推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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復活の厄災編

第五十三話 共闘④

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 ーー数分前・死霊の谷

「………は…?」

 俺は目の前の光景を見て驚愕し、心の整理が追いつかない状態にあった。

「何で…俺だけが…」

 目の前にあるのはそびえ立つ土壁と巨大なパンデモニウムの死体が転がるさっきまでと変わらない光景、だが唯一変わっているのはさっきまでいた仲間達の姿が消えていることだろう。
 クロムは頭が混乱しながらも一つずつ原因を探る。

「なんで転移に失敗した?」
 ーー魔法陣を広げたことで不安定になったのか。

「なんで俺だけが取り残された?」
 ーー取り残される理由…そんなものわかるわけない。

「仲間達は指定した場所に飛べたのか?」
 ーー霊長の里にイメージを当てた、皆はちゃんと目的地に着いているはず。そうに決まってる…

 俺なんかは別にどうだっていい…だが仲間だけは無事であってほしい。そう願ってもパッとしない想像では不安が徐々に募っていく、俺が大丈夫じゃないなら皆も大丈夫なわけがない。

「くそっ!何でこうなった…転移はもう一回使える魔力がある、でもこの妙な転移の原因を見つけないと迂闊には飛べない…!」

 帰ろうにも帰れない、出来るのに出来ない、その二つの選択が心を揺さぶる。そんな迷い惑う俺の前に地面を擦る音と共に一人の人物が上から舞い降りた。
 俺はその気配に頭を上げると、さっきまでの迷いが嘘のように消えるほどに驚いた。

「お前…!シトリー!?」

 青紫色の頭と白を基調とした服を纏った悪魔、だが今目の前に佇むそれは鮮やかな髪色が土埃で汚れており、清潔な白を模した服はアマツとの戦闘で負った傷で紅く変色している。
 何故彼女が生きている?そう一瞬考えたが、パンデモニウムの復活に考えが行って彼女をそこに置いていったことを思い出す。それでもアマツの攻撃をくらってまだ生きていることに驚きだが…。

「パンデモニウムを倒すなんてね…私が想像していた最悪な状況がまさか本当に実現しちゃうなんて思わなかった。」

 ゆらゆらと小さくふらつきながら俺を睨みつけるシトリー。すぐ攻撃を仕掛けてこないことから、おそらく満身創痍なのだろう。
 ともあれ彼女の危険性は未だ変わらない、剣を抜き臨戦体勢をとるクロムに、シトリーは重ねて恨めしそうに言う。

「勇者…お前が来なかったら…!」

 彼女の言動で何となく察した、俺が転移に失敗して自分だけが取り残された状態なのに、彼女は何故俺が一人なのかも何故仲間達がいないのかも聞いてこない。
 まるでそれらを知っていたように、俺をここで仕留めようとそれだけに集中しているように見えた。

「まさか…転移を妨害して俺をここに留めさせたのはお前の仕業か。」

 転移を妨害なんてあり得ないことだが、シトリーにその行動について問うと彼女は手に持っている柄先が折れた銀色の杖を見せた。

「お前達が殺した私の仲間が持っていた杖だ、この杖には交換転移《クイックチェンジ》が使えるよう仕込まれている。お前が転移しようとした直前、魔法陣の外にある石ころとお前の立ち位置を入れ替えた。転移魔法は魔法陣に入っている者にしか効果は発揮されないからね。」

 シトリーの言葉で俺の疑問はようやく解消された。だがイレギュラーがあったとはいえこれは盲点だった、まさか対象外になるのは詠唱者も含まれているとは…。

「俺を殺すために、俺を一人にできるチャンスを伺っていたってことか。」

 おそらく一人では俺達に勝てないと知り、目的である勇者の討伐に絞り込む。と考えられるが、それは今の状況下でいうとシトリーには不利であった。
 アマツとの戦闘で負った満身創痍な体と、支援する仲間もいない状況。いくら疲弊してかなりギリギリな状態の俺であっても、勝敗は目に見えている。

「もうやめろシトリー、お前達は負けたんだ。これ以上の争いは不毛でしかないのはお前だってわかるだろ。」
「……。」

 俺の警告を無視するようにシトリーは睨み続ける。
 以前として退くこともしない彼女は一歩こちらに歩み出すと、俺はいつでも来ていいよう姿勢を傾かせ身構えた。

「俺を倒すまでまだ負けてないってことか…お前はもっと賢い奴だと思っていたんだが。」

 いくら相手がボロボロであってもシトリーの槍を持った突進速度はニーナと遜色ない。
 一瞬、不意打ち、ノーモーションでの突き、意識外からそのような攻撃をされれば俺は太刀打ちできない。
 観察しろ、シトリーの全体を、武器らしきものを持っていなくとも彼女には武器を召喚できる力がある。どんな動きも見逃すな!

 数秒の沈黙と睨み合いが続き、先に動き出したのはシトリーだった。
 ゆっくりと姿勢が傾き、こちらを睨んでいた目線が地面に向けられ始める。

「来るっ!」

 その行動にいち早く察知したクロムは距離を置きつつ彼女が飛び出してくるのを警戒した。
 だが…クロムが思っているようなことにはならなかった。シトリーはそのまま姿勢を傾き続け、最終的には…

「……は?」

 地面に手と膝をつき、四つん這いの姿勢をクロムに見せる。そして砂を噛むような苦しむ声で言葉を発した。

「今さら…虫のいい話だと思う。でも…お前しか…話の通じるお前しか…!」

 ーー屈辱…屈辱…!この私が…憎むべきこいつに…!頭を下げている…!死にたくなる…死にたい…死にたい…!死にたい…!

 ーーだが…これしか…道が…!

「今までの非は私の死で償う…だからお願い…私の仲間を…ヒズミを…助けてほしい…!」
「ヒズミ…?」

 彼女の仲間だと言うヒズミ、そうだ…そういえばそんな奴がいた。ゲームをプレイしていた時の記憶に、先頭に立つシトリーの隣に荒々しそうな男がいたような…。
 それを助けてほしいと彼女は言った、俺達を殺そうとした彼女からそう言われたのだ。

「それって…敵の仲間を、俺に救ってほしいって言ってるのか?」
「……そう。」

 俺は突然のことにその場で固まった。嘘なのか、そうではなく本当に俺に対してのお願いなのか、訳が分からず混乱する。そんな中、シトリーはそのまま地面に突っ伏しながら言葉を続ける。

「ほんと…ふざけんなって、そう思って当然だと思う。お前を殺そうと考えていた奴が、厄災魔獣を復活させてまで殺そうと画策していた奴が、助けてって言うのは…」

 力強く指で地面を掻き、さらに頭を下げるシトリー。そのお願いが本当であるように土下座で今までの非を謝罪しているように見える。

「それでもわかってほしい…!私にとって大事な奴なんだ!今の私はまともに動けず助けに行けない、目の前で助けを求めているっていうのにこのまま見殺しになんてできない!お前もこの気持ちは分かるだろ…」
「大事な奴ならこっちにもいた!!」

 シトリーの話を俺は怒号で遮った。目の前で助けを求めていたのだが、彼女の懇願する声に信ぴょう性があったのだが、俺は彼女を助けようとする気が1ミリも感じなかった。

「お前が頭下げて、この戦いを引き起こしたことに懺悔すれば俺が言うことを聞くとでも!?お前達のせいで何人死んだと思ってんだ!」

 その怒りの声にシトリーは頭を上げ、俺に悲痛で歪む顔を見せると同じく叫んだ。

「っ!こっちはもっと殺された!死体も残らず全員がっ!そして私だけが生き残った…この苦しみがわかるか!?」
「だったら何でこんなことをした!大事な仲間を切り捨ててまでどうして戦い続けた!?仲間が大事なら、もっと別な生き方があっただろ!」

 俺はこの時…感情の昂りでつい口走ってしまったことに後悔した。シトリーは激情で震える体を抱きながら叫び続ける。

「私が…皆とそうしたいと何度思ったか!でも出来ない…出来ないんだよーーッ!!」

 シトリーの目から涙が溢れ、子供のように泣きじゃくる。その姿を見て彼女が帝国の幹部だと誰が思うか、悪魔の姿であろうと心は確かにそこにあるのだ。

「私達は監視されてる…ヘラ様にとって私達はチェスの駒でしかない、妙な動きをしないよう矯正されるのが私達の運命なんだよ…。」
「……。」

 俺はその言葉に驚きもそれ以上の追求もせず黙って彼女の話を聞いた。何故ならば俺は知っているからだ、彼女の比喩通りヘラにとってその部下達は駒でしかない。
 帝国に在する悪魔達にはヘラの僕(しもべ)として奴隷の紋様がつけられている、いわばレズリィとセーレのような主従関係をヘラは何百何千という部下達に繋げている。
 だがそれは主と従者という関係を持つわけではない、ただ一つ…絶対服従という命令が機能しているかの確認のためである。その命令と違う行動をとっていないか、ヘラにとって害する情報を相手に洩らすようなことをしていないか、もし反抗をしてしまった時にいつでも口止めできるようにとそれがある。
 それはまさしく《裏切り者は殺される》そのフレーズはゲーム内でもよく耳にしていた。
 だが、ゲーム内で帝国の悪魔がヘラを裏切るような描写は描かれない。何故なら悪魔達はヘラと同じく、勇者を殺すこと以外考えることはないからだ。
 それが今、破られようとしている。明らかなヘラの命令に対する疑念、そして敵である俺に助けを求め頭を下げている。殺されるとわかっていての彼女の覚悟がそこに映し出されていた。

「どちらにせよ私達の負けはもう決まってる、厄災魔獣は機能を失い、私だけが撤退しても不甲斐ない戦いをして逃げたとみなされ殺される。帝国の悪魔としての私はもう終わったんだ…だから今お願いしているのはシトリーという一人の女性としての頼みなんだ…!」

 シトリーは再度、俺に向かって頭を下げた。威厳やプライドを全て脱ぎ捨て、細い体をぶるぶると震わせながら地面に這いつくばる。

「お願い…します…!もうこの目で…全員が死んだ事実を受け入れるのだけは…嫌なんだ…!それが…最後に見る光景なのが…嫌なんだ…!」

 俺は目の前で必死に懇願するシトリーを見て葛藤する。
 彼女は悪魔だ、嘘と騙しを駆使して俺の隙を狙っている可能性がある。どんなに泣いて頼まれたとしても彼女とそれを率いる悪魔達が里の近衛隊と魔導隊を多数殺してきたことは変わらない。
 嘘に決まっている、それなのに俺の口から「断る」という文字が出てこない。
 人の情けというものだろうか、助けてと泣いて頼む人を見捨てることができない。
 あの時もそうだ…ルーナ城での契約決闘《エンゲージバトル》でセーレの魂がレズリィの使役者となる場面、彼女は泣き叫びながら魂が別色に染め上げられることを拒んでいた。
 あれは紛れもなく本物だろう、だとするなら今見ているシトリーのあの慟哭は本物なのだろうか?

(どうする…いや、これは考えることなのか?危険だとわかってこの頼みを飲むべきか…断るべきか…驚くことが多すぎて判断がまとまらない。俺は…この先をどう見るべきか…)

 その時ふと…アマツの説得で自身が口にしていたことを思い浮かべる。

 ーー俺達はアマツみたいに、自分の力で何でも解決できるちか力は持っていない。だからこそ多少の危険(リスク)を負ってでも相手より先に先手を打つ。

 俺の心に邪念が入り込む、またこれだと…自分で自覚しながら目の前で深く土下座するシトリーに向かって口を開く。

「二つ条件がある。」
「…っ!」
「俺は今までの戦いで体力がかなり消耗している、助けようにも助けられない状態になってるってことだ。もし、助けられないと判断した時にはすぐ諦める、お前が変な動きをすればすぐ諦める、主導権はこっちが握ってるってことを理解しているなら助けてやる。これが一つ目だ。」

 話を聞き入れてくれたことに、シトリーの姿勢がゆっくりと上がっていく。それを見ながらクロムはもう一つ…

「そして二つ目、そのヒズミという人物は助ける。ただしシトリー、お前は助けない。助けた人間はこっちで預かる、それでいいか?」
「あぁ…それでいい…。」

 要するにヒズミを助ける条件として、勇者の言うことは必ず聞く、ヒズミはあちら側に引き取られる。何ともこちら側にとって不利な条件だが、助けてくれるという話につられてシトリーは頷く。
 だがその瞬間、ある違和感が彼女の脳裏を横切る。
 二つ目の条件を口にした時、彼はなんて言った?人物…人間…別に違和感を持つ言葉ではないが、悪魔で構成された自身の軍を見て、何故助ける者が人間だとわかった?

「じゃあ聞くが、そのヒズミはどこにいる?」
「ちょっと待て…今お前、ヒズミのことを人間と言ったか?面識はないはずだが何故知って…」
「質問してるのはこっちだ、余計な詮索は助ける条件に引っかかるが?」

 条件を突き出してこれ以上の詮索をさせまいと話を被せる。シトリーはヒズミを助ける話がここでなかったことにされることに恐怖を抱きつつ、その謎を伏せた。

「……わかった。」

 シトリーはそう了承すると、右前方に向かって指をさす。

「後ろを見てくれ。そう、あのパンデモニウムが倒れている場所だ。」

 クロムは言われた通り、横目で倒れたパンデモニウムを見つめる。

「黒い皮膚の上からほのかに光る赤い光が見えると思う…そこにヒズミがいる。」

 その言葉に驚愕し、勢いよくパンデモニウムの方に顔が向いた。

「まさか…奴の腹の中にいるっていうのか?」

 クロムは言われるままにパンデモニウムの巨大な体を観察した。まじまじと見たことがなかったが、ぶよぶよとした頭部とは違い、胴体は蛇のような鱗がびっしりと張り付いて光の加減で黒から濃い紫色に変色している。
 そしてそんな暗い色の中から、ほのかに赤紫色に光る箇所があった。不自然に楕円状に光るそれは、鱗の隙間、皮膚を通り越して中から発光しているというのが見てとれた。

「この一部分だけ他と色が違う、中から光っているのか?これは一体…」

 何故赤く発光しているのか、その疑問にシトリーが解説する。

「あの赤い光は…私がヒズミにあげた、瀕死の時に周りにバリアを張るよう仕込んだ魔石。一定時間ならある程度の攻撃を受け付けない、だからまだ生きている可能性がある。」
「生きてるって言われてもな…」

 正直、パンデモニウムの体内で生存しているとは到底思いにくい。だが、中にいる人がどうであれ救出できないわけではない。条件を突き出した本人が生存の確認を取れない場合は諦めると言及していないためやる他になかった。

「まぁ…さらに深い崖を降りたり、何キロ先を歩かせるよりかはマシか。」

 俺はそう言いつつ腹をくくると、全神経持っている剣に集中させ飛び上がり、空中で体を回転しながら相手に叩きつける《ドラゴンリープ》を放つ。

「オラっ!!」

 渾身の一撃がパンデモニウムの胴体に入る、だがその剣に触れた衝撃に予想もしなかった結果が帰る。

「硬い…!頭部と違って腹の肉質はこんなに硬いのか…。」

 今持てる剣術スキルの中で最大の火力を持っている《ドラゴンリープ》、その技をもってしても鱗状の皮膚に亀裂が入るだけだった。

「いや、皮膚が硬いだけで中の肉質は柔らかいかもしれない。ハンティングゲームでもモンスターの部位破壊で肉質が軟化する仕組みがあるんだ、きっとこのまま攻撃し続けていれば…」

 クロムは再びその亀裂に目掛けて剣を振り下ろそうとしたその時、足に伝わる妙な揺れに反応し切っ先が皮膚の上で止まった。

「地鳴り…くそっ!」

 すでに経験しているこの鈍い振動、何が来るのかなんて想像できる。正直このまま蚊帳の外にいてほしかった、肝心な時に邪魔してくる奴がまたここにもやって来る。

 ドガァァァ!!
 倒れたパンデモニウムの巨体の背後から、地面を抉る音と共に三体の触手が顔を出した。

「いい加減しつこいぞ!この触手野郎!」

 あれだけ倒したというのにまだうじゃうじゃと湧いて出てくる触手に、嫌気が差すどころか半ば半ギレになりそうだ。
 基本的に知能の低い怪物、鑑定《アナライズ》を使ったステータスには突進と巻き付く攻撃しか攻撃出来ない。だが、その耐久力にただの斬撃だけでは撃退することはできない。数が多ければ一体に対応するのもかなり困難になる。

(そうだ…鑑定の時に見たが、たしかこいつらはパンデモニウムの幼体、生物的に考えて親玉が死んだらその子供も同時にいなくなるなんて都合のいい話だ。)

 あと何体いる?こいつらを気にしていてはいつまで経ってもヒズミを救出できない。
 そう奴らの行動に注意しているとパンデモニウムの体の上を這いずりながらこちらに向かってくる、迷っている暇はない、ここでやるしかない。

「こっちはお前らに構ってやれるほど暇じゃねえんだよ!」

 こちらのやる気を感知したのか一斉に向かってくる触手に対し、横薙ぎに剣を振り払おうとしたその時…
 紅い影が目の前に飛び込み、触手達の体を貫いた。それは無数の槍で、ダメージを受けた触手達は潰れた先を切り離し地中へと帰って行った。
 クロムはその無数の槍を突きつける技を知っている、咄嗟に振り返り彼女を見る。

「シトリー!?」
「そいつらが邪魔なんだろ?動けなくたって遠距離支援ならいける、お前はヒズミを助けることに集中してくれ…!」

 彼女は俺を睨んでいた、仲間の命を奪われた憎しみの目ではなく、お前しかいないとせがむような願望の目だった。
 俺達を殺そうとしていた奴が、ボスであるヘラの命令に背き、自分ではなく仲間の命を助けてほしいと頼む。そして仲間の救出のために俺と協力しようとしている。
 俺の中でのシトリーの印象がようやく変わり始めた、この悪魔は本気で仲間を助けようとしている。だとしたら俺自身も応えるしかない。

「敵同士でその覚悟…わかったよシトリー、今だけは共闘だ!」

 再び、俺は亀裂を入れた皮膚に斬撃を叩き込む。その最中、前方左右から土を抉りながら触手がこちらに迫ってくるが、見向きもせずに俺は目の前の壁に集中していた。
 肉を突き刺す音や、焼け付くような熱の感触が俺に伝わる。この時は気づかなかったが、俺が立っている場所から半径3メートル圏内で触手が入り込むことはなかった。
 ボロボロの体でなんて攻撃力と攻撃性能なのだろうか、彼女の脅威に今は感謝しながら俺は亀裂を叩きつ 続ける。
 そしてようやくそれが訪れた…

「おし!硬い皮膚が剥がれた!この調子ならいける!」

 鱗が剥がれると中から柔らかい皮膚が現れた、そしてその皮膚を裂くと真っ赤な血肉が溢れ出した。
 思ったとおり、硬いのはこの表面の鱗で中は柔らかい。硬い鱗を攻略できればもはやクリアと同じだ。

「このままの調子で頼むシトリー、あと5分は持ち堪えてくれ!」

 俺はそう後方にいるシトリーに伝え、再び硬い鱗と格闘する。
 その左右上方向、二体の触手がパンデモニウムの体の上でゆっくりとクロムに向かって忍び寄って来る。
 それを見たシトリーはすぐさまその触手を貫こうと手持ちの槍を投げようとする。

「邪魔するんじゃないわよ!」

 もうこれは勇者の助手に近い存在だろう、彼は私に細かい指示を与えることなく淡々と鱗を剥がしていく。
 後ろで私が彼の邪魔になるものを排除してくれると信頼してくれているのだろう、ヒズミの救出という互いの目的が一致した時、ここまでの関係を築こうとは…
 さっきまで殺し合っていた者とは思えない、どれだけ心が広いのか、それともただの馬鹿なのか。彼にとって敵味方など関係ないのだとしたら、私達のような悪魔も彼は手を差し伸べてくれるのだろうか…
 彼の人柄に疑問を持ち始めたその時ーー世界がブレた。

「っ!」

 どう表現すればいいのだろう、鱗を剥がす勇者の手が遅くなっており、忍び寄る二体の触手はあまりの遅さに止まっているように見える。
 一瞬だ…瞬きをした瞬間にその世界に切り替わった。
 その不自然な空間に連れて来させられた理由は、自身の脳裏に響く謎の声で理解した。

 ーー何をしている…シトリー。

 鋭いナイフを首に突きつけられるような錯覚を覚える冷たい声…まるで今背中に佇んでいるかのような威圧感…

 ーー早く勇者にトドメを刺せ、背を向けている今ならできるだろう。

 恐怖で腕が止まる…彼女の声が脳を通じて体に染み込む…逆らうことを体が拒否しているみたいに脳がクリアになる。こんな事ができるのは一人しかいない…

「ヘラ…様…」


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