似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣

文字の大きさ
6 / 60

その6

しおりを挟む
「うーん、思った以上に賑やかにしているね」
「……申し訳ございません、こうなる事はある程度予測出来てはいたのですが、どうしても飛んでみたくなりまして……」

 迷惑を掛けてしまったのだから、早急に謝罪をしなければならない。混乱した頭では下ろして欲しいと要求するのも忘れ、横抱きにされたままのやり取りとなってしまった。
 オリヴィアの顔は羞恥で赤く染まり、謝罪の言葉もボソボソと小さくなってしまった。
 空を飛んで、木から降りられなくなって、今は王子殿下に抱きとめられている。もはやこの心臓の落ち着きのなさは、何に対してなのか、自分でもよく分からなかった。

 しかしエフラムは、迷惑などと露ほども思っていないような穏やかな微笑みで返した。

「気持ちはよく分かるよ」

 羽が生えたら誰だって、飛んでみたいと思うのはおかしな事ではない。

「さっさとオリヴィアお嬢様を降ろして頂けませんか?」

 見つめ合う二人に、棘のある声が割って入る。オリヴィアを横抱きにしたままのエフラムを梯子を担いでいるローズが睨みつけていた。
 美人だがほんのりと吊り目で、思いやりがあって心優しいがとても気が強い。そんなローズの睨みは中々迫力があった。

「ああ、ごめん。つい」
「つい?」

 オリヴィアを下ろしながら地面に立たせてあげるエフラムへ、ローズは更に眼光鋭く睨みつける。

「……のこのこと、何しにいらしたんですか?」
「ろ、ローズ……」

 二人の様子をハラハラと見守っていたオリヴィアは、流石にローズの不敬っぷりに冷や汗が出た。

「今日はオリヴィアの様子を見に来たのと、もう一度……ちゃんと婚約を申し込もうと思って」
「もう一度……?」
「僕はオリヴィアに、先日振られているからね……」

 エフラムは寂しげに視線を下げた。
 第二王子であるエフラムがオリヴィアに求婚し、そして振られているなどと言った話は初耳だった。ローズは、目を丸くしてオリヴィアを見た。


「確か、ヨシュア殿下に婚約破棄された時に陛下がおっしゃっていらしたかも……?」

 国王陛下から、『もしオリヴィア様がよければ』と言われたが、それはオリヴィアの意思を無視する物では無かったはずだ。


「!……聖女であるオリヴィアお嬢様が、第一王子と婚約を白紙にしたから、今度はエフラム殿下との婚約を陛下は勧められたのですか!?どれだけ王家は、オリヴィアお嬢様を振り回せば気がすむんですかっ……!」
「ローズ!申し訳御座いませんエフラム殿下!侍女の不敬は私の責任です、罰するならどうか、わたしの方を」
「お嬢様!?」

 オリヴィアが深々と頭を下げるのを見て、ローズは血相を変えた。
 ローズとて、王族に不敬を働くとどうなるか分かっている。分かっていても黙っていられなかった。自分の処罰は覚悟の上だったのだ。
 だからオリヴィアに罪を被せる訳にはいかない。ローズは

「申し訳御座いませんでした」
「いや、構わない……あの事があってまだ僅かな時間しか経っていないのに、今度は弟である僕が求婚に来るなんて、印象が悪くて当たり前だよ。
 二人の事は絶対に罰しないと誓うし、むしろ謝らなくてはいけないのはこちらの方だ。謝って済む問題ではないけど……」


 真摯なエフラムを見て尚、苦々しい思いは消えないが、ローズは我慢して言葉を飲み込んだ。お陰で沈黙が続き、気まずい空気が流れたところで、オリヴィアは恐る恐る声を発した。

「お、お茶にしませんか……?出来ればお庭で……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...