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やめて、それを飲まないで!
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「ラインヒルデ皇女。ギゼラと知り合いなのか?」
「私の知り合いとよく似ていましてね。聡明で見目麗しく、私も見習う点が少なからずありましたよ」
「ほう、皇女がそんな評価を下すのは珍しい。何をやらせてもそつなくこなす完璧超人でしたからね」
「よく仰りますね。王子の方こそ主役となる筈の王太子の存在感を霞ませているじゃないですか」
「ははは、不可抗力ですよ」
穏やかに談笑を続けるラインヒルデとイストバーン様を余所にあたしは必死になって思考を巡らす。
(どうしてラインヒルデ皇女殿下がまだ生きてるんだ? いや、そもそも殿下って亡くなったのいつだったか?)
神聖帝国では基本的には男子優先で家を継いでいくものだけれど、決まりじゃない。なので長女が著しく優秀なら嫡男を差し置いて継承する場合もある。現代は神聖帝国皇家が正にそうで、ラースローの姉たるラインヒルデが皇太子とされている。
そんな第一皇女は、突如として表舞台から姿を消した。
その頃は聖女としての修行を積んでた時期だったから外界の情報はさっぱりなんだが、確か……そう、大体今の時期にぱったり彼女の名を聞かなくなったんだよな。それまでは神聖帝国は次世代も安泰だって言われるぐらい優秀さを発揮してたんだけどさ。
(おっかしいなぁ。別に神聖帝国内の貴族連中から反感を買ってたわけじゃねえし、市民受けも良かった。病死したって話も聞かねえし、事故死した記録も残ってねえしなあ)
ある時期を境にラインヒルデの存在がぱたっと消失する。これ以上書くのは憚られるかのように。
皇太子になったラースロー殿下と婚約した後に気になって調べても分からねえし、聞いてもはぐらかされたんだよな。最低の屑は失脚した敗北者なんざ無用、とばかりにそれ以上踏み込まなかったんだが……。
(皇女殿下ともあろう方が問答無用で退場させられるような大失態でも犯したのか? 又聞きの評判を聞く限りはそんな感じはしなかったんだけどなぁ)
考え込むあたしを余所にイストバーン様とラインヒルデは雑談で盛り上がってた。こっちの気も知らねえで給仕から酒の入ったグラスを受け取って、笑顔で再会を祝おうとしていた。
(ったく、ただでさえイストバーン様が表舞台から姿を消すってのによ。もう神聖帝国なんざ関係ねえんだから皇女がどうなろうがあたしには関係……)
いや、待てよ。
イストバーン様と、ラインヒルデ皇女が、同時期に?
たまたま? それとも――。
「ともあれ、こうして再び会えたんですし、折角ですから祝いましょう」
「ですね。ではお互いの益々の健勝を祈って」
「そして更なる活躍を祈って、乾杯」
「乾杯」
二人がグラスを鳴らし、そのまま飲もうと口をつけて……、
「だ……駄目! それを飲んだら――!」
神様。アンタは試練だとかぬかして人を苦めて、そのもがく姿を面白おかしく眺めてるど畜生だ。直に会う機会があったら徹底的にぶちのめしてやる。
そう罵りたくなるぐらいその可能性に行き当たるのは遅かった。
文字通り、致命的なほどに。
あたしがグラスに手を伸ばした時には既にイストバーン様はその酒を喉に通していて、はたき落とすまでもなくイストバーン様の手からグラスが滑り落ちて、胃と心臓付近を押さえながら痙攣する彼が倒れるのにそう時間は要らなかった。
パンノニア王国第一王子は神聖帝国第一皇女に暗殺された。
それが前回の筋書きだったんだ。
「私の知り合いとよく似ていましてね。聡明で見目麗しく、私も見習う点が少なからずありましたよ」
「ほう、皇女がそんな評価を下すのは珍しい。何をやらせてもそつなくこなす完璧超人でしたからね」
「よく仰りますね。王子の方こそ主役となる筈の王太子の存在感を霞ませているじゃないですか」
「ははは、不可抗力ですよ」
穏やかに談笑を続けるラインヒルデとイストバーン様を余所にあたしは必死になって思考を巡らす。
(どうしてラインヒルデ皇女殿下がまだ生きてるんだ? いや、そもそも殿下って亡くなったのいつだったか?)
神聖帝国では基本的には男子優先で家を継いでいくものだけれど、決まりじゃない。なので長女が著しく優秀なら嫡男を差し置いて継承する場合もある。現代は神聖帝国皇家が正にそうで、ラースローの姉たるラインヒルデが皇太子とされている。
そんな第一皇女は、突如として表舞台から姿を消した。
その頃は聖女としての修行を積んでた時期だったから外界の情報はさっぱりなんだが、確か……そう、大体今の時期にぱったり彼女の名を聞かなくなったんだよな。それまでは神聖帝国は次世代も安泰だって言われるぐらい優秀さを発揮してたんだけどさ。
(おっかしいなぁ。別に神聖帝国内の貴族連中から反感を買ってたわけじゃねえし、市民受けも良かった。病死したって話も聞かねえし、事故死した記録も残ってねえしなあ)
ある時期を境にラインヒルデの存在がぱたっと消失する。これ以上書くのは憚られるかのように。
皇太子になったラースロー殿下と婚約した後に気になって調べても分からねえし、聞いてもはぐらかされたんだよな。最低の屑は失脚した敗北者なんざ無用、とばかりにそれ以上踏み込まなかったんだが……。
(皇女殿下ともあろう方が問答無用で退場させられるような大失態でも犯したのか? 又聞きの評判を聞く限りはそんな感じはしなかったんだけどなぁ)
考え込むあたしを余所にイストバーン様とラインヒルデは雑談で盛り上がってた。こっちの気も知らねえで給仕から酒の入ったグラスを受け取って、笑顔で再会を祝おうとしていた。
(ったく、ただでさえイストバーン様が表舞台から姿を消すってのによ。もう神聖帝国なんざ関係ねえんだから皇女がどうなろうがあたしには関係……)
いや、待てよ。
イストバーン様と、ラインヒルデ皇女が、同時期に?
たまたま? それとも――。
「ともあれ、こうして再び会えたんですし、折角ですから祝いましょう」
「ですね。ではお互いの益々の健勝を祈って」
「そして更なる活躍を祈って、乾杯」
「乾杯」
二人がグラスを鳴らし、そのまま飲もうと口をつけて……、
「だ……駄目! それを飲んだら――!」
神様。アンタは試練だとかぬかして人を苦めて、そのもがく姿を面白おかしく眺めてるど畜生だ。直に会う機会があったら徹底的にぶちのめしてやる。
そう罵りたくなるぐらいその可能性に行き当たるのは遅かった。
文字通り、致命的なほどに。
あたしがグラスに手を伸ばした時には既にイストバーン様はその酒を喉に通していて、はたき落とすまでもなくイストバーン様の手からグラスが滑り落ちて、胃と心臓付近を押さえながら痙攣する彼が倒れるのにそう時間は要らなかった。
パンノニア王国第一王子は神聖帝国第一皇女に暗殺された。
それが前回の筋書きだったんだ。
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