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第五章
34 両親の関係
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正式にディアナとライオネルの婚約が成立したことを、ディアナの両親は喜んでくれた。
久しぶりに家に戻ってきた父は、にこやかに「結婚式はいつごろになるんだい?」とディアナに尋ねる。事情を知らない人が見れば、娘の結婚を心から喜んでいるように見えただろうが、父の蝶は相変わらずディアナに対して『邪魔だ』と囁いていた。
父の隣に座る母は、作り笑いを浮かべながら、父に気がつかれないように時折冷たい目をしている。
ディアナが「分かりません。すべてはライオネル殿下のご意思のままに」と答えると父はそれ以上何も言わなかった。正確には、言いたくても言えなかったが正解かもしれない。
(伯爵のお父様では、王族で近いうちに公爵位を賜るレオ様に、口答えなんてできないもの。お父様は、私が結婚してこの家を出て行くまで何もできないわ)
だからこそ、今のうちに手を打ちたかった。
偽りの家族のお茶会はすぐに終わり、父はまた「仕事だ」と言って家を空けた。
(きっと愛人のもとへ向かったのね)
父がいなくなった屋敷内で、母は優雅に微笑む。
「ようやく出て行ってくれたわね。ディアナ、あなたに相談したいことがあるの」
母はディアナに紙切れを渡した。そこには平民街の地図が書かれていて、丸がついている。
「これは?」
「あの人が愛人に買い与えた家の場所よ。いい加減、あの男との関係を終わらせたくて、いろいろ調べていたの」
「お母様……」
以前は「絶対に離婚はしない」と言っていた母の心境にも変化があったようだ。
「愛人の名前はベラ。平民だけど私と同じ明るい金髪よ。若い頃の私に雰囲気がとても似ているんですって」
「え? お母様に似ている?」
戸惑いながらディアナが「会いに行ったのですか?」と尋ねると、母は口を左右に振る。
「いいえ、人を使って調べさせたの。私の考えで行動する前に、あなたの意見を聞きたかった。私だけではカッとなってしまって、自分でも何をするか分からないもの」
しばらく黙ってから、母はポツリと呟く。
「これも調べて分かったことだけど、あの人が酔ったときに友人に愚痴っていたらしいわ。若いころの私は綺麗だったから心の底から愛していたんですって。でも、私が年をとって醜くなったから愛が覚めたそうよ。自分も同じだけ年をとっているのにね」
自嘲する母は、「私のどこか悪かったのかしらと、今まで悩んでいたのがバカみたい……」と涙を流した。
そんな母を見てディアナは、やはりこのままではいけないと決心する。
「お母様、私に任せてください。一度あちらの状況をこっそりと見てきます」
「危ないことはしないで」
「もちろんです、法に詳しいグレッグ様と、護衛騎士のカーラ様をつれていくのでご安心ください」
「そう、なら安心ね。……なんだか疲れたわ。久しぶりにあの人の顔を見たからかしら?」
母はフラフラしながら部屋から出ていった。
部屋の隅に控えていたカーラは、すぐに近づき片膝をつく。
「ディアナ様。いつ頃、出発いたしますか?」
「今すぐにでも行きたいけど、お父様と鉢合わせるのは避けたいわ」
「でしたら、殿下にお願いしてみては?」
「レオ様に? でも……」
忙しく過ごしているライオネルに迷惑をかけたくない。ためらうディアナに、カーラは微笑みかけた。
「ディアナ様に頼られると、殿下は間違いなく喜びます。そうでなくとも、グレッグ宛に『ディアナは、どう過ごしている?』と手紙が……」
ハッとなったカーラは、「すみません、これは内緒の話でした」と頭をかいた。
(お忙しいのに、殿下は私のことを気にかけてくださっているのね)
そう思うと胸が温かくなる。
「じゃあ、父のことは殿下にお願いしようかしら?」
「はい!」
手紙を書いて専属メイドのアンに託すと、アンはすぐにライオネルからの返事を持ち帰ってくれた。
受け取った手紙には「三日後、王宮にバデリー伯爵を呼び出す」と書かれていた。
(王宮に呼び出されたから、正装をするために父は家に戻ってくるはず。そして、父が王宮にいる間は、愛人のもとを離れているということね)
優秀なライオネルが味方でいてくれることが心強い。
それから三日後。
落ち着いた色のワンピースを着たディアナは、カーラとグレッグに微笑みかけた。
「カーラ様、グレッグ様。今日はよろしくお願いします」
ディアナの言葉に二人は複雑な表情を浮かべる。
「ディアナ様。私達のことはどうか呼び捨てでお願いします」
「そうですよ。僕達は殿下に忠誠を誓っています。殿下の大切な婚約者であるディアナ様も誓いの対象なのです」
「そうだったわね。今後は気をつけるわ」
ライオネルの婚約者になったことで、彼の騎士団員も全員ディアナに忠誠を誓ったことになっているらしい。
気持ちを切り替えてディアナは馬車に乗り込んだ。馬車移動は目立つので、平民街に入る前に馬車から降りて歩き出す。
グレッグが「ここら辺りは平民街でも、裕福な者が暮らしている地域です」と教えてくれる。
治安もいいので貴族が愛人を囲うには持ってこいの場所だそうだ。
カーラは地図を見ながら「あそこですね」と指差した。
久しぶりに家に戻ってきた父は、にこやかに「結婚式はいつごろになるんだい?」とディアナに尋ねる。事情を知らない人が見れば、娘の結婚を心から喜んでいるように見えただろうが、父の蝶は相変わらずディアナに対して『邪魔だ』と囁いていた。
父の隣に座る母は、作り笑いを浮かべながら、父に気がつかれないように時折冷たい目をしている。
ディアナが「分かりません。すべてはライオネル殿下のご意思のままに」と答えると父はそれ以上何も言わなかった。正確には、言いたくても言えなかったが正解かもしれない。
(伯爵のお父様では、王族で近いうちに公爵位を賜るレオ様に、口答えなんてできないもの。お父様は、私が結婚してこの家を出て行くまで何もできないわ)
だからこそ、今のうちに手を打ちたかった。
偽りの家族のお茶会はすぐに終わり、父はまた「仕事だ」と言って家を空けた。
(きっと愛人のもとへ向かったのね)
父がいなくなった屋敷内で、母は優雅に微笑む。
「ようやく出て行ってくれたわね。ディアナ、あなたに相談したいことがあるの」
母はディアナに紙切れを渡した。そこには平民街の地図が書かれていて、丸がついている。
「これは?」
「あの人が愛人に買い与えた家の場所よ。いい加減、あの男との関係を終わらせたくて、いろいろ調べていたの」
「お母様……」
以前は「絶対に離婚はしない」と言っていた母の心境にも変化があったようだ。
「愛人の名前はベラ。平民だけど私と同じ明るい金髪よ。若い頃の私に雰囲気がとても似ているんですって」
「え? お母様に似ている?」
戸惑いながらディアナが「会いに行ったのですか?」と尋ねると、母は口を左右に振る。
「いいえ、人を使って調べさせたの。私の考えで行動する前に、あなたの意見を聞きたかった。私だけではカッとなってしまって、自分でも何をするか分からないもの」
しばらく黙ってから、母はポツリと呟く。
「これも調べて分かったことだけど、あの人が酔ったときに友人に愚痴っていたらしいわ。若いころの私は綺麗だったから心の底から愛していたんですって。でも、私が年をとって醜くなったから愛が覚めたそうよ。自分も同じだけ年をとっているのにね」
自嘲する母は、「私のどこか悪かったのかしらと、今まで悩んでいたのがバカみたい……」と涙を流した。
そんな母を見てディアナは、やはりこのままではいけないと決心する。
「お母様、私に任せてください。一度あちらの状況をこっそりと見てきます」
「危ないことはしないで」
「もちろんです、法に詳しいグレッグ様と、護衛騎士のカーラ様をつれていくのでご安心ください」
「そう、なら安心ね。……なんだか疲れたわ。久しぶりにあの人の顔を見たからかしら?」
母はフラフラしながら部屋から出ていった。
部屋の隅に控えていたカーラは、すぐに近づき片膝をつく。
「ディアナ様。いつ頃、出発いたしますか?」
「今すぐにでも行きたいけど、お父様と鉢合わせるのは避けたいわ」
「でしたら、殿下にお願いしてみては?」
「レオ様に? でも……」
忙しく過ごしているライオネルに迷惑をかけたくない。ためらうディアナに、カーラは微笑みかけた。
「ディアナ様に頼られると、殿下は間違いなく喜びます。そうでなくとも、グレッグ宛に『ディアナは、どう過ごしている?』と手紙が……」
ハッとなったカーラは、「すみません、これは内緒の話でした」と頭をかいた。
(お忙しいのに、殿下は私のことを気にかけてくださっているのね)
そう思うと胸が温かくなる。
「じゃあ、父のことは殿下にお願いしようかしら?」
「はい!」
手紙を書いて専属メイドのアンに託すと、アンはすぐにライオネルからの返事を持ち帰ってくれた。
受け取った手紙には「三日後、王宮にバデリー伯爵を呼び出す」と書かれていた。
(王宮に呼び出されたから、正装をするために父は家に戻ってくるはず。そして、父が王宮にいる間は、愛人のもとを離れているということね)
優秀なライオネルが味方でいてくれることが心強い。
それから三日後。
落ち着いた色のワンピースを着たディアナは、カーラとグレッグに微笑みかけた。
「カーラ様、グレッグ様。今日はよろしくお願いします」
ディアナの言葉に二人は複雑な表情を浮かべる。
「ディアナ様。私達のことはどうか呼び捨てでお願いします」
「そうですよ。僕達は殿下に忠誠を誓っています。殿下の大切な婚約者であるディアナ様も誓いの対象なのです」
「そうだったわね。今後は気をつけるわ」
ライオネルの婚約者になったことで、彼の騎士団員も全員ディアナに忠誠を誓ったことになっているらしい。
気持ちを切り替えてディアナは馬車に乗り込んだ。馬車移動は目立つので、平民街に入る前に馬車から降りて歩き出す。
グレッグが「ここら辺りは平民街でも、裕福な者が暮らしている地域です」と教えてくれる。
治安もいいので貴族が愛人を囲うには持ってこいの場所だそうだ。
カーラは地図を見ながら「あそこですね」と指差した。
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