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卒業パーティーにて
しおりを挟む「リリー・マヌエル!君とは婚約破棄だ!」
「やったー!自由だあー!!!!!!」
卒業パーティーの真っ只中、婚約破棄を宣言された私は、つい叫んでしまっていた。
つい。
そう、ついうっかり。
…そんなつもりは毛頭なかったのに。
嬉しすぎて……。
当然その場は静まりかえった。
私に婚約破棄を突きつけた王太子も。
その王太子の腕に抱かれながらニヤニヤしてた、娼婦一歩手前な雰囲気の男爵令嬢も。
面白い見世物の予感に目を輝かせていた学生たちも。
突然のハプニングに硬直していた先生方も。
みんな仲良くシン、と静まりかえった。
その静けさに遠慮するように、流れていた音楽まで止まっている。
痛いほどの静けさってこれかー。
と現実逃避をレッツトライするも、自分を包囲する現実に観念する。
しまったなー。
喜ぶのがほんのちょっとだけ早かった。本来なら家に帰るまで、いやせめて馬車の中まで待つべきだった。
よっぽどストレスが溜まっていたのだろう、と自己分析してみても現状は変わらない。
後で悔いると書いて後悔。
皆の視線が私に突き刺さる。
どうも。リグレッター・リリーです。
…もっと王太子とか男爵令嬢の方を見てもいいのよ?あっちも当事者なんだから。
そう思うのに、皆さん揃ってステア・アット・ミー。
やめて。穴開いちゃう。
と恥じらってみても、やっぱり視線の先は変わらない。
どうしよう?
どうする?
この状況で私が選べる選択肢は少なかった。
1. 笑って誤魔化す
2. 皆の期待通りに泣いて、状況のリセット&リカバリー
3. キレる
多分2が望ましいのだ。
みんな婚約破棄されて嘆き悲しむ不幸な令嬢を見たがっている。
どれだけ不自然な流れだろうと、テンプレ通りにショックを受けてその後見苦しくわめいてみせれば、喜ばれること請け合いだ。
1も悪くない。
婚約破棄された癖にヘラヘラしている情けない令嬢を見れば、他人の不幸とマウント取りが朝夕のお茶より大好きな貴族の皆様はやはり大喜びするだろう。
でも私は……敢えて3を選ぶことにした。
だってもう、いい加減嫌になっていたから。
親に結婚相手を決められて。
仕方なく受け入れた。
だってそれが貴族令嬢のスタンダードだから。
でも、もう嫌だ。
婚約者の私を蔑ろにする王太子も。
人の婚約者に手を出して、その上身分の違いを逆手にとって難癖つけてくる男爵令嬢の逆ハラも。
普段は「私達、友達よね?」って顔してる癖に、こういう時は遠巻きに笑って見ている自称お友達のご令嬢も。
娘がこんな目に遭っても、どうせ私を叱って責めて、何なら勘当しかねない両親も。
全くこれっぽっちも望んでいなかったクズ王子との婚約が破棄されたのだ。こちらからは破棄などできる訳もない婚約が、ラッキーな事に向こうから!
喜んで何が悪い!
うっかり喜ぶタイミングを間違ってしまっただけで、私はちっとも悪くない。なのに私が責められる。
そんな理不尽に、私のタガは外れてしまった。
1や2を選んで、今後暗くうじうじ過ごすくらいなら、この場だけでも好きに振る舞ってやろうじゃないかと開き直ってしまった。
他人の思い通りに動く人生なんてもう真っ平。
どうせこの世は四面楚歌。
どーにでもなーれ!
1か2を選んだ方が、今後の為にはいいに決まってる。
そんなのはわかっている。
わかりきっているけれどーー
「嬉しいですわ!私、あなたのこと大っ嫌いでしたの!」
ビシッ!と羽根で飾られた豪奢な扇子を突きつけた。
最初のターゲットは、未だ私に指を突きつけて固まっている王太子だ。
「な…に…?」
見た目だけはいい王太子の顔が引き攣る。
「だって勉強も運動もできない上に、努力もしない。できる事は浮気だけ!そんな男のどこに魅力を感じられますの!?」
王太子は石化した。
次にその腕の中の……腕の中の!男爵令嬢を見やる。
「あなたも!とんでもなくウザかったですわ!」
ニヤけ顔のまま固まっていた男爵令嬢の顔が引き攣った。
「………え?」
「そんなゴミみたいな男に好かれて舞い上がって。挙げ句に「男爵令嬢だからってバカにしないでください」!?私がバカにしてるのは、あなたの男の趣味の悪さよ!!」
男爵令嬢も石化した。
ギッとギャラリーを見渡すと、目が合った人達がビクンと背筋を震わせた。
まだまだ私の怒りは収まらない。
大きく息を吸い込むと、矢継ぎ早にボロクソ言って差し上げた。
どうせ私の不幸でメシウマしようとしていた人達だ。遠慮する必要などない。
将来の王妃だからと、私が国の為に自分を殺して丸く収めようとしているのにつけ込んで、つまらない嫌がらせをしてきた人たち。自分は何ができる訳でもない癖にふんぞり返る、身分しか取り柄のない貴族の子弟。
ホールの中に、一つ、また一つと石像が増えていく。あらかた言い終えて、フンスと荒く鼻息を吐いた。
まだ何人か震えている人がいるけれど、正直彼らは何か言うほど記憶に残ってもいない小物なのでどうでもいい。
「では、ご機嫌よう!」
優雅に一礼すると颯爽とスカートの裾を翻し、ピクリとも動かない人々が林立するホールから退場する。
こんな事を仕出かして、この先どうなるかわからない。
屋敷に軟禁され、ほとぼりが冷めたら放逐されるのか。
隠居した祖父母のいる田舎へ追いやられ、強制スローライフを満喫することになるのか。
修道院に送られ、清貧処女で人生を終えるのか。
結納金目当てに下衆と結婚させられるのか。
わからないけれど、長年の鬱憤を吐き出せて、とりあえず今はスッキリしていた。
少なくとも、家につくまではいい気分でいられるわ。
そう自嘲気味に微笑んだ。
…まさかこの一件が、王侯貴族のパーティーの出しもの請負人の耳に入るなんて……。
その人にスカウトされて、国をまたいで引っ張りだこな、キレ芸令嬢としてのキャリアが待ち受けているなんて、この時の私には知る由もなかった…。
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