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それから後も散々に食いつくされたメルヴィンは、とろとろとした眠りの中でまたもや夢を見ていた。
青く魔石化する肉体を前にして、レスターはそれでもあがき続けていた。このままでは、自分が命を落とすことだけはわかる。魔王を討伐することができたとしても、メルヴィンの元に帰ると言う約束を果たせなければ意味がないではないか。なんとかして魔石化する部分を自分の肉体から切り離そうと画策するレスターだったが、彼が紡ぐ魔術は途中で構築を邪魔された。
『一体、どういうつもりだ、聖女?』
『どういうも何も、勇者さまには勇者さまのお役目を果たしていただなかなくては』
艶やかに微笑む聖女は、当然のようにレスターの手足を拘束する。そしてそれは勇者一行の魔術師も戦士も同様だった。
『歴代の勇者の本当の役目は、世界を支える魔力の礎となることです。魔力が枯渇すれば、世界は滅びる。ですから定期的に一定以上の魔力を持つ者を、勇者として送り出すのです。大丈夫です、永遠の苦役などにはなりません。何せ記憶も自我も捨て去り、器の全てで魔力を受け止めたところで、魔石として世界を支えることができるのはせいぜい百年ほど。その程度しか肉体がもたないのですよ。わずか百年、世界のために働いてくださいませ』
『最初から、勇者が帰還することはないとわかっていたのか』
『ええ。でも、希望を持っていない勇者からはよい魔力を取り出すことができないのです。世界を救うために、前向きに歩んでいただかなくては。ああ、大丈夫ですよ。ご家族にはそれなりの褒章が入りますから。あの孕み腹にも、大いに役に立っていただきましょう。神殿の協力があれば、婚姻も離縁も特に支障はありません。夫婦そろって世界の役に立てるなんて、本当に幸運なお二方ですこと』
『ふざけるなよ!』
神殿が考えたのか、それとも王家が考えたのか。明かされた真実はあまりに身勝手なものだった。勇者は世界のために使い捨てにされるのだろうとは思っていた。けれど、真実は使い捨てよりももっとひどいではないか。自分のことだけならまだ我慢はできる。けれど、絶対に愛しいメルヴィンを好きに扱わせたりはしない。
今の状態では、うまく魔術を扱えない。世界のための魔力を自分が握っているにも関わらずだ。何か核になるものが欲しいと、右目に魔力を集めて結晶化させ、一か八かで再度魔術式を組み立てていく。そこに封じたのは、自身の大切な記憶。身体の中から湧き上がる魔力に押し流されるから、人間としての自我と記憶を失ってしまうのだ。最初から、別の場所に避難させることができなたならレスターはレスターでいられるはず。絶対に、メルヴィンの元に帰る。それだけを胸に、レスターは大きく吠えた。
そこでメルヴィンは目を覚ました。同じ夢を見ていたのか、レスターは困ったような顔をしている。神殿と王家に嵌められた状態で、なんとかレスターが頑張ってくれていたことがよくわかった。
「まったく、本当に無茶をするのですね。いきなりあんな賭けをするなんてどうかしています」
「だが、無茶をしなければ君の元には帰れなかった」
「僕があの魔石を売り飛ばしたりでもしていたら、どうするつもりだったんです」
「それならそれで構わないさ。わたしは何度だって、君と恋に落ちるのだから。記憶がなくても、ちゃんと君の元に辿り着いただろう?」
「毎日、記憶のないレスターさまにがっつかれそうで、大変でした」
「美味しそうな匂いを垂れ流しにしている君が悪い」
呆れたように小さく笑ったメルヴィンを、レスターは悪びれもせずに柔らかく抱きしめた。
「さて、これからどうしようか。君が望むならば、天変地異を起こすことも可能だが。何せわたしは、久しぶりに神の思し召し通りにこの世界に体現した神の剣だからね」
「まずはとりあえずみんなで引っ越しましょう。僕は、大事なひとたちと一緒に静かに暮らせたらそれでいいんです。大事なひとたちに、レスターさまの無事を伝えなくっちゃ」
「みんなが聞きたいのはわたしの無事ではなく、君の無事なのだがな。まあ何はともあれ、愛しい君のお望みのままに。人々には、剣の鞘が心優しいことに感謝してもらわねばならんな」
レスターがメルヴィンに口づけをひとつ落とせば、ふたりの足元に青く輝く花が咲きこぼれた。
青く魔石化する肉体を前にして、レスターはそれでもあがき続けていた。このままでは、自分が命を落とすことだけはわかる。魔王を討伐することができたとしても、メルヴィンの元に帰ると言う約束を果たせなければ意味がないではないか。なんとかして魔石化する部分を自分の肉体から切り離そうと画策するレスターだったが、彼が紡ぐ魔術は途中で構築を邪魔された。
『一体、どういうつもりだ、聖女?』
『どういうも何も、勇者さまには勇者さまのお役目を果たしていただなかなくては』
艶やかに微笑む聖女は、当然のようにレスターの手足を拘束する。そしてそれは勇者一行の魔術師も戦士も同様だった。
『歴代の勇者の本当の役目は、世界を支える魔力の礎となることです。魔力が枯渇すれば、世界は滅びる。ですから定期的に一定以上の魔力を持つ者を、勇者として送り出すのです。大丈夫です、永遠の苦役などにはなりません。何せ記憶も自我も捨て去り、器の全てで魔力を受け止めたところで、魔石として世界を支えることができるのはせいぜい百年ほど。その程度しか肉体がもたないのですよ。わずか百年、世界のために働いてくださいませ』
『最初から、勇者が帰還することはないとわかっていたのか』
『ええ。でも、希望を持っていない勇者からはよい魔力を取り出すことができないのです。世界を救うために、前向きに歩んでいただかなくては。ああ、大丈夫ですよ。ご家族にはそれなりの褒章が入りますから。あの孕み腹にも、大いに役に立っていただきましょう。神殿の協力があれば、婚姻も離縁も特に支障はありません。夫婦そろって世界の役に立てるなんて、本当に幸運なお二方ですこと』
『ふざけるなよ!』
神殿が考えたのか、それとも王家が考えたのか。明かされた真実はあまりに身勝手なものだった。勇者は世界のために使い捨てにされるのだろうとは思っていた。けれど、真実は使い捨てよりももっとひどいではないか。自分のことだけならまだ我慢はできる。けれど、絶対に愛しいメルヴィンを好きに扱わせたりはしない。
今の状態では、うまく魔術を扱えない。世界のための魔力を自分が握っているにも関わらずだ。何か核になるものが欲しいと、右目に魔力を集めて結晶化させ、一か八かで再度魔術式を組み立てていく。そこに封じたのは、自身の大切な記憶。身体の中から湧き上がる魔力に押し流されるから、人間としての自我と記憶を失ってしまうのだ。最初から、別の場所に避難させることができなたならレスターはレスターでいられるはず。絶対に、メルヴィンの元に帰る。それだけを胸に、レスターは大きく吠えた。
そこでメルヴィンは目を覚ました。同じ夢を見ていたのか、レスターは困ったような顔をしている。神殿と王家に嵌められた状態で、なんとかレスターが頑張ってくれていたことがよくわかった。
「まったく、本当に無茶をするのですね。いきなりあんな賭けをするなんてどうかしています」
「だが、無茶をしなければ君の元には帰れなかった」
「僕があの魔石を売り飛ばしたりでもしていたら、どうするつもりだったんです」
「それならそれで構わないさ。わたしは何度だって、君と恋に落ちるのだから。記憶がなくても、ちゃんと君の元に辿り着いただろう?」
「毎日、記憶のないレスターさまにがっつかれそうで、大変でした」
「美味しそうな匂いを垂れ流しにしている君が悪い」
呆れたように小さく笑ったメルヴィンを、レスターは悪びれもせずに柔らかく抱きしめた。
「さて、これからどうしようか。君が望むならば、天変地異を起こすことも可能だが。何せわたしは、久しぶりに神の思し召し通りにこの世界に体現した神の剣だからね」
「まずはとりあえずみんなで引っ越しましょう。僕は、大事なひとたちと一緒に静かに暮らせたらそれでいいんです。大事なひとたちに、レスターさまの無事を伝えなくっちゃ」
「みんなが聞きたいのはわたしの無事ではなく、君の無事なのだがな。まあ何はともあれ、愛しい君のお望みのままに。人々には、剣の鞘が心優しいことに感謝してもらわねばならんな」
レスターがメルヴィンに口づけをひとつ落とせば、ふたりの足元に青く輝く花が咲きこぼれた。
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