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現実を突きつけられて卒倒する
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「そうです。短く刈る前のものです」
「……これだけ長くて艶のある髪になるのは並大抵の手入れじゃ無理だ。もう一度だけ聞くけれど、本当にこれはギゼラのか?」
「何度聞かれても私のです、としか答えられません。私、イストバーン様に嘘は付きたくありませんので」
ごまかすことは出来た。例えば運良く安価で卸されたものを買っていた、とか。けれど地毛とこの長髪を比べられたらすぐにバレるだろうし、何よりイストバーン様に自分を偽りたくはなかった。だから正直に暴露した。それだけだ。
職人はやる気に満ちたらしく、あたし達を放って慌ただしく工房へと向かっていった。諸手続きは苦笑した弟子が引き継いで、何とか夜会に間に合わせると約束してくれた。弟子から見てもあたしの髪は上質だったらしく、「良い品が作れる」と張り切っていた。
「ギゼラさん、ちょっとおかしくないですか?」
「は? 何がだよ……失礼、どの辺りがでしょうか?」
そうやって自分磨きに勤しむ毎日が折り返し地点を迎えた頃、マティルデが唐突に話しかけてきた。彼女があたしを見つめてくる恐怖が入り混じった目があのクソ聖女を思い起こさせて、思わず乱暴な口調が出てきたのは反省だな。
「随分前に家を飛び出してから貴族としての教育とは無縁だったんですよね?」
「そうですね」
「今は幼少期までの教育と前回の経験を頼りに挽回してるんですよね?」
「それがどうかしましたか?」
「姿勢とか立ちふるまいとか、そんな短期間で会得出来る代物なんですか?」
「普通なら無理でしょうね。幼少期から絶え間ない教育を施され、初めて洗練された一挙動が出来るというものです」
「分かっているなら、今は異常だって思わないんですか?」
「……」
マティルデに指摘されるまでもなく、あたしは驚くべき速度で成長していた。
単にあたしが天才だった、と片付けるのは容易い。前回身に付いていたんだからその感覚を頼りにすればいいだけだし、と納得するのも簡単だ。
だがそれは思考の放棄って奴だろ。教育係の厳しい指摘もねえ自主練程度でここまで上達するのは自分で考えてもおかしい。
繰り返して身体に覚え込ませるまでもなく、まるで前回の体験が魂に刻み付けられている。そんな気がしてならなかった。
それはあたしにある不安をよぎらせた。
そしてそれは決して気の所為なんかじゃなく、とうとうあたしの前に突きつけられた。
「出来上がったな」
「はい」
「じゃあ早速試着してみようか」
「……はい」
ドレスが仕立て終わったのでまた工房まで出向いた。事前にかつら職人の店でかつらを入手済みだったから、ついでに本番に備えてどれだけの出来栄えになるかを試すことになった。
あたしはいつものように振る舞ったつもりでも内心では恐怖に怯えていた。不安が的中していたらどうするんだ。いや、むしろどうしていれば良かったのか。今いるあたしで正解だったのか、それとも……。
そして、そんな悩みをあざ笑うかのように、あたしの前に現実は突きつけられた。
「い、いやあぁぁぁっ!」
鏡の前にはあたしじゃなく、あの最低の屑がいた。
「……これだけ長くて艶のある髪になるのは並大抵の手入れじゃ無理だ。もう一度だけ聞くけれど、本当にこれはギゼラのか?」
「何度聞かれても私のです、としか答えられません。私、イストバーン様に嘘は付きたくありませんので」
ごまかすことは出来た。例えば運良く安価で卸されたものを買っていた、とか。けれど地毛とこの長髪を比べられたらすぐにバレるだろうし、何よりイストバーン様に自分を偽りたくはなかった。だから正直に暴露した。それだけだ。
職人はやる気に満ちたらしく、あたし達を放って慌ただしく工房へと向かっていった。諸手続きは苦笑した弟子が引き継いで、何とか夜会に間に合わせると約束してくれた。弟子から見てもあたしの髪は上質だったらしく、「良い品が作れる」と張り切っていた。
「ギゼラさん、ちょっとおかしくないですか?」
「は? 何がだよ……失礼、どの辺りがでしょうか?」
そうやって自分磨きに勤しむ毎日が折り返し地点を迎えた頃、マティルデが唐突に話しかけてきた。彼女があたしを見つめてくる恐怖が入り混じった目があのクソ聖女を思い起こさせて、思わず乱暴な口調が出てきたのは反省だな。
「随分前に家を飛び出してから貴族としての教育とは無縁だったんですよね?」
「そうですね」
「今は幼少期までの教育と前回の経験を頼りに挽回してるんですよね?」
「それがどうかしましたか?」
「姿勢とか立ちふるまいとか、そんな短期間で会得出来る代物なんですか?」
「普通なら無理でしょうね。幼少期から絶え間ない教育を施され、初めて洗練された一挙動が出来るというものです」
「分かっているなら、今は異常だって思わないんですか?」
「……」
マティルデに指摘されるまでもなく、あたしは驚くべき速度で成長していた。
単にあたしが天才だった、と片付けるのは容易い。前回身に付いていたんだからその感覚を頼りにすればいいだけだし、と納得するのも簡単だ。
だがそれは思考の放棄って奴だろ。教育係の厳しい指摘もねえ自主練程度でここまで上達するのは自分で考えてもおかしい。
繰り返して身体に覚え込ませるまでもなく、まるで前回の体験が魂に刻み付けられている。そんな気がしてならなかった。
それはあたしにある不安をよぎらせた。
そしてそれは決して気の所為なんかじゃなく、とうとうあたしの前に突きつけられた。
「出来上がったな」
「はい」
「じゃあ早速試着してみようか」
「……はい」
ドレスが仕立て終わったのでまた工房まで出向いた。事前にかつら職人の店でかつらを入手済みだったから、ついでに本番に備えてどれだけの出来栄えになるかを試すことになった。
あたしはいつものように振る舞ったつもりでも内心では恐怖に怯えていた。不安が的中していたらどうするんだ。いや、むしろどうしていれば良かったのか。今いるあたしで正解だったのか、それとも……。
そして、そんな悩みをあざ笑うかのように、あたしの前に現実は突きつけられた。
「い、いやあぁぁぁっ!」
鏡の前にはあたしじゃなく、あの最低の屑がいた。
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