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母親を亡くした元悪役令嬢
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「……」
重いまぶたを開けて私の瞳に映ったのは見知らぬ天井……ではなく寝具の天蓋だった。掛け布団や敷布団は身体を包み込むようにふかふかで、枕は頭が沈み込みそうだ。触り心地も優しく落ち着く。こんなにも贅沢な寝具で眠ったのはレオノールだった頃以来か。
寝起きであまり上手く考えられないまま身体を起こし、室内を見渡す。間取りや家具、調度品、絨毯や壁紙等からも明らかにやんごとなき方の屋敷にいると推察出来た。今の私では一生働いてもこの寝具一式すら揃えられないだろう。
身を起こして……脚に力が入らず身体がふらつく。壁に手を付きながらやっとの思いで窓までたどり着いた。太陽の光が差し込んでいてとても眩しい。手で遮りながら眼下に広がる景色を目の当たりにして、言葉を失った。
「王、宮……?」
そこはイサベルとしては初めて目にし、レオノールとしては我が家も同然である王宮の庭園だった。噴水、花壇、迷路、お茶会を楽しむ席など、幼少の頃に駆けずり回った記憶が呼び起こされる。
「やっと目覚めたか」
しばらく見惚れていると背後から声をかけられた。振り向くと普段着、しかし平民からすれば目が眩むほど豪奢な作りの衣服に身を包んだジョアン様が部屋の入口近くで扉に寄りかかっていた。
「一昨日から丸一日寝ていたから腹が空いてるだろう。すぐに食事を持って来させる。それから喪服は汚れていたから勝手に洗ったぞ。そこの衣装棚の中だがそのまま持って帰った方がいいな。代わりの服はこっちで勝手に用意した。どうせ古着だから金は要らんぞ」
「あ……あの、ここは……?」
「俺の屋敷だ。カレン、おまえ昨日の夜遅くに気を失ったから俺がわざわざここに運んできたんだぞ」
「……わたしなんかを?」
信じられない。王太子の身分であるジョアン様が一介の市民に過ぎない私を案じて一晩泊めただなんて。彼なら気絶した小娘なんて使用人や役人に任せるなり、最悪放置したって何の問題も無いのに。
にしてもどうして私はこんなところにいるんだろうか? 昨日……いえ、ジョアン様の言葉通りなら一昨日私は先生の埋葬を見届けてから遺品を家まで持ち帰ろうとして、ジョアン様に手伝っていただき、それから――。
「――ぁ」
それから、家は、お母さんは――!
私は残酷な現実を思い出し、頭が真っ白になり、がくがく震える身体を自分で抱き締めて、とめどなく涙が溢れ出て、喉から絞るように叫びが――。
「我慢するな。思いっきり泣けばいい」
ふと、私の頭に大きな手が触れた。いつの間にかジョアン様が私をあやすように抱いていたのだ。既に彼の背は大人の男性と同じぐらいにまで伸びていたから、私の顔が丁度彼の胸部辺りに来る。
父親を知らない私が初めて触れる殿方の身体は……大きく、頼もしかった。
「あー。俺も祖母が亡くなった時こんな風に母親からされてな。結構落ち着くんだ」
「ジョアン様ぁ……! お母さんが、お母さんが……!」
私は泣いた。多分レオノールだった頃を含めてもこれほど泣いたことはなかっただろう。悲しかったから、寂しかったから。父親から捨てられ姉は出ていき、恩師と母は先に旅立った。知人は少なからずいても心を打ち明ける相手はもう誰もいない。
私は……一人ぼっちになった。
重いまぶたを開けて私の瞳に映ったのは見知らぬ天井……ではなく寝具の天蓋だった。掛け布団や敷布団は身体を包み込むようにふかふかで、枕は頭が沈み込みそうだ。触り心地も優しく落ち着く。こんなにも贅沢な寝具で眠ったのはレオノールだった頃以来か。
寝起きであまり上手く考えられないまま身体を起こし、室内を見渡す。間取りや家具、調度品、絨毯や壁紙等からも明らかにやんごとなき方の屋敷にいると推察出来た。今の私では一生働いてもこの寝具一式すら揃えられないだろう。
身を起こして……脚に力が入らず身体がふらつく。壁に手を付きながらやっとの思いで窓までたどり着いた。太陽の光が差し込んでいてとても眩しい。手で遮りながら眼下に広がる景色を目の当たりにして、言葉を失った。
「王、宮……?」
そこはイサベルとしては初めて目にし、レオノールとしては我が家も同然である王宮の庭園だった。噴水、花壇、迷路、お茶会を楽しむ席など、幼少の頃に駆けずり回った記憶が呼び起こされる。
「やっと目覚めたか」
しばらく見惚れていると背後から声をかけられた。振り向くと普段着、しかし平民からすれば目が眩むほど豪奢な作りの衣服に身を包んだジョアン様が部屋の入口近くで扉に寄りかかっていた。
「一昨日から丸一日寝ていたから腹が空いてるだろう。すぐに食事を持って来させる。それから喪服は汚れていたから勝手に洗ったぞ。そこの衣装棚の中だがそのまま持って帰った方がいいな。代わりの服はこっちで勝手に用意した。どうせ古着だから金は要らんぞ」
「あ……あの、ここは……?」
「俺の屋敷だ。カレン、おまえ昨日の夜遅くに気を失ったから俺がわざわざここに運んできたんだぞ」
「……わたしなんかを?」
信じられない。王太子の身分であるジョアン様が一介の市民に過ぎない私を案じて一晩泊めただなんて。彼なら気絶した小娘なんて使用人や役人に任せるなり、最悪放置したって何の問題も無いのに。
にしてもどうして私はこんなところにいるんだろうか? 昨日……いえ、ジョアン様の言葉通りなら一昨日私は先生の埋葬を見届けてから遺品を家まで持ち帰ろうとして、ジョアン様に手伝っていただき、それから――。
「――ぁ」
それから、家は、お母さんは――!
私は残酷な現実を思い出し、頭が真っ白になり、がくがく震える身体を自分で抱き締めて、とめどなく涙が溢れ出て、喉から絞るように叫びが――。
「我慢するな。思いっきり泣けばいい」
ふと、私の頭に大きな手が触れた。いつの間にかジョアン様が私をあやすように抱いていたのだ。既に彼の背は大人の男性と同じぐらいにまで伸びていたから、私の顔が丁度彼の胸部辺りに来る。
父親を知らない私が初めて触れる殿方の身体は……大きく、頼もしかった。
「あー。俺も祖母が亡くなった時こんな風に母親からされてな。結構落ち着くんだ」
「ジョアン様ぁ……! お母さんが、お母さんが……!」
私は泣いた。多分レオノールだった頃を含めてもこれほど泣いたことはなかっただろう。悲しかったから、寂しかったから。父親から捨てられ姉は出ていき、恩師と母は先に旅立った。知人は少なからずいても心を打ち明ける相手はもう誰もいない。
私は……一人ぼっちになった。
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