元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる

福留しゅん

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ヒロインに姉がいたと知る元悪役令嬢

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 一方、働く私とお母さんに代わって家事一般を任されていたのはカレンだった。
 そんなカレンもお母さんが体調を崩しがちになると働きだした。主に夜の時間帯に山場を迎える接客業をやっているらしく、稼ぎは正直私よりも良かった。

 ……いえ、ぼかすのは止めましょう。
 私が一日の仕事を終えて帰宅している途中、夜の繁華街で着飾ったカレンが男性の腕に寄り添っているのを見つけてしまった。知識としては知っていたけれど、実際に身内がそのような職種に従事していることは衝撃を受けた。

「あたしって甘え上手だから客引きに向いてるんですって」
「カレン、あぶないよ。お母さんもやめてほしいって言ってるじゃない」
「大丈夫よ。どの男の人が声をかけちゃダメかぐらい見きわめられるからさ」
「でも……」
「それにあぶないから多くお金をもらえるんじゃん。イサベルはお母さんを楽にしたくないの?」

 何度か言い争ったけれどお母さんのことを持ち出されると私は何も反論出来ず、カレンのしたい放題にさせるしかなかった。お母さんも私が割り切ったのを感じ取ったのか、カレンには気を付けなさいと言うに留まった。

 そんなカレンは確かに自信満々に言うだけあって上手く立ち回っているようだった。幼いながらも露出が激しい服に袖を通して化粧した彼女からは少女が背伸びした何とも言えない色気が感じられ、男性の気を上手く惹きつけた。

 お金のためだと割り切っているのか夜の街を甘く見ているのかは分からない。
 けれど私は、稼ぐカレンには本当に申し訳ないのだけれど、嫌悪感を感じていた。
 男性に甘く囁き媚を売るカレンの姿がイサベルを連想させ、吐き気がしたからだ。

「女であることを武器にするのは悪いことじゃないわ。男性の庇護欲をそそり、自分のものにしたいと思わせれば勝ちだもの」

 そんなどうしようもない負の感情を抱いていたことはあっさりとカルロッタにばれた。心境を打ち明けると意外にも彼女はカレンに理解を示したのだった。

「納得できないみたいね。じゃあ女性が成功するって何かしら?」
「えっと、いい家にとついでいいおよめさんになることですか?」
「そうね。まだ女性の働き先はあまり多くないから。じゃあどうやったらいい家に嫁げるのかしら?」
「それは――」

 そこまで言われて私は初めて気が付いた。

 公爵令嬢だったレオノールであれば引く手数多だ。仮にジョアン様を始めとする王家の方に見初められずとも、公爵家と交流の深い他家に嫁げばいい。お父様……いえ、公爵閣下が家の更なる繁栄と安泰に繋がる交際相手を見つけてくるだろうし。

 田舎の村や人口の少ない町では誰それの娘があの家の息子と一緒になる、みたいに初めから許婚が決まっている場合が多いと聞いたことがある。恋愛より町村の存続を優先させる傾向にあるようだ。

 なら、イサベルの場合はどうだっただろうか?

 男爵令嬢の、それも正妻どころか妾の子ですらない彼女が婚姻を結べる相手などたかがしれている。家が当てにならないならない以上は自分自身の能力に頼るしかないが……礼儀作法や教養で争ってもレオノールに勝てるわけがない。

 貴族の娘として恥じるべき無節操な振る舞いも、殿方への媚も、自分が上位者と結ばれるための技術だとしたら。品が無いと罵られようが貴族に相応しくないと言われようが、人生で成功するためなら過程を選んでなどいられまい。

 レオノールは公爵令嬢たる自分にこだわったからこそ、なりふり構わなかったイサベルに負けたのだ。

「りかいしましたけど、わたしにはそんな生き方はできません」
「イサベルはそれでいいと思うわよ。ただ、そんな生き方をする女性も少なくないとだけ覚えておけばね」

 じゃあカレンはどうなんだろう?

 本当に金を稼ぐ手段として男性に擦り寄るだけなんだろうか? それとも自分が成り上がるために利用する者を探しているんだろうか? またはいずれやんごとなき身分の方に見初められるよう己を磨いている最中?

 結局私はカレンがどんなつもりなのか理解するのを諦め、自分の仕事に専念することにした。カレンが言うように家計を考えれば私の考えなんて取るに足らない。それに家族、姉妹だからって私は私でカレンはカレン。彼女の道は彼女が好きに選択すればいい。

 ……そう思っていた私は実に浅はかだった。
 現実を突き付けられることになったのはカレンが家を離れた時だった。

 ――カレンがイサベルとして男爵家の娘となった際に。
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