連続で突いた。だが結果は同じく突こうとしていた場所に小さなガラスが現れ、それに何度も受け止められていた。まるでアマツを取り囲む大きなガラスを張っているようだ。

「その相手を尊敬せず、同じ立場のように接してくる態度…あいつとそっくりで鼻につくのよ。でもあいつと違ってかなり弱いのよねあなたは。」

 アマツは仰向けに倒れたクロムを見ながら抱えた気持ちを吐露した、それを聞いたニーナは今までにない緊張感が溢れ出した。

(この人…!私を見ていない!?知らぬふりして話を進めてる!)

 お世辞とはいかないが自分の強さはよくわかっているつもりだ。クロムも強いと言ってくれたし、あの悪魔も自分を危険視していた。
 だからこそこんな反応は初めてだった。命を刈り取ろうとする状況の中で、まるで子供のじゃれ合いに面倒くさがるように小馬鹿にしてくるとは。

「こっちを見ろ!お前の相手はこの…!」

 ニーナは大きく槍を引き戻そうとしたその時、アマツは左腕を振り上げニーナの体に封針《ふうしん》を打ち込んだ。
 一瞬の速技でニーナは避けようとするも反応しきれず、腕や脚に封針《ふうしん》が刺さり、その部位が石になったように動かなくなった。

「話の邪魔だから少し大人しくしてくれる?今話してるのはあんたじゃないのよ。」

 アマツはニーナの胴体を軽くトンッと押すと、腕と脚の形を維持した変な状態でニーナは地面に倒れた。

「うぐっ!」

 あのシトリーと互角に渡り合ったニーナが、ほんの1分ほどで行動不能になってしまった。その実力を間近で見ていたレズリィは、倒れているクロムに近づくアマツの前に恐怖を滲ませながら立ち塞がった。
 
「待ってください!どうしてですか!クロムさんは怪我をしてるんですよ!人間達を守る側のあなたがなぜ!?」

 口に出た言葉に不安がよぎる、自分は間違ったことを言っているのだろうか?自分は彼女に失礼なことを言っていないだろうか?アマツから発せられる何とも無感情な眼光は、思考を読むことさえできない。何を考えているかまったくわからないのがレズリィが感じる恐怖だった。

「は?何を言ってるのあんた、変な勘違いで妙な気を起こさないでくれる?」

 レズリィの目の前でアマツはゆっくりと手を前に動かし始める、こちらにも体を封じる攻撃を仕掛けてくると察したレズリィは倒れているクロムを庇うようにアマツに背を向けて彼に治癒魔法を唱えた。
 せめて彼だけでも無事であってほしいという切望からか、何度も彼の名前を慌しく呼びかける。

「クロムさん!しっかりしてください!クロム…」

 と、彼を呼ぶ名前が途切れる。レズリィの手を払いのけ治癒魔法を中断したクロムの姿に驚いていた。

「心配すんな…一瞬意識が飛んだだけだ…。」
「クロムさん!!」

 寝起きのような掠れた声を出しながらムクリと起き上がり、疲弊した表情を見せた。レズリィはクロムが無事だったことに安堵し、払いのけたクロムの手を握って脈打つ鼓動を感じていた。

「はぁ…やっぱり。私は話を持ちかけただけで、殺すなんて一言も言ってないわよ。」

 アマツは呆れた口調でレズリィの隣で膝をついた。身動きが取れなくなった二人もいつの間にか硬直が解けた、すぐさまニーナはアマツに食いかかろうと飛び出すが、彼女からは悪意がまったく感じられず振り上げた自身の武器をゆっくりと下ろした。

「クロムが生きてる!?レズリィが治したの?」
「いえ、これは一体…」

 刺された針は未だクロムの胸の位置にあり本来なら致命傷なところだろう、だがクロムの様子はさっきまでより生気を取り戻したかのように生き生きしている。これは自分の回復の効果ではないと断言できても、レズリィは今のクロム状態がどういうものなのか言葉にすることができずにいた。

「ほら見ろよ、最初に説明してなかっただけで皆混乱してる。何でこんな事したのか答えてくれよアマツ。」

 クロムの問いかけにアマツは面倒くさそうな表情をして渋々答え始めた。

「あんたから魔力がまったく感じなかった、自分の体調も分からず何が名誉の代償よ?魔力があればまだ戦えるでしょう。」

 そう言うとアマツは、俺の胸に刺さっている黄色の針を何の躊躇もなく引き抜いた。
 俺もレズリィも突然の出来事で「あっ!」と驚く声をあげた。自分の技だからとあっちは理解しているつもりのようだが、言ってくれないと刺さっているものを引き抜くという心の準備ができなくなる。

「これは陽針《ひばり》、自身の魔力を針に流し込んで相手に魔力の回復を与える技。一瞬意識が飛んだのは、カラカラになった体に魔力を一気に流し込まれてびっくりしたからよ。」
「びっくりしたのはお前の行動もだよ、自分ばかり納得してないでもうちょっと会話するのを覚えない?」(俺が言う立場じゃないけど…。)

 隣でレズリィがジトっと半眼でこちらを見ているのを感じつつも、アマツに会話の大切さを話すが…

「っていうか神官。」
「無視かよ!」
「あんたも治療する側の人なら傷を癒す以外のことを考えてみたのかしら?サポートする人を慰るだけが務めじゃないのよ。」
「す…すみません。」

 俺の会話に聞く耳も立たず、アマツは突然レズリィに叱りつけた。あまりの突然さにレズリィも咄嗟に腰が引けた。

(この人…欠点を指摘してくれるのはありがたいけど、人と接することを極力避けて…いや、人を信用していないような感じが会話から感じる。)

 クロムとはまた違う、自分で行動するという強い思いがレズリィに伝わった。
 自分の意見を決して曲げない断固な意思、経験からものを言っているようだが明らかに自分達とは別世界で生きてる存在がした。
 仲間ではなく自分の力しか信用しないその思い、絶対的な力を持ってるという自信が溢れていなければできないことだ。

「まったく…あんた達、少し数を減らしたくらいで勝ったようなやり切った顔してんじゃないわよ。まだ帝国は死んでないし厄災魔獣も復活を抑えてられていない、それらを全部私に押し付けるなんて絶対に許さないから。」

 アマツは立ち上がり、戦意喪失気味な皆にもう一度戦えと自分なりの口調で喝を入れた。
 そんなの無茶だと普通なら言うところだろう、だが彼女を前にそんな言葉は不要だと感じされられる。彼女がいれば負けなどありえない、そんな威厳が感じられるからだ。

「あんた達もさっさと起きなさい、支度ができるまで待ってあげるほど私の気は長くないわよ。」

 そう言うと白い着物の懐から二本の針を出し、自身の魔力を込めた陽針《ひばり》に変えた。そして向こうで倒れているアルノアとコハクに向かって針を投げて刺すと、

「ハッ!あれ…私は…!」
「あぁぁ…くそっ!一体いつ頃から倒れてた?」

 心臓に電気が走ったようなショックで二人は目を覚ました。コハクは突らぬかれた自身の体を咄嗟に触れて何もない事に安堵し、アルノアは寝起きで働かない頭を起こしつつ周りを見渡した。

「なっ…!神巫の…巫女…!」

 目の前に立つ白い着物姿の女性に、王国で見た見聞の巫女姿と重なる。見聞では悪魔の存在を許さない思想をしており、出会う悪魔を躊躇いもなく屠ることから悪魔祓い《デビルキラー》とも称されるほどだ。
 そんな彼女から無慈悲というべき光のない眼光がアルノアに向けられた。自身の姿が悪魔であるアルノアは本能的に殺されると感じたのか、自分の素顔が露わになっていることに気づくと悪魔を証明する角を隠すように素早くフードを被った。

「アルノアさん…あっ!違います巫女様!これは…!」

 アルノアの異常な恐怖を隣で感じとったコハクは、飛び起きてアルノアを守るように前に立った。
 その決死な姿を目にしたアマツは、コハクが余計な心配事を考える前に首を横に振って、やる気のない否定的な対応をした。

「そんな人を邪険にするような目で見ないで、事情は里長から聞いたわ。あんたは特別に生かしてあげる、感謝なら里長に言いなさい。」
「里長が?」
「あんた達を助けてほしいって私に頭を下げにお願いしにきたの、大体の事情やあんた達のことはそこで聞いたわ。」

 フォルティアが俺達のためにアマツのもとに行ってきたという事実にこの場にいる皆が驚いた。
 作戦会議ではそんなこと一言も言わなかった。フォルティアも薄々わかっていたのだろう、会議で考えた作戦はあまりにも効果が悪いことを。そんなことを隊を束ねる首領が言ってしまえば皆の士気を落とすことになってしまうから。
 結果としてフォルティアの采配のおかげで敗北という形にならずに済んだ、来てくれたアマツと同じく感謝してもしきれないほど二人には返し切れない恩ができてしまったようだ。

「そうだったのか…本当に助かるよ、アマツが来てくれたら…」
「あと、あんたにボロクソ言われたからね。言われるがまま食い下がれば巫女の名折れだから…!そのつもりでいて。」
「あっ…はい…すいませんでした…。」

 ボキボキッと指の骨を鳴らしながらこちらに不満を爆発するような表情しているアマツに、つい恐怖で敬語を使って謝った。だがあの通話に関してはそれを言わないと話が進まなそうだったので睨まれることにどこか解せない気持ちがあった。

「サギリっ!!」

 そして、違う意味で彼女に関して解せないと感じる者が一人。口封じが解かれ、怒りでアマツを攻撃するような勢いを見せるシリアスが言葉を発する。

「フォルティア様自ら頭を下げに来てようやく重い腰を上げたと?ふざけるな!あなたが参戦してくれることで守られる命は沢山あった!眺めるだけが巫女の務めだと言いたいのか!?」

 彼女は口封じされる前と同じく、この戦いに何故最初から参加しなかったのかと一点張りだ。言い過ぎなところもあるがシリアスの意見には一理ある、彼女がいることでここまで被害を出すことはなかったことだろう。
 しかも彼女達を束ねる長が自ら頭を下げて頼みに行ったというのに、申し訳なさも感じずアマツは自分は悪くないと偉そうな態度をとっている様子にしか見えない。それがシリアスの逆鱗に触れた。

「守られる命ねぇ…心を動かしそうな単語を並べればあんたが希望する言葉を言うとでも思ったのかしら?」

 アマツはシリアスの方へ顔を向けると、その気持ちに反省の色もなくゆっくりと口を開いた。

「まぁ…たしかに私が戦えばすべて丸く収まったかもしれないわね。ここにいる悪魔達なら私一人でも十分だわ。」
「だったら何故…!」
「しつこいわね、じゃあ聞くけどあんたはこれほどの規模を相手にしたことはあるかしら?」
「…っ!?あるに決まってるでしょう!私達の戦闘経験はあなたが考えるより…!」
「嘘つくならもっとマシなこと言いなさい、平和暮らしの兵士長さん。」

 シリアスの台詞はたやすくアマツに見透かされ、彼女は舌を切られたかのようにそれ以上言葉を発することができなくなった。それに続いてアマツは淡々とシリアスの言うことを論破し始める。

「戦闘経験があるって?それはあの里を守ってる守護結界があっての話でしょう。あれの存在を知らない馬鹿な魔物達の相手と統率がとれてる利口な魔物達の相手ではまったくの別物、あんた達はそれに気づかずいつもと同じとおりに戦って敗北した。いい経験になったじゃない?本当の戦場を味わうことができたんだから。」

 話の途中でアマツは背後にいるクロムに向けて親指を指してきて、

「こいつにも言ったけど、私は何の努力も対策も考えない無知な奴からこき使われるのが嫌いなの。私が来なかったから被害が大きくなったですって?あんた達、いつまでも私の脛(すね)をかじっていないと戦えないのかしら?そういう向上心のない奴らはいざという時のお荷物でしかならない。」

 と自分と里の隊員達の在り方について話した。アマツの言うことにはかなりトゲがあるような言い方をしており、シリアスの表情が屈辱と憤怒の間で入り乱れていた。

「隊員達はお荷物なんかじゃない!彼らの努力があってここまで悪魔達を追い詰めたのよ!あなたがいない分の働きを彼らはやり遂げた、それを馬鹿にするような言い方をしない…」

 シリアスがまだ話している途中で突然アマツは地面を蹴り出し、一瞬のうちにシリアスの間合いに入った。

「ッ…!?」

 シリアスは驚きで体が硬直する、そんな無防備な状態にアマツは彼女の頬に向けて平手打ちをした。

「痛っ…何するのよ…!」

 シリアスは叩かれた頬を押さえつつアマツに怒りに満ちた視線を向ける。それはアマツも同じく、言うことを聞かない分からずやに説教するように声を低く発した。

「それはあんたが幼稚だからよ、あそこにいる勇者がこの状況であんたと同じ台詞を吐いたら腹パンしてやったわ。」
「腹パンなの?平手打ちより殺意高くね?」

 クロムのツッコミに反応することなく、アマツはシリアスの頬を押さえている腕を力強く掴んだ。

「いい加減負けを認めなさい!自分の眼(まなこ)が曇れば苦しむのはあんただけじゃないのよ!」

 そうアマツが声を上げると、自身の周りにいる人達、背後に広がる光景を見せるように片腕を広げた。

「見て、これが現実よ!まだ何もなし得ていないのにこの大惨事、もうあんた達には撤退の二文字しか浮かばなくなった。もしこうなるずっと前に兵達にちゃんとした外の訓練や経験を積み重ねていればこんなことにはならなかった、すべてはあんた達が外で戦えると慢心した結果なのよ!」
「ぐっ…!」
「目を逸らさず噛み締めなさい!この犠牲はあんた達の弱さを証明するきっかけとなった。忘れずに刻んでおきなさい、あんた達は世界を知らないってことを!」

 アマツはそう言いたいことを言い終えると掴んでいた腕を離す。シリアスは支え失い、糸の切れた人形のように地面に膝をついた。
 唸りながら歯を軋ませる声を発し、顔を下に向けて悔しい気持ちを表に出すシリアスに、それ以上何も言うことはなく懐から陽針《ひばり》を出して彼女の目の前に落とした。

「はぁ…これだから中途半端に強くなった奴は…。悔やんでる暇なんてないわよ、そう感じたら死ぬ気で勝ちにいきなさい。あんたはまだ燃えているから。」

 その言葉の後、シリアスは無言で落ちた陽針《ひばり》を拾う。アマツにそう指示されたから従うわけではない…勝負がまだ決する状況ではない、このまま見ているだけという生殺しを味わいたくないという本能だった。

「さて…説教は終わりよ、ここから切り替えて今の要点だけ話しなさい。状況からして時間がないはわかってるから。」

 振り返り、皆に向けてそう指示を出した。そんな彼女に皆は自然と口が軽くなっていく。
 自分達の考えも、力も、この数分でアマツにひっくり返された。それほどまでに彼女の存在は大きく、想像以上に過酷な人生を歩んできたことを物語っていた。
 だからこそ彼女がいるという安心感は他の比ではないほど輝いていた。そのリーダー的その存在感に嘘偽りはない、過酷な状況を生き抜いてきた意志がそれを示していたからだ。

「あんた達の残った仕事は全部私が引き受ける。」
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