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「ドグネス男爵令嬢!次から次へとドレスや宝石をねだっては売りさばき、挙句の果てには他の男にまで色目を使って貢がせる。そんな君にはもう、うんざりだ!
俺は君との婚約を破棄し、君よりよっぽど王妃に相応しい元婚約者のカレンとの婚約破棄の破棄をここに宣言する!」
なんだか騒動の匂いのする台詞が学園のホールに響き渡ったのは、ある日の午後のことだった。
生徒会が半年に一度開催するダンスパーティー。
そこでの出来事。
何これ、面白そう。
そう思った私は、すかさず小型魔導映像撮影機を回し始めた。報道部員の腕章を、左腕にキラリと光らせて。
先ほどの興味深い台詞を吐いたのは、この国の第一王子。金髪碧眼だけど、ちょっぴりパーツのバランスが崩れた造作で、中肉中背の割と普通の男性だ。
彼はベルメシャーンみたいな極彩色のドレスを着た少女に指を突きつけて糾弾すると、少し離れたところにいる女性にキラっと歯を光らせて笑いかけた。
笑いかけられた上品な女性…カレン公爵令嬢は、扇子で口元を隠すと不快そうに眉をひそめた。その反応を気にもせず、満面の笑みで近づく王子。
けれど二人の間に、カレン公爵令嬢を取り囲んでいた女性達が立ち塞がった。
彼女を守るように。
「退け、邪魔だ」
立ち塞がる取り巻きたちに向け笑いながら言い放った王子に、カレン公爵令嬢は冷たく告げた。
「それ以上、近づかないでください」
すると王子は表情を変えた。
不思議そうに。
「何故だ?俺はおまえの婚約者だぞ?」
「その婚約は、半年も前に破棄された筈です。殿下ご自身の判断で」
「ああ。だがたった今、破棄を破棄した。見ていただろう?」
王子は眉をひそめた。
何故こんな簡単な事が理解できないのかと、苛立たしげに。
「俺はこの国の第一王子であり未来の国王だぞ。その俺がおまえとの婚約破棄を無かったことにしてやろうと言っているのだ。ここは泣いて喜んで俺に跪くところだろう」
カレン公爵令嬢はため息を吐いた。
「あいにく、きちんと王妃教育を受けたものですから、ものを考える頭が付いておりますの」
「うむ。だからその教育を無駄にしない為にも、おまえともう一度婚約してやろうと言っている。ありがたがれ」
「御断りいたします」
カレン公爵令嬢は、間髪入れずに王子の言葉を斬って捨てた。
今度の王子の表情の変化は劇的だった。愕然として、次に怒りをあらわにした。
画角をズームに切り替えてしっかり抜く。
「何故だ!?いや、そんな我が儘は許さんぞ!」
今にもつかみかかりそうな勢いだ。
…ちょっと危ないかも。
学園内のパーティーなので、護衛の人は少し離れた所にいる。
ここは一つ、公爵令嬢に恩を売っておこうかな?
そう決めて、軽快に歩き出した。
「やあやあどうも!王太子殿下!」
カメラを向けながら、堂々と間に割り込む。撮られてるって思うと、人間そうそう思いきったことはできないからね。
「なんだ貴様!」
「学園報道部です!時の人、殿下にインタビュー!なんでドグネス男爵令嬢との婚約を破棄することにしたんですか?」
いつも持ち歩いているカメラ付属の魔導集音機をサッと王子に向ける。
「ん?あ、いや。それはだな…」
王子は王族なのでカメラ慣れしている。だから有名人に多い、マイクを向けられたら何か喋らなければと思ってしまう『犬に肉』の性質を利用した。
案の定、第一王子は引っかかった。
普段頭を使わず流されやすい人ほど引っかかるらしいんだよね、これ。
「ドグネスは尻軽な浪費家だ!そんな女を王妃にはできん!」
胸を張って答える第一王子。
いやでもさ
「そのドグネス男爵令嬢を「心清らかな俺の天使!王妃にこれほど相応しい女はいない!」と言って当時婚約者だったカレン様を捨てて婚約したのは半年前のことですよね?」
「うむ。手遅れになる前に本性がわかってよかった!」
堂々とした返事に思わず感心してしまった。
ここまで自分にいいように言えるのはちょっと凄い。
「でも、一方的に婚約を破棄された公爵家が、再びの婚約を受け入れるでしょうか?」
当然の疑問を投げかけると、第一王子は自信満々に答えた。
「王太子である俺の命令だぞ。断る訳があるまい!なあ?」
話を振られたカレン公爵令嬢は、きっぱりと首を横に振った。
「受け入れる訳がございません」
「そうだろう、そうだろ………今、なんて言った?」
絵に描いたようなノリツッコミ。
「受け入れる訳がないと申し上げました」
「…「受け入れない訳がない」の間違いじゃなくてか?」
「いいえ。殿下との結婚など、金輪際死んでもごめんです」
わー、カレン公爵令嬢って意外とはっきりものを言うタイプだったんだ。
ファンになっちゃいそう。
ワクワクする展開に、手汗で滑り落ちそうになったマイクを握り直す。
「ふむふむ、なるほど。カレン様は再度の婚約を受け入れるつもりはないそうですが?」
もう一度、マイクを第一王子に向ける。
王子は答えない。
ギリギリと、歯をくいしばる音がマイクに入った。
あ、やだな。耳障りな音。
マイクを手元に引いた。
こういう音は入れたくない。
「じゃあ、ついでにドグネス様にもインタビューしてみましょうか!」
第一王子はしばらく使えなそうなので、もう一人の当事者から話を聞くことにした。不要なら後で丸々カットすればいい。
カレン公爵令嬢は、護衛がすぐ近くまで来たから第一王子が何かしようとしても、もう大丈夫だろう。
そう判断して、少し離れた位置にいたドグネス男爵令嬢へススッとと近づいた。
俺は君との婚約を破棄し、君よりよっぽど王妃に相応しい元婚約者のカレンとの婚約破棄の破棄をここに宣言する!」
なんだか騒動の匂いのする台詞が学園のホールに響き渡ったのは、ある日の午後のことだった。
生徒会が半年に一度開催するダンスパーティー。
そこでの出来事。
何これ、面白そう。
そう思った私は、すかさず小型魔導映像撮影機を回し始めた。報道部員の腕章を、左腕にキラリと光らせて。
先ほどの興味深い台詞を吐いたのは、この国の第一王子。金髪碧眼だけど、ちょっぴりパーツのバランスが崩れた造作で、中肉中背の割と普通の男性だ。
彼はベルメシャーンみたいな極彩色のドレスを着た少女に指を突きつけて糾弾すると、少し離れたところにいる女性にキラっと歯を光らせて笑いかけた。
笑いかけられた上品な女性…カレン公爵令嬢は、扇子で口元を隠すと不快そうに眉をひそめた。その反応を気にもせず、満面の笑みで近づく王子。
けれど二人の間に、カレン公爵令嬢を取り囲んでいた女性達が立ち塞がった。
彼女を守るように。
「退け、邪魔だ」
立ち塞がる取り巻きたちに向け笑いながら言い放った王子に、カレン公爵令嬢は冷たく告げた。
「それ以上、近づかないでください」
すると王子は表情を変えた。
不思議そうに。
「何故だ?俺はおまえの婚約者だぞ?」
「その婚約は、半年も前に破棄された筈です。殿下ご自身の判断で」
「ああ。だがたった今、破棄を破棄した。見ていただろう?」
王子は眉をひそめた。
何故こんな簡単な事が理解できないのかと、苛立たしげに。
「俺はこの国の第一王子であり未来の国王だぞ。その俺がおまえとの婚約破棄を無かったことにしてやろうと言っているのだ。ここは泣いて喜んで俺に跪くところだろう」
カレン公爵令嬢はため息を吐いた。
「あいにく、きちんと王妃教育を受けたものですから、ものを考える頭が付いておりますの」
「うむ。だからその教育を無駄にしない為にも、おまえともう一度婚約してやろうと言っている。ありがたがれ」
「御断りいたします」
カレン公爵令嬢は、間髪入れずに王子の言葉を斬って捨てた。
今度の王子の表情の変化は劇的だった。愕然として、次に怒りをあらわにした。
画角をズームに切り替えてしっかり抜く。
「何故だ!?いや、そんな我が儘は許さんぞ!」
今にもつかみかかりそうな勢いだ。
…ちょっと危ないかも。
学園内のパーティーなので、護衛の人は少し離れた所にいる。
ここは一つ、公爵令嬢に恩を売っておこうかな?
そう決めて、軽快に歩き出した。
「やあやあどうも!王太子殿下!」
カメラを向けながら、堂々と間に割り込む。撮られてるって思うと、人間そうそう思いきったことはできないからね。
「なんだ貴様!」
「学園報道部です!時の人、殿下にインタビュー!なんでドグネス男爵令嬢との婚約を破棄することにしたんですか?」
いつも持ち歩いているカメラ付属の魔導集音機をサッと王子に向ける。
「ん?あ、いや。それはだな…」
王子は王族なのでカメラ慣れしている。だから有名人に多い、マイクを向けられたら何か喋らなければと思ってしまう『犬に肉』の性質を利用した。
案の定、第一王子は引っかかった。
普段頭を使わず流されやすい人ほど引っかかるらしいんだよね、これ。
「ドグネスは尻軽な浪費家だ!そんな女を王妃にはできん!」
胸を張って答える第一王子。
いやでもさ
「そのドグネス男爵令嬢を「心清らかな俺の天使!王妃にこれほど相応しい女はいない!」と言って当時婚約者だったカレン様を捨てて婚約したのは半年前のことですよね?」
「うむ。手遅れになる前に本性がわかってよかった!」
堂々とした返事に思わず感心してしまった。
ここまで自分にいいように言えるのはちょっと凄い。
「でも、一方的に婚約を破棄された公爵家が、再びの婚約を受け入れるでしょうか?」
当然の疑問を投げかけると、第一王子は自信満々に答えた。
「王太子である俺の命令だぞ。断る訳があるまい!なあ?」
話を振られたカレン公爵令嬢は、きっぱりと首を横に振った。
「受け入れる訳がございません」
「そうだろう、そうだろ………今、なんて言った?」
絵に描いたようなノリツッコミ。
「受け入れる訳がないと申し上げました」
「…「受け入れない訳がない」の間違いじゃなくてか?」
「いいえ。殿下との結婚など、金輪際死んでもごめんです」
わー、カレン公爵令嬢って意外とはっきりものを言うタイプだったんだ。
ファンになっちゃいそう。
ワクワクする展開に、手汗で滑り落ちそうになったマイクを握り直す。
「ふむふむ、なるほど。カレン様は再度の婚約を受け入れるつもりはないそうですが?」
もう一度、マイクを第一王子に向ける。
王子は答えない。
ギリギリと、歯をくいしばる音がマイクに入った。
あ、やだな。耳障りな音。
マイクを手元に引いた。
こういう音は入れたくない。
「じゃあ、ついでにドグネス様にもインタビューしてみましょうか!」
第一王子はしばらく使えなそうなので、もう一人の当事者から話を聞くことにした。不要なら後で丸々カットすればいい。
カレン公爵令嬢は、護衛がすぐ近くまで来たから第一王子が何かしようとしても、もう大丈夫だろう。
そう判断して、少し離れた位置にいたドグネス男爵令嬢へススッとと近づいた。
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