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自分が赤ん坊だと気付く元悪役令嬢
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随分と久しぶりになる日差しが差し込む明るい世界はとても感動的だったけれど、それより困惑の方が大きかった。やっとの思いで周囲を見渡すと、私は柵に囲まれた寝具で横になっていたようだ。
何とか起き上がろうとしてやっと違和感に気付く。思うように体が動かせない。いえ、正確には本当にただ動かしているだけで力が全く出ないのだ。
その違和感は自分の手を見て確信に変わった。
(な……何よこのちっちゃな手はー!?)
小さくて柔らかい手は明らかに私のものではなかった。
いえ、手だけじゃない。腕も炊き立てのパンみたいにもちもち。自分の身体を見ようと首を動かしたくても起き上がせない。動かした感覚からすると貴族の娘だった頃よりはるかに縮んだみたいだった。
落ち着いて状況を分析したくても不安ばかりが増していく。寂しさが増していって全然考えこめなくて、終いには泣き出してしまった。泣きわめく自分の声は年不相応どころの話じゃなくて完全に幼子のもので、更に恐怖に拍車がかかった。
「おーよちよち、どうしたの?」
そんな泣くしかなかった私の身体は不意に宙に浮いた。持ち上げられたと気付いた時には優しく微笑む大人の女性の顔が大きく視界に映る。どれだけでかいんだと驚いたけれど、次の女性の一言が現状の全てを物語っていた。
「可愛い私の娘イサベル。今日も元気いっぱいでちゅね~」
(イサベル? 私がイサベルですって?)
この時は全く状況を理解出来なかった。熟考出来る集中力もなくなっていてただ感情の向くままに行動するしかなくて。何かを訴えたくても言葉に出来ないし文字も書けないし。すぐに喜んだり泣いちゃったりしたし。
泣き癖が落ち着くまで成長した私はようやく自分の身に何が起こったかを把握出来た。
なんと、私はあろうことかあのイサベルに生まれ変わってしまったらしいのだ。
いえ、イサベルなんてありふれた名前だから赤の他人かもしれない。あくまでこれは今が何年何月でここがどこか、そして環境がどんなものか、かも分からない今、あくまで私の想像に過ぎない。
イサベルの境遇については友人から聞いた覚えがある。確かあの娘は元は平民で、母親が男爵家で使用人として働いている際に当主のお手付きになったために生を受けたんだとか。当然男爵は認知せずに母親を追放、彼女が一人で育てることとなった。
(じゃあ私を抱く女の人はイサベル……今の私のお母さんなの? そう言えばどことなくイサベルに似ている気がするわね)
ところがしばらくして年頃の女の子にまで成長した頃、男爵家の者がイサベルを迎えに来た。男爵は男爵夫人との間に子が生まれなかったため、やむなく愛人の子を男爵家の正統な娘として認知したんだったか。
平民同然の癖にとレオノールはイサベルを散々嘲笑っていたけれど、当然だ。彼女が貴族令嬢として教育を受けたのはほんの数年程度。所詮は付け焼刃に過ぎない。一つ一つの挙動に平民として育てられた野暮ったさが現れていたのだから。
(……いえ、あの娘の境遇なんてどうでもいいわね。肝心なのはこんな状況になった今の私がこれからどうするべきか、だもの)
私はレオノールなんだって主張する?
そんなのは愚かの極みだ。
何故ならこの時代には今の私とは別のレオノールが生を受けている、と思われる。本人が戯言と受け取るならまだ良い方だ。頭がおかしいと哀れまれたり、最悪公爵家に対する無礼だとか不敬の類として罪に問われるかもしれない。
(極力私がレオノールだったってことは黙っておくべきね)
かと言ってイサベルのようにジョアン様を誘惑する?
そんなのこの私自身の誇りにかけて許せない。
男爵から認知されない私がこれからどんな境遇で育てられるのかは想像に難くない。成り上がろうとする欲から男性に取り入ろうとするのは一つの手段だろう。けれど私の安泰のためにレオノールを破滅させるなんて冗談じゃない。
なら、私は何も欲張らずにささやかな幸せを求めて平穏に過ごすようにしよう。
なんて感じにまだ赤子でしかない私は決意を抱いたのだった。
――この時の私はまだ分かっていなかった。
イサベルが口にしたヒロイン、そして悪役令嬢の意味を。
結局私が望まなくても彼女等と関わる破目になるのだ、と。
何とか起き上がろうとしてやっと違和感に気付く。思うように体が動かせない。いえ、正確には本当にただ動かしているだけで力が全く出ないのだ。
その違和感は自分の手を見て確信に変わった。
(な……何よこのちっちゃな手はー!?)
小さくて柔らかい手は明らかに私のものではなかった。
いえ、手だけじゃない。腕も炊き立てのパンみたいにもちもち。自分の身体を見ようと首を動かしたくても起き上がせない。動かした感覚からすると貴族の娘だった頃よりはるかに縮んだみたいだった。
落ち着いて状況を分析したくても不安ばかりが増していく。寂しさが増していって全然考えこめなくて、終いには泣き出してしまった。泣きわめく自分の声は年不相応どころの話じゃなくて完全に幼子のもので、更に恐怖に拍車がかかった。
「おーよちよち、どうしたの?」
そんな泣くしかなかった私の身体は不意に宙に浮いた。持ち上げられたと気付いた時には優しく微笑む大人の女性の顔が大きく視界に映る。どれだけでかいんだと驚いたけれど、次の女性の一言が現状の全てを物語っていた。
「可愛い私の娘イサベル。今日も元気いっぱいでちゅね~」
(イサベル? 私がイサベルですって?)
この時は全く状況を理解出来なかった。熟考出来る集中力もなくなっていてただ感情の向くままに行動するしかなくて。何かを訴えたくても言葉に出来ないし文字も書けないし。すぐに喜んだり泣いちゃったりしたし。
泣き癖が落ち着くまで成長した私はようやく自分の身に何が起こったかを把握出来た。
なんと、私はあろうことかあのイサベルに生まれ変わってしまったらしいのだ。
いえ、イサベルなんてありふれた名前だから赤の他人かもしれない。あくまでこれは今が何年何月でここがどこか、そして環境がどんなものか、かも分からない今、あくまで私の想像に過ぎない。
イサベルの境遇については友人から聞いた覚えがある。確かあの娘は元は平民で、母親が男爵家で使用人として働いている際に当主のお手付きになったために生を受けたんだとか。当然男爵は認知せずに母親を追放、彼女が一人で育てることとなった。
(じゃあ私を抱く女の人はイサベル……今の私のお母さんなの? そう言えばどことなくイサベルに似ている気がするわね)
ところがしばらくして年頃の女の子にまで成長した頃、男爵家の者がイサベルを迎えに来た。男爵は男爵夫人との間に子が生まれなかったため、やむなく愛人の子を男爵家の正統な娘として認知したんだったか。
平民同然の癖にとレオノールはイサベルを散々嘲笑っていたけれど、当然だ。彼女が貴族令嬢として教育を受けたのはほんの数年程度。所詮は付け焼刃に過ぎない。一つ一つの挙動に平民として育てられた野暮ったさが現れていたのだから。
(……いえ、あの娘の境遇なんてどうでもいいわね。肝心なのはこんな状況になった今の私がこれからどうするべきか、だもの)
私はレオノールなんだって主張する?
そんなのは愚かの極みだ。
何故ならこの時代には今の私とは別のレオノールが生を受けている、と思われる。本人が戯言と受け取るならまだ良い方だ。頭がおかしいと哀れまれたり、最悪公爵家に対する無礼だとか不敬の類として罪に問われるかもしれない。
(極力私がレオノールだったってことは黙っておくべきね)
かと言ってイサベルのようにジョアン様を誘惑する?
そんなのこの私自身の誇りにかけて許せない。
男爵から認知されない私がこれからどんな境遇で育てられるのかは想像に難くない。成り上がろうとする欲から男性に取り入ろうとするのは一つの手段だろう。けれど私の安泰のためにレオノールを破滅させるなんて冗談じゃない。
なら、私は何も欲張らずにささやかな幸せを求めて平穏に過ごすようにしよう。
なんて感じにまだ赤子でしかない私は決意を抱いたのだった。
――この時の私はまだ分かっていなかった。
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結局私が望まなくても彼女等と関わる破目になるのだ、と。
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