末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう

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2 s.アズラン

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「末っ子王子を舐めていた。」

 真面目な顔をしてそう呟くのは王宮騎士団団長を務めるアズラン・ノースである。作業の手を止め、副団長であるブライ・パールが少し揶揄う様に尋ねる。

「え、なんですか?王子様が実はかなりのわがまま坊っちゃんだったーとかですか?」

「違う。甘え上手と言え。」

 キリッとした視線でブライを捕らえすぐさま訂正する。

 約10年にも渡る想いを実らせ末っ子王子ことフランと結ばれて早2年が経とうとしている。

「…で、どうしていきなりそんな事を?」

「フランが可愛すぎて仕事が進まない、会いたい、離れたくない。」

「……。」

 ブライの冷たい視線をもの物ともせず、アズランは続ける。

「…まぁ、冗談はさておき。最近朝に…」

 冗談?と思いながらアズランを静かに見つめるブライを再び気にもせずアズランは話し続ける。

 (そうだ、この男は元来この様な周りの事など全く目には入れず何も気にしない他人への興味など示さない男だった。)

 アズラン・ノースはこの美貌の割にモテない男だったのだ。




 時は遡りアズランがフランに出会う前のこと。

 無表情、無愛想、無関心、彼を一言で表すと無だった。ひと目見れば誰もが目を奪われる様な容姿を持ちながらその心は氷の様に冷め切っており一言交わすだけで人が離れていく様な人間であった。

 もちろん元からこうだったわけではない。昔は笑顔の絶えない無垢な少年であったが出来の良い兄である次期辺境伯と常に比べられ、容姿にしか興味のない人間ばかりに上辺だけの言葉を並べられ幼い心は擦り切れ閉ざされ冷徹とまで呼ばれる様になってしまった。

 そんなある日、この国の第4王子のお披露目会を王宮で盛大に行うと招待が来ていた。辺境伯の次男であるアズランも招待されるほど大々的に催すらしい。

「……(興味がない。)父上私は鍛錬の為残ります。」

「ならん!歳が十を越えた全ての貴族と招待状に書いている。もちろんアズラン、お前も含まれている。連れて行かないわけにはいかない。」

「…承知しました。」

 心底行きたくない。どうせ関わる事のない王族を見たところで意味がない。と、下品な視線や噂話しかない場に出るのはアズランにとって苦痛以外の何者でもなかった。

 (何か問題でも起きないだろうか、隣国が攻めてくるとか……ないか。)


 和平協定を結んで長い隣国が攻めてくることもなくアズランの願いも虚しくスムーズにことが進み当日を迎えた。



 アズランはというと何故か図書室に居た。自分でも何故ここにいるのかは分からないが一通り挨拶を済ませた後両親と兄と別れ人気を避けているうちにこの本だらけの一室に迷い込んでいた。

 (王宮図書館の一室か?誰かに見つかっても面倒だな、別の場所に、)

「お兄さんだぁれ?」

「!」

 (!しまった、既に人がいたとは…)

「?もしや、フラン殿下でございますか?」

 図書室の奥からうさぎのぬいぐるみを抱えた煌びやかな服装に身を包んだ六歳くらいの少年が声を掛けてきた。

「うんそう、お兄さんは?」

「…私はノース辺境伯家が次男、アズラン・ノースでございます。殿下にお会いでき誠に光栄でございます。」

 急ぎ跪き挨拶をする、しばらく何も返事がないので顔をあげると殿下の表情が目に見えて悪くなっていた。

 (……なんなんだ、俺は教えられた通りやったぞ。はぁ。)

「殿下、いかがされましたでしょうか?」

 ここで王子様の逆鱗に触れても面倒だが放っておくのも後々面倒になりそうだと思い殿下に問う。

「………みんな、殿下っていうの。」

 (は?何を言っているんだ、この国の王子様なんだから殿下って呼ぶに決まっているだろ、)

「フランの事みんな殿下っていうの!フランはフランなのにぃ……。」

「………殿下はこの国の王族でございますので殿下とお呼びするのは決まりでございます。……では、反対になんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「フラン!フランって呼んで欲しいの、だって前まではみんな名前で呼んでくれていたのに最近は殿下殿下ってなんか、さみしいの、」

「…左様でございましたか。」

 このわがまま王子め、そんなことできるわけないだろ。と言いたい気持ちを一旦抑え、殿下からどう離れるかを考える。

「……ねぇ、アズラン。ルーちゃん、おめめが痛いんだって。」

「ル、ルーちゃん?」

 いきなりなんの話だとフランの方をよく見ると抱いていたうさぎのぬいぐるみの片目が取れかかっていた。

「さっきね気づいたの。でもみんな忙しそうだったから僕が直してあげようと思ってここに来たの。」

「どうしてここへいらしたのです?見たところ針子はおりませんし、本しか見当たりませんが……?」

「僕知ってるの。ここにいつもいるメイリーンが裁縫道具をここに置いてるの!」

 (……王宮の危機管理が甘いな、一番見られてはいけなさそうな人にバレているなんで)

「でも、僕針を使ったことがないんだった。どうしよう、ふぇ」

「………私が直しましょうか?」

「え!アズラン直せるの?」

「えぇ、このくらいでしたらすぐに。」

 数年前、まだ兄と競い合っていた頃のアズランが色々な物事に手を出しており裁縫にも少し触れていたので多少であれば出来たのだ。

「すごぉい、僕お隣で見ててもいーい?」

「構いませんが、何も楽しくはないと思いますよ。」

「いいの、ルーちゃんのしゅじゅつを僕が見届けてあげないと!」

 そうですかと興味のない様な返事をするがこのぬいぐるみを直すたったの数分が何故だかアズランにとってとてつもなく心地よく感じた。

「………出来ました。」

「わぁあ!綺麗になってる!ありがとう、すごいね!アズラン!」

 (………!)

 アズランがここまでストレートに人に褒められたのはいつぶりだっただろうか。この満面の笑みでこちらを向き感謝を伝える少年から目が離せなくなった。すると勝手に目頭が熱くなり頬に冷たい何かが伝う。

「アズラン、アズランもおめめ痛くなっちゃった?大丈夫?」

「!!」

 (俺は、泣いているのか。)

「……いえ、殿下なんでもございません。…さぁぬいぐるみも直りましたし会場へ戻りましょう。皆、殿下をお待ちしております。」

 さっと、フランに背を向け立ち上がろうとすると腕も引かれ驚き後ろを振り向くとまたしても不機嫌そうな顔のフランが

「フラン!」

「??……はっ、フラン様?」

「そーだよ、僕の名前はフランなの!行こうアズラン僕まだデザート食べてないの!早く早く!」

 そう言い、アズランの手を引く少年はどこまでも純粋に見えて心なしかアズランの冷えていた心が少し暖かくなった気がしていた。

 (この末っ子王子のわがままを叶える為国に命を捧ぐなら俺の人生も少しはマシになるか。)


 それからアズランは己を見つめ直し、より一層鍛錬に臨んだ。それと合わせ学問にも力を入れ始め、最近では少しずつ世界に広がっている瘴気についても資料を集めている。フランがいるこの国に降りかかる全ての不幸から護りたいという柄にもない言葉でアズランの頭はいっぱいになっていた。


 この様なことを数年続けているアズランが25の年に転機が訪れた。年々規模が拡大している瘴気が遂にこの国にまで被害が出た事により王宮で神子様が召喚されたらしい。それに伴い神子専属護衛の選定が始まった。王宮騎士団からの選出に伴い人員補充の為同時に王宮騎士団の募集もしていたのですぐにそちらに応募して王都までやってきた。

「チャンスだ、これでフラン様のお近くで働く事ができる。」

 どうせ実家に居た所で居場所など無いとアズランは知らせを受けすぐに家を飛び出した。

 王宮騎士団の試験は辺境で鍛錬を続けたアズランにとって赤子の手を捻るくらい簡単な物であった。また、瘴気の知識も持ち合わせていた。その為か、騎士団合格から飛び級で神子専属護衛に選ばれてしまった。

 王宮で働けるならこの際なんでもいいと思っていたアズランだが、やはり神子専属になった為王族護衛の仕事は一切無く接点など無いに等しい。それでも週に何度か王宮の廊下ですれ違う数分が生きている意味を確認できる時間だった。

「ね!アズラン君ってさフラン様のこと好きでしょ!」

「!……何故あなたにその様な事をいわ」

「や、だってさ!廊下ですれ違った時表情が全然違うんだもん!初めて見た時びっくりしちゃった!」

 この人の話を遮るやたらとテンションの高い人物がアズランの護衛対象、神子のトーマであった。

「……好きというものではなくただこの国に仕える騎士として」

「いいってそんな言い訳しなくて!認めちゃいなよ~、なんならフラン様の方も満更でもなさそうだけどね。すれ違う時アズランの方しか見てないんだもん!」

 ケタケタと笑うトーマをキッと睨んで黙り込む。

「………そういうあなたの方こそカイゼン殿下の事はどうなんです。相当口説かれている様ですが?」

「えぇ~その話やめてよ、確かに顔は良いんだけどさ俺男だし普通に女の人が好きだからそういう目で見れないっていうかさ。」

「??男とか女とか関係があるんですか?」

 (異世界ではそういう区別があるんだろうか?一般的に男女ともに妊娠が可能だからか身体の作りや体力などに差はあれど気にした事が無かったがそういう物なのか…)

「あるでしょ!…でも正直恋愛なんてした事ないしわかんないっていうのが一番かなぁ?」

 (しかしトーマ様からはその様に見えていたのか。もしかして、なんて希望を持っても良いだろうか……。)


 トーマが召喚され1年経った頃ようやくトーマが浄化魔法を使いこなせる様になり、浄化の旅へと旅立つ予定がたった。

 いつも通りトーマと廊下を歩いていると向かいからいつもより少し様子の違うフラン様が歩いて来た。

「フラン殿下、本日もお会いでき光栄でございます。」

 トーマに続きアズランも一礼すると、顔を赤らめたフランが緊張気味に話し出す。

「え、えぇ、トーマ様、アズラン様ご機嫌よう。明日旅立つと聞きました、……不格好ではございますが、こちらを。」

 スッと差し出された手の中には二つの綺麗なハンカチがあった。よく見るとうさぎの刺繍がされている。

「えっと、こちらは?」

「御守り代わりにお二人にお渡ししたくて、恥ずかしながら私が縫いまして祈りの魔法もかけてあります。……もし、ご迷惑でしたらうけ」

「よろしいのですか?!」

「へっ?!」

「い、頂いてもよろしいのでしょうか?」

 勢い余って話を遮り返事をしてしまったアズランと驚きつつも段々と喜びの表情になるフランの二人を微笑ましそうに見つめトーマが口を開く。

「ありがとうございますフラン殿下。もしよろしければこの後ご一緒にお茶でも飲みませんか?僕たち明日旅立つ為に休養日として今日は時間があるんです。そうだ、カイゼン殿下も誘いましょうか!」

「…!ぜ、是非!ご一緒したいです!ふふっ嬉しい~あっ、では一度部屋に戻りトーマ様のお部屋に参りますね?ふふっ」

 (か、可愛すぎるっ!)

 にこにこと嬉しそうに笑いながらこの場を去っていくフランをボーッと眺めているアズランの腕をトーマが肘で小突く。

「良かったじゃん、俺のおかげだね~」

「今初めてあなたの護衛になって良かったと思いました。」

 ようやく認めたな~なんて更に揶揄うトーマに構う事なく喜びに浸る。その後トーマの部屋にてカイゼンも交えお茶を飲み、フランの笑顔を愛おしそうに見つめこの笑顔を見続ける為に浄化の旅を完遂させる気持ちを再度強く持ち、アズラン達は翌日旅立った。



 そして数年後浄化の旅を終え、紆余曲折ありフランと夫婦になったアズランはフランへの愛情を爆発させていた。


「フラン、今日はフランが好きな苺のデザートを用意させたんだ。一緒に食べよう?」

「フラン、このイヤリング特注で作ってもらったんだ。フランに絶対似合うと思って。」

「フラン、今日も可愛らしいよ。愛してる。」

 今まで抑えていた感情を全て曝け出したアズランに初めの頃戸惑いを隠せずいたフランも



「う、嬉しい!アズラン、僕も愛してるっ♡」

 と、抱き着きいちゃいちゃとする光景が王宮の日常になっていた。

 この数ヶ月後フランの妊娠が発覚し、より一層二人の熱さが増す事を皆まだ知らない。

                 fin.

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