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第2-1章 紅玉宮妃→????(新版)
「美しいのは罪なのですね」
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諸侯王の挨拶自体は所謂政治の世界なのでわたしには関係ない……いや、ちょっとあるか。暁明様が無事に職務を全うしますように、と天に祈るぐらいはしたっけ。まあ、いつもそんな心配は杞憂に終わっていたけれど。
問題は西伯候を歓迎する催しでの一幕だった。
西伯候に連れられて現れた娘を目の当たりにした武官、文官、警備兵を始め、わたし達皇子妃や皇子本人、そして皇帝すら彼女に目を奪われた。
絶世の美少女の到来だった。
彼女は本当にわたしと同じ人間なのか疑いたくなってくるぐらい現実離れした美しさを持っていた。艷やかな髪も、潤った唇も、きめ細やかな肌も、まだ硬さの残る体付きも、あどけない顔立ちも。何もかもが魅力的で目を奪われた。
これでは男が時として女にうつつを抜かして腑抜けるのも無理はない。きっと彼女のような美少女以外はどうでも良くなってしまうんでしょうね。同性のわたしすら心がぐらつくぐらいだ、男性への破壊力は相当なものだったと推察出来る。
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
そして彼女の口から紡がれた透き通った声もまた心地良い。さながら天の調、と言ったところか。
不思議なことに彼女の登場で騒然となった会場の中でもなおはっきりと聞き取れた。
呆けていた皇帝をいち早く我に返った皇后が呼びかけるものの反応無し。たまらず皇后がそばに寄って軽く肘で腹を小突いてようやく正気に戻ったようだ。
皇帝は失態をごまかすように軽く咳払いし、長旅を経てやってきた美少女をねぎらった。動揺が全く隠せていなかった。
「……完全にこの場を支配してますね」
「困ったわね。アレではどんな催しを披露しても霞んでしまうわ」
で、圧倒された先に待ち構えていたのは不安だった。このまま歓迎の席が台無しになるのでは、と運営側の悩みが持ち上がったせいだ。
どうやら皇太子妃を初めとして他の妃方も同じような考えに至ったらしく、顔色が悪かった。
ただこのまま立ち尽くしていたって何も始まらない。とにかくわたし達は自分の仕事を全うするために準備に取り掛かった。ここでも発破をかけたのは皇太子妃。さすがだと尊敬した。
が、事態は思わぬ方向に転がっていくことになった。
「皇太后様のおなーりー」
そんな声と共に騒がしかった会場内が途端に静まり返った。考え方次第では皇帝をも上回る存在である皇太后の登場のためだ。
「……わたし、皇太后様を見るのは初めてです」
「そう言えばそうよね。ここ数年はあまり公の場に姿をお出しになられなかったから」
「じゃあどうしてこの席に? 言っては失礼ですけれど、出迎える相手は他国の王でもなく一介の諸侯王ですよね」
「分からないわ。ただ何かを気になさっているのだけは確かね」
静かに来場したのは白髪が目立つ女性だった。失礼だけど老婆って言い方が当てはまる。ただ昔は美人だったんだろうなあと思わせる羨ましい老い方をしており、わたしも年を取ったらこうなりたいものだ、と望んだ。
そんな皇太后は妙に落ち着かない会場内を不思議に思ったのか、ゆっくりと見渡した。そしてそんな空気になった元凶である美少女に目が止まると――、
「ま、まさか……そんな!」
目を見開き、歯を鳴らし、その場で尻餅をついた。
その驚きようと言ったら筆舌に尽くしがたい。
皇太后を支配していたのは恐怖、そして絶望。もはや顔は青を通り越して真っ白。何か呟いているようだけれどただ声が絞り出ているだけのように見えた。
異変が起こった皇太后にすぐさまお付きの侍女達が駆け寄るも、皇太后は次には呼吸を乱し、胸元を強く抑え込み、口から唾の泡を出し、最後には白目をむいてその場に倒れ込んだのだった。
「なんて、ことなの……!」
かろうじて聞き取れた皇太子妃の嘆きがその場の全てを物語っていた。
結局西伯候を歓迎する宴は中止となった。
皇太后が帰らぬ人になったからだ。
■■■
皇太后の葬儀は国をあげて行われた。
皇太后の世話になったらしい皇太子妃方は嘆き悲しんでいたけれど、わたしからすれば一度も会ったことも無い皇太后の死に関してはただの事実として受け止めただけだ。葬儀の間すら早く終わらないかと思っていたぐらいだった。
皇太后の死因は何らかの原因で発作が起こった為だと診断された。公では持病の悪化とされ、宴の参加者には戒厳令が敷かれた。いくら何でも小娘一人に驚いて死にました、だと体裁が悪いと判断されたんでしょう。
問題だったのは直接的な原因となった美少女の処遇についてだった。
すぐに話し合いの場が開かれたものの、彼女自身は罪を犯していないけれど存在自体が罪だ、と主張する者もいれば、あくまでも不幸が重なった事故だと言い張る者もいて、全く収集がつかなかったらしい。
「で、どのように判断されたんですか?」
「罪に問えずにお咎めなし、だってさ」
「んー。そこはまあ仕方がないですね。美しいのは罪だ、だなんてたまりませんし」
「……けれど話は妙な方向に進んでね」
だからといってそのまま美少女を帰すわけにはいかなかった、とされた。彼女の美しさはもはや傾国と呼ぶべきで、混乱をきたしかねないから。
やっとの思いで判決が下ったのに次には危険だから幽閉すべきだ、とか、異国の王にくれてやれ、などの声があがってまたしても激しい討論が繰り広げられたそうだ。
「国が乱されるって発言した文官はまだ彼女に惑わされずに踏み止まってた。問題なのは、あの一瞬で彼女に心奪われた人が少なからずいた事だよ」
「恐ろしいですね。その方々は一体どのような意見を?」
「責任を持って自分の妻として迎え入れたい、だってさ」
「うわぁ。まさか独身か妻帯者か問わずに、ですか?」
「それだけなら馬鹿げているって一蹴すれば済むんだけど……」
なんと皇太子と第三皇子が美少女を妃にしたい、と言い出したらしい。
そう、あの短時間で既に取り返しのつかない事態にまで陥っていたのよ。
他ならぬ一人の美少女の存在によってね。
「金剛兄は一目惚れしたみたいだったけど、保護しなければって使命感が優先してた感じ。翠玉兄はあの様子からだと最大限利用しようと目論んでるみたいだね」
「それじゃあ会議の場は混乱したのではありませんか?」
「金剛兄が妃にしたら皇帝になった後で西伯候一族を贔屓するに決まってるって翠玉兄は大反対。まだ若輩者な翠玉兄では群がる男から彼女を守れないって金剛兄は反論。もう勘弁してくれって言いたいのをずっと我慢してたよ」
「何と言いますか……本当にお疲れさまでした」
美少女が魅力的だとの感想は全会一致だったけれど、その処遇については真っ二つだったそうだ。一時の感情に支配されたか理性が抑え込んだかの違いだったんでしょう。ただ、まさか皇子達が現を抜かす事態になるなんて、まさに異常そのもの。
それにしても……皇太子も第三皇子も妻帯者なのに。特に皇太子なんてあんなに素晴らしい皇太子妃を伴侶に迎えながら他の女に目移りするなんて、罰当たりも良いところよね。今頃喧嘩になっていなければいいのだけれど、と危惧したものだ。
「結局金剛兄と翠玉兄の醜い言い争いに青玉兄の堪忍袋の緒が切れて、議場は大混乱。一旦お開きで明日に持ち越しさ」
「そんな厄介な軋轢を生みかねない場合は皇帝陛下が沙汰を下すものでは?」
「まずは頭を冷やすべきだからまだそれには及ばない、が陛下のお考えらしいよ」
「悠長な……。このまま国が真っ二つに割れなければいいんですが」
冷静になれば少しは建設的な議論も行えるだろう、との想定はいささか甘い気がした。美少女はそんな一晩で正気に戻れるような輝きじゃあなかった。何日も……いえ、下手をしたら幾つも季節を巡らないと目が眩みっぱなしになる。それぐらい衝撃だった。
それで、と暁明様は重く口を開かれた。わたしに視線を向けながらも言いよどんだあたり、よほどわたしにとっては良くない事は言いたくなかったらしい。
わたしはお構いなくと微笑みかけて彼を安心させた。
「それでさ……陛下はもう男連中だけでは決められないからって、明日は女性を参加させるって言い出したんだよ」
「は? 女性、ですか?」
「皇子妃もその対象。つまり……本当にごめんなさい。僕の妃……雪慧にもその会議に参加してほしいんだ」
そんな命を下した皇帝の正気を疑ったものの、我儘を言えばわたし単独の処罰のみならず、暁明様も罰せられるのは明白。ここは従う他無いと覚悟を決めたのだけれど、皇帝の命で出向きたくなかったわたしは、
「わたしの殿下、暁明様のためならば喜んで」
愛する人のために、自分の意志で参加すると表明した。
問題は西伯候を歓迎する催しでの一幕だった。
西伯候に連れられて現れた娘を目の当たりにした武官、文官、警備兵を始め、わたし達皇子妃や皇子本人、そして皇帝すら彼女に目を奪われた。
絶世の美少女の到来だった。
彼女は本当にわたしと同じ人間なのか疑いたくなってくるぐらい現実離れした美しさを持っていた。艷やかな髪も、潤った唇も、きめ細やかな肌も、まだ硬さの残る体付きも、あどけない顔立ちも。何もかもが魅力的で目を奪われた。
これでは男が時として女にうつつを抜かして腑抜けるのも無理はない。きっと彼女のような美少女以外はどうでも良くなってしまうんでしょうね。同性のわたしすら心がぐらつくぐらいだ、男性への破壊力は相当なものだったと推察出来る。
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
そして彼女の口から紡がれた透き通った声もまた心地良い。さながら天の調、と言ったところか。
不思議なことに彼女の登場で騒然となった会場の中でもなおはっきりと聞き取れた。
呆けていた皇帝をいち早く我に返った皇后が呼びかけるものの反応無し。たまらず皇后がそばに寄って軽く肘で腹を小突いてようやく正気に戻ったようだ。
皇帝は失態をごまかすように軽く咳払いし、長旅を経てやってきた美少女をねぎらった。動揺が全く隠せていなかった。
「……完全にこの場を支配してますね」
「困ったわね。アレではどんな催しを披露しても霞んでしまうわ」
で、圧倒された先に待ち構えていたのは不安だった。このまま歓迎の席が台無しになるのでは、と運営側の悩みが持ち上がったせいだ。
どうやら皇太子妃を初めとして他の妃方も同じような考えに至ったらしく、顔色が悪かった。
ただこのまま立ち尽くしていたって何も始まらない。とにかくわたし達は自分の仕事を全うするために準備に取り掛かった。ここでも発破をかけたのは皇太子妃。さすがだと尊敬した。
が、事態は思わぬ方向に転がっていくことになった。
「皇太后様のおなーりー」
そんな声と共に騒がしかった会場内が途端に静まり返った。考え方次第では皇帝をも上回る存在である皇太后の登場のためだ。
「……わたし、皇太后様を見るのは初めてです」
「そう言えばそうよね。ここ数年はあまり公の場に姿をお出しになられなかったから」
「じゃあどうしてこの席に? 言っては失礼ですけれど、出迎える相手は他国の王でもなく一介の諸侯王ですよね」
「分からないわ。ただ何かを気になさっているのだけは確かね」
静かに来場したのは白髪が目立つ女性だった。失礼だけど老婆って言い方が当てはまる。ただ昔は美人だったんだろうなあと思わせる羨ましい老い方をしており、わたしも年を取ったらこうなりたいものだ、と望んだ。
そんな皇太后は妙に落ち着かない会場内を不思議に思ったのか、ゆっくりと見渡した。そしてそんな空気になった元凶である美少女に目が止まると――、
「ま、まさか……そんな!」
目を見開き、歯を鳴らし、その場で尻餅をついた。
その驚きようと言ったら筆舌に尽くしがたい。
皇太后を支配していたのは恐怖、そして絶望。もはや顔は青を通り越して真っ白。何か呟いているようだけれどただ声が絞り出ているだけのように見えた。
異変が起こった皇太后にすぐさまお付きの侍女達が駆け寄るも、皇太后は次には呼吸を乱し、胸元を強く抑え込み、口から唾の泡を出し、最後には白目をむいてその場に倒れ込んだのだった。
「なんて、ことなの……!」
かろうじて聞き取れた皇太子妃の嘆きがその場の全てを物語っていた。
結局西伯候を歓迎する宴は中止となった。
皇太后が帰らぬ人になったからだ。
■■■
皇太后の葬儀は国をあげて行われた。
皇太后の世話になったらしい皇太子妃方は嘆き悲しんでいたけれど、わたしからすれば一度も会ったことも無い皇太后の死に関してはただの事実として受け止めただけだ。葬儀の間すら早く終わらないかと思っていたぐらいだった。
皇太后の死因は何らかの原因で発作が起こった為だと診断された。公では持病の悪化とされ、宴の参加者には戒厳令が敷かれた。いくら何でも小娘一人に驚いて死にました、だと体裁が悪いと判断されたんでしょう。
問題だったのは直接的な原因となった美少女の処遇についてだった。
すぐに話し合いの場が開かれたものの、彼女自身は罪を犯していないけれど存在自体が罪だ、と主張する者もいれば、あくまでも不幸が重なった事故だと言い張る者もいて、全く収集がつかなかったらしい。
「で、どのように判断されたんですか?」
「罪に問えずにお咎めなし、だってさ」
「んー。そこはまあ仕方がないですね。美しいのは罪だ、だなんてたまりませんし」
「……けれど話は妙な方向に進んでね」
だからといってそのまま美少女を帰すわけにはいかなかった、とされた。彼女の美しさはもはや傾国と呼ぶべきで、混乱をきたしかねないから。
やっとの思いで判決が下ったのに次には危険だから幽閉すべきだ、とか、異国の王にくれてやれ、などの声があがってまたしても激しい討論が繰り広げられたそうだ。
「国が乱されるって発言した文官はまだ彼女に惑わされずに踏み止まってた。問題なのは、あの一瞬で彼女に心奪われた人が少なからずいた事だよ」
「恐ろしいですね。その方々は一体どのような意見を?」
「責任を持って自分の妻として迎え入れたい、だってさ」
「うわぁ。まさか独身か妻帯者か問わずに、ですか?」
「それだけなら馬鹿げているって一蹴すれば済むんだけど……」
なんと皇太子と第三皇子が美少女を妃にしたい、と言い出したらしい。
そう、あの短時間で既に取り返しのつかない事態にまで陥っていたのよ。
他ならぬ一人の美少女の存在によってね。
「金剛兄は一目惚れしたみたいだったけど、保護しなければって使命感が優先してた感じ。翠玉兄はあの様子からだと最大限利用しようと目論んでるみたいだね」
「それじゃあ会議の場は混乱したのではありませんか?」
「金剛兄が妃にしたら皇帝になった後で西伯候一族を贔屓するに決まってるって翠玉兄は大反対。まだ若輩者な翠玉兄では群がる男から彼女を守れないって金剛兄は反論。もう勘弁してくれって言いたいのをずっと我慢してたよ」
「何と言いますか……本当にお疲れさまでした」
美少女が魅力的だとの感想は全会一致だったけれど、その処遇については真っ二つだったそうだ。一時の感情に支配されたか理性が抑え込んだかの違いだったんでしょう。ただ、まさか皇子達が現を抜かす事態になるなんて、まさに異常そのもの。
それにしても……皇太子も第三皇子も妻帯者なのに。特に皇太子なんてあんなに素晴らしい皇太子妃を伴侶に迎えながら他の女に目移りするなんて、罰当たりも良いところよね。今頃喧嘩になっていなければいいのだけれど、と危惧したものだ。
「結局金剛兄と翠玉兄の醜い言い争いに青玉兄の堪忍袋の緒が切れて、議場は大混乱。一旦お開きで明日に持ち越しさ」
「そんな厄介な軋轢を生みかねない場合は皇帝陛下が沙汰を下すものでは?」
「まずは頭を冷やすべきだからまだそれには及ばない、が陛下のお考えらしいよ」
「悠長な……。このまま国が真っ二つに割れなければいいんですが」
冷静になれば少しは建設的な議論も行えるだろう、との想定はいささか甘い気がした。美少女はそんな一晩で正気に戻れるような輝きじゃあなかった。何日も……いえ、下手をしたら幾つも季節を巡らないと目が眩みっぱなしになる。それぐらい衝撃だった。
それで、と暁明様は重く口を開かれた。わたしに視線を向けながらも言いよどんだあたり、よほどわたしにとっては良くない事は言いたくなかったらしい。
わたしはお構いなくと微笑みかけて彼を安心させた。
「それでさ……陛下はもう男連中だけでは決められないからって、明日は女性を参加させるって言い出したんだよ」
「は? 女性、ですか?」
「皇子妃もその対象。つまり……本当にごめんなさい。僕の妃……雪慧にもその会議に参加してほしいんだ」
そんな命を下した皇帝の正気を疑ったものの、我儘を言えばわたし単独の処罰のみならず、暁明様も罰せられるのは明白。ここは従う他無いと覚悟を決めたのだけれど、皇帝の命で出向きたくなかったわたしは、
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