似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣

文字の大きさ
19 / 60

その19

しおりを挟む
オリヴィアにドレスを贈るという、エフラムの目を黙って見据えたまま沈黙は流れた。

「……………」

「オリヴィア……?」

「エフラム様……そこに気付いてしまわれたのですね」

「……え?」

神妙な面持ちでエフラムを見たオリヴィアは意を決したかのように、くるりと背を向けてエフラムに純白の天使の羽を見せるようにした。

「実は言ってなかったんですが、この羽……なんと、服を貫通しているのです!!」

「えええ!?」


驚愕の事実を聞かされ、エフラムは狼狽した。
オリヴィア曰く、背中にある羽は服を突き破る事なく、布をすり抜けているのだとか。

「なのに、壁や物には当たるという意味不明の仕様!そういう所を含めてほんっっとに不気味なのです!それに、服がオッケーならば何故布団やシーツはダメなのでしょうか!?何故布団を貫通してくれないのでしょうか!どうして私を快適に眠らせようとしてくれないのか、謎は深まるばかりなんです!」


ドレスをプレゼントしようと思ったら、何故か羽についてのサイエンスミステリーに突入してしまった。

困惑するエフラムを横目に、クリストファーは腕を組みながら考えた。


「う~ん、やはりその羽は魔法を帯びた物と考えるのが普通ですよね」

「まぁ、生物学的に突然生えてくるなんてあり得ませんから、羽はきっと魔法で構成されているのでしょう」

そうグレンが言った途端、オリヴィアは衝撃を受けたのち、ブツブツと呟き始めた。

「魔法……まじない……呪い…やはり呪いなのですね!?皆さんもそう思いますよねぇ!?」


「えぇと、専門分野ではないので詳しくは分かりませんが、きっと光魔法なのではないでしょうか?宗教画に描かれる聖女も羽が生えていましたし」

「そうですよ!そよのうな美しい天使の羽、決して呪いなどではあり得ませんっ、むしろ祝福ですよ!とてもオリヴィア嬢にお似合いでお美しい!」

グレンとクリストファーが言うがエリーゼも引かなかった。


「いくら光魔法でも使い方によったら呪いも同然なのです!
それに他人に羽を生やす魔法なんて聞いた事ありませんっ、きっと誰かが嫌がらせで、私の安眠を妨害するためにやった事に違いありません!だって寝る向きが限られてしまいますもの!」



「嫌がらせの目的が地味ですね……」

見た目は派手だけど、とグレンは思った。

「お嬢様は普段、かなり長時間お眠りになられますから」

一気に羽について盛り上がった面々に、置いてけぼりを食ってしまったエフラムだが、長い事沈黙しながら考えたのち、意を決して口を開いた。


「お、オリヴィア…」

そんなエフラムを全員が注目した。


「ドレスの件はよく分かったよ。では、別の物を贈らせて貰えないかな?これは僕の自己満足だから、素直に受け取って貰いたい。贈り物は考えておくから。

あと……それとは別に、実はオリヴィアにお願いしたい事があって、来月に王宮で開催される舞踏会へオリヴィアに僕のパートナーとして出席して欲しくって。夜会用のドレスは勿論僕がプレゼントする」

エフラムは何がなんでもオリヴィアにプレゼントしたかった。

「夜会はお断りします」
「………」

だが夜会は断られた。


「だって、夜会ですよ?沢山の人の中に、私なんかが紛れ込んでいたら、きっと迷惑だしこの羽が当たってしまいます。きっと多くの人を羽でしばき回します」

「人に当たるのが怖いんだね、大丈夫ずっと僕の側にいれば…」

王子であるエフラムの側にいたら、流石に人々も気軽に群がれないはずだ。それにオリヴィアの事は、何がなんでも自分が守り通すとエフラムは心に決めている。


「違いますエフラム様、羽でなぎ倒すのが私。羽でなぎ倒されるのが周りの貴族です」

「………」

オリヴィアの無駄に堂々とした物言いは、むしろ薙ぎ倒したがっているのではないかと思うほどだった。


「もしかしたらエフラム様の事も羽でしばき回してしまう可能性すらあるのです。むしろ踊っている最中など、ターンをしようものならエフラム様にクリティカルヒットです」

「僕の事はいくらでもしばき回してくれて構わない!オリヴィアにしばかれるなら、僕は本望だ!」

むしろ王子が『オリヴィアにしばかれるのはご褒美です』と言いださないか、全員がハラハラしながら固唾を呑んで見守った。


「エフラム殿下…変態でドMの可能性も…」
「ローズ殿…」

耐えきれず、ボソリと呟いたローズをグレンは小声で制した。


「どちらにせよ、今の所夜会には出るつもりは無いのです」

「そうか…でももし……ほんの少しでも気が変わったら…すぐにでも言って欲しい」


寂しげに微笑むエフラムをオリヴィアはジッと見つめたのち、にこりと微笑んだ。


「分かりましたわ」

「ありがとう!今はその返事が貰えただけで十分だ!僕はオリヴィア以外にエスコートするのは、妹だけだと決めてたんだ。だから気が変わったらすぐにでも言って欲しい」


夜会でのエフラムはこれまで同腹の妹姫、マリエッタ王女しかエスコートをした事がない。だからそんなエフラムが妹姫以外をエスコートしたとすると、周りはエフラム王子の相手がやっと決まったのだと思うだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。 しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。 その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。 一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります 章毎に一作品となります これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります ※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。 ※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...