婚約者を妹に奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

秋月乃衣

文字の大きさ
74 / 77
本編

話し合い

しおりを挟む
 マリータについて──彼女は現在拘束されており、取り調べの最中となっている。

 マリータ本人は故意ではないと否定しているが、産まれたばかりのリドリスに掛けられた呪いを発動させるため、魔法を使用した張本人である。
 リドリスに掛けられていた呪いは元々緩やかに精神に作用していたが、それを急激に加速させたのがハンカチに用いられていた魔法陣だ。

 その魔法陣はマリータが自身の魔力を込めて刺繍したものであり、母から教わった「おまじない」を行っただけと主張している。
 自覚の有無に関わらず、リドリスの精神を蝕んだことに変わりない。

 そして事件とは別に、マリータは王子妃としての適性はないと判断されている。


 :.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:

 ランベール国王を前に、ティアリーゼの婚約について話し合いがなされた。

 この場にはティアリーゼ以外にユリウス、クルステア公爵、そして容態が回復しつつあるリドリスが話し合いの席に着いている。

 リドリスが澱み無く心情を言葉にする。

「僕は幼馴染として、ティアリーゼに親愛を抱いており、結婚した暁には戦友のように手を取り合いたいと思っておりました」

 ティアリーゼもずっと同じ思いを抱いていた。
 ユリウスに向けるような恋心とは違っていたが、友人として、婚約者として彼を支えていきたいと思っていた。

 何よりリドリスに嫌われていなかったことに安堵し、ティアリーゼはほっと胸を撫で下ろした。

「しかし兄上とティアリーゼが思い合っているのであれば、僕は潔く身を引こうと思っています。
 それに兄上が立太子し、ティアリーゼが王太子妃となれば丸く治ります。
 僕より兄上の方が全てにおいて秀でていらっしゃる。魔法の知識や才能も、このランベールに不可欠であり、大いに貢献して下さるでしょう。兄上が王位を継ぐべきです」
「何を言っている。僕は魔法とミルディンの土壌の研究に勤しんでいただけで、王位など考えたことはない。幼少期から王宮で暮らし、帝王学を学んできたリドリスこそ、王位に相応しい」
「しかし……」


 ユリウスの反駁に、リドリスは言葉を詰まらせる。

「王位に付かずとも、国に貢献出来るよう努力する。むしろミルディンにいた方が、王都で公務をこなすより、魔法研究に時間を費やせるのは明白だ。
 これからも国や大切な物を守るため、陰で支えていけたらと思っているよ」
「なら、ティアリーゼのことはどう思っていらっしゃるのですか?」
「ティアリーゼのことは、子供の頃に会った時からずっと好きだった」
「でしたら……!」

 説得しようと躍起になりかけたリドリスの代わりに、ランベール王が発言する。


「ティアリーゼは?」
「わたしは……」
「今まで王家の都合で振り回してすまなかった。立場や責任を抜きに、まずはティアリーゼの意見を述べてくれ」


 その場の全員から視線が注がれ、ティアリーゼは緊張の面持ちで言葉を紡ぐ。

「ユリウス様と、共にありたいと思っているのが本音です。献身的な領主としてのお姿を身近で拝見し、ミルディンに対する思いもとても伝わってきました。
 そんなユリウス様に微力ながら、お力添えをさせて頂けたらと……」


 ティアリーゼの思いを聞き、リドリスは再び口を開く。

「僕はこのまま王位に就くのであれば、国のための結婚をする覚悟は出来ております。しかし兄上の方が王位に相応しく、僕を忌子として入れ替えた方が……」
「忌子などの風習は撤廃する」

 言い掛けたリドリスの言葉を王が遮った。

「ユリウスの存在も公表し、全てを公にするつもりだ。これまでのことは、風習に囚われてしまった私の弱さが招いた結果だ」


 現王が特段愚王だった訳ではなく、忌子は長きに渡り王家に根付いていた風習であり、その歴史を覆すことは困難だっただろう。
 自身の妃さえ生きていれば、忌子など馬鹿馬鹿しいと一蹴してくれたに違いないと、ランベール王は幾度も苦悶していた。

 しかし今回の一件で、ようやくランベール王は風習を捨てる勇気を持てたのだった。

「クルステア卿は何か意見はあるか?ティアリーゼの希望のまま話を進めると、ユリウスと正式に婚約することとなるが」
「異論はございません……ティアリーゼの希望を一番に叶えてやりたいと思っております。
 ティアリーゼの幸せに繋がるのであれば、尚のこと……」

 仕事を言い訳に、自身の家庭や屋敷の現状を把握できていなかった公爵は全て、自分が蒔いた種だと認めている。


 そして、リドリスへ掛けられていた呪いについて──
 ユーノの協力のもと、新たに判明した事実がいくつかある。
 この呪いはエルニア民族の血を宿す女性のみが、発動させることの出来る呪術である。

 クルステア公爵の妻ミランダは元々男爵家の令嬢であり、母親はエルニア民族の血筋である。つまりミランダとマリータには、エルニアの血が流れている。
 そしてマリータに流れるエルニアの血を利用し、魔法陣を用いて魔法を発動させた。

 下級貴族出身のミランダは公爵夫人として社交に重きを置いていた。夜会以外にも幾つかのサロンに出入りし、そこで近づいて来た男に「おまじない」と称して刺繍の呪いを教わったのだという。

 その男こそサイファーのもう一つの顔──

 彼は魔法で姿を変え、いくつもの顔を持ち、徐々にリドリスとその周辺を狂わせていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
母の連れ子だった私、リリーノは幼い頃は伯爵である継父に可愛がってもらっていた。 継父と母の間に子供が生まれてからは、私への態度は一変し、母が亡くなってからは「生きている価値がない」と言われてきた。 捨てられても生きていけるようにと、家族には内緒で魔道具を売り、お金を貯めていた私だったが、婚約者と出席した第二王子の誕生日パーティーで、王子と公爵令嬢の婚約の解消が発表される。 涙する公爵令嬢を見た男性たちは、自分の婚約者に婚約破棄を宣言し、公爵令嬢に求婚しはじめる。 その男性の中に私の婚約者もいた。ちょ、ちょっと待って! 婚約破棄されると、私家から追い出されちゃうんですけど!? 案の定追い出された私は、新しい地で新しい身分で生活を始めるのだけど、なぜか少し変わった魔道具ばかり作ってしまい――!? 「あなたに言われても心に響きません!」から改題いたしました。 ※コメディです。小説家になろう様では改稿版を公開しています。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

裏で国を支えていた令嬢「不純物だ」と追放されるも、強面辺境伯と共に辺境を改革する ~戻ってきてと嘆願されましたが、それに対する答えは……~、

水上
恋愛
「君のような地味な不純物は不要だ」と婚約破棄され追放されたルチア。失意の彼女を拾ったのは、皆から恐れられる辺境伯レオンハルトだった。だが彼には意外な一面があって!? ルチアはレオンハルトと共に、自らの知識や技術で領地を改革し始める。 一方、ルチアを追放した王国は、彼女の不在によって崩壊の危機に陥る。 今更戻ってきてほしいと嘆願されましたが、それに対する答えは……。

婚約破棄されてから義兄が以前にも増して過保護になりました。

木山楽斗
恋愛
両親と姉を亡くした私は、姉の夫であるお義兄様を始めとするコークス公爵家の人々に支えられていた。 そんな公爵家によって紹介された婚約者から、私は婚約破棄を告げられた。彼は私の一家が呪われているとして、婚約を嫌がったのだ。 それに誰よりも怒ったのは、お義兄様であった。彼は私の婚約者だった人を糾弾して、罰を与えたのである。 それからお義兄様は、私に対して過保護になった。以前からそのような節はあったが、それがより過激になったのだ。 私にとって、それは嬉しいことでもある。ただあまりにも過保護であるため、私は少し気が引けてしまうのだった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...