推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第四十九話 絶望の魔の手②

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「お前達…ごめん…先走り過ぎて…ごめん…。」

 シトリーは地面に手をつき、ボロボロと涙を落として言う。

「いいんですお嬢様、乗り越えましょう皆で。時間は哀しみを和らいでくれますよ。」

 ヒズミは哀しみで震えたシトリーの肩を押さえ優しく語った。その後に仲間達から励ましの声を多くもらい、シトリーはようやく泥だらけの地から立ち上がる。
 自分の間違いを正してくれる彼らとなら、これからの旅路はいい方向へと繋がっていくことだろう。
 失っても何度だってやり直してみせる、私達には仲間がいるのだから、どんな哀しみにだって負けない。
 涙を拭き前を向け、私の道は邪道なんかで終わらない、皆で作った道を行く!それが私の…

「美しい友情だねぇ~見てるだけで不愉快になるよ。」

 不意に、この場面にはそぐわない声が聞こえた。皆はその台詞を聞いて戸惑っていたが、シトリーとヒズミはその声を聞いてサーッと血の気が引くような感覚を感じた。
 もう二度と聞かないと思っていた声…脳裏にこびりつく忘れることのできない声…ありえない…ありえないありえないありえないありえない!!
 だって奴は…あの場で…!

「あっ…うわぁぁぁぁ!!」

 衛兵の一人が悲鳴と共に腰を抜かすように倒れた、皆もその衛兵と同じように悲鳴と驚愕の声が湧き上がる。
 シトリーも彼らの声に反応するよう声が聞こえた方向に視線を向けた。そして、彼らと同様声にならない息が詰まったような叫びをあげる。

「ッ…!?」

 先ほど仲間達がいた場所の木の上に人が立っているのが見えた。その人物は体のほとんどが焼け焦げており、身につけている服も焼かれ身を隠す機能を果たしていない。元の皮膚だろか、顔の上の部分の頭と両手が白く見えてまるでそこだけ皮膚をとって付けたような不気味な姿をしている。
 そんな人物像はもはや人間ではない、そして人外だと裏付けるよう、金色の髪が伸びる頭から生える黒い角と、恐怖を象徴するような漆黒と刃先が青い禍々しい鎌を携えている。
 極めつけはその悠々自適な余裕そうな声を聞いて誰なのか予想がついた。

「やぁシトリー、もう会えないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ。ええこれはほんと、久しぶりに死ぬかと思った。まさか魔紅石すべてを暴発させた魔力攻撃を浴びせてくるなんて…」

 帝国の首領ーーヘラグランデ…

 彼女が現れたことで和やかだった空気が一変する、まるで蛇に睨まれた蛙のごとく恐怖で立ちすくむことしか許されない。

「死んでない…!なんで?あの爆発の中生き残っていたなんて…。」

 一人の衛兵は震えた口で思ったことを告げた。全身大火傷を負いながらも目の前の悪魔は木の上から降りてこちらに歩み寄る余裕の体力を見せる。それも恐ろしいところだが、あの爆発をくらって生きている化け物染みた耐久力に絶望した。

「いい質問だね、たしかにあの爆発は異常すぎる火力を持っていた。いくら私であっても何もしなかったら塵どころか消滅しかけるほどだ。」

「そう…何もしなかったらの話だけど。」

 ーー遡ること、魔紅石大爆破が起こる数秒前…

 紅い稲妻を発していた槍が引き抜かれると、地面が風船のように膨れ上がり、割れた箇所から紅い閃光が飛び出す。
 明らかな爆破臨界点に達した模様、すぐ先で起こる嫌な光景を思いヘラはしかめた表情を見せた。
 シトリーとその取り巻き達が何かを企んでいることは自分の中でわかっていた。私を討ち取る…《レッドブレイク》…シトリーが言い放った最後の手段という言葉、この三つの共通点を組み合わせていくと、ある答えに辿り着く。

「ちっ!この魔力反応、そういうことか!」

 会談の時に話していたシトリーの台詞を思い浮かぶ、

 ーー魔紅石を奪い取るため刺客を送りつけようなら…私達がこの手で魔紅石を破壊する。

 この言葉通りなら、彼女が行うとしているのは魔紅石の破壊。それもただの破壊ではないことはあの時、出土した未加工の魔紅石に触れて感じた。
 シートの上から触れた時、微かに私の魔力と繋がったような感覚を感じた。魔導武装と同じ原理なように、武器に魔力を流し込む特徴と酷似していた。
 魔導武装は武器に流れる魔力と自身の魔法が共鳴することで生まれる特殊な魔法。
 もし…この魔紅石に共鳴というものを覚えてしまったのなら、自分の体から漏れ出た魔力に反応するほどだ、魔法という刺激を与えればとんでもないことになる。
 それは…油に火をつけるのと同じなのではないのか?

「あの槍から放たれた稲妻はただの牽制ではなく、地下にある魔紅石に魔法を共鳴させるために…!」

 分析などしている暇はない、かと言いつつ早く気づけなかったことに悔いている時間もない。
 今にでもここが消滅してしまう勢いで重い地鳴りがゴゴゴと鳴り響く、故にここで取れる行動はたった一つしかない。
 逃げる…仲間など他人の心配を構う猶予など残されていない、生き延びた奴が偉いのだ。

「チッ!」

 焦りと怒りを混じりに、ヘラは姿勢を低くしバネのように一気に天高く飛び上がった。
 それと同時に、この異常な光景に戸惑い身動きが出来なかった悪魔達の呪縛を彼女の行動で解いた。
 ーーここは逃げてもいいのだと。

「待ってください!ヘラ様ァァ!」

 ヘラの後を続くようにその後ろから悪魔達が飛び上がる、だがコンマ1秒遅かった。

 ドガガァァァァァァァァァァァァ!

 強烈な音と衝撃が彼らの体を強く叩いた、下を見ると屋敷の造りが見えなくなるほどの巨大な紅い閃光がこちらに伸びてきた。

「ああ、うわあァァァァ……っ!!」

 その光は飛行する悪魔達を次々と飲み込んでいく、上に飛ぼうが横に飛ぼうがもう何もかもが手遅れ。彼らただ悲痛な叫び声を上げながら消されることしか許されない。

「ああァァっーーぁ」

 そして最後の叫び声が消えた、残されたヘラはただひたすらに空に向かって真っ直ぐ飛び続けた。
 だが彼女自身それは無意味だと最初から理解していた、どんなに速く飛ぼうがいずれ追いつかれるのは消えていった悪魔達がそれを物語った。転移魔法でどこかに転移することもできたが、飛ぶことに全神経を注ぐ今では頭は働かない。雑念が混じって転移に失敗するのがオチだ。
 だったらどうするか?考える時間の猶予もなく、逃げても死ぬだけの状況に生存する方法などあるか?

「考えなど…あるわけがないだろうーッ!」

 怒りを濃く叫ぶヘラの体から禍々しく黒い閃光が散り始める、側から見ればそれは《黒い彗星》ともいうべき姿をし膨大なオーラをその身に包んだ。

「上限解放《白夜》…《混合の魔眼》解放…全能力値混合ーー構築ーー展開ーーッ!」

 凛と澄ました余裕の表情をしたヘラはいない、なびく金髪は白銀へと変わり、眼球が血のように真っ赤に染め上がる。
 自身が吐き出す怒りのパワー、自身が有する全魔力、理屈ではあり得ないその力の源を一つに混ぜ合わせることで異常な出力を放出し、目の前の光撃と張り合う。

「火力勝負だ!来いッ!」

 身を包んだオーラもろとも手の中に集め、両手を前に広げた。するとその高濃度のオーラはヘラの周りに球状のバリアを張りつけた。
 最後にヘラが選んだのは単純な魔力勝負だった、攻撃から身をかわせないのなら受け止めればいい。力任せな脳筋がやりそうな考え方だ。
 だが目の前のそれは、受け止めるなど常人では考えそうにないほど凶悪な激しさが表れていた。
 受け止めると自信を持って発言したヘラでも、その危険さは肌で感じていた。

 ゴォォォォ!!
 外から見れば光だと思われたその光撃は、まるで太陽のような獄炎が広がり、ヘラの周りを包み込んだ。
 ーー闇王爆撃覇《ダークネスバースト》、ヘラが独自に編み出した超級闇魔法、魔法詠唱を組み込んだ魔法陣や超級魔法特有の口で唱える詠唱を省く代わりに、ヘラはその体に巡る膨大な魔力を糧として放出させる。凶悪無慈悲な極太レーザー魔法。
 その魔法をヘラは光撃にぶつけるのではなく、バリアに応用させた。
 放出させる形体をレーザーからバリアに切り替えるなど魔法の根底を覆すが、魔力を放出するだけのこの技は何にでも応用が効く。そのありえない魔法構築によって、火力全てをバリアの防御へ持っていくことが出来るのだ。

「ふざけた火力じゃないッ!こちとら全魔力を放出してるっていうのに!」

 光撃の中に入って2秒も経たない内にバリアの表面が蒸発する。手負いでもない、魔力充分な上でこの一撃のために全解放してる。ーーだが…足りない
 あちらの火力が上だと証明するようにバリアの膜が徐々に消えていく。
 あとどれくらいこの光撃は存在するのだろうか?早く終われ、早く消えろ、早く終われ!早く消えろ!
 ーー終われッ!
 ーー消えろッ!

 パリッ…!
 不吉な音がヘラの耳に届く、目の前にはヒビが入ったバリアが見えーー

 バリィィィン!!
 脆い部分から割れが広がり壊れた。
 ヘラは即座に身を守ろうと、自身の翼、腕、脚などを駆使して身を丸めた。
 ジュゥゥ!と翼は焼かれ、肉を焦がした。心臓部である魔石だけは絶対に触れさせないよう我慢を徹する。

(終わった…まさかこんな特別な人種でもない凡人に負けるのか…。)

 そうネガティブなことを考えた一瞬、自身の積み上げてきたプライドがそれを否定する。

「ふざけるな……ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなァァァァ!」

 負けるなら自分より格上の相手と戦って負けた方が清々しい。やるだけやったんだからな、そう思って満足に死ねる。
 だがこれはなんだ?相手の戦力も、特別な力も持っていない、ただの魔石の暴発で死ぬ。そんな馬鹿で情けなく感じるマヌケな敗北。
 勇者に負けるなど長く生きてきて敗北を味わうことあったが、こんな屈辱的な負け方は初めてだ。

「私は…!ヘラグランデだぞ…!悪魔の…最強種である私が…!こんなことで…負けてたまるかァァァァ!」

 だが、今はただ身を焼かれることしか叶わず、ヘラは熱による苦痛でただ叫ぶ。
 その叫びが届いたのか、紅い光撃の熱がフッと消えた。
 魔紅石の魔力を全て放出し終えたのだろう、辺り一面粉塵に蓋をされた地面と天を裂いたような青空が現れた。

「…はぁ……ぁ……ァァ……」

 ヘラは全身を焼かれたことにより、すべての感覚器官を燃やされた。
 光撃の熱が消えたことを知らず、広がる天災後の光景を見ることができず、怒りを募らせた叫びをあげることもできず、ただ…落ちていく。
 そして、ヘラは跡形もなく消し飛んだ屋敷があった場所に、叩きつけられた。

「……うっ……カハッ…!……あっ……」

 声にならない呻き声を発し、ネジが切れそうになって動かなくなりそうな人形のように体が震えている。
 死んだらどれほど楽だろうか?今にも命ごと意識を失いそうな激痛に耐えなければならないとは。
 だがヘラは自分から死を選ぶ事はしない、体内に残された魔力を消費させ体を修復する。

「いっ…ギッ…ガァァ!!はぁ…はぁ…」

 ーーまずは喉、そこに繋がる肺、これで呼吸ができる。
 ーー次は目、これで視界が晴れて辺りを観察できる。

「ああ…くぅ…おぉ…たい…あい…。」(あぁ…くそっ!足りない!)

 舌がないため発音が濁る声が口から出る。体の修復にかかる魔力の消費が激しすぎて、つい悩みの声を出してしまった。
 治したい部位はいくつもあるが、ここからは使える部位だけを治そう…

 ーー腕と脚は筋肉のみ、焦げた皮膚が脈打つたびに激痛が走るが、これで歩ける。
 ーー最後は武器、魔力を編んだ鎌を具現化。これで獲物を狩れる。

「…ありょく…ありょくお…おじう…いあえれあ…。」(魔力…魔力を…補充…しなければ…。)

 鎌を支えにゆっくり起き上がる、ザラザラした地面が焦げた足裏の皮膚を擦り血が出る。
 ここにはもう魔紅石はない、魔力を補充するために必要な獲物に会うまでこの状態かとため息を溢す。

 ーー現在、インディアス集落近辺

「そんなわけで、魔物から魔石を剥ぎ取って魔力を回復しつつこうしてお前達に会いに来たというわけさ。まぁ…回復できたのは服や舌くらいなんだけどね。」
「チッ…化物め。」

 ヘラの話を聞き、あまりの化物具合に衝撃を受けたヒズミはそう言葉にして呟く。
 ゆらゆらとこちらに歩み寄りながら気怠るそうに鎌を引きずる魔王の姿を見て、今全員で叩き込めば勝てるのでは?と淡い期待を持つ。
 だがヒズミも後ろにいる仲間達も、ヘラがこちらに歩み寄る度に後ろに下がっていく。
 勝てる勝率はあると頭で考えていても体がそれを拒む、得体の知れない何かが自分達のやる気を削ぐように感じた。

(ヘラ…ヘラグランデ…!あの悪魔ァ…!)

 だが一人、シトリーだけはヘラに対し戦う意欲を捨ててはいなかった。恨めしそうに怒りを滲み出すその心が顔に出ていたのだろう、

「駄目ですシトリー様…!駄目です…!」

 近くにいた仲間に腕を掴まれそう呼び止められた。
 何故止める?と喉からそう言葉が出そうになるが、彼らの顔を見てその言葉を飲み込んだ。
 どれも恐怖と緊張でこわばっている、この状態で戦うという気持ちを起こさせようとしても手遅れだ。
 そんな状態になっていることにも気づかず、私は目先の敵を睨みつけていた。
 これではまるで…復讐に駆られたさっきの私と一緒ではないか?

(馬鹿!また皆を私欲のために働かせようとするか!復讐に身を焼かれるな!)

 空いた手で自身の顔を埋めて猛省する。周りが見えなくなり暴走するところだったと焦るが、気持ちが冷静なっていく度、逃げられない恐怖が襲いかかってきた。

(でも…どうする?どうここから逃げ切る?またシューラに転移魔法を頼んで他の場所に転移させるか?駄目だ、奴は私達の転移先を知っててここにたどり着いた。その方法がわからないとまた追いかけてくる。それに転移するには準備に時間がかかる…奴の口が回る今、時間稼ぎで対話するしかない。)

 思考を巡り、考え抜いた危険な賭け。ヘラがまだ話し合いに応じるか否かで仲間達の生死を分ける。
 仲間達に必要なのはここから離れるための隙だ、戦いに発端したとしても誰かがここに残りしんがりを務めなければならない。

「大丈夫…逃げ道は私が作る。」

 掴まれている仲間の手をほどき、シトリーはスカートの裾を破いた。そして破いたそのスカートの切れ端にペンで素早く文字を綴った。仲間達に向けて簡潔に、要点をだけを伝えるために…

「シトリー様…何を?」
「皆に伝えて、ヘラに気づかれないよう頼んだわよ。」

 朗らかな様子で仲間にその切れ端を渡すと、立ち上がった一瞬で怒りを滲ませた鋭い表情へと移り変わり、その視線をヘラに向けた。

「シトリー様!…っ!」

 布に綴られていた文を読み、彼はそれ以上シトリーを呼び止めようと声を発しなかった。

 ◆◆
 じかんかせぐ じゅんび
 ◆◆

 たった数文字で書かれてあった文には、声が無くともその意味は彼に十分に伝わった。
 目の前の恐怖を放ってはおけないことを、誰一人として犠牲者を出させないためにも、彼女は自分から戦いを避けるという選択肢を選ばなかった。
 それが今できる、シトリー・クリフレッドの覚悟なのだと理解した。
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