7 / 7
転②
しおりを挟む
学園生活はいたって平穏でした。
私は婚約者のリシャール様と更に親密になっていきましたし、ジャネットは最上級生になっていた幼馴染の男子生徒であるパトリックにちょっかいをかけながらも時間を共にしました。
「なんだ、パトリックの好きな人ってジャネット嬢だったのか」
「言い方ぁ! ジャネットは俺の幼馴染で友達だから!」
「彼女に楽させたいからって騎士爵取ろうと頑張ってるんだろう? ジャネット嬢は侯爵令嬢だ。素直にならないとそのうち縁談をまとめられかねないよ」
「うぐっ。も、物事には順序ってもんがあってだな……」
パトリックは平民階級ですがリシャール様とは学友でして、自然と私とジャネットはリシャール様方二人と過ごすことが多くなりました。気兼ねなく喋り合うジャネットとパトリックの関係が少し羨ましく疎ましく思えたものです。
リシャール様とは下校の最中に街によって買い食いしたり、休みの日に近くの湖まで散策に出かけたり、休暇中に別荘に行って乗馬などを体験したりと、とても楽しい思い出を作っていきました。
さて、そんなふうに順調だった私達の学園生活ですが、身近なところで騒動が起こるようになりました。
「リシャール様。あの方々は?」
リシャール様と同学年であらせられる第二王子殿下とご学友何名かが一人の女子生徒と親しくしているのを目撃しました。知り合いどころか友人関係を通り越し、皆様はその女子生徒を愛しているかのように優しく甘く接していました。
良く見たらその殿方の中にはクロヴィス様もいるではありませんか。彼はずっと昔に私やジャネットにしたように会話を弾ませて笑い合います。他の殿方がいなければきっと親しい付き合いをしているようにしか見えません。
「ああ、どうも第二王子殿下方はノエミ嬢に心を奪われてしまったらしいね。最近では人目をはばからずにノエミ嬢に接する始末だ」
「第二王子殿下方には婚約者のご令嬢もいらっしゃるのでは?」
「いるよ。けれど殿下達はあくまで友人として親しくしているだけだ、と主張するばかりなのさ。呆れちゃうよね」
「それではあまりに不誠実ではありませんか」
無論、何人かが王子殿下方を咎めたこともあったそうです。しかし恋に障害はつきもの、とばかりに聞く耳を持たないどころかますます熱を上げる始末。恋に溺れるとはまさに殿下達を指す言葉でして、見ていられませんでした。
私達は当事者でなかったので一歩退いた目線で見ていられましたが、彼らの婚約者だったご令嬢にとってはたまりません。嘆き悲しむ方、呆れて諦める方、ノエミさんに嫉妬する方など、様々な反応を見せていました。
「カミーユ様はあの方の本質を見抜いていらっしゃったんですね……。わたし、なんて人を見る目が無かったのかしら」
ある日、そのうちの一人、伯爵家のご令嬢であるマガリー様から私に声をかけられました。そして胸の内を明かしてくださりました。どうやらクロヴィス様を婚約者としたことへの後悔でいっぱいのようです。
私は浮気を理由に婚約を破棄できないかと尋ねましたが、家同士で決めたことなので簡単には覆せず、当主が前向きで一時の女遊びは目をつむるよう叱られたそうです。嘆かれるマガリー様が他人に思えず、胸が痛みました。
かと言ってもはや他人である私が口出しできることではなくなっています。困り果てた私はマガリー様を連れて先生に相談することにしました。先生の知恵を借りて打開出来ないかと思ったのです。
「先生。どうにかなりませんか?」
「なりますよ」
「そうですよね。やはりどうにも……何ですって?」
「ですから、なりますよ。要するにクロヴィスさんを婿として迎え入れるのにふさわしくないことを証明すればいいんです」
「どうやって?」
「簡単です。ノエミさんと密接な関係になる程度で婚約破棄に不十分であれば、二人にそれ以上に踏み込ませてしまえばいい」
先生曰く、男というのは禁断の恋を妨害されれば逆効果で、もっと燃え上るのだそうです。なので一旦距離をおいて素知らぬ顔をしつつ、クロヴィス様が何かしでかさないかを監視させとけばいい、と。一方でクロヴィス様とノエミさんの関係がより熱くなるよう定期的に薪をくべるべきだとも先生は語りました。
「焚きつける役目は大人の先生が務めるべきでしょう。吉報を待ちなさい」
こう述べた先生が浮かべた笑みは……どことなく恐ろしくてたまりませんでした。
先生の黒い一面を見たように思えてならなかったです。
そうして第二王子殿下を初めとする殿方はノエミさんに夢中になりました。学園外での逢瀬は序の口。休日も婚約者そっちのけでノエミさんに費やしました。そして手を繋ぎ、寄り添い、抱擁を交わし、口付けまで至り、終いにはノエミさんに愛の告白をしたのです。
第二王子殿下が恋に溺れていく過程を私達は冷めた目で見つめていました。中には明らかな失望や軽蔑まで顕にする方もいらっしゃいました。第二王子殿下方は自分達から距離を置く学生に気付かないまま、愚かにも更にノエミさんとの関係を深めていったのです。
「第二王子殿下は現実から目を背けたままの方が幸せかもしれないね。夢から覚めてしまえばもう終わりだもの」
「しかし寝ぼけたままでいてもらっては周りはいい迷惑です。このまま放置していていいのでしょうか?」
「聞く耳を持たない以上、取り返しがつかなくなる前に痛い目を見てもらう。それが教師陣の方針みたいだよ。私らに迷惑がかからないよう距離を取り続ければいいさ」
「大事にならなければいいけれど……」
私の懸念は膨らむばかりでした。
そしてそれはとんでもない騒動となって表に出てしまったのです。
私は婚約者のリシャール様と更に親密になっていきましたし、ジャネットは最上級生になっていた幼馴染の男子生徒であるパトリックにちょっかいをかけながらも時間を共にしました。
「なんだ、パトリックの好きな人ってジャネット嬢だったのか」
「言い方ぁ! ジャネットは俺の幼馴染で友達だから!」
「彼女に楽させたいからって騎士爵取ろうと頑張ってるんだろう? ジャネット嬢は侯爵令嬢だ。素直にならないとそのうち縁談をまとめられかねないよ」
「うぐっ。も、物事には順序ってもんがあってだな……」
パトリックは平民階級ですがリシャール様とは学友でして、自然と私とジャネットはリシャール様方二人と過ごすことが多くなりました。気兼ねなく喋り合うジャネットとパトリックの関係が少し羨ましく疎ましく思えたものです。
リシャール様とは下校の最中に街によって買い食いしたり、休みの日に近くの湖まで散策に出かけたり、休暇中に別荘に行って乗馬などを体験したりと、とても楽しい思い出を作っていきました。
さて、そんなふうに順調だった私達の学園生活ですが、身近なところで騒動が起こるようになりました。
「リシャール様。あの方々は?」
リシャール様と同学年であらせられる第二王子殿下とご学友何名かが一人の女子生徒と親しくしているのを目撃しました。知り合いどころか友人関係を通り越し、皆様はその女子生徒を愛しているかのように優しく甘く接していました。
良く見たらその殿方の中にはクロヴィス様もいるではありませんか。彼はずっと昔に私やジャネットにしたように会話を弾ませて笑い合います。他の殿方がいなければきっと親しい付き合いをしているようにしか見えません。
「ああ、どうも第二王子殿下方はノエミ嬢に心を奪われてしまったらしいね。最近では人目をはばからずにノエミ嬢に接する始末だ」
「第二王子殿下方には婚約者のご令嬢もいらっしゃるのでは?」
「いるよ。けれど殿下達はあくまで友人として親しくしているだけだ、と主張するばかりなのさ。呆れちゃうよね」
「それではあまりに不誠実ではありませんか」
無論、何人かが王子殿下方を咎めたこともあったそうです。しかし恋に障害はつきもの、とばかりに聞く耳を持たないどころかますます熱を上げる始末。恋に溺れるとはまさに殿下達を指す言葉でして、見ていられませんでした。
私達は当事者でなかったので一歩退いた目線で見ていられましたが、彼らの婚約者だったご令嬢にとってはたまりません。嘆き悲しむ方、呆れて諦める方、ノエミさんに嫉妬する方など、様々な反応を見せていました。
「カミーユ様はあの方の本質を見抜いていらっしゃったんですね……。わたし、なんて人を見る目が無かったのかしら」
ある日、そのうちの一人、伯爵家のご令嬢であるマガリー様から私に声をかけられました。そして胸の内を明かしてくださりました。どうやらクロヴィス様を婚約者としたことへの後悔でいっぱいのようです。
私は浮気を理由に婚約を破棄できないかと尋ねましたが、家同士で決めたことなので簡単には覆せず、当主が前向きで一時の女遊びは目をつむるよう叱られたそうです。嘆かれるマガリー様が他人に思えず、胸が痛みました。
かと言ってもはや他人である私が口出しできることではなくなっています。困り果てた私はマガリー様を連れて先生に相談することにしました。先生の知恵を借りて打開出来ないかと思ったのです。
「先生。どうにかなりませんか?」
「なりますよ」
「そうですよね。やはりどうにも……何ですって?」
「ですから、なりますよ。要するにクロヴィスさんを婿として迎え入れるのにふさわしくないことを証明すればいいんです」
「どうやって?」
「簡単です。ノエミさんと密接な関係になる程度で婚約破棄に不十分であれば、二人にそれ以上に踏み込ませてしまえばいい」
先生曰く、男というのは禁断の恋を妨害されれば逆効果で、もっと燃え上るのだそうです。なので一旦距離をおいて素知らぬ顔をしつつ、クロヴィス様が何かしでかさないかを監視させとけばいい、と。一方でクロヴィス様とノエミさんの関係がより熱くなるよう定期的に薪をくべるべきだとも先生は語りました。
「焚きつける役目は大人の先生が務めるべきでしょう。吉報を待ちなさい」
こう述べた先生が浮かべた笑みは……どことなく恐ろしくてたまりませんでした。
先生の黒い一面を見たように思えてならなかったです。
そうして第二王子殿下を初めとする殿方はノエミさんに夢中になりました。学園外での逢瀬は序の口。休日も婚約者そっちのけでノエミさんに費やしました。そして手を繋ぎ、寄り添い、抱擁を交わし、口付けまで至り、終いにはノエミさんに愛の告白をしたのです。
第二王子殿下が恋に溺れていく過程を私達は冷めた目で見つめていました。中には明らかな失望や軽蔑まで顕にする方もいらっしゃいました。第二王子殿下方は自分達から距離を置く学生に気付かないまま、愚かにも更にノエミさんとの関係を深めていったのです。
「第二王子殿下は現実から目を背けたままの方が幸せかもしれないね。夢から覚めてしまえばもう終わりだもの」
「しかし寝ぼけたままでいてもらっては周りはいい迷惑です。このまま放置していていいのでしょうか?」
「聞く耳を持たない以上、取り返しがつかなくなる前に痛い目を見てもらう。それが教師陣の方針みたいだよ。私らに迷惑がかからないよう距離を取り続ければいいさ」
「大事にならなければいいけれど……」
私の懸念は膨らむばかりでした。
そしてそれはとんでもない騒動となって表に出てしまったのです。
33
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。
星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」
涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。
だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。
それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。
「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。
必死に耐え続けて、2年。
魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。
「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」
涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た
しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。
学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。
彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。
そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。
「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ
間瀬
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。
どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。
わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。
美辞麗句を並べ立てて。
もしや、卵の黄身のことでして?
そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。
わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。
それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。
そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。
※この作品はフィクションです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる