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第1話「断罪? 結構ですが、手続きは法に則ってお願いします」
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「イツキ・フローレンス。貴様との婚約は、今この場をもって破棄する!」
――ざわっ、と大広間が揺れた。
金色の陽が差し込む謁見の間、第一王子クラウス・ヴァルテンベルクの声が高らかに響き渡る。
居並ぶ貴族たちは一斉に私へと視線を向け、気まずそうに目を伏せる者、あからさまに勝ち誇ったように微笑む令嬢もいる。
ああ、はいはい。これ、テンプレの“悪役令嬢断罪イベント”ね。
私は静かに席を立ち、丁寧に一礼した。
「――まず、貴殿のご気分を害していたのだとしたら、その点については誠に申し訳なく感じております。」
「しかしながら、“傲慢な態度”というご指摘は、あくまで貴殿の主観的なご判断によるものかと」
会場が、一瞬静まり返る。
「私といたしましては、常に礼節を守り、適切な距離感で接していたつもりです。それを“無礼”と受け取られたのなら……大変残念ですね」
目を見開くクラウス王子。私は涼しい顔で続けた。
「なお、私と貴殿との間には正式な婚約契約が交わされており、第4条には“重大な背信行為があった場合、契約を破棄できる”と記されております」
私は懐から書類を取り出し、開いて見せる。
「ですが、現時点で“重大な背信行為”に該当する具体的事実は、明示されておりません。……つまり、今日のご宣言は“証拠なき一方的破棄”となる可能性がございます」
「その場合は、後日しかるべき手続きのもと、違約金に関する請求書を送付させていただきますので――」
にこりともせず、淡々とした口調で。
「その点、ご承知おきくださいませ」
場が凍りついた。
* *
こんな展開になるなんて、前世では想像もしなかった。
あの時私は、中央省庁の苦情対応部門にいた。
謝って、説明して、言いくるめられて、文句をぶつけられて。
それでも笑って、資料と法と根拠で処理する毎日だった。
ある日突然、机に突っ伏したまま――目が覚めたら、この世界。
貴族の令嬢、イツキ・フローレンスとして、婚約破棄待ったなしの人生。
でも私は、今も昔も変わらない。
* *
――ルールがあるなら、勝てる。
* *
(あれは……謝罪か?)
王子の隣に立っていた、長身の青年がわずかに目を細めた。
彼の名はレオン・アルミステッド。若き宰相候補と目される侯爵家の嫡男。
(……違う。謝っていない。“不快にさせたこと”だけを認め、“態度”という主観には反論した。行為に対しては一切謝罪していない)
(……高度だ。いや、むしろ、ウザい)
(嫌いじゃないが)
* *
「てめぇ、なんなんだよその態度は!」
横から声を上げたのは、軍服姿の青年。
カイル・ヴァンダル。武人貴族の三男で、腕っぷしと喧嘩っ早さだけで騎士団の幹部候補に登り詰めた男。
「こっちが下した裁きに、てめぇ、なんでヘラヘラしていられんだよ!」
私は、彼に向き直る。
「……私は笑ってなどいませんが、仮にそう見えたのなら、ご気分を害されたことについては申し訳なく思います」
「ですが、私の“態度”の評価は、あくまで主観によるものと認識しております」
「……っ」
「では、失礼いたしますね」
そう言って私は背を向ける。
静かに、しかし明らかに何一つ折れていない足取りで。
振り返りもせず、扉の前で小さく息をついた。
(ふう……。まあ、とりあえず、最低限のプロトコルは踏んだわね)
(“無礼”とは言わせない。“主張”は通した。“謝罪”も、最低限で)
(……さて。次はどう生き延びようかしら)
イツキ・フローレンス。
元・中央省庁職員、現・悪役令嬢(仮)――再び静かに歩き出す。
この世界に、“理屈と手続き”がある限り。
私は、負けない。
――ざわっ、と大広間が揺れた。
金色の陽が差し込む謁見の間、第一王子クラウス・ヴァルテンベルクの声が高らかに響き渡る。
居並ぶ貴族たちは一斉に私へと視線を向け、気まずそうに目を伏せる者、あからさまに勝ち誇ったように微笑む令嬢もいる。
ああ、はいはい。これ、テンプレの“悪役令嬢断罪イベント”ね。
私は静かに席を立ち、丁寧に一礼した。
「――まず、貴殿のご気分を害していたのだとしたら、その点については誠に申し訳なく感じております。」
「しかしながら、“傲慢な態度”というご指摘は、あくまで貴殿の主観的なご判断によるものかと」
会場が、一瞬静まり返る。
「私といたしましては、常に礼節を守り、適切な距離感で接していたつもりです。それを“無礼”と受け取られたのなら……大変残念ですね」
目を見開くクラウス王子。私は涼しい顔で続けた。
「なお、私と貴殿との間には正式な婚約契約が交わされており、第4条には“重大な背信行為があった場合、契約を破棄できる”と記されております」
私は懐から書類を取り出し、開いて見せる。
「ですが、現時点で“重大な背信行為”に該当する具体的事実は、明示されておりません。……つまり、今日のご宣言は“証拠なき一方的破棄”となる可能性がございます」
「その場合は、後日しかるべき手続きのもと、違約金に関する請求書を送付させていただきますので――」
にこりともせず、淡々とした口調で。
「その点、ご承知おきくださいませ」
場が凍りついた。
* *
こんな展開になるなんて、前世では想像もしなかった。
あの時私は、中央省庁の苦情対応部門にいた。
謝って、説明して、言いくるめられて、文句をぶつけられて。
それでも笑って、資料と法と根拠で処理する毎日だった。
ある日突然、机に突っ伏したまま――目が覚めたら、この世界。
貴族の令嬢、イツキ・フローレンスとして、婚約破棄待ったなしの人生。
でも私は、今も昔も変わらない。
* *
――ルールがあるなら、勝てる。
* *
(あれは……謝罪か?)
王子の隣に立っていた、長身の青年がわずかに目を細めた。
彼の名はレオン・アルミステッド。若き宰相候補と目される侯爵家の嫡男。
(……違う。謝っていない。“不快にさせたこと”だけを認め、“態度”という主観には反論した。行為に対しては一切謝罪していない)
(……高度だ。いや、むしろ、ウザい)
(嫌いじゃないが)
* *
「てめぇ、なんなんだよその態度は!」
横から声を上げたのは、軍服姿の青年。
カイル・ヴァンダル。武人貴族の三男で、腕っぷしと喧嘩っ早さだけで騎士団の幹部候補に登り詰めた男。
「こっちが下した裁きに、てめぇ、なんでヘラヘラしていられんだよ!」
私は、彼に向き直る。
「……私は笑ってなどいませんが、仮にそう見えたのなら、ご気分を害されたことについては申し訳なく思います」
「ですが、私の“態度”の評価は、あくまで主観によるものと認識しております」
「……っ」
「では、失礼いたしますね」
そう言って私は背を向ける。
静かに、しかし明らかに何一つ折れていない足取りで。
振り返りもせず、扉の前で小さく息をついた。
(ふう……。まあ、とりあえず、最低限のプロトコルは踏んだわね)
(“無礼”とは言わせない。“主張”は通した。“謝罪”も、最低限で)
(……さて。次はどう生き延びようかしら)
イツキ・フローレンス。
元・中央省庁職員、現・悪役令嬢(仮)――再び静かに歩き出す。
この世界に、“理屈と手続き”がある限り。
私は、負けない。
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