婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

秋月乃衣

文字の大きさ
30 / 77
本編

ユミール村

しおりを挟む
 厩舎の前には美しい黒馬が用意されていた。

「彼はオニキスだ」
「よろしくお願いします、オニキス」

 オニキスへと挨拶を済ませるとすぐ後ろ、吐息が掠めそうな程の距離で、ユリウスの声が下りてきた。

「ティアは僕の後ろだな。では、失礼する」
「え?」

 刹那、腰に腕が回されティアリーゼは宙に攫われる。浮遊感と共に温もりを感じ、横抱きにされていた。顔を上げると直ぐ近くに、ユリウスの顔がある。
 ティアリーゼは狼狽する間も無く、馬上に引き上げられ、次いで素早くユリウスが騎乗する。

「しっかり掴まっているように」

 促され、慌てて腕を回してユリウスの身体に捕まる。ぱっと見線の細い彼だが、先程は自分を軽々と持ち上げていた。
 見た目通り身体は引き締まってはいるものの、女性とは明らかに違う体付きは、程良く筋肉が付いている。

 背中の温もりを意識してしまい、馬に乗っている間、ティアリーゼはずっと緊張したままだった。
 ユリウスが操る馬が森を抜け、暫くすると村の入り口へと到着した。

「着いた」

 馬から降りたユリウスが乗せた時同様、軽々とティアリーゼを持ち上げ、地面へと降ろす。

「あ、あのっ……!」
「なに?」
「な、何でもありません……」

 口籠るティアリーゼに、ユリウスは不思議そうに首を傾げた。
 馬を引きながら村の中を歩いていると、雪遊びをしている子供達に遭遇した。
 子供達がこちらに気付き、雪遊びの手を止めて笑顔で駆け寄ってくる。

「領主様~」
「こんにちは」

 子供達の無邪気な様子に、ティアリーゼは思わず表情を綻ばせる。
 しかし彼らはティアリーゼを視界に入れた途端、落ち着きのない様子を見せ、視線を逸らした。そんな彼らにティアリーゼが「こんにちは」と微笑み掛けると、子供達も慌てて返してくれた。

「こ、こんにちは」
「きっとティアの美しさに驚いているんだな」
「うつく……?」

 大らかに笑いながらのユリウスの言葉に、ティアリーゼは虚を突かれる。
 子供達は滅多に目にすることが無い、高貴な貴族女性に驚き、緊張してしまっていた。

「彼女は僕の婚約者になる予定のティアリーゼだ」
「えええっ!?」

 ユリウスの言葉と共に、子供達から驚愕の声が上がった。「よろしくお願いいたします」と挨拶するティアリーゼを彼らは唖然と見つめ、いち早く我に帰った一人が抗議の声を上げる。

「嘘だ!領主様の恋人いない歴イコール年齢は今後も揺るぎないって、レイヴンが言ってた!」

 それを皮切りに「そうだそうだ」「領主様は若い女の子に決してモテないってレイヴンが言ってた!」などと他の子供達も賛同しながら追随する。

「お前達、何故僕の言葉よりレイヴンを信じるっ!?」
「まって、さっき領主様は『婚約者になる予定』とおっしゃられていたよ」
「ってことは、まだ正式じゃないってことか」
「焦ったー」
「安心した」

 胸を撫で下ろす子供達に、ユリウスの口元が引き攣る。
 とても領主と領民の関係性とは思えないやり取りを目に、距離感の近さにティアリーゼはひたすら驚いていた。

「では、僕達は見回りを続けるから。それと、そろそろまた雪が降るだろうから、気をつける様に」

 ユリウスが告げると子供達は揃って元気に「はい」と返事をし、二人を見送ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
母の連れ子だった私、リリーノは幼い頃は伯爵である継父に可愛がってもらっていた。 継父と母の間に子供が生まれてからは、私への態度は一変し、母が亡くなってからは「生きている価値がない」と言われてきた。 捨てられても生きていけるようにと、家族には内緒で魔道具を売り、お金を貯めていた私だったが、婚約者と出席した第二王子の誕生日パーティーで、王子と公爵令嬢の婚約の解消が発表される。 涙する公爵令嬢を見た男性たちは、自分の婚約者に婚約破棄を宣言し、公爵令嬢に求婚しはじめる。 その男性の中に私の婚約者もいた。ちょ、ちょっと待って! 婚約破棄されると、私家から追い出されちゃうんですけど!? 案の定追い出された私は、新しい地で新しい身分で生活を始めるのだけど、なぜか少し変わった魔道具ばかり作ってしまい――!? 「あなたに言われても心に響きません!」から改題いたしました。 ※コメディです。小説家になろう様では改稿版を公開しています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」 そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。 代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。 世間は笑った。けれど、私は知っている。 ――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、 ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚! 鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...