21 / 33
二度目の裏切り
2
しおりを挟む
ルネアは人垣の向こうにぼんやりと立ち尽くすわたしに気づくと、自慢げに示すかのようにシュロトに甘えて寄り添った。シュロトはルネアに、あの、わたしだけに向けられると思っていた温もり溢れる笑みを向けている。
誰かこれは何かの間違いだと、単なる悪ふざけだと言って。受け入れたくない光景を前に、ただその場で棒立ちすることしかできなかった。
どれほどの時間が経っただろうか。やっとの思いで硬直した体を動かし、気力を奮い立たせ、足元の震えをなだめながら一歩、また一歩と二人のもとへ歩み寄った。周囲の好奇と軽蔑が入り混じった視線が無数の針のように全身に突き刺さるのがわかる。
「シュロト……」
それだけで精一杯だった。絞り出した声はか細く哀れなほどに頼りなかった。
シュロトはゆっくりとこちらに顔を向けた。その表情はわたしが知っているいつもの温和で優しい彼とはまるで別人だった。冷え冷えとして拒絶の色さえ浮かんでいるような……そんな見知らぬ顔だった。
「ああ、リリーナ。わざわざ来てくれたんだね。ご苦労様」
その声も以前とは違う、よそよそしく、心を閉ざしたような響きを帯びていた。まるで道端で偶然会ったさほど親しくもない知人に話しかけるような、そんな他人行儀な声。
「シュロト、これは……一体どういうこと? ルネアと……どうして……?」
心の奥底では破滅的な予感が暗い渦を巻いていた。
彼は一瞬だけわずかに眉をひそめた後、氷のように冷たい表情に戻り、その瞳から感情というものが綺麗に抜け落ちてしまったように見えた。
「どういうこととは? ご覧の通りだが。何か疑問でもあるのかい? 今宵、僕はこのルネア・フォードを正式なパートナーとしてエスコートしている。それが何か問題でも?」
「……冗談はやめて。招待してくれたのはあなたでしょう? エスコートしてくれると……」
裏切られたという激しい怒りでほとんど叫ぶように言った。
「ああ、そうだったね。招待状は送った」
シュロトはこともなげにあっさりと認めた。
「確かに招待はした。でも、それは社交辞令というもの。まさかあれを本気にしていたの? 君も貴族の娘なら、それくらいの社交上の駆け引きは理解できるだろう?」
「社交辞令……? 駆け引き……?」
言葉を失った。彼の言葉一つ一つが見えない鉄槌となって心を容赦なく打ち砕いていく。あの手紙に込められていたはずの温かい気持ちはどこへ行ってしまったというの。
「あなたは共に素晴らしい夜を過ごしたいと……わたしのための夜だと……そう書いてくれたわ!」
隣でルネアがくすくすという甲高い嘲笑う声が聞こえた。彼女は扇子で口元を隠し、その目はわたしを完膚なきまでに見下していた。
「まあ、リリーナったら。まだシュロト様のあの甘いお言葉を鵜呑みにしていたの? 本当におめでたくて哀れな人ね。男性の言葉なんてその場の雰囲気でいくらでも変わるものよ。それくらい学習なさいませ」
シュロトはそんなルネアの侮辱的な言葉を制するでもなく、むしろ肯定するかのように軽く傾けた。
「リリーナ。もう回りくどい言い方はやめよう。単刀直入に言う。君との関係はもう終わりだ。これきりにする」
誰かこれは何かの間違いだと、単なる悪ふざけだと言って。受け入れたくない光景を前に、ただその場で棒立ちすることしかできなかった。
どれほどの時間が経っただろうか。やっとの思いで硬直した体を動かし、気力を奮い立たせ、足元の震えをなだめながら一歩、また一歩と二人のもとへ歩み寄った。周囲の好奇と軽蔑が入り混じった視線が無数の針のように全身に突き刺さるのがわかる。
「シュロト……」
それだけで精一杯だった。絞り出した声はか細く哀れなほどに頼りなかった。
シュロトはゆっくりとこちらに顔を向けた。その表情はわたしが知っているいつもの温和で優しい彼とはまるで別人だった。冷え冷えとして拒絶の色さえ浮かんでいるような……そんな見知らぬ顔だった。
「ああ、リリーナ。わざわざ来てくれたんだね。ご苦労様」
その声も以前とは違う、よそよそしく、心を閉ざしたような響きを帯びていた。まるで道端で偶然会ったさほど親しくもない知人に話しかけるような、そんな他人行儀な声。
「シュロト、これは……一体どういうこと? ルネアと……どうして……?」
心の奥底では破滅的な予感が暗い渦を巻いていた。
彼は一瞬だけわずかに眉をひそめた後、氷のように冷たい表情に戻り、その瞳から感情というものが綺麗に抜け落ちてしまったように見えた。
「どういうこととは? ご覧の通りだが。何か疑問でもあるのかい? 今宵、僕はこのルネア・フォードを正式なパートナーとしてエスコートしている。それが何か問題でも?」
「……冗談はやめて。招待してくれたのはあなたでしょう? エスコートしてくれると……」
裏切られたという激しい怒りでほとんど叫ぶように言った。
「ああ、そうだったね。招待状は送った」
シュロトはこともなげにあっさりと認めた。
「確かに招待はした。でも、それは社交辞令というもの。まさかあれを本気にしていたの? 君も貴族の娘なら、それくらいの社交上の駆け引きは理解できるだろう?」
「社交辞令……? 駆け引き……?」
言葉を失った。彼の言葉一つ一つが見えない鉄槌となって心を容赦なく打ち砕いていく。あの手紙に込められていたはずの温かい気持ちはどこへ行ってしまったというの。
「あなたは共に素晴らしい夜を過ごしたいと……わたしのための夜だと……そう書いてくれたわ!」
隣でルネアがくすくすという甲高い嘲笑う声が聞こえた。彼女は扇子で口元を隠し、その目はわたしを完膚なきまでに見下していた。
「まあ、リリーナったら。まだシュロト様のあの甘いお言葉を鵜呑みにしていたの? 本当におめでたくて哀れな人ね。男性の言葉なんてその場の雰囲気でいくらでも変わるものよ。それくらい学習なさいませ」
シュロトはそんなルネアの侮辱的な言葉を制するでもなく、むしろ肯定するかのように軽く傾けた。
「リリーナ。もう回りくどい言い方はやめよう。単刀直入に言う。君との関係はもう終わりだ。これきりにする」
138
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。
聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。
平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。
お飾りの側妃となりまして
秋津冴
恋愛
舞台は帝国と公国、王国が三竦みをしている西の大陸のど真ん中。
歴史はあるが軍事力がないアート王国。
軍事力はあるが、歴史がない新興のフィラー帝国。
歴史も軍事力も国力もあり、大陸制覇を目論むボッソ公国。
そんな情勢もあって、帝国と王国は手を組むことにした。
テレンスは帝国の第二皇女。
アート王ヴィルスの第二王妃となるために輿入れしてきたものの、互いに愛を感じ始めた矢先。
王は病で死んでしまう。
新しく王弟が新国王となるが、テレンスは家臣に下賜されてしまう。
その相手は、元夫の義理の息子。
現王太子ラベルだった。
しかし、ラベルには心に思う相手がいて‥‥‥。
他の投稿サイトにも、掲載しております。
婚約者の幼馴染に殺されそうになりました。私は彼女の秘密を知ってしまったようです【完結】
小平ニコ
恋愛
選ばれた貴族の令嬢・令息のみが通うことを許される王立高等貴族院で、私は婚約者のチェスタスと共に楽しい学園生活を謳歌していた。
しかし、ある日突然転入してきたチェスタスの幼馴染――エミリーナによって、私の生活は一変してしまう。それまで、どんな時も私を第一に考えてくれていたチェスタスが、目に見えてエミリーナを優先するようになったのだ。
チェスタスが言うには、『まだ王立高等貴族院の生活に慣れてないエミリーナを気遣ってやりたい』とのことだったが、彼のエミリーナに対する特別扱いは、一週間経っても、二週間経っても続き、私はどこか釈然としない気持ちで日々を過ごすしかなかった。
そんなある日、エミリーナの転入が、不正な方法を使った裏口入学であることを私は知ってしまう。私は間違いを正すため、王立高等貴族院で最も信頼できる若い教師――メイナード先生に、不正の報告をしようとした。
しかし、その行動に気がついたエミリーナは、私を屋上に連れて行き、口封じのために、地面に向かって突き落としたのだった……
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
婚約破棄された令嬢、教皇を拾う
朝露ココア
恋愛
「シャンフレック、お前との婚約を破棄する!」
婚約者の王子は唐突に告げた。
王太子妃になるために我慢し続けた日々。
しかし理不尽な理由で婚約破棄され、今までの努力は水の泡に。
シャンフレックは婚約者を忘れることにした。
自分が好きなように仕事をし、趣味に没頭し、日々を生きることを決めた。
だが、彼女は一人の青年と出会う。
記憶喪失の青年アルージエは誠実で、まっすぐな性格をしていて。
そんな彼の正体は──世界最大勢力の教皇だった。
アルージエはシャンフレックにいきなり婚約を申し込む。
これは婚約破棄された令嬢が、本当の愛を見つける物語。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる