39 / 60
その39
しおりを挟む
「まず、オリヴィアお嬢様はこの清廉な外見の通り、白やパステルカラーなど淡いドレスが特に良くお似合いです。これは、殿下も既に知っておられる事でしょう。
それに加えて近年の流行色である、くすみピンクなどもとてもお似合いになられます」
ファッションに疎いオリヴィアは、センスがよく流行にも敏感なローズの助言をもらおうと、この場に呼んでいた。
そのローズの助言に耳を傾けるエフラムは、熱心に考察している最中である。それはもう、オリヴィア本人よりも遥かに。
ちなみにオリヴィアの、舞踏会用のドレスを新調するため、マダムをこの湖の館に連れて来たのはエフラムである。
「なるほど、くすんだピンクか。可愛らしさも大人っぽさも、デザイン次第で演出出来そうだね。ピンクなのに子供っぽくなりすぎない、という事か」
「その通りです殿下!シフォンでスカートをふんわりとさせるのも良いですし、シンプルなデザインに大きなリボンなど、アクセントを出すのも良いですわ」
こうして話し合いのもと、ドレスの生地や細かな装飾など、デザインが決まった。ローズの助言と昨今の流行、そしてオリヴィアの好みを取り入れたものになった。きっと素敵な衣装へと、仕上がるに違いない。
ドレスの打ち合わせが終わったところで、予定通りお客様であるエフラムとマダムに、お茶を振る舞う時間がやって来た。
オリヴィアはお客様をサロンへ一旦案内し、しばらくしてティーワゴンを押した、ローズと共に戻ってきた。
ティーワゴンには人数分のお茶と、ケーキが乗せられている。ケーキの出来を確認するために、オリヴィアも厨房へと訪れたのだった。
ワゴンに乗せられているのは、飾ったサクランボが、透けて見える透明なゼリーを上に。そして下はミルクゼリーの二層になったゼリーリーフケーキ。
オリヴィアの嬉しそうな様子から、ケーキの出来に満足しているのが伺える。
これにはケーキを目にしたマダムも、感嘆の声を上げた。
「まぁ……!これをオリヴィア様が、お作りになられたのですか?とても美味しそうで、そしになんて美しいケーキなんでしょう」
貴族令嬢がお菓子作りなど、良い印象を受けない人もいるかもしれない。だが働く女性の筆頭であるマダムは、そのような偏見は持ち合わせていなかった。
「ありがとうございます!冷やして出来上がるのを待っていたのですが、切ってしまう前に完成品をお二人にも見てもらいたくて」
「確かに切ってしまうのが、勿体なく感じてしまうね。本当に、綺麗なリーフケーキ綺麗だから」
感心した様子でリーフケーキを眺めるエフラムとマダムを前に、オリヴィアは照れながら口を開いた。
「先日、エフラム様に連れて行って頂いたカフェで食べた、透明で綺麗なケーキが凄く美味しくて。自分でも作ってみたくなったのです」
大事な思い出を口にして、愛おしむような表情を見せるオリヴィア。
言いながら、エフラムとの視線が絡んだ瞬間、オリヴィアの心臓は早鐘を打ち始める。
「まぁ、素敵なエピソードですこと。お二人は本当に仲がよろしいのですね、よく二人で出かけられるのですか?」
「えっと、エフラム様とは……」
マダムの何気ない質問に、オリヴィアは答えようとして、固まった。
エフラムとは子供の頃はよく遊んでいた幼馴染みの関係だが、誘われて何処かに出掛けるのは、前回が初めてだった。
それもそのはず、最近までオリヴィアの婚約者はエフラムの兄であるヨシュアであった。他に婚約者がいる身でありながら、エフラムから誘いを受けるなど、なくて当然である。
(ヨシュア様には婚約破棄されましたけど……!)
そのような事を考えているうちに、オリヴィアは重大な事に気付いてしまった。
エフラムの婚約者でもない自分が、軽々しく町に連れ立って貰った事を、他人に話すべきではなかったのではないかと。
(あまりプライベートな事は言うべきではありませんでした……!あ、でもマダムには既に今度の舞踏会で、私がエフラム様にエスコートして頂く事も、ドレスを贈って頂く事も知られています……)
知られているどころか、マダムの店でドレスを作り、来上がった品をエフラムからプレゼントされるのである。
二人の関係を感潜らない訳がなかった。
(あわわ、どう致しましょう)
狼狽しながら、助けを求めるようにエフラムに視線を向けると、彼はにこりと微笑んで言った。
「これから、沢山出掛けようね」
その言葉を聞いた瞬間、オリヴィアは自身の身体のある部分に、強烈な違和感を感じた。
背中である。
バサリと音を立てて、オリヴィアの背中に純白の翼が出現してしまった。
「あらまぁ」と、目を丸くするマダムとは対照的に、オリヴィアは酷く狼狽する。
「あああ、最近は羽が生えてこなくて油断していました!!どうしましょう!?」
取り乱すオリヴィアを落ち着かせようと、ローズは
「オリヴィアお嬢様、お客様にお茶の用意が整ったのです。お召し上がりになって頂かないと、折角のお茶が冷めてしまいますっ」
「そうだわ!お茶が最優先よ、流石だわローズっ」
ローズに「ありがとう」とお礼を言うと、一旦深く深呼吸をしてから仕切り直した。
「お、お見苦しいところを見せてしまって、申し訳ありませんでした。すぐにお茶を入れて、ケーキを切り分けますので、私の羽の事はお気になさらないで下さいね」
気にしないでと言っても、それは無理だろう。と誰もが突っ込みを入れそうだが、一代で商会を発展させた女主人は、空気の読み方からしてプロだった。
マダムは優雅に微笑んで、了承の意を表した。
絶対にお茶が冷めないうちに、ケーキと美味しく召し上がって欲しいという、熱い思いを持つオリヴィア。
彼女の思いは『羽が鬱陶しい』という嫌悪感すら凌駕する。
それに加えて近年の流行色である、くすみピンクなどもとてもお似合いになられます」
ファッションに疎いオリヴィアは、センスがよく流行にも敏感なローズの助言をもらおうと、この場に呼んでいた。
そのローズの助言に耳を傾けるエフラムは、熱心に考察している最中である。それはもう、オリヴィア本人よりも遥かに。
ちなみにオリヴィアの、舞踏会用のドレスを新調するため、マダムをこの湖の館に連れて来たのはエフラムである。
「なるほど、くすんだピンクか。可愛らしさも大人っぽさも、デザイン次第で演出出来そうだね。ピンクなのに子供っぽくなりすぎない、という事か」
「その通りです殿下!シフォンでスカートをふんわりとさせるのも良いですし、シンプルなデザインに大きなリボンなど、アクセントを出すのも良いですわ」
こうして話し合いのもと、ドレスの生地や細かな装飾など、デザインが決まった。ローズの助言と昨今の流行、そしてオリヴィアの好みを取り入れたものになった。きっと素敵な衣装へと、仕上がるに違いない。
ドレスの打ち合わせが終わったところで、予定通りお客様であるエフラムとマダムに、お茶を振る舞う時間がやって来た。
オリヴィアはお客様をサロンへ一旦案内し、しばらくしてティーワゴンを押した、ローズと共に戻ってきた。
ティーワゴンには人数分のお茶と、ケーキが乗せられている。ケーキの出来を確認するために、オリヴィアも厨房へと訪れたのだった。
ワゴンに乗せられているのは、飾ったサクランボが、透けて見える透明なゼリーを上に。そして下はミルクゼリーの二層になったゼリーリーフケーキ。
オリヴィアの嬉しそうな様子から、ケーキの出来に満足しているのが伺える。
これにはケーキを目にしたマダムも、感嘆の声を上げた。
「まぁ……!これをオリヴィア様が、お作りになられたのですか?とても美味しそうで、そしになんて美しいケーキなんでしょう」
貴族令嬢がお菓子作りなど、良い印象を受けない人もいるかもしれない。だが働く女性の筆頭であるマダムは、そのような偏見は持ち合わせていなかった。
「ありがとうございます!冷やして出来上がるのを待っていたのですが、切ってしまう前に完成品をお二人にも見てもらいたくて」
「確かに切ってしまうのが、勿体なく感じてしまうね。本当に、綺麗なリーフケーキ綺麗だから」
感心した様子でリーフケーキを眺めるエフラムとマダムを前に、オリヴィアは照れながら口を開いた。
「先日、エフラム様に連れて行って頂いたカフェで食べた、透明で綺麗なケーキが凄く美味しくて。自分でも作ってみたくなったのです」
大事な思い出を口にして、愛おしむような表情を見せるオリヴィア。
言いながら、エフラムとの視線が絡んだ瞬間、オリヴィアの心臓は早鐘を打ち始める。
「まぁ、素敵なエピソードですこと。お二人は本当に仲がよろしいのですね、よく二人で出かけられるのですか?」
「えっと、エフラム様とは……」
マダムの何気ない質問に、オリヴィアは答えようとして、固まった。
エフラムとは子供の頃はよく遊んでいた幼馴染みの関係だが、誘われて何処かに出掛けるのは、前回が初めてだった。
それもそのはず、最近までオリヴィアの婚約者はエフラムの兄であるヨシュアであった。他に婚約者がいる身でありながら、エフラムから誘いを受けるなど、なくて当然である。
(ヨシュア様には婚約破棄されましたけど……!)
そのような事を考えているうちに、オリヴィアは重大な事に気付いてしまった。
エフラムの婚約者でもない自分が、軽々しく町に連れ立って貰った事を、他人に話すべきではなかったのではないかと。
(あまりプライベートな事は言うべきではありませんでした……!あ、でもマダムには既に今度の舞踏会で、私がエフラム様にエスコートして頂く事も、ドレスを贈って頂く事も知られています……)
知られているどころか、マダムの店でドレスを作り、来上がった品をエフラムからプレゼントされるのである。
二人の関係を感潜らない訳がなかった。
(あわわ、どう致しましょう)
狼狽しながら、助けを求めるようにエフラムに視線を向けると、彼はにこりと微笑んで言った。
「これから、沢山出掛けようね」
その言葉を聞いた瞬間、オリヴィアは自身の身体のある部分に、強烈な違和感を感じた。
背中である。
バサリと音を立てて、オリヴィアの背中に純白の翼が出現してしまった。
「あらまぁ」と、目を丸くするマダムとは対照的に、オリヴィアは酷く狼狽する。
「あああ、最近は羽が生えてこなくて油断していました!!どうしましょう!?」
取り乱すオリヴィアを落ち着かせようと、ローズは
「オリヴィアお嬢様、お客様にお茶の用意が整ったのです。お召し上がりになって頂かないと、折角のお茶が冷めてしまいますっ」
「そうだわ!お茶が最優先よ、流石だわローズっ」
ローズに「ありがとう」とお礼を言うと、一旦深く深呼吸をしてから仕切り直した。
「お、お見苦しいところを見せてしまって、申し訳ありませんでした。すぐにお茶を入れて、ケーキを切り分けますので、私の羽の事はお気になさらないで下さいね」
気にしないでと言っても、それは無理だろう。と誰もが突っ込みを入れそうだが、一代で商会を発展させた女主人は、空気の読み方からしてプロだった。
マダムは優雅に微笑んで、了承の意を表した。
絶対にお茶が冷めないうちに、ケーキと美味しく召し上がって欲しいという、熱い思いを持つオリヴィア。
彼女の思いは『羽が鬱陶しい』という嫌悪感すら凌駕する。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?
今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。
しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。
その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。
一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集
にがりの少なかった豆腐
恋愛
こちらは過去に投稿し、完結している作品をまとめたものになります
章毎に一作品となります
これから投稿される『恋愛』カテゴリの作品は投稿完結後一定時間経過後、この短編集へ移動することになります
※こちらの作品へ移動する際、多少の修正を行うことがあります。
※タグに関してはおよそすべての作品に該当するものを選択しています。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる