推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十八話 レッドブレイク②

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「加速《ハイスピ》!」

 自身の素早さを引き上げる魔法を唱えると、ヒズミは地面や壁に飛びつきながら目にも止まらなぬ速さでヘラの周りを飛び始めた。

「へぇ…私と戦うんだ?」

 ヒズミの撹乱行動に動じることなくヘラはボソッと呟きながら隙だらけに突っ立っていた。
 完全に舐められている様子、だがヒズミにとっては好都合だった。
 ヒズミは曲刀に魔力を込め、剣の周りに風を巻き起こした。彼は風魔法を利用した魔導武装を使用する、物理攻撃と共にかまいたちのような斬撃波をくりだして敵の身体を抉る攻撃法だ。

「魔導武装《風斬|かぜきり》・ウィンドスラッシュ!」

 天井に張り付くとすぐさま姿勢をおとし、ヘラの頭上目掛けて一気に急降下した。
 わずか1秒にも満たないその速度でヘラに向かって曲刀を叩き斬りつける。それをヘラは避けようとも、こちらに見向きもせずヒズミの斬撃を受け入れた。
 だが、ヒズミの強撃はヘラに届くことなく曲刀が空中に止まった。

「えっ…?」

 ヒズミは目の前の悪魔に驚愕し、恐怖を感じた。
 ヘラの人差し指から出た濃紫色の糸が自身の剣を受け止めていたのだ。5ミリほどしかない一本の糸で受け止めるという信じられない防ぎ方で彼女の底知れない力を垣間見た気がした。

(なら…!)

 ヒズミは再び飛び上がると、空中で曲刀を華麗に振り回した。纏っている風が剣の一振りにあわせて真空波を作り出し、三日月状になった斬撃波を相手に降り注ぐ《ウィンドカッター》を繰り出す。
 しかしヘラは指先を軽く回すしぐさをして糸を操り、飛んでくる斬撃波をすべて弾き飛ばした。
 予想どおりの反応、自ら動くまでもないと思うほどの弱い弾幕。そう思ってくれたことにヒズミはわずかな勝機を確信する。

(余裕の表れがで出るぞ悪魔、楽して俺の弾幕を全部弾くことくらい織り込み済みだ!)

 ヒズミは斬撃波を出すのと同時に懐から小石ほどの大きさの魔石をヘラに投げつけた。
 大量の弾幕を弾くのに広範囲に糸を振り回しているため、魔石もヘラの手前であっさりと砕かれた。

 カッ!
「くっ…!」

 強い光に当てられヘラは固く瞼を閉じた、爆破の威力を落とした代わりに強い光を浴びせるよう改良した爆破魔法をその魔石に埋め込んでいたのだ。
 そして、ヒズミは視界を伏せがれたヘラの隙を掻い潜り部屋の入口から外に脱出した。外側から鍵をかけ、加速魔法で身体能力が向上した今の状態で壁に飛びつきながら長い螺旋を駆け上がった。
 ヒズミは最初の一撃を防がれたことで理解していた、あの悪魔は絶対に勝てない相手だということを。

「あれはダメだ!ヤバい…ヤバすぎる!あんな悪魔見たことがない!せめてこの事を仲間達やお嬢様に…!」

 螺旋階段がこれほどまでに長いと思ったことは初めてだった、今か今かとホールに通じる格子扉が見えるのを考えてヒズミはより一層素早く飛び上がる。

「早く…!早く見えろ…!」

 そして…ホールに通じる格子扉が見えると、すかさず格子に飛びついて手すりに手をかけた。

「そんな急いでどこへ行く?」

 背後から女性の声が聞こえ、ヒズミは一瞬にして身の毛のよだつ感覚を感じた。振り返らなくてもわかる…あの悪魔だ、ここまで追いついてきたのだ。

(嘘だ…ありえない…最速で登ってきた俺に追いついたっていうのか?)

 衝撃と焦りで体が固まってしまった。ここで絶望に浸ったのがマズかったようだ、悪魔は音もなく接近し俺の首元を後ろから掴み上げた。そして、格子扉を吹き飛ばすと首を掴まれたままホールに出た。

「なっ!誰だお前!?」
「ヒズミさん!?嘘だろ、あの人がやられるなんて…!」

 ホールにいた衛兵達はヒズミが引きずられながら歩いてくるヘラを前に衝撃を受けた。

「案内してよ、君達の主人の所に。」

 優しく衛兵達にそう語りかけるが、悪魔の見た目でヒズミを捕虜にしている姿を見た後では誰も応じることなく…

「戦闘用意!ヒズミさんを助けるぞ!」

 武器を手に持ち、ヘラに突撃する姿勢をとった。

「やめ…ろ…!お前達…では…。」

 声がうまく発せない、喉を締め付けるように先ほどの糸が悪魔の指から伸びてる。早く引き剥がそうと手で喉を掻くが…

「がはっ!」

 息が潰れたような嘆声が衛兵から発せられ、雄叫びを上げていた皆が静かになった。
 ヒズミは衛兵達の方へ視線を向けると、衛兵達が揃って中央の一人に顔を向けていた。
 ビクビクと体を痙攣させながら、だらんと力なく倒れそうになっているところをギリギリで支えられているような様子だ。それをしているのは衛兵の喉を貫いてる糸で、体の全体重をたった一本で支えている。

「親切で言ってるんだ私は、ピーピー喚いて突っ込んだところで無駄に命を散らすだけだからな。」

 ヘラは糸を射出した指を上に向けると、ピンと張った糸が衛兵の頭をレーザーのように両断した。

「なっ…あっ…。」

 その光景を目にした衛兵達は自分が何と相対しているのか明確に理解した、それを証明するように全員の足がその場に固まって動けなくなった。

「そんなに怯えることはない、君達をここで殺したら無駄死になるだろう?せめて君達には意味のある死を贈らないと。」

 ヘラはそう言うとヒズミの体を衛兵達のもとに投げた。彼が投げ出されたことに意識をそちらに向けた隙を狙い、ヘラは目にも止まらぬ速さで衛兵達の中に潜り込んだ。
 そして、彼らの意識がこちらに傾く僅かな時間でこの場にいる者達の首筋に手を触れた。

「なっ…!お前…!」
「はいそこでストップ。君達は今から人質だ、おとなしくしないと胴体と頭がおさらばすることになるよ。」

 人質という単語を耳にし全員が動揺し始めた、だがその一部はハッタリだと考える者がおり、一人が咄嗟に杖をヘラに向けて呪文を唱えた。

「ふざけんな…!そんなもん誰が…」
「ぼんっ。」

 ヘラはその一人に向かって指を鳴らすと、衛兵の首から薄紫色の光が現れ爆破した。
 小さな爆破だった、だがその威力はヘラの言ったとおり首を落とすには十分な火力だった。

「あっ…ああああああああああ!!」

 人間が惨いやり口で死んだ描写が目に映し出されたことで、ヒズミ以外の全員がパニックになって叫び声を上げている。
 それを見たヘラは不快に感じ、

「喚くな。」

 と凍りつくような声を発し、指を鳴らす準備をした。すると衛兵全員の首が薄紫色の光を発し始めた。

「やめろ!もう彼らに手を出すな!」

 ヒズミの咄嗟の抗議にヘラは微笑を浮かべた。

「それは約束できないなぁ、私はおとなしくしててと言ったんだ。約束を破ったのはどっちかな?」

 ヘラは親指を人差し指と中指に交互に擦りながらそう口にする。彼女は今、皆の首につけられた爆弾のスイッチを焦らすように指で撫でまわして楽しんでいた。
 完全に主導権を奪われた、いや…そんなもの最初から彼らに用意されていなかった。

「おっ…お前…一体何者なんだ?俺達が…こんな悪魔なんかに…。」

 一人の衛兵が死の恐怖を感じさせるように震えた声を漏らした。パニックで未だ口うるさい状況が続く中、ヘラはその言葉を聞きその衛兵に言葉を発した。

「何者か…ね、何度も自己紹介するのも面倒だし、彼女も含めてちゃんと言おうか。」

 ヘラは擦っていた指を玄関の方へ向けた。皆は爆破が起きるのだと怯えて体を縮めていたが、ヒズミは彼女の指先を見てそう意図していないと気づいた。彼女の指は鳴らすような持ち手ではなく、相手のおでこを指で弾くような持ち手に切り替えていた。
 親指で押さえられ折り曲げられた中指の前には禍々しく輝く濃紫の小さな球体が現れ、指先が弾かれるのと同時にその球体は光を発して玄関を照らした。

 ドガァァァァ!

「なっ!?爆破?」

 目の前でオークチャンピオンを片付けていたシトリーも、自身の館の玄関が吹き飛ばされた音を耳にし振り向かずにはいられなかった。

「グォォォォォォ!」

 オークチャンピオンはその隙を見逃さず、大きな腕を振り上げ襲いかかった。

「邪魔よ!」

 シトリーは槍を倍に伸ばし、オークチャンピオンの腕が届く前に首を撥ねた。そしてすぐに玄関の方へ体の向きを変え駆け出した。
 玄関の前を守衛していた衛兵達が爆破に巻き込まれて前方に倒れていた。おそらく中からの攻撃、それは屋敷の中に侵入されたという考えに至るまで時間はかからなかった。

「おやおや…君の方から会いに来てくれるなんて探す手間が省けたよ。」

 砂埃が立つ玄関から声が聞こえた、台詞からして味方ではないことを察し、止まって様子を伺った。
 誰だ?周りの悪魔とは違う別格の気迫、関わってはいけないと自分の直感がそう告げている。うるさい心を静めないと立ってはいられない、気迫に呑み込まれる。
 シトリーは何度も軽い呼吸をして心を落ち着かせようとするが、視界が晴れた光景を見て再び心が大きく揺れ動いた。
 金髪の悪魔が膝をついた衛兵達の前に立っていた、その中にはヒズミもおり、皆恐怖の色に染め上がっていた。

「ヘラ様!」
「馬鹿な奴等め!俺達に勝てると思ったか?最初からお前達は詰んでるんだよ!」

 周りの悪魔が口を揃えて「ヘラ様」と呼んでいる、彼女の登場で悪魔達の士気が上がっているのが目に見えた。

「ヘラ…ヘラですって…!?」

 シトリーは眉をひそめて目の前の金髪の悪魔を恐ろしげに睨みつけた。ヘラ…その名前を知らない者はこの世界にほとんどいない。それは何かの間違いであってほしい、そう心の底から願いながら思い浮かべた人物像を脳内から消そうとした。
 いるわけがない…
 こんな辺鄙(へんぴ)な場所なんかに…
 だって彼女は勇者に倒され…

「まったく…せっかくいい感じに自己紹介をやろうとしたのにあの馬鹿共、ムードが台無しじゃないか。まぁいい…ヘラグランデだ、名前くらい知っているだろう?」

 ヘラグランデ…その名前を耳にした衛兵達はどよめきだした、かくいうシトリーも彼女の正体に疑いなど持たず現実を受け止めた。

「ヘラグランデ…なぜ帝国の首領であるお前がこんなところに。」
「ユスティナの時にも言ったが、私がほしいのは魔紅石とその情報だけ。でも君は魔紅石に発破をかけてるみたいだからな、だから今度は金じゃなく人質を用意してきた。」
「お前ッ…!」
「おっと、それ以上動かないほうがいい。下手すればここにいる人間達全員の首が飛ぶぞ。実際それで一人殺してる、なんなら今試しに一人爆殺してあげようか?」

 ヘラはニヤけた表情をして手を後ろに向けた、衛兵達は怯えて軽い悲鳴を上げているところを見るとどうやら本当らしい。

「ぐっ…!」

 シトリーは軋むような声で唸り、唇を噛み締めた。ヘラの手の中に衛兵達の命が握られていると思うと迂闊に攻撃ができない、そんな助けにもいけない自身の無力さが表に出た。

「やめろ…石なら好きなだけくれてやる、知りたいことなら全部教えてやる…!だから…仲間達に手を出すな!」

 魔紅石に関することを相手に全て譲渡する、それは彼女にとっての敗北宣言だった。仲間のため、自分の国を造る夢を捨てたその覚悟はあまりにも残酷に、苦痛に、ヒズミ達の目に映し出されていていた。

「やめてくださいシトリー様!俺達なんかのために!」
「戦いましょう最後まで!シトリー様となら悪魔達なんか…」
「やめろっ…!」

 シトリーの一声が響き、衛兵達は口を閉ざした。

「石なんかより…お前達のほうが大事なんだ。人間生きてさえいればまだ未来はまだある、たとえ全てが無くなったとしても生きてさえいればまたやり直せる。」

 苦しくも懇願するかのような辛い声を発したシトリー、言い放った台詞はいい意味として衛兵達の心に響いたと思う。
 だが悪い意味でそれは願いのような形、悪魔相手にそんな生易しい思いが通じるわけがない。
 だからこそシトリーは希望を信じる目をしていないのだ、抗おうが要件を受け入れようが、どっちに転んでも自分達には最悪な末路しか用意されていないのだから。

「ふふっ…だそうだお前達、シトリーお嬢の友情に免じて魔紅石をもらってもいいとのことだ。ありがたく受け取ろうじゃないか。」

 ヘラはそう言うと周りの悪魔は歓喜の雄叫びを上げた。衛兵達もヒズミもシトリーも、誰一人として顔を上げることをせず、ただ悔しさを滲ませた顔を奴らに見せないように下を向いて隠していた。
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