推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十話 どうなったっていい②

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「何で…!お前がまだここに…!?」
「お前達を待っていた、いや…正直なとこシトリー、お前を待っていた。」
「よほど私達にやられた傷を隠したいのね、私の持っている槍で全部元通りになるって計算かしら?」

 再びヘラと会い見(まみ)えると、魔紅石の暴発によって黒く焼け焦げた肌が元の白い肌色へと戻っていることに気づく。

「ちっ、お前…その傷を癒すために…!」
「お察しのとおり、ここら一帯にある魔力に関係しそうな物は全て吸収した。魔道具やら魔石やら、ここの原始人達は手放すのを嫌がっていたがな。」

 そして…今以上により邪悪な笑みを浮かべ、ヘラは話続ける。

「まぁでも、お前達の仲間が持ってる魔紅石には敵わなかった。私を殺そうとした魔石が私の命を救うなんて皮肉な話だ。」
「……殺したのか?」
「…うん?何を聞くかと思ったら、また大事な仲間の安否か…」

 魔紅石が奴の命を救う、その言葉に咄嗟にシトリーは口を開く。
 だが奴の表情は変わることなく一言告げられた。

「無駄だよ、奴らの顔は覚えている。全て殺した。」
「ッ!…お前ェェ…!!」

 ヘラの答えにヒズミは軋むような声で唸る。無意識に強く拳を握ったその手は爪が食い込み、熱っぽい痛みが湧き上がる。

「なに…心配することない、皆苦しまぬよう一撃で葬ってやった。きっと安らかに眠っているだろうよ、あの橋の下で。」
「橋の下だと…そうか!だから…!」

 シトリーはヒズミの表情を覗く。彼の表情は怒りの色と混じって、恐ろしいものみたさのような暗い雰囲気を漂わせていた。
 ヒズミの様子はアオスタが死んだ時からどこか浮ついているような様子があった、前の私と同じく仲間の死を乗り越えずにいるのかと感じていた。
 違う…知っていたんだ。あの橋の下に仲間達が倒れていることを、それを私に気づかせないよう一人で抱え込んでいたことを。

「ちっ!口を閉じろこの外道がっ!自分の快、不快のために仲間達を傷つけやがって!」

 ヒズミから聞いたことがないような激昂した声が響く。
 彼も抱え込んでいた、私に気づかれないように哀しみや怒りの面を隠していた。私だけじゃない…仲間や夢、目標を目の前の悪魔に滅された、普通ではいられないはずなのだ。
 それが今…遂に、堪えきれずに音を立てて壊れた。

「命をなんだと思ってる?お前のせいで何人死んだかわかるか!?何人殺されたわかるか!?それを嘲笑うようにお前は…」

 ヒズミの訴えに嫌気が差したのかヘラの鋭い眼光がこちらを睨みつける。そして…

 ダァァァァン!!

 高速で振り下ろされた鎌が斬撃波となって二人がいる場所に叩きつける。

「ヒズミッ!」

 シトリーはその異常な殺意にいち早く察知し、ヒズミの服を掴み横へ飛んだ。

(ぐっ…!あと1秒遅かったらヒズミの体が二つに分かれるところだった…)

 ヒズミが立っていた場所を見ると、真っ直ぐ地面に亀裂が走っていた。その亀裂を辿っていくと数メートル先までその亀裂が続いていた。
 奴の気分次第で私達ごと辺りを一掃できると、その亀裂はそう物語っている、そして今のヘラは言うまでもなく不愉快を通り越して純粋な殺意を放っている。

「うるさい…なに?お前達って話したことを事細かく話さないと伝わらない猿なのか?」

 ヘラの台詞が威厳の欠片もなく煽るような喧嘩節だが、反論をする度胸すら与えられぬ威圧感を叩き出していた。

「命がなんだかと言っているが、お前達も私の部下を消し飛ばしただろう。そして私に修復困難な傷を負わせた。お前達がよく言う、やられたからやり返す、それをやっただけだ。」

 ヘラが何を言ってるのか理解できず、二人は唖然とした表情で彼女を見た。

「お前は…何を言っている?」
「お前達は被害者面するだけ都合のいい言葉を使う。復讐、仇、逆襲、仕返し、自分だって同じことをしていたのに勝手に相手を悪者扱いする。」

 いかにも論理的な話をし続けるヘラに対し、シトリーは沸々と怒りを湧き上がらせる。あまりにもふざけている…

「同類なんだよ、手を上げた時点で奪うか奪われるかの争いに発展した。そこに湧き出た死人など知ったことじゃない。最初から魔紅石を大人しく譲ってくれたらいいものを、お前達が反抗するから死人が出た。お前達が私の部下を消したから死人が出た。お前達が私を傷つけたから死人が出た。すべてはお前達の選択ミスが仲間を殺したんだ。」

 矛盾を通り越して…あまりにも理不尽極まりない言葉が二人の耳に入る。

「選択…ミスだって?」

 ヘラの話に反応するようシトリーが低く呻いた。
 魔紅石を巡って殺し合いへと発展させた挙句、命がけで私達を逃がそうとしてくれた仲間達の行いを否定した。
 わかるわけがない…価値観が違いすぎる…今話しているのは人じゃない…悪魔だ!

「先に手を出してきたのはお前達だろ!私達が人殺しだと?手にかけたお前が偉そうに語るな!」

 バリバリと稲光を発し紅い槍を手元に召喚した、それをヘラに突きつけながら叫ぶ。

「お前の言葉を借りさせてもらうよ。確かに同類だ、何も得ず、仲間を大勢失い、お前からしてみれば猿同然の弱者に殺されそうになった。その経験談を持ち帰って何になる?お前達こそ私達に出会ったのが選択ミスなんじゃないのか!?」
「屁理屈が…」

 ヘラはそう叫ぶシトリーを睨みつけ低く呟く。

「一つ間違いを訂正しよう、私が何も得ていないというのはお前が考えた今まで結果論だ。お前達が仲間の話に夢中になりすぎたせいで本題に入るのが遅くなった。」

 ヘラが気怠しい素振りでシトリーに指を指すと積極性な口ぶりで告げた。

「最後の魔紅石を頂きに来た、そのためにこうして帰らずにお前達がここに来るのを待っていたのさ。」

 やはり魔紅石が目当てだった、私が持つ槍には仲間達が使っていた武器の数倍以上の魔紅石が使われている。奴からしてみれば見過ごすことなどできない代物だろう。
 だがこの槍を奴が手に入れることは絶対にできない。この槍の中には召喚魔法が組み込まれている、出し入れの際に何もない空間から召喚するため、武装解除してしまえば私以外で取り出すことは不可能。持ち主が死亡してしまえば尚更、召喚魔法は効果が永続的なため持ち主が召喚するという意思を持たなければ永遠に出現しない。
 そう、奴の思惑を否定するためのアドバンテージをとっていたつもりだったが…

「だが…お前はそう威勢を放っているつもりだが、勝負に勝とうとは考えていないだろう?死しても召喚魔法で槍さえ消しとけば勝てるから…なんて考えてはいないだろうな?」
「ーーッ!?」

 ヘラに仕組みがバレており、シトリーは見抜かれたと焦りを感じながらその表情を表に出さないよう顔を固くする。そのちょっとした違和感に気づいたヘラは疑う余地もなく話続ける。

「なに…手合わせすれば誰がどんな力を持っているかなど把握するのは容易だ。そこから予測し、相手がどんなやり方でこの場を切り抜けるか、選択肢が限られる人間ほどわかりやすいものはない。」

ヘラは気怠しく指で顎をいじるような悩む素振りを見せる。

「だがそうなるとただでは手に入れられそうにない…お前は私の嫌いな部類に入るが、不本意ながら決めたよ…」

 そう言うとヘラは右手をくいっと折り曲げる素振りを見せ、シトリーにこう告げた。

「シトリー・クリフレッド…私の配下になれ。そうすればその槍の魔力をこちらに持ち帰ることができる。」
「ふざけるな!!」

 ヘラの誘いを強く反対するシトリー、誰が全てを奪った張本人の下に付こうか?そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない。
 それでもヘラは、断られた話を無視し話し続ける。

「何も…こんなところで惨めに死ぬことはないだろう。私の下につけば殺さずに生かしておいてやる、もちろん隣にいる口うるさい従者もつけてだ。」
「何を言っても同じことだ!私達を生かすみたいに唆してるつもりだが、お前が欲しいのはこの槍だけ。後から始末すればいいっていう魂胆はお見通しだ!絶対にお前の思い通りになんてなってやるものか!」
「はぁ…またお前は選択を誤るのか?勝てないとわかって無駄に命を散らすつもりか。」
「勝てる勝てないじゃないわ、私はもう逃げない…お前の手で殺して来た86人の仲間達の無念を晴らすために…」

「刺し違えてでも倒す!!」

 シトリーの覚悟がヒズミにも伝わる、彼は武器を懐から抜くと主を守ろうと前に出た。彼が見せる右腕的存在には今までも助けられてきたが、今は違う。
 私はぎゅっとヒズミの手を掴む、それに反応したヒズミは私の方へ振り向くと同時に彼の隣へと横並びに立った。

「ヒズミ、最後になるかもしれないからこれだけはお前に伝えておきたい。あの時私を復讐心から救ってくれてありがとう。最後まで一緒に戦ってくれ。」

 吹っ切れたような清々しい表情をして俺にそう告げるシトリー。死ぬとわかっている結末を前に、それは最後の遺言のように聞こえた。
 そんな彼女を前に俺は何と伝えたらいい?最後にはさせない?必ず守ってみせる?どれもこれから始まる死闘には邪魔な支えにしかならない。
 だったら俺も…お嬢様と共に行こう。俺は…

「どこまでもお供します、たとえそれが地獄への片道切符だったとしても。」

 そう答えると、シトリーは安心したような笑みを浮かべた。

「そうか…安心した、お前となら寂しくない。それじゃあ…」

 そして、気持ちを整えたその時…彼女から戦闘以外の余計な感情が削ぎ落とされ、真っ直ぐヘラを睨みつけた。

「いくぞ!!」

 シトリーがそう叫び告げるとヒズミと共に地面を蹴り出しヘラに向かって駆け出した。その駆け出す瞬間、ヒズミはシトリーに加速魔法・加速《ハイスピ》をかけ、その効果を上乗せするよう槍スキル《アクセルスピア》で稲妻のような瞬間的なスピードで突進した。
 が…槍の先に手ごたえがなく空を切る感触に触れた。

「そうか…同じ過ちを繰り返すというのだな。」

 そう呟くヘラの姿はついさっき立っていた場所から数メートル離れた位置に降り立っていた。
 そして、青くギラリと見せた鎌の刃をゆっくりとシトリーに向け、優雅に戦闘態勢をとった。

「では…闇に堕としてやろう。その体に恐怖を植え付けてな!」

 ヘラがそう言葉を溢し、動き出そうとした瞬間、滑空しながらこちらに刃を向けるヒズミが横から現れた。

「ウィンドスラッシュ!」

 加速《ハイスピ》を使った不意打ち速攻、常人でも対処しきれない速度でヘラに斬りかかるが…
 ヒュンとヒズミが振るった曲刀は空を切り、ヘラはすでにシトリーのもとへ移動していた。

「くそっ!擦りもしない…!お嬢様!」
「くるっ!」

 ヒズミから受けた加速魔法はまだ生きている、私は自身の戦闘本能が命ずるままに槍を連続で動かした。左右からの薙ぎ払い、それにフェイントをかけた上段突き、ヘラに攻撃をさせないようあらゆる方向からその手を伸ばす。だが…
 ヘラは自身が持つ大鎌を片手で振り上げ、優雅に、そして的確に私の攻撃を捌き続ける。もはやそれは弄ばれているようにしか見えない。

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 交戦する二人の間にヒズミも加わり、二対一の攻防戦に切り替わった。何秒何発もの攻撃を撃ち込むシトリーと、魔導武装《風斬|かぜきり》により不規則な風魔法の斬撃を放つヒズミがヘラに迫るが、ヘラの表情は変わらない。手数が増えればその分対応できるようにと振るう大鎌の速度が加速するだけ。

「いいコンビネーションじゃないか、相手が反撃できないよう互いの隙を埋め合うその戦い方。面白い。」

 ヘラはそう言いつつ未だ余裕そうな太刀筋を見せる、面白いと奴は吐かしているが二人からしてみれば、「いつでも潰せる」と嘲笑っているようにしか聞こえなかった。

「舐めるなぁ!!」

 シトリーは上へと弾かれた槍を高速で振り下ろし、ヒズミはヘラの真横へ瞬時に移動し下から斜め上に曲刀を振り上げた。ヘラを挟んだ左右同時攻撃、武器一つでは対処しようがない…はずなのだ…

「がっ!?」

 ヒズミは痛みで顔をしかめた、振り上げる腕を鎌の柄先で叩かれてしまい、その衝撃で曲刀を手放してしまった。
 ありえない…ヘラはチラリとしかこちらを見ていない、その一瞬映った俺の姿だけで斬り込む瞬間とその位置を明確に予測していた。

(こいつはいいとして、この槍だけは確実に避けねばな…。)

 そう、ヘラは防御しなければいけない優先順位をシトリーの持つ槍に絞った。ただ風の力で抉るような斬撃を与えるヒズミとは打って変わり、触れただけでも体の一部を溶かされるほどの魔力を多く溜め込んだ紅い槍の存在が一番怖い。
 だから真横から迫るヒズミに対してはさほど脅威など思わず長い柄で突(つつ)く、それだけで一瞬足止めできる。そのもらった一瞬の時間を使い、シトリーの振り下ろす槍を仰け反るように回避した。
 渾身の一撃が両方外れた、その隙を突くようにヘラの大鎌がシトリーに照準を合わせた。
 空中では避けきれない、完全に振り下ろした槍を戻して防御する時間もない。斬られると覚悟をしていたシトリーだが…

「させるかッ!!」

 ヒズミが咄嗟に大鎌を持つヘラの腕にしがみついた。ヘラはその行動に驚きはしたがそれは一瞬でしかない、ヒズミの体重を乗せた分薙ぎ払おうと仰け反った体をバネに力強く大鎌をシトリーに振り切る。

「邪魔だぁ!」
「ぐあっ!」

 ヘラの勢い溢れた攻撃にかかる遠心力にヒズミの体は数メートルほど飛ばされた。
 その逆、シトリーの体を狙ったヘラの大鎌は、シトリーの頭上をかすめて空振った。

「くっ…一手遅れた!」

 一瞬の差だった、ヒズミがしがみついたことで思考が増えたあの一瞬の硬直により、シトリーは地に降り立ち即座に体を伏せて回避した。
 だがシトリーは止まらない、狙い定めるようにヘラを睨みつける。

「ーーまだだッ!!」

 伏せたと同時に身体を軸に横回転をし、遠心力を乗せた薙ぎ払い攻撃《ルナ・クエーサー》を繰り出す。
 加速魔法を乗せたその槍は残像を残し、まるで赤い月のような姿を一瞬だけ見せる。
 未だ鎌を振り切った状態のまま体を直せていないヘラの隙を読んだその攻撃は、正確にヘラの腰部分を捉え…

「ちっ!」

 ダァァン!
 という爆発音と共に二人の体が宙へ飛び上がった。

「くっ!あと一歩だったのに…判断が速すぎる!あの悪魔!」

 シトリーの手にヘラの肉が裂いた感触が無かった、代わりに受けたのは空気圧で押される衝撃波だった。
 ヘラは自身の大鎌の一振りを回避されたあの時、反撃の姿勢をとったシトリーを見て即断した。
 空いた右手に体内に残る魔力をうまく使い、濃密に圧縮した爆破魔法を作成。放ったと同時に起爆し、その衝撃波で槍の一振りを回避しようと彼女は考えついたのだ。

「久しぶりだ…この体に死を感じたのは。」

 二人は同時に地に着地し、お互いを見合った。ヘラはこの状況が楽しんでいるかのように口元が緩み口角が上がっていた。
 それを不気味に感じたシトリーは危機感を全身に感じさせながら槍を構える。だが、構えているだけでは何も起こらない。
 次に認識した時には目の前からヘラの姿が消え、シャンと鎌が空気を裂くような音が背後からした。

「くそっ!目で追えなかった!」

 シトリーは振り返り、背中を見せるヘラを見て悔いむ。
 まただ、攻撃が来る瞬間ヘラの姿が消える。あの橋の出来事でもそう、彼女は瞬間的に力を底上げさせあの高速を生み出している。

(あの距離まで遠ざけたら駄目だ…!もっと近く、もっと速く、変則的なリズムを作り出して奴を欺くことができれば…!)

 余裕を見せるよう背を向けて佇むヘラに向かって再び技を繰り出そうとするシトリー。足を地面に踏み締めた瞬間、軽い振動で脇腹に激痛が走った。

「お嬢様ァ!!」

 ヒズミの糾明な叫び声と一緒に自分の置かれている状態に気づく。
 脇腹に綺麗な切り口で肉が切り取られており、そこから血が滲み出ていた。

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