【完結】婚約破棄したのに「愛してる」なんて囁かないで

遠野エン

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終幕の結婚式

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わたしの名前が……? シュロトが、今、確かにわたしの名を呼んだ――。

凍り付いていたはずの心が激しく動き出し、信じられないほどの喜びが胸の奥からせり上がる。先ほどまで永遠に続くと思われた苦しみが、一瞬にして吹き飛んでいくようだった。

「皆様、突然このような形で式を混乱させてしまったことをお詫び申し上げます。今から真実をお伝えしなくてはなりません。どうか少しの間、耳を傾けていただけると幸いです」

シュロトの芯の通った言葉に堂内は再び静まり返った。誰もが彼の次の一言を待っている。わたしもまた、彼の口から語られる「真実」とは何なのか、心臓の鼓動を抑えながら見守った。

「皆様の中にはご存じの方もおられるかもしれませんが、わたしはつい先日まで伯爵令嬢リリーナ・スフレと親しくお付き合いをさせていただいてました。ところが、ある夜会を境に、わたしはリリーナとの関係を絶ち、代わりにルネア・フォードを伴って皆様の前に現れた。あの日以来、手のひらを返したような冷たい振る舞いをリリーナにしてしまいました」

そう……あの日。ヴァロア侯爵家の晩餐会で彼は人が変わったようにわたしを遠ざけ……ルネアと親しげに寄り添っていた……。豹変の裏にあった真意を語ろうとしているの……?

シュロトが視線をわずかにわたしの方へ送り、その言葉に悔やむような色を滲ませる。わたしは自分の呼吸が乱れるのを感じながら、彼の言葉を聞き洩らすまいと耳をそばだてた。

「ですが、あの行動はわたしの本意ではありませんでした。むしろリリーナを守るために、意図的に冷酷な男を演じ彼女から離れざるを得なかったのです」

――守るために……? でもなぜそんなことが……?

一段と張り詰めた響きで続ける。

「本題はこれからです。わたしはヴァロア侯爵家の嫡男として、長らくこの国の貴族社会の中核に身を置いてきました。しかし近頃、その貴族社会が狙われているという不穏な噂をご承知でしょうか?」

貴族社会が狙われている――確かにそのような話が社交界の片隅で囁かれていた。けれど、それはどこか他人事のように、心ない誰かが流した根も葉もないデマだろうと、真剣に受け止めてはいなかった。それが今、シュロトの口から、こんなにも緊迫した状況で語られるなんて……。

シュロトはさらに大きな声で告げる。

「先日、信頼できる筋から一件の密告を得ました。その内容は反貴族主義者の一派がわが国の貴族を陥れ、名誉と財産を奪い取り、社会的に抹殺するために暗躍しているというものでした。しかも彼らはかなり巧妙な手口を使う。貴族の血筋を持つ方々に近づき甘い言葉で誘惑し、時には婚約を破断させたり醜聞を創り上げたりといった手段で、最終的に人生そのものを奈落へ突き落とすのです」

誰かが喉を鳴らすような音が聞こえた。言葉だけでも禍々しさに背筋が凍り、ぞっとする。

「ご推察いただけたかもしれません――ルネア・フォード、その人物こそが反貴族主義の最たる実行者であり、ある一派の手先として動いていたとわたしは突き止めました」
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