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承 その①
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「それで、このような公の場で婚約破棄を言い渡した理由をお聞かせください。皆を巻き込まずとも二人きりの時に言い渡せば宜しかったかと」
「当然皆に知ってもらいたかったからだ。いかに貴様の心が醜く浅ましいかをな。現に貴様は自分の罪を認めずに言い訳ばかり並べているではないか」
「……。この婚約は王家と公爵家で結ばれたもの。国王陛下と父の宰相閣下には話を通しているのですか?」
「父上も宰相も理解してくれるに決まっている」
「つまり、事後承諾を取るつもりだ、と仰るのですね?」
王太子殿下がエリザベス様に愛想尽かしたにせよ、真実の愛を貫こうとするにせよ、このやり方は実にまずいです。あまりにも自分勝手で周囲が見えておらず、迷惑を掛けるどころか自分の破滅すら呼びかねないのに。
何故なら貴族の婚約とは家同士の契約。それを勝手に反故するどころか当主の許しを得ていないだなんてありえません。今回は王太子殿下が一方的にエリザベス様を突き放したんですから、非は全面的に王太子殿下にあります。
「では父には私から報告しますので、国王陛下には殿下からお願いします」
「いや駄目だ。貴様のことだ、自分は悪くないと嘘八百を並べるつもりだろう。宰相を誤解させないためにも私から説明する」
「……そうですか。どうぞご随意に」
エリザベス様は会釈し、祝いの場を台無しにしたから早退すると告げて踵を返したその時でした。会場入口から物々しい雰囲気が漂い、扉が開かれたのです。現れた方々に一同が臣下の礼を取りました。あの男爵令嬢ですら。
姿を見せたのは国王陛下ご夫妻と宰相閣下ご夫妻、そして王弟殿下でした。
王太子殿下とエリザベス様の卒業祝いですので親が参加するのはごく自然なことですが、国王陛下御自らが姿を見せるとあれば緊張が走るのは無理がありません。
「ヘンリーよ、これは一体何の騒ぎだ?」
国王陛下は厳格な声で息子に問いかけました。
王太子殿下は仰々しく頭を下げ、これまでの経緯を説明しました。いかに自分が男爵令嬢を愛しているか、いかにエリザベス様が醜いか。とても誇らしげに、自分が正しいと信じて疑わずに。……周囲の視線には全く気づかないで。
実に滑稽な道化ですね! 宰相閣下が怒りで顔を真っ赤にしていますし、公爵夫人は今にも扇をへし折りそうですし、王妃様は今にも気絶しそうですよ。極めつけが国王陛下で、一見表情を全く変えていませんが、目が全く笑っていません。
「――と言ったわけですので父上! パトリシアとの婚約を認めていただきたい!」
「……」
この空気の読めなさはある意味羨ましい限りです。
ひとしきりの説明を聞いた国王陛下は眉間にシワを寄せて王弟殿下と小声で話し合います。それから再び王太子殿下の方を向きましたが、先程までと打って変わって顔を引き締めていました。そう、父としてではなく国王として。
「ヘンリー。現時点をもって王太子の地位を剥奪。王家より除籍とする」
「なっ……!?」
「そして国王たる余の命令に逆らった罪への罰として国外追放に処す」
そして、自らの口から重い処分を告げました。
「な、何故ですか!? どうしてこの私が王太子失格だと……!」
「黙れっ!」
「ひっ!?」
国王陛下に怒鳴られた王太子殿下は情けない悲鳴をあげました。これが男爵令嬢を守るんだと息巻いていた彼だなんて想像も付きません。
「宰相の娘エリザベスとの婚約を決めたのは余だ。それを身勝手にも破棄した貴様は余の命に逆らった反逆者に他ならぬ。自害を命じぬだけ慈悲深いと思え」
「それはあんまりです! 私は何も悪くない! 全部エリザベスが――!」
「もはや聞くに耐えんな。おい、早く此奴を黙らせろ」
「な、何をする貴様ら……!」
国王陛下が従えていた近衛兵達が王太子殿下を取り押さえ、彼の口元を布で縛り付けました。
王太子殿下は何やら文句を言っているようですが、もがもがとしか聞こえてきません。あと口で息出来ないせいか鼻息が荒いです。組み伏せられているので今の殿下は皆に見下される状態。どのような感想を抱いたでしょうか?
殿下を見つめる眼差しは様々。驚愕に彩られた方もいれば失笑を含める方もいました。国王陛下は失望、王妃様は絶望、公爵夫妻は憤怒、王弟殿下は軽蔑でしょうかね。エリザベス様は……殿下を視界に収めてすらいませんでした。
「ほら兄上、言ったとおりだったでしょう? 王太子は自分が正しいと思いこみがちだから、物事を偏って見てしまうって」
「少しでも公正に調べればエリザベスが潔白だとすぐに分かっただろうに……。ヘンリーに期待した余が愚かだったのか?」
「息子に期待するのは父親として当然です。残念ながら彼が答えなかっただけですから、兄上がそこまで悲観しなくてもいいかと」
「残念だ。あやつでもエリザベスが支えられれば無難な王になれただろうに」
国王陛下はエリザベス様の方へと歩み寄り、なんと頭を下げました。
「すまなかった。愚息のせいでそなたにつらい思いをさせた」
君主たる国王が謝罪するなんて、権威が崩れるので決してあってはなりません。
それだけこの度の王太子殿下がしでかした失態が重大なんでしょう。
「当然皆に知ってもらいたかったからだ。いかに貴様の心が醜く浅ましいかをな。現に貴様は自分の罪を認めずに言い訳ばかり並べているではないか」
「……。この婚約は王家と公爵家で結ばれたもの。国王陛下と父の宰相閣下には話を通しているのですか?」
「父上も宰相も理解してくれるに決まっている」
「つまり、事後承諾を取るつもりだ、と仰るのですね?」
王太子殿下がエリザベス様に愛想尽かしたにせよ、真実の愛を貫こうとするにせよ、このやり方は実にまずいです。あまりにも自分勝手で周囲が見えておらず、迷惑を掛けるどころか自分の破滅すら呼びかねないのに。
何故なら貴族の婚約とは家同士の契約。それを勝手に反故するどころか当主の許しを得ていないだなんてありえません。今回は王太子殿下が一方的にエリザベス様を突き放したんですから、非は全面的に王太子殿下にあります。
「では父には私から報告しますので、国王陛下には殿下からお願いします」
「いや駄目だ。貴様のことだ、自分は悪くないと嘘八百を並べるつもりだろう。宰相を誤解させないためにも私から説明する」
「……そうですか。どうぞご随意に」
エリザベス様は会釈し、祝いの場を台無しにしたから早退すると告げて踵を返したその時でした。会場入口から物々しい雰囲気が漂い、扉が開かれたのです。現れた方々に一同が臣下の礼を取りました。あの男爵令嬢ですら。
姿を見せたのは国王陛下ご夫妻と宰相閣下ご夫妻、そして王弟殿下でした。
王太子殿下とエリザベス様の卒業祝いですので親が参加するのはごく自然なことですが、国王陛下御自らが姿を見せるとあれば緊張が走るのは無理がありません。
「ヘンリーよ、これは一体何の騒ぎだ?」
国王陛下は厳格な声で息子に問いかけました。
王太子殿下は仰々しく頭を下げ、これまでの経緯を説明しました。いかに自分が男爵令嬢を愛しているか、いかにエリザベス様が醜いか。とても誇らしげに、自分が正しいと信じて疑わずに。……周囲の視線には全く気づかないで。
実に滑稽な道化ですね! 宰相閣下が怒りで顔を真っ赤にしていますし、公爵夫人は今にも扇をへし折りそうですし、王妃様は今にも気絶しそうですよ。極めつけが国王陛下で、一見表情を全く変えていませんが、目が全く笑っていません。
「――と言ったわけですので父上! パトリシアとの婚約を認めていただきたい!」
「……」
この空気の読めなさはある意味羨ましい限りです。
ひとしきりの説明を聞いた国王陛下は眉間にシワを寄せて王弟殿下と小声で話し合います。それから再び王太子殿下の方を向きましたが、先程までと打って変わって顔を引き締めていました。そう、父としてではなく国王として。
「ヘンリー。現時点をもって王太子の地位を剥奪。王家より除籍とする」
「なっ……!?」
「そして国王たる余の命令に逆らった罪への罰として国外追放に処す」
そして、自らの口から重い処分を告げました。
「な、何故ですか!? どうしてこの私が王太子失格だと……!」
「黙れっ!」
「ひっ!?」
国王陛下に怒鳴られた王太子殿下は情けない悲鳴をあげました。これが男爵令嬢を守るんだと息巻いていた彼だなんて想像も付きません。
「宰相の娘エリザベスとの婚約を決めたのは余だ。それを身勝手にも破棄した貴様は余の命に逆らった反逆者に他ならぬ。自害を命じぬだけ慈悲深いと思え」
「それはあんまりです! 私は何も悪くない! 全部エリザベスが――!」
「もはや聞くに耐えんな。おい、早く此奴を黙らせろ」
「な、何をする貴様ら……!」
国王陛下が従えていた近衛兵達が王太子殿下を取り押さえ、彼の口元を布で縛り付けました。
王太子殿下は何やら文句を言っているようですが、もがもがとしか聞こえてきません。あと口で息出来ないせいか鼻息が荒いです。組み伏せられているので今の殿下は皆に見下される状態。どのような感想を抱いたでしょうか?
殿下を見つめる眼差しは様々。驚愕に彩られた方もいれば失笑を含める方もいました。国王陛下は失望、王妃様は絶望、公爵夫妻は憤怒、王弟殿下は軽蔑でしょうかね。エリザベス様は……殿下を視界に収めてすらいませんでした。
「ほら兄上、言ったとおりだったでしょう? 王太子は自分が正しいと思いこみがちだから、物事を偏って見てしまうって」
「少しでも公正に調べればエリザベスが潔白だとすぐに分かっただろうに……。ヘンリーに期待した余が愚かだったのか?」
「息子に期待するのは父親として当然です。残念ながら彼が答えなかっただけですから、兄上がそこまで悲観しなくてもいいかと」
「残念だ。あやつでもエリザベスが支えられれば無難な王になれただろうに」
国王陛下はエリザベス様の方へと歩み寄り、なんと頭を下げました。
「すまなかった。愚息のせいでそなたにつらい思いをさせた」
君主たる国王が謝罪するなんて、権威が崩れるので決してあってはなりません。
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