推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十話 どうなったっていい①

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 川を上り続けること数十分、川の道を頼りに生い茂る森を歩き続けたシトリーとヒズミは、対岸へ繋がるあの橋があった場所へ辿りついた。

「ここだ…」
「はい、間違いありませんね。」

 二人は重苦しい気持ちを抱えながら目の前の光景を目にする。まるで爆発があったかのように木造の橋がバラバラに壊され、橋が架けられていた場所は瓦礫の山と化していた。さらにはその瓦礫が水をせき止めているため、川の底の土を巻き上げて水を茶色く濁していた。

「お前達ー!どこにいる!いたら返事をしてくれ!」
「ガルシア!ミーティ!アオスタ!グレンドル!ロスター!…」

 二人は瓦礫の山と成り果てた橋付近、木々が切り崩された跡が残る森を徹底的に探した。

「ぐっ…キターノ!シン!サンライン!マーカス!」

 ヒズミはあの場で生き残っていた仲間達を覚えているかぎり呼びかけた。だが返ってくるのはただ残酷な静寂だけで、それが二人を現実に突きつける。

「大丈夫だ…きっと無我夢中で逃げて森の奥深くに入っていっただけだ。無事に決まってる。」

 ヒズミはそう解釈しながら呟く。倒れた仲間達の体や装備などがないところを見て、どこかへ離れていると考えていた。まだ死んでいないと思わなければ心が押しつぶされそうになってしまうからだ。

「もうすぐ夕方…木々に囲まれたここじゃどこよりも早く暗くなる。捜索は諦めて集落に向かわないと。」

 いつの間にか太陽が木々の葉に隠れ、辺りが橙色になり変わる。ヒズミは森の捜索を諦め、瓦礫の山と化した橋付近を捜索しているシトリーに合流しようと戻ろうとしたその時…

「……!……ばれ!……しだ!」

 風に紛れ、女性の声が小さくヒズミの耳に入り込んできた。

「っ!?お嬢様!」

 空耳なんかではない、その声は誰よりも聞いていたお嬢様の声。危機感を感じるその叫び声にヒズミは咄嗟に体が動く。
 素早さを上げる魔法、加速《ハイスピ》を使い大急ぎで川岸に戻ると、シトリーが川岸で何かを持ち上げている様子が窺えた。

「大丈夫ですか!お嬢様!」
「ヒズミ!手伝ってくれ、アオスタがまだ生きてる!引っ張り上げてくれ!」
「アオスタが!?…ッ!アオスタ!!」

 仲間の名前を聞くと急いでシトリーのもとに駆け寄る、そこには橋の瓦礫のすぐ横で体の3分の2ほどが水中に沈んだ顔面蒼白の男性、アオスタがそこにいた。

「アオスタ!しっかりしろ!すぐ引っ張り上げてやるからな!」

 彼の両腕を引っ張っていたシトリーと変わって、片腕ずつに分かれて二人は持ち、彼を引っ張り上げようとするが…

「ぐっ!重い…!」
「二人がかりで持ち上げているのに…!なんで!?」

 まるで大きな岩を引っ張るような感じだ、びくともしない。人の体というのは水分を含んだらここまで重くなるのか?いや、水に浸かったアオスタの体の位置がまったく変わらない、重いというよりこれは…

「もしかしたら、何かが引っかかってアオスタを引っ張り上げられないのかもしれません。俺が川に入って引っかかっている物を取り除くので、お嬢様は俺が合図をしたら上げてください。」

 ヒズミはそう言い川に入ろうとすると、自分の腕の裾を掴まれていることに気づきアオスタの顔を見た。

「………な……い……で……」

 僅かに動く口から掠れた声が漏れた、その顔は苦痛に歪みながらも必死に俺を留めようとする形相に見えた。
 俺を留める意味、必死に何かを俺に伝えようとするその声。疑問が渦巻き、今度はアオスタの口の近くへ耳を持っていった。するとその意味を察したのか、アオスタは再び掠れた声で告げた。

「……み……な……い…で……」
「みないで?それは一体…」

 その意味を知ろうと顔を上げアオスタを見る、だがそこにあったのは光を失い虚ろな目で無感情に固まった彼の姿だった。

「アオ…スタ…?」
 
 いつの間にか服の裾を掴んでいた手は地面に落ちていた。
 隣でシトリーが何度も彼を呼びかけるが反応を示さない、ヒズミは考えたくもないが彼に向けて鑑定スキル鑑定《アナライズ》を使った。

 ◆◆
 dead アオスタ・ギル
 ◆◆

 彼の頭上に表示された文字は無慈悲にその状態を告げていた。
 鑑定スキルというのは本当に恐ろしい能力だ、希望を絶つように正直な結果を表示してしまうのだから。
「死」は覆らない、鑑定スキルがそう告げたのならそれは絶対なのだ。

「お嬢様…アオスタはもう…」

 隣で彼の名前を呼びかけるシトリーに、鑑定スキルの結果を告げようと重い口を開こうとしたその時…

 ◆◆
 dead サンライン・エルプラント
 ◆◆

 と視界の端に突然文字が表示された。
 アオスタの下半身に位置する所、橋の瓦礫に向かって表示されたそれは…アオスタ同様、死人がそこにいると表していた。

(サンライン…?)

 ヒズミは突然のことで理解が追いつかなかった。目を丸くしてその表示された文字を目で追うと、次から次へと文字が表示され続けた。

 ◆◆
 dead ガルシア・クライズ dead グレンドル・サイファー dead ミーティ・ペイル dead ロスター・スリング dead キターノ・ミチュグリン dead シン・アルドラ dead マーカス・ブラナー 
 ◆◆

 それは…あの場にいたであろう仲間達の名前が瓦礫の山の下で大量に表示されていた。

「っ…!!」

 気色の悪いものが込み上げてくるような光景を見てヒズミは声にならない叫び声をあげた。
 濁った川では水中の様子が確認できない、いや…確認して何になる?鑑定スキルに答えが出た以上そこにいるのは間違いないのだ。
 アオスタが言っていた「みないで」という言葉、それは俺達にこの真相を見るなという警告なのだろうか?
 そう考えると、アオスタが俺を必死で掴んでいたのも理解できる。あのまま川に入って彼の足に引っかかっている何かを取り除こうとすればこの真相を身を持って知ることになっていただろう。
 もし…考えたくないが…アオスタの足に引っかかっていたのが瓦礫ではなく別な何かだとしたら…

「ヒズミ?」

 心配そうな声でシトリーに呼びかけられ、びくりとヒズミの体が跳ねた。最悪な予想を考えていたからか体から嫌な汗が流れる、気持ち悪い…。

「ぼーっとして何を見ていた?あっちに何かあるのか?」

 シトリーはヒズミが見ていた方向を見てそう質問する。彼女の目には濁った川の水が瓦礫を押し流そうとしている光景に見えることだろう。
 だがその光景に人の一部が見えてしまえば、彼女は必ずそれを追求しようと動き出す。
 もし、お嬢様がこの真相を知ったらどうなるか?この酷(むご)い光景を見たらせっかく立ち上がった心がまた崩壊する。これ以上お嬢様に絶望を与えてはいけない。

「いえ…助けられなかったことにショックで少し思い詰めてました。」

 軽い嘘だが、実際目の前にいた仲間を助けられなかったことは深く心に響いていた。その強く共感できる台詞をシトリーに話すと、彼女は僅かに陰を落とし…

「そう…だな…これは、精神的にくるものがある…」

 そう呟き、アオスタの虚ろに開けた目を優しく閉ざした。
 あの時…自分達だけ逃げてしまったことをアオスタの死を見て再び後悔する。
 自分達が強くなかったために生まれた必然、弱い立場であるから仕方がなかったと片付けられてしまう。それが悔しくて仕方ない。

「もっと強い力があれば…」

 ぼそりとシトリーは今の悔しい気持ちを言葉に表した。
 そうして、引き上げることもできないアオスタをここに置いていこうと決断をし、せめて安らかに眠れるように彼の両手を組ませようとしたその時…
 ポロリと彼の右手から紅い何かが溢れ落ちた。

「これは…魔紅石!」

 親指ほどの小さな魔紅石を見つけると、二人は目を丸くしてそれを握り持っていたアオスタを見た。

「何故ここに?自分の武器から抜き取ったのか、一体何のために?」
「抜き取ったというのが正しいなら、彼は最後まで抗ったということか…」

 シトリーは何かを悟ったような口ぶりを見せる。何故彼は魔紅石を握りしめて持っていたのか、その理由はこの惨劇を見ておのずと導き出された。

「あの悪魔は、自分の傷を再生させるために魔紅石を求めようとしていた。アオスタは自分の力ではあの悪魔に敵わないと知り、魔紅石を奪われないようにと自ら武器を破壊して取り出したんだ。」

 力で100%確実に負けるとわかってでも、あの悪魔の思惑を何としてでも止めたかった。そして、これが私の手に届いたということはそれを成し得たということだ。
 彼もまた強い奴だ…恐怖の渦中にありながらも我を忘れず的確に判断をした。生きていれば良いリーダーになれたかもしれない。

「アオスタ…お前が死ぬ気で守り続けた物は、ちゃんと私に届いたぞ。頑張ったな。」

 とシトリーは誇らしげに優しい笑みを固く目を閉ざした彼に向けた。
 仲間の死を目にして辛い気持ちが湧き上がると危惧していたが、先を見て生きようとするシトリーの眼差しをヒズミははっきり見ることができた。

「行こうヒズミ、暗くなってきた。仲間探しはこれっきりにする。皆のリーダーとしてちゃんと先を考えないとな。」
「お嬢様…。」

 シトリーは慎重に橋の瓦礫を渡りながら対岸へ向かおうとしている、その後ろでヒズミは申し訳なさそうに俯く。先ほどのアオスタを弔うをシトリーを見て本当に真相を話さないべきか気に病んでいた。
 今お嬢様が渡っている瓦礫の下には多くの仲間達が眠っている、きっと彼らも彼女に弔ってほしいはずなんだ。
 最後に見たのがあの惨劇でも、最後に聞いたのが崩壊に混じった自分の断末魔でも、お嬢様の存在がそれを払拭してくれる。
 下で彼らが眠っている、彼らの存在を知らないまま行かないでほしい、彼らもお嬢様と共に最後まで戦った仲間なんだ…伝え方はあれどこのまま彼らを置いていくことなんてできない。と、もう一人の自分がそう告げている。
早めに仲間達の行方を話すべきか、言えばお嬢様の抱える悩みは減るはずだ。きっとお嬢様ならこの真実をも受け止める気持ちがある…だから…
囁くように発するもう一人の自分に感化されるようヒズミは重い口を開いた。

「お嬢…」
「ヒズミ。」

 だが、シトリーに仲間達の真相を伝えようとするヒズミに、彼女は彼を見つめて手を差し伸べた。

「いなくなった者達の分まで長く生きよう。」
「…っ!?」

 彼女が放った言葉はどういう意図を示しているのか分からずヒズミは戸惑った。この日に起きた悪魔族の襲撃でいなくなった者達のことを言うのか、それともここに沈む仲間達の存在を知っていてのことか。
 どちらにしても彼女の言葉には、もう後悔や絶望を滲ませない、前に進もうと未来を指す気持ちが表れていた。
 それを見たヒズミは…もう一人の自分が望む結果を払いのけた。

(違う…お嬢様は立ち上がって先へ行こうと気持ちを切り替えた。それを壊して何になる?それを支えてやるのが従者の務めだ。だから…)

ーー言わない。それがヒズミの考えた判断だ。

「ヒズミ、どうした?」

 目の前でシトリーが自分が手を取ってくれるのを待ってくれている。私の従者として共に来てくれと命ずるように手を伸ばして待ってくれている。

「いえ、少し気持ちを入れ替えていました。心配かけてすみません。」

 俺は彼女の手を固く握った、そして橋の瓦礫を飛ぶように二人で渡り歩く。下を見ずに…目の前の対岸を目指して。
 これが答えだ、彼女が明るい未来に進めるよう陰ながら支える。彼女を傷つけようとする害悪は俺が盾になる。
 皆がいない分その盾は小さくなっただろう、きっと俺だけじゃ守り切れない。それでもやり遂げないといけない…
 もう…あんな姿した彼女を見るのはごめんだ。

「じゃあな皆…見守ってくれ。」

 俺は小さくそう呟き、振り返ることなく橋の瓦礫群を後にした。彼女がそちらに振り返って後悔することがないよう後ろにぴたりと近づきながら…。

ーー夕刻、インディアス集落

 対岸へと渡り数分歩くところで、この森に唯一人が住んでいる場所、インディアス集落に到着した。
 ここでは金銭的なやり取りなどは存在せず、集落の人達は全員自給自足の生活をしている。こういう原始的な生活をしている人達がいる場所では、外部の者を寄せ付けないイメージが多く見られるが実際はそうではない。
 このナパーム森林に生息している魔物達に返り討ちにあった冒険者や、遭難などでこの森を彷徨う者達などを手厚く介護してくれる。いわば森の救難所という役割を果たしているのがその集落の正体だ。

 …だが、そう思われていた集落は目の前にはなかった。

「…どういうこと?これは…」

 シトリーは目の前に広がる光景に困惑していた。
 集落には人気(ひとけ)がまるでなく辺りが静寂に包まれていた。建物が朽ちている様子はなく、前に住民達がいなくなったことで廃れたということではなさそうだが…

「人がまったくいない、まだこの集落は限界集落と化していなかったはずだが…少し見てまわり……ん?」

 周りを確認していたヒズミの目に何がが留まった、少し顔を下に向けながら歩き出す彼をシトリーはついて行く。

「どうした?」
「これ…足跡がまだ新しいです、しかもその足跡すべてがあっちに向かっています。」

 ヒズミが指さす場所には確かにうっすらと人が歩いていたであろう足跡が残されていた、そしてそれらの足跡は集落の奥、森の方へと進んでいるようだ。
 人気(ひとけ)のない集落、だがそれは昔ではないことが証明された。だとしたらここに住んでいた住人達はどこへ向かったのだろうか?
 気味の悪い雰囲気が漂い始め、二人の間に緊張が走る。

「あっちに…何かあるのか?」
「待てヒズミ、嫌な予感がする…深追いはやめてここは一度待機しよう。住民達が帰って来たら訳を話せばいい、私達には休息が必要だ。」
「そう…ですね。」

 シトリーは冷静にこの場の状況を観察し、そうヒズミに告げた。だがその声は不安を色濃く滲ませている、弱いところを見せぬよう必死に感情を押し殺そうとしているのがバレバレだ。

(待機…本当にそれでいいのか?だがもうそろそろ夜がくる、拠点も無しに森を歩くのは危険すぎる。それでも…)

 何故だか嫌に胸騒ぎが止まらない、本当にここに留まっていいのだろうか?住民達が地面に残したこの足跡が俺達に訴えかけているように感じる。

 ーーここから離れろ。と

「お嬢様、やはり…」
ボッ!!

 シトリーの意見に反対しようと口に出そうとした瞬間、突然集落の周りに紫色の炎が燃え上がった。その現象に思わず二人同時にピクリと体をすくませてしまう。

「なんだ!?」

 炎が周囲を囲み、二人の逃げ場を無くしてしまう。魔力の反応を感じるその炎を見て、二人は最悪を想像した。二人を狙った明確な殺意、ただの魔物にできることじゃない。それは紛れもない…

「残念なお知らせです。」

 不意に頭上からかけられた声に、二人は振り返った。
 金色の髪と緋色の眼。青と黒を基調としたドレス風の戦闘服、焼け焦げた左右で大きさが異なる黒くコウモリを模したような翼、悪魔族の証。

「ここに休みに来たんでしょ?誰もお前達を歓迎してくれないってさ。」

 私達は彼女を知っている…屋敷の襲撃で見たあの姿を…仲間達を屠ったあの禍々しく黒光りする鎌を…

「ヘラ…グランデ…!」

 恐ろしげに、殺意混じりにシトリーは建屋の屋根上で佇む悪魔を睨んだ。

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