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結 その②
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「そしてヘンリー様。貴方様とはここでお別れです」
「は……!? 何故だ!?」
「王弟殿下は『乙女ゲーム』どおりに『ヒロイン』が現れてもヘンリー様がエリザベス様を悲しませなければ身を引くつもりだったのですよ。なのに『ハニートラップ』にかかる体たらく。建前では国外追放処分としましたが、どうやら王弟殿下の怒りはそれで収まらなかったようで」
「何、だと……? では私は一体どうなるのだ……?」
「さあ? 任務と関係ない依頼人の意向など存じません。わたしは任務完了となったので祖国へ戻る次第です」
ちなみにわたしが『ヒロイン』としてヘンリー様にねだった宝飾品の数々は返上しました。ヘンリー様ったら『ヒロイン』に貢ぐために王家の私財をちょろまかしていたらしいので、その穴埋め分ですね。
祝いの場で身につけていた指輪や首飾り等も没収されましたから、わたしにはこの無駄に豪華で使い道のない悪趣味な正装だけが残された次第です。あとは先程頂きましたパトリシアという名前、そして……、
「君は一体、何者なのだ……?」
「ああ、そう言えばネタばらしをした以上は正式に名乗らねばなりませんね」
わたしは準備されていた祖国行きの馬車に乗り込む前に、元王太子殿下へ恭しく一礼しました。学園にいらっしゃったどのご令嬢からも馬鹿にされないほど優雅に、丁寧に。そして『ヒロイン』のパトリシアらしくなく、けれどわたしらしく。
「ご要望とあればどのような『ヒロイン』や『悪役令嬢』も派遣いたします。私共はいかなる婚約破棄も承る秘密結社、悪役令嬢協会でございます」
わたしはそのまま顔を上げずに馬車に乗り込みました。そして御者さんにお願いしてすぐに出発してもらいました。後ろからヘンリー様がわたしの名を呼ぶ声が聞こえてきましたが、耳をふさいで聞こえなかったふりをしました。
「任務達成お疲れさまです」
外で馬の手綱を握る御者からねぎらいの言葉を受けました。
彼女は養子になった男爵家で働くメイドでしたが、その正体は組織との連絡係です。と同時にわたしの監視役でもあったんでしょうが、数少なく心許せた人、という点の前では些事でしょう。
「ありがとう。わたしは契約通り口封じはされないのですよね?」
「はい。『攻略対象者』との子宝を成した暁には免除とする、との契約どおりです」
「なら今後はどこに配属になるんでしょう?」
「後身の育成、または後輩の任務の助勢でしょうか」
「……そう」
悪役令嬢協会。その歴史は数百年前まで遡ります。
当時周辺国家を従えるまでに強大だった王国は『転生ヒロイン』の到来で滅亡の危機に瀕しました。どうやら王太子や宰相嫡男といった方々が『ハーレムルート』にやられたせいで婚約者のご令嬢とそのご実家が破滅したの要因だそうですね。
それをきっかけとしてわたしの祖国、つまり公国は『乙女ゲーム』を逆に武器とし、周辺各国に『ヒロイン』や『悪役令嬢』として育成した少女を派遣する組織を作ったのです。それが悪役令嬢協会の始まりでした。
その存在を知っている者は一部の権力者のみ。『乙女ゲーム』の運命を覆そうとする方、逆に助長して成り上がろうとする方など、様々な動機で協会は活用されましたが、『転生者』の好きにはさせない、との組織の目的は一貫しています。
故に、その存在は秘匿。
現に王太子殿下や公爵令嬢のエリザベス様すら知りませんでしたね。
多分この国では国王陛下と王弟殿下、そして宰相の公爵閣下ぐらいですか。
「よろしかったのですか? 協会が仲介すればこの国の王太子を公国に迎え入れることも出来たでしょうに」
「それは依頼人の意向に反します。依頼人はあの方を許すつもりがないようです。……わたし個人に意見を挟む権限はありません」
「……。そう仰るのでしたら」
さようなら、ヘンリー様。そしてわたしの愛した方。
ですがこれは許されない愛です。それを分かっていながら貴方様を地獄へ引きずり込んだわたしをお許し下さい。
そして……ヘンリー様から頂いたこの子宝はわたしの我儘に過ぎません。わたしが愛されていたって証がほしかっただけなんです。
こんなにも別れが辛いなんて。
役目に徹すれば最後に容赦無く切り捨てられる、だなんて嘘。
教わったとおりに振る舞えば男なんて容易い、だなんて嘘。
『ヒロイン』と自分は別なんだから悲しみようがない、だなんて嘘!
わたしは涙を流しました。
今日、わたしは大切な存在を二つも失ったからです。
『ヒロイン』パトリシアとしての自分と、そして愛していたヘンリー様を。
「もう、『ヒロイン』なんて嫌ぁ……」
こう悲しむぐらいは許されますよね?
□□□
これで終幕となります。
お読み頂きありがとうございました。
「は……!? 何故だ!?」
「王弟殿下は『乙女ゲーム』どおりに『ヒロイン』が現れてもヘンリー様がエリザベス様を悲しませなければ身を引くつもりだったのですよ。なのに『ハニートラップ』にかかる体たらく。建前では国外追放処分としましたが、どうやら王弟殿下の怒りはそれで収まらなかったようで」
「何、だと……? では私は一体どうなるのだ……?」
「さあ? 任務と関係ない依頼人の意向など存じません。わたしは任務完了となったので祖国へ戻る次第です」
ちなみにわたしが『ヒロイン』としてヘンリー様にねだった宝飾品の数々は返上しました。ヘンリー様ったら『ヒロイン』に貢ぐために王家の私財をちょろまかしていたらしいので、その穴埋め分ですね。
祝いの場で身につけていた指輪や首飾り等も没収されましたから、わたしにはこの無駄に豪華で使い道のない悪趣味な正装だけが残された次第です。あとは先程頂きましたパトリシアという名前、そして……、
「君は一体、何者なのだ……?」
「ああ、そう言えばネタばらしをした以上は正式に名乗らねばなりませんね」
わたしは準備されていた祖国行きの馬車に乗り込む前に、元王太子殿下へ恭しく一礼しました。学園にいらっしゃったどのご令嬢からも馬鹿にされないほど優雅に、丁寧に。そして『ヒロイン』のパトリシアらしくなく、けれどわたしらしく。
「ご要望とあればどのような『ヒロイン』や『悪役令嬢』も派遣いたします。私共はいかなる婚約破棄も承る秘密結社、悪役令嬢協会でございます」
わたしはそのまま顔を上げずに馬車に乗り込みました。そして御者さんにお願いしてすぐに出発してもらいました。後ろからヘンリー様がわたしの名を呼ぶ声が聞こえてきましたが、耳をふさいで聞こえなかったふりをしました。
「任務達成お疲れさまです」
外で馬の手綱を握る御者からねぎらいの言葉を受けました。
彼女は養子になった男爵家で働くメイドでしたが、その正体は組織との連絡係です。と同時にわたしの監視役でもあったんでしょうが、数少なく心許せた人、という点の前では些事でしょう。
「ありがとう。わたしは契約通り口封じはされないのですよね?」
「はい。『攻略対象者』との子宝を成した暁には免除とする、との契約どおりです」
「なら今後はどこに配属になるんでしょう?」
「後身の育成、または後輩の任務の助勢でしょうか」
「……そう」
悪役令嬢協会。その歴史は数百年前まで遡ります。
当時周辺国家を従えるまでに強大だった王国は『転生ヒロイン』の到来で滅亡の危機に瀕しました。どうやら王太子や宰相嫡男といった方々が『ハーレムルート』にやられたせいで婚約者のご令嬢とそのご実家が破滅したの要因だそうですね。
それをきっかけとしてわたしの祖国、つまり公国は『乙女ゲーム』を逆に武器とし、周辺各国に『ヒロイン』や『悪役令嬢』として育成した少女を派遣する組織を作ったのです。それが悪役令嬢協会の始まりでした。
その存在を知っている者は一部の権力者のみ。『乙女ゲーム』の運命を覆そうとする方、逆に助長して成り上がろうとする方など、様々な動機で協会は活用されましたが、『転生者』の好きにはさせない、との組織の目的は一貫しています。
故に、その存在は秘匿。
現に王太子殿下や公爵令嬢のエリザベス様すら知りませんでしたね。
多分この国では国王陛下と王弟殿下、そして宰相の公爵閣下ぐらいですか。
「よろしかったのですか? 協会が仲介すればこの国の王太子を公国に迎え入れることも出来たでしょうに」
「それは依頼人の意向に反します。依頼人はあの方を許すつもりがないようです。……わたし個人に意見を挟む権限はありません」
「……。そう仰るのでしたら」
さようなら、ヘンリー様。そしてわたしの愛した方。
ですがこれは許されない愛です。それを分かっていながら貴方様を地獄へ引きずり込んだわたしをお許し下さい。
そして……ヘンリー様から頂いたこの子宝はわたしの我儘に過ぎません。わたしが愛されていたって証がほしかっただけなんです。
こんなにも別れが辛いなんて。
役目に徹すれば最後に容赦無く切り捨てられる、だなんて嘘。
教わったとおりに振る舞えば男なんて容易い、だなんて嘘。
『ヒロイン』と自分は別なんだから悲しみようがない、だなんて嘘!
わたしは涙を流しました。
今日、わたしは大切な存在を二つも失ったからです。
『ヒロイン』パトリシアとしての自分と、そして愛していたヘンリー様を。
「もう、『ヒロイン』なんて嫌ぁ……」
こう悲しむぐらいは許されますよね?
□□□
これで終幕となります。
お読み頂きありがとうございました。
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